とうがらし

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高麗胡椒

とうがらしは辛味成分カプサイシンを含みダイエットに効果的な食材として有名です。
体脂肪の燃焼や血行の促進、冷え症の予防改善など様々な働きを持っています。
調理して摂取するだけでなく、古くから外用薬としても重宝されていました。

とうがらしとは

●基本情報
とうがらしはナス科とうがらし属の低木です。
草丈は60~70㎝で、5枚の花びらを持つ白色の花を咲かせます。
多年草[※1]である野生種と一年草[※2]である栽培種に分類されます。
とうがらしはピーマンと同種ですが、ピーマンは大型でやや甘みのあるタイプで、とうがらしとは分けて考えられています。

●とうがらしの歴史
とうがらしの歴史は古く、最も古いもので紀元前6500~5000年頃から始まっています。この頃にはとうがらしは中南米で広く育てられていたといわれています。
アメリカでは2000年以上前から栽培されていました。
ヨーロッパへの広がりは1493年にコロンブスがとうがらしをスペインに持ち帰ったことがきっかけです。これを期にヨーロッパ全域に広がりました。
日本に伝えられたのは、1592年に豊臣秀吉が朝鮮へ出兵し、帰国した際に日本にとうがらしの種を持ち帰ったという説や、1542年にポルトガル人がタバコとともにとうがらしを日本に伝えたという説があります。日本では江戸時代から栽培されていますが、当初は食用としてではなく、観賞用や毒薬の一種として用いられていました。

●とうがらしの原産地、生産地
中南米のメキシコがとうがらしの栽培起源の地であると考えられています。
現在の生産地は、世界最大の輸出国であるインドをはじめ、中国、韓国、タイ、インドネシアなどのアジア地域、メキシコなどの中南米地域、ケニア、ナイジェリアなどのアフリカ地域など、世界各国に広がっています。
日本でのとうがらしの栽培は、栃木県をはじめ徳島県、千葉県、和歌山県、岐阜県などで盛んに行われています。

●とうがらしの品種
現在、とうがらしには数百~数千の品種があるといわれています。
有名なものは以下の種類です。

・赤とうがらし
完熟したとうがらしで、香り高く辛みは比較的穏やかです。
たかのつめなど一部の品種には刺激的な辛みがあり、特に種に強い辛みがあります。

・青とうがらし
とうがらしの未熟果で、関西地方に多く出回ります。京野菜の万願寺とうがらしや伏見とうがらしが有名です。
ゆずこしょうに使用されるとうがらしです。

・シシとうがらし
ピーマンと同じく甘みがあり、種ごと食べられます。品種や環境によっては辛みがでることもあります。
先端が獅子の鼻の形に似ていることからシシとうがらしと名づけられました。

・かぐらなんばん
新潟県の伝統野菜であるとうがらしです。ピーマンに似た形をしており、果しんとわたは辛味が強く、外皮には甘みがあります。

・ハラペーニョ
激辛で有名なとうがらしです。楕円形をしており肉厚で、メキシコ料理には欠かせない素材です。メキシコとうがらしともいわれます。

・ハバネロ
オレンジ色で丸みを帯びた形をしています。市販されているとうがらしの中では最も辛い品種です。

・葉とうがらし
葉とうがらしは、未熟なとうがらしの葉で、とうがらしの収穫時期である夏から秋口にかけて、小さい唐辛子の鞘をつけたまま葉ごと出荷されます。
関西地方で栽培されることが多く、ぴりっとした辛さと香りで、つくだ煮やしそ巻として利用されることが多いです。

●とうがらしの旬
未熟果であるししとうがらしは6~8月で、完熟した赤とうがらしは10月頃に旬を迎えます。ただしハウス栽培が多いため、旬の時期に関係なく出回っています。

●とうがらしの特徴
とうがらしの辛味成分であるカプサイシンは、脂肪を燃焼させたり食欲を増進させるなど多くの働きを持つことが明らかになっています。
カロテンをはじめとするビタミン類やミネラル類が、他の野菜と比べて圧倒的に多く含まれますが、一度に食べられる量が限られているため、栄養源としてはあまり期待ができません。
葉とうがらしは、カロテンやビタミンCを多量に含みます。

とうがらしは摂取するだけでなく、皮膚に塗布した際にも皮膚を刺激して体を温める作用があるとして、昔は寒い季節に外出する際に腹巻の中にとうがらしを包んで歩いていたそうです。北海道の一部の地域では、今でも冬場になると靴の中にとうがらしを入れて寒さを防いでいるといわれています。最近は繊維の中にとうがらしが練りこまれた肌着や靴下も販売されています。

また、とうがらしに含まれるカプサイシンには、殺菌・防腐効果があります。
昔から、ぬか床に入れられたり、米びつに入れられたりしていたのはとうがらしに殺菌・防腐効果があるためといわれています。

