ザクロとは
●基本情報
ザクロとは、ザクロ科ザクロ属に属する落葉小高木植物[※1]です。樹高は5~10mで、直径6~10cm程の先が尖った球形の果実をつけます。果実は熟すと果皮が自然と割れ、中から赤く透明な外種皮に包まれた種子がたくさん出てきます。この種子の外種皮が食用とされ、特有の食感と甘酸っぱい味わいが楽しまれています。
ザクロは、外種皮が鮮やかな赤色であることから生のまま前菜やデザートのトッピングとして利用されたり、果汁がジュースやシャーベット、ソースなどに加工され食されています。
●ザクロの名前の由来
ザクロという名はイランとその周辺地域に連なっているザクロス山脈が由来であるといわれています。
また、ザクロは中国語で「石榴(せきりゅう)」と表記されています。ペルシャ北部の安石国から中国に伝わった際、形が瘤(こぶ)に似ていることから「安石瘤」と呼ばれました。それが略され「石瘤」となり、さらに字が変わり「石榴」になったといわれています。
●ザクロの原産地・生産地
ザクロの原産地は、イランやトルコなどの中近東地域であるといわれています。
現在、ザクロはほとんどアメリカから輸入しており、日本でよく見かけるザクロの多くが「ワンダフル」と呼ばれるアメリカのカリフォルニア産の品種です。ザクロの中でもサイズが大きく、甘酸っぱい味と独特の風味を持ちます。日本では東北より南の地域で僅かに栽培されています。
ザクロは9~11月初旬に旬を迎えます。
●ザクロの歴史
ザクロは5000年以上も昔から健康や美容に効果があるとされていました。種子が多いことから、子孫繁栄や健康を願う女性に好まれたため「女性の果実」と呼ばれ大切にされていたといわれています。
その後、原産地であるイランやトルコから西側へはシリアをはじめエジプト、ギリシャ、ヨーロッパへと伝えられ、東側へはシルクロードを通りインド、中国などに伝えられました。
日本へは平安時代に渡来したといわれています。日本では食用ではなく、鑑賞用として家庭の庭などに植えられ親しまれていました。現在ではアメリカのカリフォルニア州やイラン、インド、中国などで食用としてのザクロが栽培されています。
●ザクロを選ぶポイント・保存方法
美味しいザクロを選ぶポイントは2つあります。
・果皮が赤く色づき、持った際にずっしりと重いこと。
・皮に傷がなく、成熟していること。
ザクロは皮をむかなければ常温でも十分日持ちする果物です。ビニール袋に入れ冷蔵庫で保存すると、数週間から状態が良ければ2ヵ月以上も保存が可能です。外種皮を取り出した場合は、冷凍保存すると長く保存できます。
●ザクロに含まれている成分と性質
ザクロには、ビタミンB₁やビタミンB₂、ビタミンC、ナイアシンなどのビタミン類やカリウム、グルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸が豊富に含まれています。
また、タンニンやアントシアニン、エラグ酸などのポリフェノールやクエン酸、女性ホルモン様成分エストロンなども豊富に含まれています。
ビタミンCやポリフェノールには強い抗酸化作用があり、紫外線や喫煙、ストレスなど生活の様々な場面で発生する活性酸素[※2]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きがあります。鉄クギを放置し空気中にさらしておくと鉄クギがサビついてしまいます。この現象が酸化であり、人間の体内で酸化が起こると、病気や老化、肌トラブルの原因となってしまいます。ザクロに含まれるビタミンCやポリフェノールが体内で強い抗酸化作用を発揮して酸化から体を守ることで、病気や老化、肌トラブルが予防されます。
[※1:落葉小高木植物とは、定期的に葉を完全に落とし、樹高が5m以上10m未満の植物のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
ザクロの効果
ザクロには、ビタミンB₁、ビタミンB₂、ビタミンC、ナイアシン、カリウム、クエン酸、ポリフェノール(タンニン、アントシアニン、エラグ酸など)が豊富に含まれており、これらの成分は以下のような健康に対する効果が期待されます。
●老化を防ぐ効果
ザクロには、エラグ酸をはじめとしたポリフェノールが豊富に含まれています。エラグ酸は腸内細菌でウロリチンに変換されます。ウロリチンは「長寿遺伝子」とも呼ばれるサーチュイン遺伝子[※3]を活性化することで、活性酸素や免疫異常を減らす働きがあることが報告されています。さらに、傷んだ細胞や古い細胞を分解する機能を助けるオートファジー[※4]機能を高める働きもあるため、老化を抑制する効果や、アンチエイジング効果が期待されています。【1】
●更年期の不調を改善する効果
加齢に伴う女性ホルモンの分泌量の減少は、うつやイライラ、不眠、倦怠感などの更年期の不調の原因であるといわれています。また、近年では若い年代であってもストレスや不規則な生活リズム、極端なダイエットなどによって女性ホルモンのバランスが崩れがちであるといわれています。ザクロには更年期の症状を緩和することが報告されており、更年期の不調を改善する効果が期待されています。【2】
●美肌・美白効果
ザクロに豊富に含まれるビタミンCやエラグ酸には、シミ・そばかすを予防し、ハリのある若々しい肌を保つ効果があります。
シミ・そばかすの原因となるメラニン色素は、アミノ酸の一種であるチロシンから生成されます。ビタミンCやエラグ酸はチロシンを生成する酵素であるチロシナーゼの働きを抑制し、メラニン色素の沈着を防ぐ働きがあるため、シミ・そばかすの予防につながるとされています。【3】【4】
●ダイエット効果
ザクロには、ビタミンB₂が豊富に含まれています。
ザクロに含まれるビタミンB₂には、脂質や糖質を効率良くエネルギーに変え脂肪を燃焼させるサポートをする働きがあるため、ダイエットに効果的です。
●感染症を予防・改善する効果
ザクロにはビタミンCが豊富に含まれています。
