ローズヒップとは?
●基本情報
ローズヒップはハーブの一種で、ヨーロッパ産のドッグ・ローズをはじめとする、バラ科バラ属の果実です。主に、ローズヒップティーにして親しまれています。
ドッグ・ローズとは野バラの一種で、ヨーロッパにおいては薬用のローズヒップとして重宝されている品種です。
ドッグ・ローズは、ローマ時代には狂犬病[※1]にも効くとされたことから、ラテン語で「犬のバラ」を意味する名前が付けられ、英語でもドッグ・ローズと呼ばれるようになりました。
ローズヒップは、バラが咲いた後に、緑色だった丸い果実が橙色から濃い赤色に熟すると収穫されます。
乾燥したローズヒップを熱湯で煎じてお茶として飲むローズヒップティーは、爽やかな甘味とほのかな酸味が人気で、ローズヒップティーを昔から愛飲しているドイツでは、カルカーデ(ハイビスカス)の花を乾燥させて一緒に飲むのが一般的です。
また、ローズヒップのオイルには保湿効果があるとして、化粧品としても高い人気を誇っています。
●ローズヒップに含まれる成分と性質
ローズヒップは、「ビタミンCの爆弾」と呼ばれる程ビタミンCを豊富に含んでおり、その量はレモンの約20倍にも及びます。
ローズヒップに含まれているビタミンCは、バイオフラボノイドを20%含んだ天然のビタミンCです。
バイオフラボノイドとは、ビタミンPとも呼ばれているフラボノイドの一種で、ヘスペリジン、ルチン、ケルセチンなどの成分もバイオフラボノイドに属します。
本来は熱に弱い性質を持つビタミンCですが、バイオフラボノイドにはビタミンCを壊れにくくする作用があるため、ローズヒップのバイオフラボノイドを含んだビタミンCは酸化されにくく、熱に強い性質を持ち、体内でより効率的に吸収されます。
また、ローズヒップには、赤色のカロテノイドであるリコピン、ビタミンA、ビタミンB群[※2]、ビタミンEなどのビタミン類、ミネラル類などを豊富に含んでいるほか、炎症促進酵素シクロオキシゲナーゼの働きをやわらげる作用が知られており、抗炎症効果も期待されています。【3】【6】
さらに、ローズヒップの種子にはポリフェノールの一種であるティリロサイドが含まれています。
ティリロサイドには、ミトコンドリア[※3]内で脂肪燃焼を促進する作用があることが確認されているため、ローズヒップの摂取によって、脂肪の燃焼効果が期待できます。
●ローズヒップの歴史
ローズヒップが世界中に広まったきっかけは、第二次世界大戦までさかのぼります。
第二次世界大戦中、物資の供給を絶つというドイツ軍の戦略により、イギリスは柑橘類の物資が不足していました。
柑橘類は当時、ビタミンCを補給する重要な食材であったため、イギリスはビタミンC不足による壊血病[※4]が国中で起こるという危機感に駆られていました。
そこで、イギリス政府は国民がビタミンC不足に陥ることを予防するために、国全体にイギリス中のローズヒップを摘むように呼びかけました。
そして、集めたローズヒップで幼児などに栄養補給をしたといわれています。
このような出来事がきっかけで、ローズヒップの高い健康効果が世界中に知られるようになりました。
また、ドイツなどの北ヨーロッパでは、冬の間のビタミンC不足を補うためにローズヒップティーを愛飲しており、ローズヒップは「北国のレモン」と呼ばれて親しまれていました。
[※1:狂犬病とは、狂犬病ウイルスを病原体とする、ウイルス性の人獣共通感染症です。ヒトを含めたすべての哺乳類が感染する可能性があります。]
[※2:ビタミンB群とは、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸の総称です。]
[※3:ミトコンドリアとは、細胞内の構造のひとつで、生命活動に必要なエネルギーをつくり出す役目を担っています。]
[※4:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
ローズヒップの効果
●美肌効果
ローズヒップに含まれる豊富なビタミンCは、肌に美しさを与えるといわれています。
ビタミンCは強力な抗酸化作用を持つため、体内に過剰に発生した活性酸素を除去する働きがあります。
活性酸素は、人間の体内に存在している物質で、外界から侵入してきたウイルスや細菌を撃退する力を持った酸素です。
しかし、喫煙やストレス、不規則な生活習慣や紫外線などの外的要因によって増加しすぎた活性酸素は、強力なパワーを持つ余り、体内のたんぱく質、脂質、DNAなどを傷つけるとされており、その結果、活性酸素は肌細胞を劣化させることで、肌荒れや老化などの大きな原因になると考えられています。
肌は、表皮[※5]、真皮[※6]、皮下組織[※7]の3層で成り立っており、この構造を正常に維持することが、肌のハリを保つためには必要不可欠です。
しかし、活性酸素が体内で増加すると、真皮を構成している主成分であるヒアルロン酸やエラスチン、コラーゲンなどの成分を生成する力が減退し、それらの成分は体内から減少していきます。
