タマネギとは?
●基本情報
たまねぎはユリ科ネギ属の多年草[※1]で、葉が球形や卵形となった鱗茎(りんけい)の部分が食用とされています。鱗茎とは、たまねぎの短い茎の周囲に生じた多数の葉が養分を貯えて成長とともに厚みを増し、重なり合って球形になったものです。この部分は一枚ずつ剥がすことができ、魚の鱗(うろこ)に似ているため、鱗葉(りんよう)とも呼ばれています。
たまねぎの原産地は中央アジアであり、英名であるonionは、ラテン語で真珠を意味するunioが語源であるとされています。たまねぎの薬効が広く認められ、真珠のように神秘的なパワーを持つと信じられていたためだといわれています。また、学名のcepaはラテン語でたまねぎを意味しています。
●たまねぎの品種
たまねぎは、辛みのある辛み品種と辛みが少なく生食向きの甘み品種の2種類に大別でき、日本で栽培されるほぼ全てのたまねぎは辛み品種です。
辛み品種には黄たまねぎや葉たまねぎ、ペコロスとも呼ばれる小たまねぎなどが、甘み品種には白たまねぎ、赤たまねぎなどの種類があります。
また、たまねぎには黄色、赤色、白色の3色の種類があります。たまねぎの形は偏球型や球型、紡錘形などがあります。
・辛み品種
辛みのある黄たまねぎは薄茶色の果皮をした、日本で最も多く出回っている球形のたまねぎです。収穫後に表皮を乾燥させてから出荷するため、保存性が高いことが特徴です。
葉たまねぎは生長過程の白たまねぎを、葉つきのまま収穫したたまねぎです。葉たまねぎは球が小さく、葉の部分が長ねぎの代用として使用されるため、長ねぎが収穫できない春先に出回ります。
小たまねぎは、別名ペコロスとも呼ばれています。黄たまねぎを密植させて小さく育てるという特殊な栽培方法によって、主に愛知県知多方で栽培されています。小たまねぎは直径3~4cmで辛みが少なく、煮崩れしにくいことが特徴です。パールオニオンやルビーオニオンと呼ばれるたまねぎも小たまねぎの一種です。
・甘み品種
白たまねぎは主に愛知県や静岡県で栽培されており、2~4月頃に出回ります。水分が多く、強い甘みを持っていることが特徴です。サラダオニオンやサラダたまねぎとも呼ばれています。
赤たまねぎはポリフェノールの一種であるアントシアニンを含んでいるため、表皮が鮮やかな赤紫色をしており、紫たまねぎやレッドオニオンとも呼ばれています。たまねぎ特有の香りや辛みが少ないことが特徴です。
また、たまねぎの一種として新たまねぎも知られています。新たまねぎは2~4月頃に店頭に出回ります。新たまねぎの多くは白たまねぎですが、中には黄たまねぎもあります。新たまねぎは皮が薄く、柔らかく甘みのある果肉を持っています。
●たまねぎの歴史
たまねぎはシュメール人によって、約6000年前にはすでに栽培が行われていたと考えられています。紀元前3000年頃には古代エジプトでも食用とされており、古代ギリシャや古代ローマでも栽培が行われていました。たまねぎがヨーロッパ全域に広まったのは16世紀頃で、栽培が始まったのは17世紀になってからだといわれています。17世紀にはアメリカへ、19世紀には中国へ伝播したと伝えられています。
日本へは江戸時代に長崎県に伝わってきました。スウェーデンの植物学者であるツンベルクが記した「江戸参府随行記(1775年)」には、たまねぎが長崎県で栽培されていると書かれています。しかし、たまねぎの本格的な栽培は明治時代以降に、北海道と関西で始められたといわれています。現在では全国的に栽培されており、だいこん、キャベツに次ぐ第3位の野菜の収穫量を誇っています。
●たまねぎの生産地
たまねぎの主な生産地は北海道や佐賀県、兵庫県です。北海道産は8~10月、佐賀県産、兵庫県産は4~6月に出荷されています。
たまねぎは貯蔵性が高く、品種によって収穫時期が異なるため一年中市場に出回っていますが、一般的には春と秋がたまねぎの旬であるといわれています。アメリカやオーストラリア、台湾などから輸入されているたまねぎも多く出回っています。
●たまねぎの選び方
たまねぎは表面の皮がしっかり乾燥していて、ツヤツヤとしており、ふっくらと丸みがあるものが良品です。
また、上部が細く締まっているたまねぎが良品とされ、中心の芽が頭の先から出ているものは風味が落ちている証です。さらに、ひげ根が長く伸びているものは成長に栄養が使われているため、栄養価が下がっています。やわらかさを感じるものは中が傷んでいる可能性があるため、触ったときに固く重みのあるものを選ぶようにします。
●たまねぎの調理方法
秋冬に出回る黄たまねぎは味が濃厚で辛みがありますが、じっくり加熱することで甘みが引き出され、深いうまみを味わうことができます。したがって、大き目に切りトロリとするまで煮込めば、黄たまねぎの美味しさを楽しめます。
