フィチン酸

phytic acid
イノシトール6リン酸(IP6)

抗酸化作用があり、食用油の酸化防止などに利用されています。細胞の酸化を防いで、ガン細胞の発生と増殖を抑える効果があります。また、血液が凝固しにくくなるため、血栓予防効果もあります。

LINEスタンププレゼント!お友達登録はこちら。配信期間2025/01/23

フィチン酸とは

●基本情報
フィチン酸は、イノシトールにリン酸が結合することによってできる、リン酸化合物の一種でビタミンBの仲間です。米ぬか、とうもろこしなどから水または酸性水溶液で抽出して得られます。淡黄~淡褐色のシロップ状の液体で、酸味があり熱や酸に弱い性質があります。米ぬかや小麦などの穀類、豆類などに多く含まれています。穀類など植物の種子ではふすまと呼ばれる外被に多く含まれていますが、通常の精米やふすまを取り除く処理によってフィチン酸の多くの部分が失われてしまいます。また、ミネラルと強く結合し、複合体を形成する性質があります。特に、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、カルシウムに結合しやすいといわれています。
フィチン酸は食材に含まれるだけでなく、人間の細胞を含め、あらゆる動物の細胞内にも存在しています。人間では心筋や脳、骨格筋などに多く含まれており、細胞機能を制御する役割を担っています。

●フィチン酸の歴史
フィチン酸は近年研究が進み注目が集まっている成分です。もともとフィチン酸は1958年に人間の腎結石の予防や治療のために臨床で用いられていました。ボストンのハーバード大学医学部と、マサチューセッツ総合病院のフィリップ・ヘンネマン博士とその共同研究者は、腎結石を合併症として高頻度に発病する突発性高カルシウム尿症のフィチン酸での治療に成功しています。1985年にはエルンスト・グラーフ博士と助手であるジョン・イートンが専門雑誌「Cancer」の論説で、食物繊維とフィチン酸では、どちらが健康に有益かという設問を挙げています。同年、米国メリーランド大学医学部のアブルカラム・M・シャムスディン博士により、世界に先駆けてイノシトールとフィチン酸の抗ガン作用に関する実験が行われました。シャムスディン博士はフィチン酸研究の第一人者として世界的に有名で、日本でも著書が邦訳され、関心を集めました。さらに、1998年6月に京都市で国際シンポジウムが開催され、フィチン酸は抗ガン作用がある成分として注目を集めました。

●フィチン酸の働き
フィチン酸はエネルギーの原料であるリンの供給源であることが知られています。
リンはあらゆる細胞でエネルギー源となるATPの構成成分となる栄養素です。フィチン酸はそのリンの主な蓄臓形態であり、重要なリンの供給源という役割を持っています。

フィチン酸には非常に強い抗酸化作用[※1]があります。
人間が体内でエネルギーをつくるときに副産物として活性酸素[※2]が発生します。フィチン酸は、活性酸素の生成を抑えるという特徴を持っています。

また、フィチン酸には細胞分裂を制御する働きがあります。
細胞分裂はすべての生物が成長し、子孫を残す上で基本となるもので、生物は常に細胞分裂を続けています。
細胞分裂は通常、コントロールされています。コントロールの効かない細胞分裂は様々な病気の先駆けとなってしまいます。フィチン酸はDNA合成を調整し、細胞分裂を調整していると考えられています。

<豆知識>フィチン酸の摂取とガンの発生
フィンランド人の食事習慣は穀物が中心でフィチン酸を多く摂取しています。一方、デンマーク人はじゃがいもや黒パンを中心とした生活をしており、食物繊維の総摂取量はフィンランド人の約2倍ですが、食事中のフィチン酸の摂取量は少なくなっています。ある調査によると、フィンランド人の大腸ガンの発生率はデンマーク人の約半分という結果が出ています。フィンランド人の食事はフィチン酸が多く、デンマーク人の食事はフィチン酸が少ないということから大腸ガンの発生率とフィチン酸の摂取の間に関連があると考えられています。

[※1:抗酸化作用とは、体内で発生した活性酸素を抑制する力のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。ストレス、紫外線、喫煙などの要因によって体内で過剰に発生した場合、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]

フィチン酸の効果

●血栓症を予防する効果
血液をつくる成分の一種である血小板が凝集すると血栓が形成され、動脈硬化[※3]や心筋梗塞などの心臓血管系の疾患を引き起こす可能性があります。フィチン酸は血小板の凝集を抑制する働きがあり、その結果、血液凝固を予防する効果が期待できます。イワナ・ブセニック博士とジョン・ポドクザシー博士の研究では、人間の血小板凝集機能を測定しました。この研究では、フィチン酸を多く加えれば加えるほど、血液凝固がより強く抑制されたという結果が出ています。この強い血小板の凝集抑制効果を臨床に応用し、冠動脈心疾患・血栓症・塞栓症などのリスクを低下させることができるのではないかと期待されています。【1】

