パッションフラワー

Passionflower 
Passiflora incarnata

パッションフラワーは、古代から南米の先住民族の間で、民間医療に使われてきたつる植物です。「自然の精神安定剤」といわれるほど強い鎮静作用があり、不眠症に効果を発揮します。特に神経の緊張や心配事により眠れない、寝付けないといった神経性の不眠症に有効です。鎮静・弛緩作用のある成分も含んでおり、頭痛や高血圧などにも効果があります。

LINEスタンププレゼント!お友達登録はこちら。配信期間2025/01/23

パッションフラワーとは?

●基本情報
パッションフラワーは、高さ10mにまで成長する硬い木質のつる植物で、長い巻きひげを巻きつく対象に巻きつけながら伸びていきます。中央に紫色の房毛をつけた白い大輪の花を咲かせ、とても美味しい実(パッションフル-ツ)を付けます。
パッションフラワーと呼ばれるようになったのは、イエズス会が花の形状にキリストの受難(パッション)を見出したことに由来しているといわれています。5本の雄しべは5つの傷を、房毛のついた花の中央は茨の冠を、5枚の花弁と5つのがくは10人の使徒を表しているといわれています。日本では、花の中央から伸びる雄しべの先が3つに分かれていて、時計の長針、短針、秒針のように見えることからトケイソウとも呼ばれています。

パッションフラワーは北・中央・南アメリカの原産で、先住民族の間では古くから自然の精神安定剤(ナチュラルトランキライザー)として親しまれてきました。また、ヨーロッパでも植物性トランキライザー(精神安定剤)として広く知られ、不安や緊張の解消、不眠症の治療に利用されています。
パッションフラワーの葉にはアルカロイド類とフラボノイド類が含まれています。アルカロイド類は神経伝達物質の分解を阻止し、フラボノイド類は鎮静作用をもたらします。鎮静剤を常用すると、薬がないと眠れなくなってしまうことや、うつ病を誘発することがありますが、パッションフラワーは神経系をリラックスさせ、習慣性とならない鎮静作用があるのが特徴です。作用が穏やかなため、子どもや高齢者も安心して使用することができます。
また、パッションフラワーの果実のパッションフルーツは生食用や清涼飲料等に使用されます。

●パッションフラワーの歴史
1569年、スペイン人医師・モナルデスがペルーでパッションフラワーを発見し、インディヘナ(先住民)の人々によるパッションフラワーの利用法を記録してヨーロッパへ持ち帰りました。パッションフラワーの利用法をヨーロッパで紹介すると、鎮静効果の高いハーブティーとしてすぐに普及しました。
また、メキシコのアステカインディアンからパッションフラワーの用途について学んだ、メキシコと中米を征服したスペイン人により、その後ヨーロッパでも広く栽培されるようになりました。

1800年代中頃の南米のアメリカ先住民や奴隷の間では、パッションフラワーの根の部分を強壮、葉の部分を頭痛や打撲などの痛みを緩和するために使用しており、この鎮静剤としての利用法が北アメリカにも紹介されています。

パッションフラワーの用途については、ヨーロッパ、アメリカ、カナダにおいて200年以上に渡り記録されています。ハーブ医療における長い歴史では、結腸、発疹、不眠症、モルヒネ中毒、神経痛、ノイローゼ、眼炎、痔核、発作などの研究が含まれています。
鎮痛作用については1897年に初めて臨床的に記録され、1904年には鎮痛効果に関する初めての研究が発表され、1980年代初頭には痙攣抑制作用、不安緩和、高血圧における有効性が臨床的に確認されています。
ストレスの多い現代社会においては、ストレスを緩和するハーブとして注目されています。