その結果、真皮の構造が崩れ、その部分がしわやたるみとなって現れます。
ローズヒップに含まれているビタミンCやビタミンEには強力な抗酸化力があるため、肌の構成成分であるヒアルロン酸やエラスチン、コラーゲンなどの劣化を抑制することができます。
また、ビタミンCにはコラーゲンの生成を促進する作用もあるため、ローズヒップを摂取することによって、肌のハリを保つ効果も期待できます。
また、シミやくすみも日光に含まれる紫外線を浴びることによって増加する活性酸素が原因のひとつとされています。
シミやくすみは、体内で生成されるメラニン色素が表面に表れたものであり、メラニン色素は、皮膚の深部に存在しているチロシナーゼ[※8]いう酵素が、外界から侵入してくる物質から身を守るために生成する色素です。
チロシナーゼは紫外線が当たることによって、肌を守ろうとし、メラニン色素を生成します。
ローズヒップに含まれているビタミンCは、チロシナーゼの働きを阻害するため、メラニン色素の生成を抑えられます。
このような作用によって、ローズヒップを摂取することで美肌を保つ効果が期待されているのです。【3】
●免疫力を高める効果
ローズヒップを摂取することで、免疫力を高め、風邪などを予防することができると考えられています。
免疫力とは、外界から侵入してきたウイルスや細菌を攻撃して排除する機能のことです。
ローズヒップに含まれているビタミンCには、細菌やウイルスを攻撃する白血球[※9]の一種である、好中球[※10]の働きを活発化させ、増強することができると考えられており、免疫力を向上させることができます。
また、ビタミンCはコラーゲンの生成にも関与しており、コラーゲンは細菌やウイルスの侵入を阻止する上皮や粘膜を構成している成分でもあるため、ビタミンCを摂取することは、外敵の侵入を妨害する力の増強にもつながるのです。
ローズヒップを摂取することは、このようなビタミンCの働きによって免疫力を強化することにつながるため、免疫力を高める効果が注目されています。
●関節痛の症状を緩和する効果
ローズヒップを摂取すると、変形性関節症による関節痛を緩和する効果が報告されています。これはローズヒップの持つ高い抗酸化作用と抗炎症作用によるものと考えられ、変形性関節症の予防に役立つ素材として注目が集まっています。【1】
●精神を安定させる効果
ビタミンCを豊富に含んだローズヒップには、精神的な疲労(ストレス)を回復し、精神を安定させることができると考えられています。
疲労には、肉体的な疲労と精神的な疲労の大きく2つが挙げられます。
近年では、日常のストレスなどによって起こる精神的な疲労も肉体的な疲労と同様に重大であると認識されており、ストレスによっても、体内の活性酸素が増加するため、生活習慣病や老化などの原因になるといわれているのです。
人間はストレスを感じると、それに対抗するために神経伝達物質の一種であるアドレナリン[※11]や副腎皮質ホルモン[※12]を分泌します。
ローズヒップが豊富に含んでいるビタミンCは、アドレナリンや副腎皮質ホルモンの生成に深く関与している成分であるため、ビタミンCが不足することで、人間はストレスなどの精神的な疲労に対抗する力が弱まるとされています。
ローズヒップは、多量のビタミンCを摂取することができるため、精神を安定させる効果が期待できます。
[※5:表皮とは、肌を構成している層のひとつです。厚さ0.3mm程の肌表面部分を指します。]
[※6:真皮とは、表皮の下にあり、肌の弾力を保っている部分です。コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などが存在しています。]
[※7:皮下組織とは、真皮の下部に位置する層を指します。毛細血管が張りめぐらされており、肌の透明感などに影響を与える部分です。]
[※8:チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンをつくる酵素のことです。この酵素を阻害することにより、メラニンの生成を食い止め美白効果が働きます。]
[※9:白血球とは、血液に含まれる細胞のひとつです。体内に侵入したウイルスや細菌などの異物を排除する役割があります。]
[※10:好中球とは、体内に存在する白血球の40%~60%を占める白血球の一種です。急性的な炎症に対して中心となって血液中の細菌やウイルスと闘います。]
[※11:アドレナリンとは、副腎髄質から分泌され、血糖を上昇させるホルモンです。]
[※12:副腎皮質ホルモンとは、副腎皮質から分泌されるホルモンのことです。代表的なホルモンに、コルチゾールやアルドステロンがあります。]
食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○美肌を目指したい方
○シミやそばかすが気になる方
○免疫力を向上させたい方
○ストレスを軽減させたい方
ローズヒップの研究情報
