japanese apricot
Prunus mume sieb.et Zucc

梅は、日本では古来より民間薬として親しまれてきました。クエン酸やカテキン酸などの有機酸が豊富に含まれており、疲労回復に効果的です。また、梅肉エキス特有の有効成分ムメフラールが血流を改善し、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などを予防する効果も期待されています。

梅とは?

●基本情報
梅とはバラ科サクラ属の落葉高木に実る果実で、その実は古くから漢方や民間薬として利用されてきました。
原産地は、中国の揚子江上流の山岳地帯であるといわれており、紀元前3000年頃から薫製にした青梅を薬用として利用していたといわれています。しかし、日本が原産であるという説もあり、どちらが定かかははっきりしていないものの、歴史的に古くから利用されていたことから中国が原産地であるという説が有力であるといわれています。
梅という名前の由来には諸説があり、ひとつは中国語の「梅」(マイあるいはメイ)が転じたという説があります。また、伝来当時の日本人が鼻音の前に軽い鼻音を重ねていたため、meをmme(ンメ)のように発音しており、これがムメのように表記され、梅へと変化したという説もあります。それ以外にも「熟む実」、「うつくしくめずらしい」からきた言葉だともいわれています。
梅は日本人の生活文化に深く関わっており、梅の花は万葉集の122首にも読まれるほど親しまれてきた植物で、庭木や盆栽としても鑑賞されてきました。果実は「梅は三毒(食べ物、水、血の毒)を絶つ」などといわれており、民間薬や漢方としても利用されてきました。
梅は強い抗菌力を持つため、胃腸の調子を整え、食欲を増進させる効果にも優れています。梅の効用の中でも、最も有名なものが疲労を回復する効果です。梅にはクエン酸をはじめとする豊富な有機酸[※1]が含まれており、疲労物質である乳酸を燃焼させ、エネルギーに変える働きもあります。また、梅肉エキスには特有の成分ムメフラールが含まれており、血流の改善に役立ちます。

●梅の歴史
梅の歴史は古く、日本へは7世紀の奈良時代に遣唐使・小野妹子が中国から持ち帰った薬用の「烏梅(うばい)」がはじまりだといわれています。日本では塩に漬け込んだ柔らかい梅干しが一般的ですが、中国では薫製・乾燥したものが薬用に利用されることが一般的で、現在でも梅は漢方として使用されています。
烏梅は、かまどの上に置いた未熟な梅の実を、藁の火の煙でいぶして乾燥させてつくります。黒い薫製梅の色がからすの羽のようであることから、烏梅と呼ばれるようになったといわれています。
日本での梅は、奈良・平安時代の貴族が観賞用、薬用にと競って自邸に植樹していました。渡来当初、梅の実は生菓子にして食べられていましたが、効用が知れるに従って長期保存ができる塩漬法が考え出されました。
塩漬が梅干しとして書物に初めて登場したのは平安中期で、村上天皇が梅干とコブ入り茶で病が平癒されたことから、日本最古の医学書「医心方」にもその名が記されています。
鎌倉時代、梅干しは僧家の点心やおやつとして食されており、室町時代になりようやく武家の食膳にものぼるようになりました。
室町から戦国時代にかけては、見るだけで唾液を催す食欲増進剤としての役割や、戦場での息切れ防止薬として利用されていました。
梅干しが一般の家庭に普及したのは江戸に入ってからで、幕府が梅を植えることを奨励し、江戸中期には冬が近づくと梅干し売りが、豆腐売りと同じように、街を呼び歩く姿が冬を告げる風物となったといわれています。
明治10年から20年代にかけては、全国的に流行したコレラ[※2]や赤痢[※3]の予防・治療に梅干しが用いられ、日清・日露戦争でも重要な軍糧として活躍したといわれています。

●梅の生産地
梅の生産地は様々ありますが、日本における梅の生産量が最も多いのは南高梅で有名な和歌山県です。日本の梅生産量の約70%は和歌山で生産されています。次いで多いのが群馬県です。生産量としては全体の約6%を占めており、東日本で1位の生産量を誇ります。群馬県では白加賀という品種を生産しています。続いて福井県が多く、生産量は全体の約2%です。福井県では紅映梅という品種を主に生産しています。
梅の収穫時期は6月が最盛期といわれており、この時期に収穫された梅は、干して塩漬けにされ、各地へ配送されています。