●パッションフラワーの利用法

・ハーブティー
パッションフラワーには強い鎮静効果があり、神経の緊張や精神的な不安をやわらげてくれます。中でも神経性の不眠症に効果があるといわれ、寝つきの悪い方や途中で目が覚めてしまう方は、ハーブティーを飲むとリラックスした気分が得られ、自然と深い眠りにつくことができるようになります。また、過度の緊張や精神上の不安から起こる過敏性腸症候群や神経痛のほか、ストレス性の高血圧や頭痛、腹痛などにも効果を発揮します。
パッションフラワーは、あらゆる神経系の疾患に使用でき、痙攣やひきつけなどをやわらげ、痛みを鎮めてくれる効果もあります。ハーブティーに用いるのは葉や茎の部分で、ハーブティーにすると草木の香りが広がり、深いくつろぎを与えてくれます。 味は癖がなくさらっとしているので、他のハーブとブレンドするのもおすすめです。

・サプリメント
パッションフラワーエキスのハ-ブサプリメントによる植物療法は、ハーブ先進国である、ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の効能に関する公的評価委員会)からも、安全と効果を認められた安心・安心なハーブです。習慣性や嗜眠状態(しみんじょうたい)[※1]を誘発しない鎮静作用として、不眠や不安、動悸を防ぎ、血圧降下に使われるようになりました。また神経性の喘息発作、てんかん、過敏性腸症候群、月経前の緊張、神経痛や帯状疱疹の痛み、ヒステリー、神経の興奮やイライラ、不眠、更年期障害などを緩和します。さらにはカビや細菌を抑える効果もあり、湿布等でやけどや皮膚の炎症を鎮めます。

●パッションフラワーを摂取する際の注意点
パッションフラワーは、とくに副作用や毒性は報告されていません。一般的に、ハーブには活性成分が数多く含まれていますので、小児、妊娠・授乳中の女性は摂取を避けるべきです。
パッションフラワーには血圧を下げる作用があるため、低血圧の方は注意が必要とされています。また、他のハーブや治療薬、アルコールとの併用は避けるべきです。

[※1:嗜眠状態とは、常に睡眠状態に陥っている状態のことです。高熱、重病などのときにみられます。]

パッションフラワーの効果

パッションフラワーは鎮痛、痙攣抑制の効果について科学的にもよく研究されています。しかしこれらの特性は、パッションフラワーに含まれる単独の化学物質によるものではなく、アルカロイドと共に存在しているグルコシドとフラボノイドという2つの主要化学成分グループが一緒に存在する状態でのみ確認されています。

●不眠を解消する効果
​パッションフラワーは、植物性トランキライザーといわれるほど強い鎮静作用があり、ヨーロッパでは昔から不眠症などに用いられてきました。中でも特に神経性の不眠症に効果があるとされています。パッションフラワーの特徴は、交感神経中枢に直接働きかけ、神経に有益な効果を及ぼすことで神経系への血液循環と栄養補給を行います。穏やかに作用して安らかな眠りへと導いてすっきりと目覚めさせてくれるため、不眠症でなくても、極度の緊張によって、頭痛や筋肉のこわばりがあるような場合や、不安感が強く感じられるようなときに用いるとリラックスした気分になれます。日本やアメリカではサプリメント(食品)としての扱いですが、ハーブ先進国のドイツでは不眠症と神経性治療において医薬品として承認されているハーブです。【3】

<豆知識>パッションフラワーと相性の良いハーブ
パッションフラワーは睡眠誘発成分で広く知られていますが、眠りにつきにくい場合にはバレリアンと混ぜて用いられることが多いハーブです。バレリアンは何世紀にも渡り抗不安薬として用いられ、臨床的にも不安による不眠を改善する力を証明されているハーブで、脳が興奮を抑えたり過度な刺激を緩和させたりする際に使用されるアデノシンという神経伝達物質に作用して、睡眠を誘発させます。また、不安感や失望感に効果のあるセントジョーンズワートと混ぜても効果が倍増するとされています。

●精神を安定させる効果
パッションフラワーには精神を安定させる効果があり、ヒステリー、高血圧、動悸、子どもの活動過多などにも力を発揮します。
また、パッションフラワーが持つ抗痙攣作用は、ひきつけ、てんかんにも効果を発揮します。中枢神経に働きかけて様々な鎮静効果を示し、平滑筋のけいれんを抑える効果があるため、女性の子宮をリラックスさせる効果があるとされ、生理の時の不快感を取り除いてくれます。また、ストレス性の胃痙攣や便秘、過敏性腸症候群、更年期障害にも効果があるとされています。【1】【2】