一方、新たまねぎは煮込むと水っぽくなり、美味しく仕上がりません。そのまま生で食すか、さっと炒めることで新たまねぎのさわやかな食感を味わうことができます。
<豆知識①>炒めると甘くなる理由
たまねぎには辛み成分と甘み成分の両方が含まれています。生の時は辛みが強く、あまり甘みを感じることができませんが。たまねぎをじっくりと炒めることで辛みが消え、特有の甘みが出てきます。これは、加熱によって辛み成分であるアリシンが分解され、甘味成分だけが凝縮されて残るためです。さらに、たまねぎが茶褐色になるまで炒めると、うまみが加わり、カレーやシチューなどのベースにもなる濃厚な味わいが引き出されます。
●たまねぎの保存方法
紙袋やバスケットなどに入れ、湿気がこもらない風通しの良い室温で、日にあたらないように保存します。暑い季節である場合は、冷気が当たらないように紙袋に入れて野菜室へ入れておきます。切った後の使い切れなかったたまねぎは、切り口にラップを密着させて包み、ポリ袋などに入れて冷蔵庫の野菜室で保存します。また、みじん切りにして冷凍保存し凍ったまま炒めると、生よりも早くあめ色玉ねぎが作れます。
●たまねぎに含まれる成分と性質
たまねぎには、たまねぎ特有の辛みや香り成分であるアリシンが含まれています。アリシンは硫化アリルの一種です。
アリシンは体内で胃の消化液の分泌を活発にし、食欲を増進させたり、ビタミンB₁の吸収を高めたりするなどの働きをしています。そのため、ビタミンB₁を多く含む豚肉や大豆などと一緒に食べると良いといわれています。
またアリシンは水溶性の成分のため水にさらすと溶け出し、さらに加熱に弱い性質を持つため調理の際は注意が必要です。たまねぎに含まれているアリシンを無駄なく摂取するには、水にさらす時間を短くし、そのまま生で食べることが良いとされています。切ったたまねぎは15分ほど空気に触れさせてから調理すると、加熱してもアリシンが壊れにくくなるといわれています。
<豆知識②>たまねぎと涙
たまねぎを包丁で切っていると、鼻がツンとして涙が出てきます。これはたまねぎの細胞が壊れて、アリシンがもれ出すためです。硫化アリルは揮発性の催涙(さいるい)物質のため、この成分が鼻や目の粘膜に触れることで涙が出てきます。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
タマネギの効果
たまねぎには、アリシンが豊富に含まれており、以下のような健康に対する効果が期待できます。
●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化とは動脈の弾力性が失われ、硬くなった状態をいいます。進行すると血管の中にコレステロールがたまり、血液の流れが滞ります。血管の老化現象ともいわれており、悪化すると脳出血や脳梗塞、眼底出血[※2]などの病気の一因になります。
コレステロールには、悪玉(LDL)コレステロールと、善玉(HDL)コレステロールの2種類があります。
悪玉コレステロールは肝臓からコレステロールを全身に運び、善玉コレステロールは余分なコレステロールを肝臓に運ぶ働きをします。たまねぎに含まれているアリシンには血液をサラサラにする効果に加え、善玉コレステロールを増やし悪玉コレステロールを減らす働きがあります。コレステロールの増加を抑えて血液の凝固を遅らせるため、動脈硬化予防に効果が期待できます。【1】【2】
●血流を改善する効果
たまねぎに含まれているアリシンには、血流を改善する効果が期待されています。
血液が汚れてドロドロになると、全身の細胞の新陳代謝[※3]が悪くなるため、体の疲れや免疫力の低下につながり、病気にかかりやすくなります。
アリシンには血液の凝固を遅らせ、血流を改善し血栓[※4]をできにくくする働きがあります。【3】
●疲労回復効果
たまねぎに含まれているアリシンには、疲労回復効果があるといわれています。
アリシンはビタミンB1と結合するとアリチアミンに変換されます。変換されることによって、長く血液中に留まることが可能になり、長時間に渡って疲労回復のために利用されます。
また、アリシンにはビタミンB1の吸収を高めまる働きもあります。ビタミンB1は食事から摂った糖質をエネルギーに変えるために必要とされる栄養素です。糖質をエネルギーに変える力が低下してしまうと、疲労物質である乳酸が溜りやすくなり、疲労を感じるようになります。
アリシンとビタミンB1の相乗効果によって、疲労を回復させると考えられています。【4】