●梅に含まれる成分とその性質
梅は、ミネラルを豊富に含んだ強アルカリ食品です。
梅の果肉には、クエン酸、リンゴ酸[※4]、ピクリン酸[※5]、カテキン酸[※6]、コハク酸[※7]、酒石酸[※8]など、強い殺菌・抗菌作用を持つ有機酸が含まれています。中でも梅干しの酸味成分であるクエン酸は、疲労の回復に効果がある成分として知られています。また、カテキン酸は胃腸の働きを促し、ピクリン酸は肝臓の機能を活性化することで、全身の新陳代謝を活発にする働きがあります。
それ以外にも、梅肉エキスに含まれるムメフラールには、血流を改善する効果があるといわれています。
ムメフラールは、梅の果肉を煮詰めるときに加熱することで、クエン酸と糖の一部が結合してできる梅肉エキス特有の成分です。クエン酸との相性も良く、疲労回復や血流改善に働きかけます。

<豆知識>梅肉エキス特有の成分ムメフラール
ムメフラールは梅肉特有の成分で、ファイトケミカルの一種です。
ムメフラールは、梅肉エキスの製造過程で絞り汁に含まれたグルコース(ブドウ糖)が酸と熱で変容することで、その一部がクエン酸と結合することによってつくられるため、青梅や梅干しには含まれていない有機酸です。
ムメフラールという名前は、梅の学名であるPrunus mume(プラムス・ムメ)と新成分の構造上の特徴を表した「フラール」とを組み合わせて「ムメフラール」と命名されました。

[※1:有機酸とは、酸の性質を持つ有機化合物の総称です。]
[※2:コレラとは、コレラ菌を病原体とする感染症の一種です。下痢や嘔吐などの症状が現れます。]
[※3:赤痢とは、大腸感染症の一種です。下痢・発熱・血便・腹痛などの症状が現れます。]
[※4:リンゴ酸とは、りんごから発見された有機酸の一種です。]
[※5:ピクリン酸とは、強力な酸性を持つ有機酸の一種です。]
[※6:カテキン酸とは、有機酸の一種です。胃腸の働きを促進する働きがあります。]
[※7:コハク酸とは、クエン酸回路を構成する化合物の一種です。]
[※8:酒石酸とは、有機酸の一種です。爽快な酸味を持つため清涼飲料などに利用されます。]

梅の効果

●疲労回復効果
梅に含まれるクエン酸は、疲労を回復する効果に優れています。
クエン酸は、細胞のミトコンドリア[※9]内でクエン酸回路というエネルギー代謝経路の中心として働きます。
エネルギーとは、人間が生きていく上で非常に重要で、必要不可欠なものです。
人間の体は、約60兆個の細胞からできており、そのひとつひとつの細胞で、クエン酸回路を正常に行うために、クエン酸は非常に重要な役割を持つ成分です。
クエン酸は、このクエン酸回路の中で最初に生成される酸であるため、体内で不足することはほとんどありませんが、不規則な食生活などによって、クエン酸回路の働きが鈍くなってしまうことがあります。クエン酸回路の働きが鈍くなると、エネルギーがうまくつくり出せない状態となるため、摂取した糖質や脂質、たんぱく質が燃焼されなくなり、いわゆる代謝[※10]が悪いという状態になってしまいます。
梅などからクエン酸を摂取することによって、クエン酸回路が活性化され、代謝が向上されることでエネルギーを効率良くつくり出すことができます。
また、クエン酸は筋肉中につくられる疲労物質である乳酸の発生を抑える働きもあり、疲労を回復する効果に優れています。

●血流を改善する効果
梅に含まれるムメフラールは、血小板の凝集を抑制する作用と赤血球の変形能を上げる作用を持っており、血流改善をしながら血栓がつくられることを防ぎます。
赤血球の形は、中央がくぼんだドーナツ状で、直径は毛細血管よりも大きいため、赤血球の形を変えなければ毛細血管を通過することはできません。ムメフラールは、この変形能を改善することで、赤血球が毛細血管内を通過しやすいように働きます。
また、人間の体は通常、弱アルカリ性に保たれていますが、食生活やストレスなどによって酸性に傾きます。これによって血液の流れが悪くなり、動脈硬化などを招いてしまいます。
梅は強アルカリ性の食材であるため、酸性に傾いた血液を弱アルカリ性に戻るように働きかけ、血流を改善する効果があります。【3】