<豆知識>カプサイシンの辛み
とうがらしのカプサイシンは無味無臭ですが、カプサイシンを口に入れると激しい辛みを感じます。
辛みは舌の味覚ではなく、舌の痛覚で感じているといわれています。カプサイシンが口の中の粘膜や痛覚神経を刺激することによって脳が辛みとして認識します。

[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年に渡って生存する草のことです。]
[※2:一年草とは、種をまいてから一年以内に発芽・生長・開花・結実・枯死する草のことです。]

とうがらしの効果

とうがらしには、辛み成分カプサイシンやビタミンC、カロテンなどが豊富に含まれるため、以下のような効果が期待できます。

●ダイエット効果
とうがらしに含まれるカプサイシンを摂取すると、副腎皮質[※3]が刺激され、副腎皮質からアドレナリン[※4]が分泌されることにより脂肪を分解する酵 素(リパーゼ)の働きを強化します。エネルギーの代謝が活発になり脂肪を燃焼させるため、ダイエット効果があると考えられています。【2】【4】【7】

●高血圧を予防する効果
カプサイシンには、末梢血管を広げる働きがあります。この働きにより、血圧を下げる効果があるといわれています。強心作用もあり、心臓の働きを高めて血圧の上昇を抑えます。
また、とうがらしの魅力であるカプサイシンの辛味は、調理の際に加えると味にメリハリがつくため、味の薄い料理に使用すると塩の量を減らすことができます。食塩の摂取を抑えることは高血圧の予防・改善につながります。

●血行を促進する効果
カプサイシン入りの入浴剤や外用薬を使用することにより、皮膚の温度が上昇するため血行が良くなり、肩こりや冷え症が改善されます。
とうがらしを摂取することにも血行を促進する効果があり、また血管の弾性を高める効果があるため血液を隅々まで運べるようになるともいわれています。

●食欲増進効果
とうがらしに含まれるカプサイシンは舌や胃を刺激するため、唾液や胃液の分泌量を増加させ、食欲を増進させる働きがあります。
とうがらしにはカロテンやビタミン類も多く含まれており疲労回復の効果も期待されるため、夏バテなどで食欲が湧かない方に適した食材です。【3】

●リウマチを予防・改善する効果
とうがらしは、天然の鎮痛作用があるとして昔から親しまれています。とうがらしの鎮痛作用のメカニズムについてはまだはっきりと解明されていませんが、痛みを軽減させる働きがあることは示されています。
とうがらしチンキ[※5]として患部に塗布することにより血流が良くなり、症状の緩和に効果的であるといわれています。
リウマチだけでなく、肩こりや神経痛にも効果が期待できます。

●発汗を促進する効果
暑い時や運動した時に汗をかくのは、体温を調節するためです。
発汗を促して、汗という形で体内の水分を蒸発させて、熱を外へ逃し体温を下げてくれます。
汗をかくことは、むくみを改善し水分代謝を良くすることにもつながります。
汗には老廃物や有害物質を排泄して、体内の掃除をする役割があります。特に、知らず知らずのうちに食品添加物や大気汚染などの有害物質が蓄積されている現代人は、意識して汗をかく必要があるといえます。
とうがらしに含まれるカプサイシンとカプシエイトは、体温を上昇させ発汗を促す働きがあるため、むくみやデトックスに適した食材です。
調理して食べても効果的ですが、お風呂にとうがらしを入れても発汗を促す効果が期待できます。

●免疫力を高める効果
とうがらしに含まれるカプサイシンには、毛細血管の収縮作用の働きを強くする効果があるとされています。これにより、血流がスムーズになり白血球が活性化することにより免疫力が高まります。
免疫力が高まることにより、風邪などの予防に効果的といわれています。

●疲労回復効果
とうがらしに含まれるカプサイシンを摂取すると、血流をスムーズにする効果があるため体内に蓄積された疲労物質が分解されやすくなります。とうがらしは疲労回復にも非常に効果がある食材として知られています。

●便秘を解消する効果
とうがらしに含まれるカプサイシンには、適度な量の摂取であれば消化の働きを助け、腸を刺激しスムーズに便を排出させるサポートをする働きがあります。慢性的な便秘は、肌荒れや腹痛・腰痛の原因となりますので、とうがらしを食べることにより美肌や腹痛・腰痛の軽減にも効果があると考えられます。

●育毛を促進する効果
とうがらしチンキを頭皮に塗布すると、育毛を促進する効果があるといわれています。

[※3:副腎皮質とは、腎臓の上に位置する臓器である副腎の周辺部分のことです。副腎皮質からはアドレナリンなどの様々なホルモンが分泌され、生命を維持するために欠かせない臓器です。]
[※4:アドレナリンとは、副腎髄質から分泌され、血糖を上昇させるホルモンです。]
[※5:とうがらしチンキとは、とうがらしの果実をアルコールで抽出して得られたエキスのことです。湿布薬や軟膏に配合されることもあります。]

