羊肉とは?
●基本情報
羊肉とは羊の肉を食用に加工したものです。羊はウシ科ヤギ亜科に分類されます。羊と言えばオーストラリアやニュージーランドを思い浮かべるかもしれませんが、世界最大の羊の飼育国は中国です。これには人口の多さ、国土の広さなどの理由が挙げられます【1】。
羊肉は「食のタブー」に触れることがあまりない肉のため世界中のほとんどの人が食べることができます。しかし、同じように「食のタブー」に触れることのない鶏肉と違って生産量が少ないため、日本では特別なときに食べる肉というイメージが定着しています。生産量が少ない理由としては、自然放牧での飼育が基本となることや、豚と違って子どもを一度にたくさん産まないことが挙げられます。国産羊肉は規格やランクが明確ではなく、品質もばらついています。そのうえ流通量は非常に少なく、現在日本で流通している99%の羊肉は輸入物であると言われています【2】。
日本の中で羊をよく食べるとされている北海道でさえそのほとんどのものは輸入肉です。
●羊肉として使用される羊の種類
羊の種類は世界中に約1,000品種以上ありますが、代表的な5つの品種を紹介します。
①サフォーク種
イギリス南西部サフォーク州が原産の品種で、肉付き、肉質ともに良いため食肉用として、よく使用されます。
②スパニッシュ・メリノ種
スペインで作られた品種で羊毛生産用に飼育される代表的な品種ですが、食肉用としても飼育されます。
③サウスダウン種
イギリスのサセックス州のサウス・ダウンズが原産。
毛も使用されますが、肉質が大変良い品種です。
④コリデール種
ニュージーランド原産で、羊毛と食肉のどちらにも適している品種です。
⑤チェビオット種
イングランドとスコットランドの境界のチェビオット丘陵原産。
山間部で飼育される毛肉兼用種です。
●羊肉の種類
〇ミルクラム
生後2、3週間から2、3ヶ月程度のミルクしかまだ飲んでいない仔羊を指します。
肉は柔らかくほんのりとミルクの香りがして美味とされ、フランスでは「アニョードレ」とよばれ高級料理に使用されます。日本ではミルクラムを扱っているところはまだ少ないため、貴重で高価なものとなっています。
〇ベビーラム
生後6ヶ月程度の仔羊。クセがなく柔らかいため人気の羊肉です。
〇ラム
生後一年未満の仔羊で、永久歯が生えそろっていないものを指します。脂身のクセも少なく日本で流通されている大半がラム肉です。オーストラリアとニュージーランドが主な生産地です。
〇ホゲット
生後2年未満の仔羊です。ヤングシープとも呼ばれ、下あごに2本の永久歯が生えていることでラムとは区別されますが、ラムとマトンの中間とされるので、ほとんどの場合輸出されることのない貴重な羊肉となります
〇マトン
生後2年以上の永久歯が8本生えそろった成羊を指します。
●羊肉の歴史
日本にはもともと羊は存在しておらず、推古天皇の時代に百済にて二頭献上されたのが、日本の歴史の中で一番古い羊の記録と言われています【3】。
この時は家畜というよりも珍しい動物ということで献上されたようですが、繁殖もせずにいなくなった可能性が高いようです。
日本は肉食ではなかったこと、動物の毛から糸や布を作る文化がなかったことより、その後も羊が入ってきても繁殖させる動きはありませんでした。
干支の中に「羊」が入っていますが、江戸時代の浮世絵には羊ではなくヤギが描かれています。
明治時代になると外国人から様々な品種の羊が持ち込まれましたが、日本の湿潤な環境に馴染まず、多くの品種が日本の土地に定着することができなかったり、日本での羊飼育は挑戦と挫折の連続でした。
日本では今まで何度かジンギスカンがブームになりましたが、その際にブームに乗ろうと羊肉の管理方法に知識がない人が、質のよくないマトンの冷凍肉を使用したため「羊の肉は臭くて硬い」というイメージが定着してしまいました。しかしながら、最近は一度も冷凍されていない質のいいチルド肉が航空便で輸入されることにより、臭みがなくおいしい羊肉が提供され始めました。そのため、再度日本人の間で羊肉を食べる機会が増えてきました。
●羊肉の「香り」と「臭み」
羊肉は草食動物特有の野性味のある「香り」がします。これはエサとなる植物に含まれている葉緑素が羊の中で「フィトール」という物質に変化し、香りになるのですが、食べるエサによってこの匂いは変化していき、ハーブの香りや柑橘系、レモンの香りなど羊肉の香りにはバリエーションがあります。香り物質の「フィトール」はエサを食べれば食べるほど肉と脂肪に蓄積されていくため、年齢を重ねた羊ほど、羊独特の香りが強くなります。
しかし「臭み」に関しては、心地よいものではありません。羊肉が臭くなってしまう原因には、去勢の失敗によるオス特有の臭いや鮮度劣化、脂肪酸化によるもの、解凍方法によるもの、細菌繁殖によるものなどが挙げられます。特に羊肉はほかの食肉よりも鮮度管理が難しいため、羊肉の管理方法に対して知識がなければ「臭み」が出てきてしまいます。
●羊肉の選び方
ラムは淡紅色、マトンは鮮赤色が新鮮なものが良いとされています。
どんな肉においても共通して言えることですが、ツヤがあり肉のきめが細かいものが良いとされています。また脂肪に関しては真っ白なものを選びましょう。
●羊肉の保存方法