●アルコール依存症を改善する効果
パッションフラワーは、鎮静効果があるため、アルコール依存症の治療にも用いられてきました。また、パッションフラワーに含まれるハルマラ・アルカロイドという成分が、冠状動脈を拡張し、心臓の働きを健やかに維持してくれることもわかっています。
ハルマラ・アルカロイドはモノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤[※3]として、抗うつ薬の一つとして利用されることがあります。

[※2:モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤とは、ドーパミンを分解するMAOの働きを妨害する物質のことです。これらの多くはチーズ、レバー、ニシン、ビール、ワインなどに含有されるモノアミンとの相乗効果で、危険な高血圧や頭痛を招く恐れがあります。]

こんな方におすすめ

○不眠でお悩みの方
○心を落ち着かせたい方
○イライラしやすい方
○アルコール依存症の方

パッションフラワーの研究情報

【1】無作為化比較試験2報について検討した結果、パッションフラワー抽出物の摂取は全般性不安障害、不安神経症等患者の不安症状を改善することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17253512?dopt=Abstract

【2】全般性不安障害の患者36名 (19~47歳、試験群18名、アメリカ) にパッションフラワー抽出物45滴/日を4週間摂取させたところ、オキサゼパム30 mg/日を投薬した群と同等の治療効果が認められました。このことから、パッションフラワーは、抗不安作用を有することが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11679026?dopt=Abstract

【3】パッションフラワーが睡眠に良い作用をもたらすかどうか、二重盲検法を用いて調べました。41名(18-35歳)に1週間、パッションフラワー入りの紅茶またはプラセボを飲用させました。その結果、パッションフラワー入りの紅茶を飲用した群はプラセボ群と比較して有意に睡眠の質が高くなったことが分かりました。このことからパッションフラワーは、不安状態である方の睡眠障害に対し有用であることが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21294203

【4】パッションフラワー抽出物は、in vitro試験において海馬細胞からのGABAの発生をうながしました。また、パッションフラワー抽出物をペンチレンテトラゾール誘発不安発症マウスへ飲用させた結果、明らかに不安症状が減少していました。これらのことからパッションフラワー抽出物は抗不安作用があると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2038251

もっと見る 閉じる

パッションフラワーの参考文献

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・ローズマリー グラッドスター、 Rosemary Gladstar、 大滝 百合子、中林 佐和子 ストレスに効くハーブガイド フレグランスジャーナル社

・女性のためのハーブ自然療法 女性の一生涯をハーバルライフで綴ったバイブル 産調出版

・Miyasaka LS, Atallah AN, Soares BG. (2007) “Passiflora for anxiety disorder.” Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jan 24;(1):CD004518.

・Akhondzadeh S, Naghavi HR, Vazirian M, Shayeganpour A, Rashidi H, Khani M. (2001) “Passionflower in the treatment of generalized anxiety: a pilot double-blind randomized controlled trial with oxazepam.” J Clin Pharm Ther. 2001 Oct;26(5):363-7.

・Ngan A, Conduit R. (2011) “A double-blind, placebo-controlled investigation of the effects of Passiflora incarnata (passionflower) herbal tea on subjective sleep quality.” Phytother Res. 2011 Aug;25(8):1153-9. doi: 10.1002/ptr.3400. Epub 2011 Feb 3.

・Elsas SM, Rossi DJ, Raber J, White G, Seeley CA, Gregory WL, Mohr C, Pfankuch T, Soumyanath A. (2010) “Passiflora incarnata L. (Passionflower) extracts elicit GABA currents in hippocampal neurons in vitro, and show anxiogenic and anticonvulsant effects in vivo, varying with extraction method.” Phytomedicine. 2010 Oct;17(12):940-9. Epub 2010 Apr 10.

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