ニラとは
●基本情報
ニラはユリ科ネギ属の多年草です。暑さにも寒さにも強いうえ、同じ株から何度も収穫できる強い生命力を持ち、ひとつの株から年に3~4回収穫することができます。ニラには葉ニラ、黄ニラ、花ニラの3つの種類があります。最も一般的なものは緑色の葉ニラで、その色から青ニラとも呼ばれています。葉の幅が広くて色が濃く、柔らかいのが特徴の「グリーンベルト」という品種が年間を通して栽培されています。黄ニラは、品種は葉ニラと同じものですが、光を当てずに育てる軟化栽培[※1]で育てられます。栽培方法がもやしと類似しているから「にらもやし」とも呼ばれます。香りは淡くほのかな甘みを持つため炒めものに最適で、春巻や餃子などの中華料理によく使われます。また、台湾から導入された「テンダーポール」という品種が花ニラとして栽培されています。こちらは花のつぼみと若い茎を食用としたもので、シャリッとした独特の歯ごたえが特徴です。葉ニラに比べにおいも少なく甘みがあります。
●ニラの歴史
東アジア原産で中国では紀元前から栽培されていたといわれています。日本には弥生時代に中国から伝わったとされ、古事記[※2]や日本書紀、万葉集などにもニラに関する記述があります。古事記では「加美良(かみら)」や「臭韮(かみら)」、万葉集では「久久美良(くくみら)」と呼ばれおり、現在のニラという名称はこれらの「みら」が変化したものといわれています。
ニラは食用だけでなく、薬として利用されていたとの記録も残っています。野菜として栽培されるようになったのは明治時代からで、戦後に中華料理が普及したことで一般的に利用されるようになりました。日本をはじめアジアでは古くから栽培されていますが、ヨーロッパでは好まれずほとんど栽培されていません。
●ニラの生産地
北海道から沖縄まで全国的に栽培されています。主な生産地は高知県と栃木県で、日本で出回っているものの約4割がこの2県で栽培されています。
ニラは年間を通して店頭に並びますが、栽培時期によって11月~3月の間に収穫される冬ニラと、4月~10月の間に収穫される夏ニラの2つに分けられます。
葉ニラの旬は冬から秋にかけてで、肉厚で柔らかいものが収穫できます。花ニラとして栽培されるテンダーポールは晩春から秋口が旬で、5月~10月にかけて次々に花のつく茎を伸ばします。
●ニラの選び方、保存方法
肉厚で葉の幅が広いものを選びます。また、全体的に緑色が濃くツヤがあり、葉先までピンと伸びているものが新鮮です。葉先がしおれていたり、折れたり傷ついたものは避けましょう。
ニラはあまり日持ちがせず鮮度が落ちやすいので、できるだけ早めに使い切ってください。保存をする場合は、軽く湿らせた新聞紙やキッチンペーパーに包みポリ袋に入れれば、冷蔵庫の野菜室で数日間は保存が可能です。
●ニラの調理方法
加熱すると特有のにおいが少なくなるので、香りが気になる場合は下茹でをしてから調理します。しかし、加熱時間が長くなると色・風味が落ちてしまうので注意が必要です。
また、β-カロテンは脂溶性[※3]の成分なので、油で調理すると効率よく吸収することができます。
●ニラに含まれる成分と性質
ニラの持つ独特のにおいは、ネギ類に共通して含まれるアリシンという香り成分で、強い殺菌作用があります。またアリシンはビタミンB1の吸収を高め疲労回復に効果を発揮するほか、血栓予防や食欲を増進させる働きもあります。
ニラにはβ-カロテンが多く含まれており、体内でビタミンAに変換されて粘膜を保護してくれます。他にも、ビタミンCやビタミンEをはじめとするビタミンや、カリウム、カルシウム、マグネシウム、セレンなどのミネラル、食物繊維やクロロフィルを豊富に含んでいます。黄ニラは日光に当たらない分、全体的に葉ニラより栄養価が落ちますが、食物繊維は豊富に含みます。
また、ニラには体を温める作用があり、常食すると冷え性や神経痛などの改善に効果があるため、北海道や東北などの寒い地域でよく利用されています。
[※1:軟化栽培とは、収穫物の品質を高める目的で野菜を暗黒下または弱光下で生育させて、黄化、徒長させる栽培方法です。軟白栽培ともいわれます。]
[※2:古事記(こじき)とは現存する日本最古の歴史書のことです。上・中・下の3巻から成ります。]
[※3:脂溶性とは、油に溶けやすい性質のことです。]
ニラの効果
●疲労回復効果
アリシンは疲労回復に役立つビタミンB1の吸収を高めて糖の代謝を促進します。アリシンはビタミンB1と結合するとアリチアミンという物質になります。アリチアミンはビタミンB1と同様の働きを持ちますが、ビタミンB1よりも長く体内に留まるため、吸収効率が高くなります。ニラにもビタミンB1は含まれますが、豚肉やレバーなどビタミンB群を豊富に持つ食材と一緒に摂ることで、更なる疲労回復効果を発揮します。
また、アリシンは消化液の分泌を促して内臓の動きを活発にするするため、食欲増進効果もあります。【6】
●血流を改善する効果
アリシンは血液をサラサラにして、血栓ができるのを防いでくれます。また、アリシンの持つ血液中の善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす作用に加えて、クロロフィルのコレステロール値を低下させる作用によって、動脈硬化[※4]や、心筋梗塞[※5]などを防ぐ効果があります。
他にも、血流がよくなることで冷え性や肩こり、腰痛、神経痛なども改善されます。【5】
●感染症予防効果
アリシンには強い殺菌作用があり、胃炎や胃潰瘍、胃ガンの原因になるピロリ菌や、風邪や気管支炎の原因になる連鎖球菌やブドウ状球菌といった、ウイルスや細菌から体を守ります。
また、β-カロテンは体内でビタミンAに変換されてのどや鼻などの粘膜を保護し、体内に病原体やウイルスが侵入するのを防ぎ、風邪などの感染症予防に役立ちます。【1】【3】
●ガンを予防及び抑制する効果
活性酸素[※6]はガンの原因のひとつとして知られますが、ニラに含まれるβ-カロテン、ビタミンC、ビタミンEには強い抗酸化作用[※7]があり、体内の活性酸素を消去して脂質の酸化を防ぎます。さらにミネラルの一種であるセレンも、ガン予防に効果を発揮します。セレンは体内の過酸化脂質を取り除き、活性酸素の発生を抑制します。過酸化脂質の生成抑制には「グルタチオンペルオキシダーゼ」という抗酸化酵素が必要になりますが、セレンはこの酵素を構成する重要な成分のひとつです。ビタミンEと一緒に摂ることで抗酸化力が高まり、更なる効果が期待できます。【2】【4】