ビタミンCは、血液中の白血球、特に好中球[※5]に多量に含まれており、体外から侵入してきた細菌やウイルスなどを撃退する役割を担っています。ビタミンCは白血球の働きを高め、ビタミンC自体も細菌やウイルスに対抗する力を持っているため、ビタミンCを積極的に摂取することで免疫力が高まり、風邪などの感染症を予防したり、病気の回復を早めたりする効果があります。
●ストレスをやわらげる効果
ザクロに豊富に含まれるビタミンCには、ストレスを和らげる副腎皮質[※6]ホルモンと、心地良さなどの感情をつくり出すドーパミンややる気を起こさせるノルアドレナリンなどの神経伝達物質[※7]の合成をサポートする働きがあります。ビタミンCが含まれるザクロには、ストレスに対する抵抗力を高めたり、イライラを鎮める効果があります。
●丈夫な体をつくる効果
ザクロに豊富に含まれるビタミンCは、丈夫な血管や筋肉、骨、肌などをつくるコラーゲンの合成に必要不可欠な成分です。コラーゲンとは、体の組織や細胞をしっかりと結びつける接着剤のような働きをするたんぱく質のことです。
ビタミンCがコラーゲンの合成をサポートすることで骨を丈夫にしたり、血管から出血しやすくなる壊血病[※8]などが予防できるといわれています。
●むくみを予防・改善する効果
ザクロに含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがあります。そのため、細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防や改善に効果を発揮します。
●下痢を予防・改善する効果
ザクロに含まれるタンニンが持つ抗菌効果によって腸内の悪玉菌[※9]が減少するため、悪玉菌による大腸の炎症によって起こる下痢の予防に効果的です。
[※3:サーチュイン遺伝子は、老化抑制や寿命延長に重要な役割を果たすとされる遺伝子です。サーチュイン遺伝子を活性化すると、DNA損傷を修復したり、代謝を調節したりすることで、細胞が再活性化すると考えられています。]
[※4:オートファジーとは、細胞が自らの不要なたんぱく質を分解し、栄養源にしたりリサイクルしたりする機能で、自食作用とも呼ばれています。細胞内の恒常性を保ったり、障害から守る働きがあります。]
[※5:好中球とは、体内に存在する白血球の40~60%を占める白血球の一種です。急性的な炎症に対して中心となって血液中の細菌やウイルスと闘います。]
[※6:副腎皮質とは、腎臓の上に位置する臓器である副腎の周辺部分のことです。副腎皮質からはアドレナリンなどの様々なホルモンが分泌され、生命を維持するために欠かせない臓器です。]
[※7:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※8:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
[※9:悪玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。増えすぎると体に悪い影響を及ぼすと考えられており、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、緑膿菌などが悪玉菌といわれます。]
ザクロはこんな方におすすめ
○更年期障害でお悩みの方
○美肌を目指したい方
○スリムな体型を目指したい方
○丈夫な体をつくりたい方
○手足のむくみでお悩みの方
○腸内環境を整えたい方
ザクロの研究情報
【1】ザクロなどに含まれるエラグ酸は、腸内細菌によりウロリチンAに代謝されます。ウロリチンAは、線虫を使った試験において、機能不全のミトコンドリアが加齢と共に蓄積されるのを抑制し、寿命を延ばしたことから、老化を抑制する効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27400265/
【2】健康な女性にザクロサプリメントを4週間摂取させたところ、更年期の不快な症状が緩和され、生活の質が改善されたことから、ザクロに更年期障害の症状を和らげる効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35134697/
【3】ザクロジュースとエキスの摂取は健康な女性のUVB誘発性紅斑に対する抵抗力を高め、皮膚のマイクロバイオーム(微生物叢)を変化させました。ザクロを摂取すると、紫外線からの皮膚保護が強化される可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31601842/
【4】20代から40代の女性に、エラグ酸の豊富なザクロ抽出物させたところ、紫外線照射後による皮膚の色素沈着が抑制されたことから、ザクロが美白作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17190110
【5】LPS誘発肺炎マウスに、ザクロの皮エキスを投与したところ、免疫細胞好中球にある酵素であるミエロペルオキシダーゼが阻害されたことから、ザクロに抗炎症作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21376769
【6】ザクロに含まれるエラジタンニンは、抗インフルエンザウイルス作用を持つことから、ザクロにインフルエンザ予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19586764
【7】ザクロの皮抽出物とその主要ポリフェノールは、SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のS糖タンパク質のACE2受容体への結合能力を弱める可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34246969/
