ネトル

nettle
西洋イラクサ  Urtica dioica

ネトルはヨーロッパでは古くから利用されている一般なハーブで、ビタミンやミネラルなど、体に必要な栄養素を豊富に含みます。花粉症などのアレルギー症状の緩和や、血液を浄化する作用、利尿作用など様々な効果を持ち、体全体を健やかにしてくれるハーブです。

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ネトルとは

●基本情報
ネトルはイラクサ科イラクサ属の多年性植物[※1]で、成長すると高さは30~50cm程度になります。ネトルの茎や葉の表面にある毛のような細かいトゲは、刺さると焼けるような痛く、皮膚が赤く腫れます。
原産地はヨーロッパからアジアにかけてで、全草を民間薬として利用してきました。また、料理や薬用ハーブ、コンパニオンプランツ[※2]としても利用されています。
日本ではイラクサとして知られており、根、茎、葉のどの部分にも良い成分が含まれています。近年では健康食品の素材としても注目されています。
ハーブティーにすると、緑茶に近いふんわりとした草の香りを持ちます。単独でも利用されますが、症状に合わせて他のハーブとブレンドすることでより効果を発揮します。

●ネトルの歴史
ネトルはヨーロッパからアジアにかけてが原産地ですが、強い繁殖力があり現在では世界中に分布しています。ヨーロッパでは2000年以上も前から知られる歴史のあるハーブで、アレルギー症状の緩和などを目的とし、さまざまな症状に用いられてきました。1世紀ごろにはギリシャの医師ディオスコリデスらがネトルの葉に利尿・便通作用があると報告し、それ以外にも幅広い使い方を記しています。
また、アメリカでは、南北戦争時に南軍の軍医であったフランシス・フロッシャーが、ネトルの葉と茎の浸出水に浸けた包帯を止血用に用いたとの記録を残しています。
ネトルの名前は英語のneedle(針)に由来し、日本では刺草(イラクサ)といわれます。また学名のUrticaは、トゲが刺さった時の焼けるような痛みから、ラテン語のuro(焼く)に由来しています。

●ネトルの生産地
ネトルは北アメリカやヨーロッパに多くみられますが、日本では本州の関東以西から九州にかけて分布しています。植え付けの適期は3月~4月で、種をから育てる場合は春から秋に播きます。ネトルは本来森林などに自生しており高温多湿に弱いため、排水性があり風通しの良い場所で栽培します。日本で育てる場合、夏の蒸れに特に注意が必要です。収穫時期は6月~9月にかけてで、葉腋[※3]から円錐形に緑色の花をつけます。

●ネトルに含まれる成分と性質
ネトルの葉には、β-カロテンやビタミンC、葉酸などのビタミンや、鉄やカルシウム、マグネシウムなどのミネラル、またクロロフィル、フラボノイドなどさまざまな栄養素が含まれます。
ネトルはクロロフィルを豊富に含むことから、古くから浄血や造血に用いられてきました。浄血の働きからアトピーや花粉症などのアレルギー疾患に効果があるとされ、ドイツでは春季療法[※4]として春先のアレルギーや肌荒れ予防にネトルティーが利用されています。またフラボノイドもアレルギーに良いとされるため、花粉症の季節にはネトルティーが特に多く飲まれます。
根には多糖類や植物ステロールが含まれ、良性の前立腺肥大による症状の緩和に用いられます。
また、トゲにはアレルギーの原因物質であるヒスタミン[※5]やアセチルコリン[※6]などの成分が含まれます。

[※1:多年性植物とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する植物のことです。]
[※2:コンパニオンプランツとは、一緒に植えておくと病害虫が少なくなったり、生育がよくなる互いに相性のよい植物のことで、共栄植物ともいいます。]
[※3:葉腋とは、茎と葉の境目のところで、芽が生まれる部分です。]
[※4:春季療法とは、春先のアレルギー予防のためにハーブを積極的に摂取し体質改善をはかる方法で、ヨーロッパで広く利用されています。]
[※5:ヒスタミンとは、アレルギー反応や炎症の原因となる化合物のことです。体内の細胞で合成され、外部からの刺激により放出されます。これにより、炎症やアレルギーという症状が現れます。]
[※6:アセチルコリンとは、血液中の有害な物質が自由に脳まで到達しないように働いている機構のことです。]