とうがらしはこんな方におすすめ

○スリムな体型を目指したい方
○血圧が高い方
○血流を改善したい方
○食欲不振の方
○リウマチを予防・改善させたい方
○免疫力を向上させたい方
○薄毛でお悩みの方

とうがらしの研究情報

【1】アメリカでより消費が多い27種類の野菜の抗酸化力を調査したところ、とうがらしが最も高い細胞内抗酸化活性を持つことがわかりました。とうがらしが、ガンおよび心血管疾患のような慢性疾患発症リスクを低減させることに役立つと管がれられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20462192

【2】肥満男女(BMI 25-35) 80名を対象に、とうがらしの有効成分カプサイシンを1日あたり6mg の量で12週間摂取させたところ、腹部肥満が減少し、脂肪酸化も促進したことから、とうがらしが抗肥満効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19056576

【3】健常人11名を対象に、とうがらしの有効成分カプサイシンを1日あたり1.4~4.2mg の量で3週間摂取させたところ、胃酸分泌促進物質ガストリンが増加したことから、とうがらしは食欲促進効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18668366

【4】とうがらしの有効成分である「CH-19 Sweet」はヒト交感神経を活発にすることで、脂肪蓄積の抑制ならびに体重減少促進作用を持つことから、とうがらしが抗肥満作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17151481

【5】27名の健康な成人男女27名を対象に、チリ(55%とうがらし混合)を1日当たり30g の量で4週間摂取させたところ、動脈硬化の一因である血中リポタンパク質の酸化が抑制されたことから、とうがらしは脂質酸化予防効果とそれに伴う動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16923216

【6】肥満患者(平均BMI 26.3)36名を、チリ(55%とうがらし配合) を1日当たり30g の量で4週間摂取させたところ、糖尿病の指標Cペプチド/インスリン指数が上昇したことから、とうがらしが糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16825682

【7】高炭水化物(HC)摂取日本人女性13名を対象に、とうがらしの有効成分カプサイシンを摂取させたところ、食事中のタンパク質および脂質の摂取量が減少したことから、とうかがらしが食後の脂肪摂取・タンパク質摂取量を減らすことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10743483

【8】唐辛子の有効成分Ca‐LTP(Ca-脂質輸送蛋白質)がαアミラーゼ阻害作用を持ち、抗菌作用をもつことから、とうがらしが抗肥満作用と抗菌作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10743483

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参考文献

・野間佐和子 旬の食材 春‐夏の野菜 講談社

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

・田中平三、門脇孝、篠塚和正、清水俊雄、山田和彦、石川広己、東洋彰宏 健康食品・サプリメント〔成分〕のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 株式会社同文書院

・Song W, Derito CM, Liu MK, He X, Dong M, Liu RH. (2010) “Cellular antioxidant activity of common vegetables.” J Agric Food Chem. 2010 Jun 9;58(11):6621-9.

・Snitker S, Fujishima Y, Shen H, Ott S, Pi-Sunyer X, Furuhata Y, Sato H, Takahashi M. (2009) “Effects of novel capsinoid treatment on fatness and energy metabolism in humans:possible pharmacogenetic implications.” Am J Clin Nutr. 2009 Jan;89(1):45-50. Epub 2008 Dec 3.

・Ericson A, Nur EM, Petersson F, Kechagias S. (2009) “The effects of capsaicin on gastrin secretion in isolated human antral glands:before and after ingestion of red chilli.” Dig Dis Sci. 2009 Mar;54(3):491-8. Epub 2008 Aug 1.

・Kawabata F, Inoue N, Yazawa S, Kawada T, Inoue K, Fushiki T. (2006) “Effects of CH-19 sweet, a non-pungent cultivar of red pepper, in decreasing the body weight and suppressing body fat accumulation by sympathetic nerve activation in humans.” Biosci Biotechnol Biochem. 2006 Dec;70(12):2824-35. Epub 2006 Dec 7.

・Ahuja KD, Ball MJ. (2006) “Effects of daily ingestion of chilli on serum lipoprotein oxidation in adult men and women.” Br J Nutr. 2006 Aug;96(2):239-42.

・uja KD, Robertson IK, Geraghty DP, Ball MJ. (2006) “Effects of chili consumption on postprandial glucose, insulin, and energy metabolism.” Am J Clin Nutr. 2006 Jul;84(1):63-9.

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・Diz MS, Carvalho AO, Ribeiro SF, Da Cunha M, Beltramini L, Rodrigues R, Nascimento VV, Machado OL, Gomes VM. (1999) “Characterisation, immunolocalisation and antifungal activity of a lipid transfer protein from chili pepper (Capsicum annuum) seeds with novel α-amylase inhibitory properties.” Br J Nutr. 1999 Aug;82(2):115-23.

・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 株式会社主婦の友社

・石原茂正 編 薬用ハーブの機能研究 株式会社常磐植物化学研究所

・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館

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