[※4:動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質がたまって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことです。血液がうまく流れなくなることで心臓や血管などの様々な病気の原因となります。]
[※5:心筋梗塞とは、心臓を養っている動脈に血栓ができることによって血管が詰まり、発生する病気です。]
[※6:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※7:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
ニラは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○疲労を回復したい方
○血流を改善したい方
○冷え症の方
○生活習慣病を予防したい方
○コレステロール値が気になる方
○免疫力を向上させたい方
ニラの研究情報
【1】ニラには、ルテイン、β‐カロテン、ゼアキサンチンなど豊富に含まれていることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21418822
【2】ニラから抽出されたメタネチオスルフィン酸塩、S-メチル‐2-プロペン-1-チオスルフィン酸塩は大腸菌O157に対して抗菌作用を有することから、ニラは大腸疾患予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11388483
【3】ニラ、シナモン、山茱萸から抽出された成分は、大腸菌、酵母菌などに対して抗菌作用を持つことから、ニラは大腸疾患予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11170575
【4】ニラを含むアリウム属の抗ガン作用についてメタアナリシス解析を行いました(19研究、2コホート研究、合計543220名対象)。ニラを含むアリウム属を摂取することが、胃がんのリスクを減少させることがわかったことから、ニラは胃潰瘍、消化器保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21473867
【5】血小板凝集因子であるフィブリノーゲンにおいて、アリシン40μMを投与すると、フィブリノーゲンのはたらきを阻害することで、血小板凝集を抑制しました。アリシンを豊富に含むニラは血小板凝集抑制作用、抗血栓作用を持ち、血管保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19632706
【6】アリシンを14日間摂取すると、激しい運動によって生じる筋肉疲労において筋肉疲労や筋肉損傷の指標である血漿中のクレアチンキナーゼ(CK)、筋肉特有のクレアチンキナーゼ(CK-MM)、IL-6の増加が抑制されました。また安静時の筋肉の総抗酸化力も、アリシンを摂取することで増加したことから、アリシンを豊富に含むニラは、激しい運動による筋肉疲労を緩和する効果を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18305954
参考文献
・中嶋洋子 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社
・五明紀春 食材健康大事典 時事通信社
・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 株式会社主婦の友社
・本多京子 食の医学館 株式会社小学館
・野間佐和子 旬の食材 春‐夏の野菜 講談社
・食材図典 小学館
・Seo KI, Moon YH, Choi SU, Park KH. (2001) “Antibacterial activity of S-methyl methanethiosulfinate and S-methyl 2-propene-1-thiosulfinate from Chinese chive toward Escherichia coli O157:H7.” Biosci Biotechnol Biochem. 2001 Apr;65(4):966-8.
・Zhou Y, Zhuang W, Hu W, Liu GJ, Wu TX, Wu XT. (2011) “Consumption of large amounts of Allium vegetables reduces risk for gastric cancer in a meta-analysis.” Gastroenterology. 2011 Jul;141(1):80-9.
・Mau J, Chen C, Hsieh P. (2001) “Antimicrobial effect of extracts from Chinese chive, cinnamon, and corni fructus.” J Agric Food Chem. 2001 Jan;49(1):183-8.
・Wang ZX, Dong PC, Sun TT, Xu XR, Ma L, Huang YM, Lin XM (2011) “[Comparison of lutein, zeaxanthin and β-carotene level in raw and cooked foods consumed in Beijing].” Zhonghua Yu Fang Yi Xue Za Zhi. 2011 Jan;45(1):64-7.
・Manaster Y, Shenkman B, Rosenberg N, Savion N. (2009) “Allicin and disulfiram enhance platelet integrin alphaIIbbeta3-fibrinogen binding.” Thromb Res. 2009 Sep;124(4):477-82.
・Su QS, Tian Y, Zhang JG, Zhang H. (2008) “Effects of allicin supplementation on plasma markers of exercise-induced muscle damage, IL-6 and antioxidant capacity.” Eur J Appl Physiol. 2008 Jun;103(3):275-83.