ネトルの効果

●アレルギー症状を緩和する効果
​花粉症などのアレルギー症状の原因はヒスタミンという物質です。ヒスタミンが体内で大量に分泌されることでくしゃみや鼻づまり、涙目などを引き起こします。ネトルに含まれるフラボノイドの一種ケルセチンには、ヒスタミンの分泌を抑制し、アレルギー症状を軽減する効果があります。また、ケルセチンにはアレルギー症状を緩和すると同時に、炎症を起こす原因物質であるロイコトリエンの分泌を抑制するため、抗炎症効果も発揮します。ケルセチンの抗ヒスタミン作用には即効性はありませんが、継続して摂取することで体質が改善できるため、花粉症の時期以外でもネトルティーなどを利用して摂取すると有効的です。【1】【3】【4】

●貧血を予防する効果
ネトルには鉄が多く含まれますが、一般的に植物性の鉄分は体内への吸収率が低い傾向にあります。しかしネトルには一緒に摂取することで鉄の吸収量を高める、ビタミンCも豊富に含まれています。このことからネトルは効率的に鉄を摂取することができるので、貧血予防に効果的です。
また、ネトルにはクロロフィルが多く含まれますが、クロロフィルには鉄と同様の働きを持ちます。ヘモグロビンの中心構造体である血色素のヘムと類似した構造を持つため、造血能力があり、また骨髄を刺激すことで赤血球や白血球の生成を促し血液の状態を良くします。

●排尿障害を改善する効果
ネトルの根には多糖類や植物ステロールが含まれます。前立腺[※7]は男性特有の臓器で、一般的には年齢を重ねると萎縮してきますが、ホルモンのバランスが崩れることで肥大する場合があります。それによって尿道が圧迫されると、頻尿や残尿感などの症状が現れます。植物ステロールには、前立腺に働きかけて肥大を予防する効果があることから、良性の前立腺肥大による症状の緩和に用いられます。【2】

[※7:前立腺とは、男性特有の器官です。膀胱の出口に、尿道を取り囲むようにして存在しています。]

ネトルは食品やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○アレルギー症状を緩和したい方
○貧血でお悩みの方
○排尿でお悩みの方

ネトルの研究情報

【1】アレルギー性鼻炎患者69名を対象に、ネトルを1週間与えたところ、ネトル摂取群はアレルギー性鼻炎の症状を緩和されました。ネトルは抗アレルギー効果および鼻炎予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2192379

【2】前立腺肥大の初期患者を含む431名の患者にPRO160/120(ネトルおよびパルメットのエキス)または、5αレダクダーゼ阻害物質であるフィナステライドを与え調べたところ、両者に明確な差は現れなかったものの、PRO160/120がより高い糖尿病ならびに糖尿病合併症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10971268

【3】20名の健常人にネトルの入ったカプセルを21日間飲用させ、血液を採取しました。ネトル摂取前に予め採取した血液およびネトル摂取後に採取した血液にLPSを添加した結果、ネトル摂取後の血中のTNFα、IL-1βが有意に減少したことから、ネトルは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8967906

【4】ヒト全血にLPSを添加し、さらにネトルを添加した結果、LPS誘発TNF-α、IL-1βの上昇が抑制されたことから、ネトルは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8740085

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参考文献

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・ハーブ・バイブル 双葉社

・林信一郎 編 メディカルハーブの事典―主要100種の基本データ 東京堂出版

・ローズマリー・グラッドスター ストレスに効くハーブガイド フレグランスジャーナル社

・Mittman P. (1990) “Randomized, double-blind study of freeze-dried Urtica dioica in the treatment of allergic rhinitis.” Planta Med. 1990 Feb;56(1):44-7.

・Sökeland J. (2000) “Combined sabal and urtica extract compared with finasteride in men with benign prostatic hyperplasia: analysis of prostate volume and therapeutic outcome.” BJU Int. 2000 Sep;86(4):439-42.

・Obertreis B, Ruttkowski T, Teucher T, Behnke B, Schmitz H. (1996) “Ex-vivo in-vitro inhibition of lipopolysaccharide stimulated tumor necrosis factor-alpha and interleukin-1 beta secretion in human whole blood by extractum urticae dioicae foliorum.” Arzneimittelforschung. 1996 Apr;46(4):389-94

・Teucher T, Obertreis B, Ruttkowski T, Schmitz H. (1996) “[Cytokine secretion in whole blood of healthy subjects following oral administration of Urtica dioica L. plant extract].” Arzneimittelforschung. 1996 Sep;46(9):906-10.

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