鮮度が落ちると臭みが出てしまいますので、保存方法には気を配る必要があります。1食分ずつ空気をしっかりと抜きながらラップに包みましょう。その上からアルミホイルで包むことで鮮度を保ったまま急速に冷蔵、冷凍することができます。
冷凍した場合、解凍は電子レンジや冷蔵庫に移すのではなく、流水にて素早く解凍しましょう。
●羊肉に含まれる栄養成分
〇L-カルニチン
アミノ酸の一種で脂肪を燃焼するミトコンドリアへと脂肪を運ぶ役割を果たしています。L-カルニチンを十分に補給することによって、体にたまっている脂肪をエネルギーとして効率良く燃焼することができます。
〇不飽和脂肪酸
羊肉に含まれているのは体に良い油と言われている不飽和脂肪酸です。動脈硬化や血栓予防、血圧を下げるなどの作用が期待されます。
〇ビタミンB₁
糖質からエネルギー生産をする栄養素で、脳神経系の正常な働きを助けます。
また皮膚や粘膜の健康維持を助ける働きも担っています。
〇ビタミンB₂
成長促進には欠かせないビタミンのため「発育ビタミン」とも呼ばれます。脂質、糖質、タンパク質が分解されエネルギーに変化する際にサポートとなる栄養素。老化促進の要因のひとつとされる過酸化脂質を分解、消去する働きも期待されます。
〇ビタミンB₁₂
ビタミン₁₂は葉酸と協力して、赤血球中のヘモグロビンの生成を助けます。また脳からの指令を伝える神経を正常に保つという役割があります。
〇鉄
必須ミネラルの一つで赤血球を構成する成分となり、全身の細胞や組織に酸素を運ぶ役割があります。
〇ビタミンE
強い抗酸化作用があり、動脈硬化の予防や老化防止の働きがあります。
<羊肉の豆知識>
羊は本来日本にはいない動物でした。にもかかわらず「羊かん」にはなぜ羊の漢字が使われているのかご存じでしょうか?日本には鎌倉から室町時代に中国に留学した僧侶から羊かんが伝えられましたが、その時代、日本は肉を食べる文化はありませんでした。
一方中国では「羊かん」の「羹(かん)」はとろみのある汁物をさし、中国においては羊の肉を使ったとろみのあるスープ、もしくはそのスープが冷えて煮凝りのように固まったものを「羊かん」と呼んでいました。日本では肉を調理するのではなく、小豆や小麦粉、くず粉などを入れて「羊かん」に似たような外見になるように作られ、江戸後期には私たちが知っている羊かんの形になったようです。【4】
羊肉の効果
〇美容効果
ラム肉にはビタミンB₁、ビタミンB₂、ビタミンEが多く含まれています。
これらは皮膚や粘膜を健康に保ったり、細胞を若返らせる、美容に嬉しい栄養素です。
〇ダイエット効果
L-カルニチンが多く含まれており、脂肪の燃焼を促進させます。
ラムよりもマトンのほうに多く含まれています。
〇貧血予防
一般的なほかの肉よりも鉄分が多く含まれています。
また、乾燥プルーンに比べ100gあたりの鉄分が約6倍含まれています。
〇体温を上昇させる
L-カルニチンが体内の新陳代謝を促してくれるので、血流が活発になり手足の冷えを防いでくれる働きがあります。女性にはおすすめのお肉と言えます。
こんな方におすすめ
○ダイエット中の方
〇冷え性に悩んでいる方
〇血圧、コレステロール値を下げたい方
〇美肌を目指している方
羊肉の研究情報
・1991年から2015年の中国健康栄養調査によると、羊肉を含む新鮮な赤身肉を適度に摂取すると、女性の血圧上昇リスクが低下したことがわかりました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7284636/
・羊肉に多く含まれているL-カルニチンを被験者に投与し、体重の減少があるかどうかの効果を調べる研究が行われました。研究は、カルニチンを投与された被験者が有意に体重を減らし肥満度指数の低下を示したことを明らかにしました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27335245/
【1】Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO) – FAOSTAT – Production, Live Animals, Sheep, 2018
外務省「世界色々雑学ランキング」
【2】「北海道のめん羊をめぐる情勢」(北海道農政部生産振興局)
www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/tss/53/syokuniku/megurujyouseihituji.pdf
【3】公益社団法人畜産技術協会 「日本のめん羊事情」
【4】 山田孝雄『国語の中に於ける漢語の研究』
日本大百科全書 「羊かん」
参考文献
World Health Organization . Global Status Report on Noncommunicable Diseases 2010. World Health Organization; Geneva, Switzerland: 2011
L-Carnitine’s Effect on the Biomarkers of Metabolic Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
Choi M, Park S, Lee M.