●高カルシウム尿症を予防する効果
尿中のカルシウム値が高い状態になると体内に腎結石ができる可能性が増大します。腎結石の原因は結晶性物質の過剰な蓄積といわれており、その80%~90%はシュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムからなっています。フィチン酸はカルシウム結晶の生成を阻止し、尿中のカルシウムレベルを低下させる効果があります。また、フィチン酸を高濃度に含む米ぬかも高カルシウム尿症と腎結石の治療に用いられています。1958年に行われた研究では、患者1人当たり1日に総量8.8gのフィチン酸ナトリウムを数回に分けて投与しました。その結果、患者の尿中カルシウムレベルを正常に戻すことに成功しました。また、この治療を長期(平均24ヵ月)にわたって行ったところ、10人中9人の患者に高カルシウム尿症の改善が認められました。さらに8人の患者に新しい腎結石の形成が起こらないという結果も出ています。また同様に、カルシウム結石の予防にも役立つと考えられています。【2】

●貧血を予防する効果
体内にある赤血球に存在するヘモグロビンは酸素と結合し、全身の細胞ひとつひとつに運ばれます。フィチン酸が赤血球に取り込まれると、ヘモグロビンと結合した酸素が細胞まで運ばれたあと、各細胞でヘモグロビンから酸素を離すという機能が強化されます。酸素運搬機能が強化されることにより、貧血をきたす慢性的な疾患にも応用できる可能性を秘めています。

●生活習慣病による血液不調を改善する効果
血中の総コレステロール値と中性脂肪値の高い状態は、動脈硬化や冠動脈疾患の原因となる可能性があります。コレステロール値が高くなると、血中のミネラルバランスが崩れ、亜鉛イオンの濃度が銅イオンの濃度よりもはるかに高くなることが分かっています。フィチン酸はこの偏ったミネラルバランスを正常化する働きがあります。1990年には、ライナス・ポーリング医科学研究所のラキシット・ジャリワラ博士と共同研究者により、食物中のフィチン酸の効果について研究されています。高コレステロール食で飼育した実験動物にフィチン酸を混ぜると、フィチン酸を混ぜない場合に比べ、総コレステロール値で19%、中性脂肪値で65%の低下が認められました。この性質を利用することによる高脂血症や糖尿病の治療への応用が期待されています。【3】【4】

[※3:動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。]

フィチン酸は食事やサプリメントで摂取できます

フィチン酸を含む食品

○米ぬか
○ごま
○小麦
○米
○インゲン豆
○とうもろこし

こんな方におすすめ

○生活習慣病を予防したい方
○貧血を予防したい方
○血流を改善したい方

フィチン酸の研究情報

【1】虚血性脳梗塞および血液凝集を引き起こしている患者87名に対し、抗トロンビンⅢ、ヘパリン、ジピリダモール、グルタミン酸、そしてフィチンを投与した結果、コントロール群(通常の薬物を投与した群)よりも素早く正常に復帰したことから、フィチン酸が血栓症予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6150590

【2】尿中のフィチン酸が少ない人は、カルシウム蓄積が進み尿路結石になりやすいことがわかりました。他方フィチン酸を摂取することにより、尿路結石形成が抑制されたことから、フィチン酸がカルシウム結石予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10961468

【3】10名のボランティアの血液を採取し、その血液に凝集因子であるADPまたはコラーゲンまたはトロンビンを入れ、それぞれにフィチン酸入れた場合と入れない場合を比較し、フィチン酸の凝集作用について検討しました。フィチン酸は濃度依存的に血小板の凝集を抑制したことから、フィチン酸は血小板凝集抑制予防効果を持つと考えられ、その作用はATPの遊離を防ぐためと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10625941

【4】コレステロール食事ラットに対し、フィチン酸を投与しました。フィチン酸は、血清中のミネラル(亜鉛/銅の比率)および脂質濃度(コレステロール、トリグリセリド)を正常にしました。フィチン酸はミネラルを正常化することにより、血中の脂質異常を改善し、生活習慣病予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10625943

もっと見る 閉じる

参考文献

・奥田弘道監修 健康・栄養食品事典 機能性食品・特定保健用食品 2004-2005改訂新版 東洋医学舎

・中村丁次監修 栄養の基本がわかる図解事典 成美堂出版

・アブルカラム・M・シャムスディン著 坂本孝作訳 天然抗ガン物質IP6の驚異 講談社

・Karlov VA, Makarov VA, Bova IIa. (1984)  “[Treatment of the syndrome of disseminated intravascular coagulation in ischemic strokes].” Zh Nevropatol Psikhiatr Im S S Korsakova. 1984;84(9):1325-9.

・Grases F, March JG, Prieto RM, Simonet BM, Costa-Bauzá A, García-Raja A, Conte A. (2000) “Urinary phytate in calcium oxalate stone formers and healthy people–dietary effects on phytate excretion.” Scand J Urol Nephrol. 2000 Jun;34(3):162-4.

・Vucenik I, Podczasy JJ, Shamsuddin AM. (1999) “Antiplatelet activity of inositol hexaphosphate (IP6).” Anticancer Res. 1999 Sep-Oct;19(5A):3689-93.

・Jariwalla RJ. (1999) “Inositol hexaphosphate (IP6) as an anti-neoplastic and lipid-lowering agent.” Anticancer Res. 1999 Sep-Oct;19(5A):3699-702.

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