【8】ザクロ皮の抽出物は、リステリア菌、S. aureus、大腸菌および腸炎エルシニアなどの病原菌の発育を阻害することから、ザクロに抗菌作用と食中毒予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19632734
参考文献
・Dongryeol Ryu, Laurent Mouchiroud, Pénélope A Andreux, Elena Katsyuba, Norman Moullan, Amandine A Nicolet-Dit-Félix, Evan G Williams, Pooja Jha, Giuseppe Lo Sasso, Damien Huzard, Patrick Aebischer, Carmen Sandi, Chris Rinsch, Johan Auwerx. (2016) “Urolithin A induces mitophagy and prolongs lifespan in C. elegans and increases muscle function in rodents” Nat Med. 2016 Aug;22(8):879-88.
・Mohammad Sadegh Adel-Mehraban, Mojgan Tansaz, Mohammad Mohammadi, Maryam Yavari. (2022) “Effects of pomegranate supplement on menopausal symptoms and quality of life in menopausal women: A double-blind randomized placebo-controlled trial” Complement Ther Clin Pract. 2022 Feb:46:101544.
・Susanne M Henning, Jieping Yang, Ru-Po Lee, Jianjun Huang, Mark Hsu, Gail Thames, Irene Gilbuena, Jianfeng Long, Yunhui Xu, Esther HaeIn Park, Chi-Hong Tseng, Jenny Kim, David Heber, Zhaoping Li. (2019) “Pomegranate Juice and Extract Consumption Increases the Resistance to UVB-induced Erythema and Changes the Skin Microbiome in Healthy Women: a Randomized Controlled Trial” Sci Rep. 2019 Oct 10;9(1):14528.
・Kasai K, Yoshimura M, Koga T, Arii M, Kawasaki S. (2006) “Effects of oral administration of ellagic acid-rich pomegranate extract on ultraviolet-induced pigmentation in the human skin.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2006 Oct;52(5):383-8.
・Bachoual R, Talmoudi W, Boussetta T, Braut F, El-Benna J. (2011) “An aqueous pomegranate peel extract inhibits neutrophil myeloperoxidase in vitro and attenuates lung inflammation in mice.” Food Chem Toxicol. 2011 Jun;49(6):1224-8.
・Haidari M, Ali M, Ward Casscells S 3rd, Madjid M. (2009) “Pomegranate (Punica granatum) purified polyphenol extract inhibits influenza virus and has a synergistic effect with oseltamivir.” Phytomedicine. 2009 Dec;16(12):1127-36.
・Relja Suručić, Maja Travar, Miroslav Petković, Biljana Tubić, Miloš P Stojiljković, Milkica Grabež, Katarina Šavikin, Gordana Zdunić, Ranko Škrbić. (2021) “Pomegranate peel extract polyphenols attenuate the SARS-CoV-2 S-glycoprotein binding ability to ACE2 Receptor: In silico and in vitro studies” Bioorg Chem. 2021 Sep:114:105145.
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・Davide D’Amico, Pénélope A Andreux, Pamela Valdés, Anurag Singh, Chris Rinsch, Johan Auwerx. (2021) “Impact of the Natural Compound Urolithin A on Health, Disease, and Aging” Trends Mol Med. 2021 Jul;27(7):687-699.