●胃腸の機能を高める効果
梅は強い殺菌・抗菌力を持ち、胃腸の機能を高める効果があります。
これは梅に含まれるクエン酸をはじめとする有機酸が、胃や腸にすむ悪玉菌を殺菌する働きがあるため、善玉菌が優勢の状態をつくり出し、胃腸の機能を高めるといわれています。【1】【3】

●食欲増進効果
梅は様々な有機酸を含んでいるため、唾液の分泌を促進し、胃を刺激することで胃酸の分泌を促進する働きがあるため、食欲を増進させる効果があるといわれています。特に食欲が落ち、疲れやすくなる夏バテには効果的な食材であるといえます。

●肝機能を高める効果
肝臓は主に代謝や解毒などの機能を担っており、肝臓が正常に働かなくなることで、疲れやすくなるなど様々な症状が現れます。
梅に含まれるピクリン酸には、肝機能を高める効果があります。
また、この働きにより二日酔いの防止にも効果的であるといわれています。

[※9:ミトコンドリアとは、細胞内の構造のひとつで、生命活動に必要なエネルギーをつくり出す役目を担っています。]
[※10:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]

梅は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○疲労を回復したい方
○血流を改善したい方
○胃腸の健康を保ちたい方
○食欲不振の方
○肝臓の健康を保ちたい方

梅の研究情報

【1】ピロリ菌に感染している1358名(うち68名が委縮性胃炎を引き起こしている)の成人に対して、梅(高用量群、低用量群)を飲用させました。高用量群では、低用量群と比べて抗体力価が低下しました。また、胃炎を引き起こしている68名の胃炎は回復しました。このことから、梅の摂取は、ピロリ菌感染による胃炎を抑える働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20517325

【2】マウスへの梅の投与が腸内環境を良くする働きがあることが知られています。40日間梅を食べさせた群とコントロール群に分け、比較しました。梅摂取群では、コントロール群と比較して糞が増量していました。また、糞便中の脂質の割合もコントロール群と比較して大きいことがわかりました。また、腸内細菌のバクテロイドス属(主に善玉菌)/クロストリジウム属(主に悪玉菌)の比は、梅摂取群で大きいことがわかりました。このことから、梅の摂取は、腸内環境を整え、胃や腸の働きを改善する働きがあることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21731428

【3】ヒト血管の新しい血流動性試験法(試験管内)を用いて梅抽出物が及ぼす作用について検討しました。その結果、梅抽出物は、ヒト血管の流動性を著しく改善しました。HPLC、NMR、MS、IRを用いてその成分分析した結果、ムメフラール、HMFが含まれていることがわかりました。ムメフラールはすべての試験で血流を改善したことから、梅抽出物に含まれるムメフラールは血液流動性を高める働きがあることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10552374

参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・池上保子 目で見る食材便利ノート 株式会社永岡書店

・原山建郎 最新・最強のサプリメント大辞典 昭文社

・Seneviratne CJ, Wong RW, Hägg U, Chen Y, Herath TD, Samaranayake PL, Kao R. (2011) “Prunus mume extract exhibits antimicrobial activity against pathogenic oral bacteria.” Int J Paediatr Dent. 2011 Jul;21(4):299-305. doi: 10.1111/j.1365-263X.2011.01123.x. Epub 2011 Mar 15.・Enomoto S, Yanaoka K, Utsunomiya H, Niwa T, Inada K, Deguchi H, Ueda K, Mukoubayashi C, Inoue I, Maekita T, Nakazawa K, Iguchi M, Arii K, Tamai H, Yoshimura N, Fujishiro M, Oka M, Ichinose M. (2010) “Inhibitory effects of Japanese apricot (Prunus mume Siebold et Zucc.; Ume) on Helicobacter pylori-related chronic gastritis.” Eur J Clin Nutr. 2010 Jul;64(7):714-9. Epub 2010 Jun 2.

・Tamura M, Ohnishi Y, Kotani T, Gato N. (2011) “Effects of New Dietary Fiber from Japanese Apricot (Prunus mume Sieb. et Zucc.) on Gut Function and Intestinal Microflora in Adult Mice.” Int J Mol Sci. 2011;12(4):2088-99. Epub 2011 Mar 25.

・Chuda Y, Ono H, Ohnishi-Kameyama M, Matsumoto K, Nagata T, Kikuchi Y. (1999) “Mumefural, citric acid derivative improving blood fluidity from fruit-juice concentrate of Japanese apricot (Prunus mume Sieb. et Zucc).” J Agric Food Chem. 1999 Mar;47(3):828-31.

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