[※2:眼底出血とは、眼底(瞳から入ってきた光が突き当たる眼球の奥の部分)から何らかの原因で出血した状態をいいます。]
[※3:新陳代謝とは、古い細胞や傷ついた細胞が、新しい細胞へ生まれ変わることを指します。]
[※4:血栓とは、血液中の血小板などが固まってできる塊のことです。動脈硬化や脳梗塞の原因にも成り得るといわれています。]
タマネギは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○動脈硬化を予防したい方
○血流を改善したい方
○疲労を回復したい方
タマネギの研究情報
【1】タマネギの抽出物は、ラットで抗動脈硬化作用を示したという報告があります。シスタチオニンγ-リアーゼによる、H2S(硫化水素/血管拡張因子)の産生経路を亢進することによると考えられます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21506909
【2】42羽のアルビノのウサギに、16週にわたって食事にコレステロールとタマネギ、ニンニクを組み合わせて与えた研究があります。食事にコレステロールを与えた場合でも、ニンニクあるいはタマネギも加えることによって血中のコレステロール値やトリグリセリド値を抑えることが示され、血液の線溶活性を高めることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/459102
【3】タマネギの水性抽出物は生体外の研究において、血液凝固系の抑制と線溶系の働きが認められたという予備的な研究があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6885127
【4】激しい運動によって生じる筋肉疲労において、アリシンを14日間摂取すると、筋肉疲労や筋肉損傷の指標である血漿中のクレアチンキナーゼ(CK)、筋肉特有のクレアチンキナーゼ(CK-MM)、IL-6の増加が抑制されました。
また安静時の筋肉の総抗酸化力も、アリシンを摂取することで増加したことから、アリシンには激しい運動による筋肉疲労を緩和する効果が確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18305954
参考文献
・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社
・本多京子 食の医学館 小学館
・池上保子 おいしく食べて健康に効く目で見る食材便利ノート 永岡書店
・野間佐和子 旬の食材 秋‐冬の野菜 講談社
・吉田企世子 松田早苗 あたらしい栄養学 高橋書店
・内田正宏 芦沢正和 花図鑑野菜 星雲社
・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 主婦の友社
・西崎統 鈴木園子 専門医がやさしく教える食品成分表 PHP研究所
・Li W, Tang C, Jin H, Du J. 2011 “Effects of onion extract on endogenous vascular H2S and adrenomedulin in rat atherosclerosis.” Curr Pharm Biotechnol. 2011 Sep;12(9):1427-39.
・Sainani GS, Desai DB, Natu MN, Katrodia KM, Valame VP, Sainani PG. 1979 “Onion, garlic, and experimental atherosclerosis.” Jpn Heart J. 1979 May;20(3):351-7.
・Nagda KK, Ganeriwal SK, Nagda KC, Diwan AM. 1983 “Effect of onion and garlic on blood coagulation and fibrinolysis in vitro.” Indian J Physiol Pharmacol. 1983 Apr-Jun;27(2):141-5.
・Su QS, Tian Y, Zhang JG, Zhang H. 2008 “Effects of allicin supplementation on plasma markers of exercise-induced muscle damage, IL-6 and antioxidant capacity.” Eur J Appl Physiol. 2008 Jun;103(3): 275-83.