植物ステロールとは
●基本情報
植物ステロールとは植物のもつ健康成分であるファイトケミカルの一種で、フィトステロールと呼ばれています。ステロールとは脂質の一種で動植物の細胞膜に存在しています。ファイトケミカルとはギリシャ語で「植物」という意味で植物に含まれる抗酸化物質のことをさします。
ステロールの中でも野菜や果物、穀類など植物の細胞膜の成分となっているものを総称して植物ステロールといいます。
老化や生活習慣病を防ぐ効果から「第7の栄養素」といわれ、植物ステロールはβ-シトステロールやカンペステロール、シグマステロールなど40種類以上が知られています。コレステロールと形は似ていますが、植物ステロールは小腸では吸収されません。
植物ステロールはコレステロールの吸収を抑え、血中の悪玉(LDL)コレステロールの割合を下げる働きがあるといわれ、生活習慣病予防を目的として食品に利用されています。ほかにも前立肥大による尿の悩み改善が期待されています。
白色の固体で特有の匂いがあり、脂溶性のため水に溶けませんがアルコールには可溶です。
医薬品や食品添加物、化粧品など多様な用途を持ち、様々な場面で活躍する成分です。
●植物ステロールの歴史
植物ステロールの働きや効果は1950年代から知られており、日本では調理用の油やマーガリンなどの原料に使用されています。植物ステロールは植物油の抽出工程で得られます。
特定保健用食品(トクホ)として販売されている製品も発売され、植物ステロールを含む食用油などの油含有食品は「コレステロールが高めの方に適する」といった表記許可を取得し記載されています。
通常の商品に比べてやや高めの価格ではありますが、こうした健康機能成分入り商品を求める消費者が増えてきています。
日本よりもコレステロールを気にする人が多い欧米では、植物性ステロール強化食品への注目度はかなり高いようで、ヨーグルト、シリアル食品、オレンジジュースなど朝食の定番にも浸透してきています。
近年では水になじみやすく食品に配合しやすい植物性ステロールも開発されており、ドレッシングやヨーグルト、パン粉などの食品分野にも使用が広がっています。
●植物ステロールの摂取について
コレステロールを下げるために必要な植物ステロールは1日1000mgですが、実際に1日の食事から摂れる量は約100~400mgです。そこで植物ステロールを含む油やサプリメントから、不足分を補うと効果的です。
●植物ステロールを摂取する際の注意点
植物ステロールが配合されている料理用油、健康サラダ油、とうもろこし、マーガリン、ごま、落花生、ピーナッツ、大豆に含まれているため、それらの食品から摂る方法とサプリメントから摂取する方法があります。
一般的に特に問題となる副作用はありませんが、ごくまれに下痢や便秘などの症状が出ることがあります。ビタミンAやビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収を阻害する作用があり、併用する場合は数時間あけて摂取したほうがよいでしょう。薬との相互作用は現在のところ報告はありません。安心して使用できます。しかし高脂血症の治療薬を服用している場合は注意が必要です。
●植物ステロールとコレステロールの違い
植物ステロールは植物の細胞を構成する成分のひとつで、広く植物に含まれています。豆類や穀類の胚芽に多く含まれることが特徴です。
植物ステロールとコレステロールはどちらも脂質の一種ですが、植物ステロールは植物の細胞膜構成成分であり、コレステロールは動物の細胞膜構成成分です。
コレステロールは体内で吸収されることに対し、植物ステロールはほとんど吸収されません。
植物ステロールは植物油の抽出工程で得られます。
植物ステロールの効果
●生活習慣病の予防・改善効果
植物ステロールには血液中のコレステロール値を抑える働きがあります。その結果、動脈硬化や心筋梗塞、高コレステロール血症などの生活習慣病を予防するとされています。
コレステロールは小腸で胆汁酸からなるミセルに包まれて体に吸収されます。植物ステロールはコレステロールがこのミセルに入り込むことを抑えることで体へのコレステロールの吸収を抑えてくれます。【1】【4】
●排尿障害を改善する効果
植物ステロールには前立腺肥大によるトイレのお悩みを改善する働きがあります。前立腺は年齢を重ねると肥大してくる傾向があります。進行することで排尿時に不快感を感じるようになります。
植物ステロールの抗炎症作用やコレステロールの低下作用、また性ホルモンを抑える働きによりトイレのお悩みを改善してくれる効果があります。【2】
●免疫力を高める効果
植物ステロールの中には、免疫細胞の一種ナチュラキラー細胞(NK細胞)を活性化させ、体内に入り込んだ病原菌をやっつけ、病気にかかりにくくする働きがあると研究されています。
その働きから免疫力を高める効果があるといえます。【3】
食事やサプリメントで摂取できます
植物ステロールを含む食品
○とうもろこし
○ごま
○ピーナッツ
○大豆
○なたね油
○ゴマ油
○米油
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○排尿でお悩みの方
○免疫力を向上したい方
植物ステロールの研究情報
【1】Ⅱ型糖尿病患者85名を対象に、植物ステロール8%含有食事を20g の量で12週間摂取させたところ、LDLコレステロールの上昇が緩和されたことから、植物ステロールは高脂血症予防効果を持つほか、循環器系疾患予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12638032
【2】前立腺肥大症患者20名を対象に、植物ステロールを1日200mg の量で6週間摂取したところ、尿量および残尿感に改善が見られたことから、植物ステロールは前立腺肥大症予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6203383
【3】炎症モデルマウスを対象に、植物ステロールを摂取させたところ、Th1/Th2 比が高まったことから、植物ステロールは免疫力調節機能を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17382351
【4】高血圧ラットを対象に、植物ステロールの健康効果を検討したところ、高血圧ラットの生存率向上に、植物ステロールの量が関与することが示唆されたことから、植物ステロールは高血圧に対する健康機能が注目されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15234074
参考文献
・サプリメント事典 日経ヘルス
・中嶋洋子 食べ物栄養事典 主婦の友社
・体脂肪ナビ.com 植物ステロールのヒミツ
http://www.taisibo-navi.com/product/syokubutu.html
・植物ステロールの効果と効能 コレステロール値を下げるサプリメントラボ
http://www.mit-japan.com/ndl
・Lee YM, Haastert B, Scherbaum W, Hauner H. 2003 “A phytosterol-enriched spread improves the lipid profile of subjects with type 2 diabetes mellitus–a randomized controlled trial under free-living conditions.” Eur J Nutr. 2003 Apr;42(2):111-7.
・Tajima A, Ohmi Y, Aso Y, Ohta N, Ushiyama T, Hata M, Fujii K, Masuda H. 1983 “Effect of Moristerol (anti-cholesterolemic agent) on benign prostatic hypertrophy.” Hinyokika Kiyo. 1983 Mar;29(3):365-9.