【1】股関節または膝の変形性関節症患者にローズヒップを1日当たり5g 、3カ月間摂取させたところ、関節症の疼痛が軽減したことから、ローズヒップには関節痛改善効果が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16195164
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15330493
【2】マウスの細胞(B16メラノーマ細胞)に、ローズヒップ抽出物を投与したところ、メラニン産生酵素チロシナーゼを抑制するはたらきが確認されました。モルモットに摂取させた場合も同様のはたらきが確認できたことから、ローズヒップの美白効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21389613
【3】ローズヒップ果実および種子には多くの機能性が知られており、抗酸化作用や抗炎症作用が知られています。またローズヒップ果実は変形性関節症改善に、ローズヒップ種子には腸のはたらきを向上することによる便通改善、抗糖尿病作用や抗潰瘍効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18384191
参考文献
・板倉弘圭 ハーブティー図鑑 主婦の友社
・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館
・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・Winther K, Apel K, Thamsborg G. 2005“A powder made from seeds and shells of a rose-hip subspecies (Rosa canina) reduces symptoms of knee and hip osteoarthritis: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial.” Scand J Rheumatol. 2005 Jul-Aug;34(4):302-8.
・Rein E, Kharazmi A, Winther K. 2004 “A herbal remedy, Hyben Vital (stand. powder of a subspecies of Rosa canina fruits), reduces pain and improves general wellbeing in patients with osteoarthritis–a double-blind, placebo-controlled, randomised trial.” Phytomedicine. 2004 Jul;11(5):383-91.
・Fujii T, Ikeda K, Saito M. 2011 “Inhibitory effect of rose hip (Rosa canina L.) on melanogenesis in mouse melanoma cells and on pigmentation in brown guinea pigs.” Biosci Biotechnol Biochem. 2011;75(3):489-95.
・Chrubasik C, Roufogalis BD, Müller-Ladner U, Chrubasik S. 2008 “A systematic review on the Rosa canina effect and efficacy profiles.” Phytother Res. 2008 Jun;22(6):725-33.
・Ozcan M. 2002 “Nutrient composition of rose (Rosa canina L.) seed and oils.” J Med Food. 2002 Fall;5(3):137-40.
・Widén C, Ekholm A, Coleman MD, Renvert S, Rumpunen K. 2012 “Erythrocyte Antioxidant Protection of Rose Hips (Rosa spp.).” Oxid Med Cell Longev. 2012;2012:621579. Epub 2012 Jul 8.
・Wenzig EM, Widowitz U, Kunert O, Chrubasik S, Bucar F, Knauder E, Bauer R. 2008 “Phytochemical composition and in vitro pharmacological activity of two rose hip (Rosa canina L.) preparations.” Phytomedicine. 2008 Oct;15(10):826-35.