豚肉とは?
●基本情報
豚肉はイノシシ科の野生動物を家畜化した豚を食用に加工したものです。豚肉が食用とされている理由としては、ほかの家畜動物に比べて肥大能力が大きいからです。食用として多用される反面、豚ヘルペス、トキソプラズマ、E型肺炎、豚インフルエンザなど感染症のリスクも高いため、生食は避けるべきとされています。ユダヤ教やイスラム教が多い中東においては、豚は不浄なものとされており、豚肉どころか豚肉から抽出したラードも避けられます。
日本で流通している豚肉に関しては安全面や衛生面で管理されているため、感染症や寄生虫を怖がる必要はそこまでないかもしれません。しかし、調理の際には念のためしっかりと火を通すことが望ましいとされています。
●豚肉の輸出入
世界には50種類の元となる本種があり、掛け合わされて改良されて誕生した250もの品種があります。日本は世界一ニワトリの品種が多いともいわれており、各種類によって特徴は異なります。ここでは日本で飼育されているいくつかの種類を取り上げます。
豚肉の輸入は1971年に輸入自由化が始まって以降、増加傾向にあります。
我が国の豚肉輸入先の主な国はアメリカ、カナダ、デンマーク、スペインとなっており、アジア圏からの輸入は原則禁止されています。家畜伝染病予防法によって輸入可能国が決まっており、この措置により豚肉の安全を図っています。
日本国内生産の0.1%程度にはなりますが、日本からも海外に輸出しており、輸出先はシンガポールと香港が主になります【1】。
●日本で飼育されている主な品種
①バークシャー
イギリス、バークシャー州が原産で、色は黒色です。
黒豚肉としてもよく知られていて、肉質の良さが特徴です。
②ランドレース
デンマーク原産で一度にたくさんの仔豚を産みます。肉質としては背中部分の脂が少なく赤肉率が高いと言われています。国で改良が進められている品種です。
③大ヨークシャー
イギリスヨークシャー州原産。大型で、繁殖能力に優れています。
赤肉と脂肪の均等が取れているので、加工品の原料として高い評価を得ている豚です。
④デュロック
アメリカのニューヨーク州、ニュージャージー州を中心に生産されていたもので、体が強く、性格もおとなしいのが特徴です。放牧飼育に適していると言われています。
⑤普通豚
国内で生産、流通している大半がランドレース(L)、大ヨークシャー(W)、デュロック(D)の三種を交配した普通豚です。「交配豚」、「LWD」という名称でも知られています。
●銘柄豚とは?
三元豚、ハーブ豚など銘柄やブランド名がついているのを目にすることがあるかもしれません。不思議なことに、鶏肉や牛肉に関しては「国産牛」「地鶏」と呼ぶために食肉協会や国が定めている基準が設けられていますが、豚肉に関してはその定義がありません。
銘柄豚は各地域で構成される協会の査定によって定められていて、銘柄豚ごとに査定の違いが出てきます。そのため日本だけでも銘柄豚は250種類を超えると言われています。ただし、これは250種類の豚の品種があるということではなく、同じ品種でも飼料を変えたり、育つ環境を変えることで違いを出しています。
●豚肉の歴史
日本で猪、また豚をいつから食べだしたのかという正確な記録はわかりませんが、西暦600年代に書かれた「日本書紀」の中には大陸から渡来した人の家で猪(豚)を飼育していることが記されていることから、猪(豚)の飼育はそのころまでには日本に伝わっていたと考えられます。
しかしながら殺生禁断という仏教の慈悲の教えに基づいて、生き物を殺すのを禁じる教えの影響が広がりました。これにより食肉の習慣がなくなると共に豚の飼育も衰退していきました。1664年から1691年に中国人によって豚が現在の長崎に輸入され始めましたが、豚肉を食べ始められたのは江戸時代になってからのことです。
明治時代になると畜産の振興が進み、明治5年には養豚が始まりました。戦後になると食生活が洋食化すると共に、豚肉を食事に取り入れていくことが多くなり、現在では日本人の食生活に欠かせないものとなっています【2】。
●豚肉の部位
①かた
運動量が特に多い部分のため、筋肉質で脂肪が少ない部位。
肉質としては少し硬めで、コクや旨味があります。
②かたロース
腕の部分で赤身の中に脂肪が霜降り状に入っている。
豚肉本来の味を楽しむことができる部位です。幅広い料理に使うことができます。
③ばら
あばら骨の周囲の肉を指します。
骨付きの場合はスペアリブともいわれ、きめ細かく口当たりの柔らかい人気の部位です。
④ロース
胸から腰の部分にかけての背中側の部位で、赤身と脂肪の割合の均等が取れています。
歯ごたえもしっかりしていて、豚肉の中でも人気の高い部位とされています。
⑤ヒレ
ロースの内側に左右1本ずつある部位で、豚肉の中でもきめが細かく良質な肉質です。脂身がほとんどなくビタミンB₁やカリウムも豊富なため、美容や健康効果も期待することができます。
⑥もも
後ろ脚の付け根の部分で、ヒレに続きビタミンB₁が多い部位。
どんな料理にも合う赤身が多い部位です。
⑦そともも
おしりに近い部位で脂肪が少なく柔らかい部位です。
⑧豚ホルモン
・ミミ ・タン ・ハツ ・コメカミ ・ハラミ ・レバー ・シマチョウ ・トンソク
これ以外にも豚ホルモンとしてほとんどの部分が食されています。
●豚肉の選び方
豚肉を買う際に気を付ける点として、肉がピンク色のものを選ぶようにしましょう。
赤色に近いものや茶色っぽくなっているものは鮮度が失われています。
脂肪の色が白色であること、表面がみずみずしくキメが細かいことも大切なポイントです。
また牛肉、鶏肉にも言えることですが、「ドリップ」と言われるうまみ成分が流れ出ていると味わいが落ちてしまいます。パックを傾けたりしてドリップが垂れてこないか確認してみましょう。
●豚肉に含まれる成分
〇タンパク質
髪の毛、皮膚、筋肉、臓器の健康を維持するための元となる栄養分です。
人間の体では形成されない必須アミノ酸が含まれています。
〇不飽和脂肪酸
不飽和脂肪酸は血中のコレステロール値を抑えるオレイン酸とリノール酸が含まれています。
〇ビタミンB₁
糖質からエネルギー生産をする栄養素で、脳神経系の正常な働きを助けます。また皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きも担っています。
〇ビタミンB₆
たんぱく質からエネルギーを生産し、筋肉や血液などが形成される際に働きます。また、皮膚炎予防の働きでも知られています。
〇ビタミンB₁₂
ビタミン₁₂は葉酸と協力して、赤血球中のヘモグロビンの生成を助けます。また脳からの指令を伝える神経を正常に保つという役割があります。
〇ナイアシン
ビタミンB群の一つで、シミやそばかすなどの肌の改善効果があります。また脳神経を正常に働かせる効果があるので、うつや統合失調症の予防、改善が期待されています。
〇カリウム
体内でナトリウムの排出を促すため、血圧を下げる作用があります。
豚肉の効果
●疲労回復、夏バテ防止
豚肉に含まれているビタミンB₁は疲労回復に欠かせない栄養素の一つであり、元気がない、体がだるいと感じる際に炭水化物などの糖質をエネルギーに変え疲労回復を促進してくれます。
●体作りのサポート
体を形成するための良質なタンパク質が含まれるので、健康な体作りをサポートする働きがあります。
●血圧をコントロール
カリウムがナトリウム、つまり塩分の排出を促すことや、オレイン酸とリノール酸が血中のコレステロール値を下げてくれます。
●神経痛の緩和
豚肉にはビタミンB₁₂が含まれています。ビタミンB₁₂は末梢神経を修復する働きがあります。またビタミンB₃とも呼ばれるナイアシンは神経の安定を促し、神経痛を和らげる効果が期待できます。
こんな方におすすめ
○神経痛がある方
○気持ちが落ち込んでいる方
○脳の老化を予防したい方
○夏バテや疲労感がある方
○血圧をコントロールしたい方
豚肉の研究情報
豚レバーの中に豊富に含まれているアラキドン酸は、成人において記憶力や認知症の改善、統合失調症の症状緩和があるとして注目されています。
科学雑誌「Nutrients」にはバランスよく豚肉を消費することで感情的な安定、認知機能の改善を促したことを詳述しています。
【1】独立行政法人農畜産業振興機構調べ
https://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/i_pdf/8000a-8000b.pdf
【2】人と動物の日本史1 動物の考古学
参考文献
Burns A., Iliffe S. Alzheimer’s disease. BMJ. 2009;338:b158.
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/dementia