紫根(しこん)/ムラサキ

lithospermi radix
lithospermum root  macrotomia euchroma  lithospermum erythrorhizon

ムラサキ(紫根)は、万葉時代から愛され、外用漢方薬に使われる生薬です。漢方では消炎、解熱、解毒剤として、日本では炎症、火傷などに外用薬として使用される紫雲膏の材料として使用されます。根にシコニンという色素を含み、明治時代まで重要な紫色の染料として用いられてきました。現在も観賞用として栽培されています。

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ムラサキ(紫根)とは

●基本情報
ムラサキ(紫根)はムラサキ科ムラサキ属で、日本を始め、朝鮮半島や中国東北部、ロシアのアムール川下流域に分布する植物です。
山地草原に自生する多年生の植物で、高さは約40〜70cmほど、主に使用される根の部分は暗紅紫色で、6〜7月に白色の小さな花を咲かせます。

●ムラサキの歴史
ムラサキは、万葉時代から愛され、外用漢方薬に使われる生薬ですが、染料としても利用されてきました。そのことは日本にも古くから伝えられ、『続・東大寺正倉院文書』巻43の豊後国正税帳に紫草園の経営が記されています。薬用としては、江戸期の華岡青洲がつくりだしたとされる「紫雲膏(しうんこう)」という外用薬や、漢方に湿疹や皮膚炎、貧血、疲労倦怠、痔の痛みに効果があるとされる「紫根牡蛎湯(しこんぼれいとう)」があります。

●ムラサキの用途
ムラサキ(紫根)の主な効果は、解熱や解毒、抗炎症薬、ひいてはお通じの改善など様々です。そのため、火傷、凍傷、湿疹、水泡、などの皮膚上に起きたトラブルの他、腫瘍の治療に用いられています。

・紫雲膏・紫根牡蛎湯について
紫雲膏は、「潤肌膏」取捨した華岡青洲が工夫したもので、当帰、ムラサキ、ごま油、ミツロウ、豚脂でつくられています。紫雲膏には、熱傷の表皮再生を促進することが知られています。
紫根牡蛎湯は、当帰、芍薬、川芎、ムラサキ、大黄、忍冬、升麻、黄耆、牡蛎、甘草から作られています。こちらは湿疹や皮膚炎、貧血、疲労倦怠感や痔の痛みなどの治療に用いられているようです。
紫雲膏には多くの臨床経験があり、近年では、熱傷潰瘍に対して真皮深層まで損傷した患者の患部に紫雲膏を塗ったところ、10週で上皮形成が完了したという報告があります。

・硬紫根と軟紫根
紫根には、硬紫根と軟紫根があります。
ムラサキ科 Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccariniの根を「硬紫根」
ムラサキ科 Macrotomia euchroma Pauls の根を「軟紫根」とされます。
硬紫根は現在絶滅品種にあげられています。栽培が難しく、生産しているところも大変少ないです。
日本では一般的には硬紫根が用いられますが、輸入される中国品の中には軟紫根も見受けられるそうです。

ムラサキ(紫根)の健康効果

●抗菌効果
紫根エキスをはじめ、シコニン誘導体、紫雲膏には、グラム陽性菌、グラム陰性菌や、真菌に対して抗菌活性があることが報告されています。【1】

●肌の調子を整える効果
ムラサキの根を生薬とした紫根は、昔から患部の熱をとる作用があるとされ抗炎症作用や解熱、解毒作用を持つ生薬として外用に用いられ、また、紫根には炎症を抑える、発疹を治める、血行を改善する、傷の治りを良くするなどの作用があるため、古くから軟膏や化粧品の材料として広く利用されてきました。幕末の医師で、全身麻酔を日本で初めて成功させた華岡青洲は、紫根を配合した外用の漢方薬「紫雲膏」を愛用していたことが有名です。
傷の治りが早いのは、紫根の効果として、傷口、患部の排膿をよくし、肉芽の発生を促進しているからです。【2】

●胃腸の機能を高める効果
紫根を食べて摂取した場合、下痢止めや、胃や腸を整える効果が高くなります。
お通じがよくなったり、それによって肌がつやつやになるという効果もあります。【3】

ムラサキ(紫根)は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

◎火傷や傷のダメージを抑えたい方
◎皮膚のトラブルを改善したい方
◎胃腸の調子が悪い方

ムラサキ(紫根)の研究情報

【1】難治口腔カンジダ症患者を対象に、紫根含有口腔軟膏を1日3回、4週間にわたり塗布しました。塗布3日後より口腔カンジダ症の寛解が見られ、処置終了時には同例共に完治が認められました。紫根は美肌効果を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003988630

【2】ラットを対象に、紫根抽出物を投与したところ、創傷治癒が促進されたことから、紫根は皮膚保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23024692

【3】ヒト胃がん細胞を対象に、紫根の機能性成分であるシコニンを投与したところ、がん細胞の増殖が抑制されたことから、紫根は胃保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22634048

【4】ラットを対象に、紫根抽出物を投与したところ、皮膚アナフィラキシー症状の緩和、ならびにマスト細胞からのヒスタミン放出が抑制されました。紫根は抗アレルギー作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18071264

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参考文献

・ハーブ・スパイス館 小学館

・佐々木 健郎、阿部 豪友、本間 友子、吉崎 文彦 (2004) “紫根由来の抗真菌性ナフトキノン類含有口腔軟膏による口腔カンジダ症の治療経験” 本東洋醫學雜誌 55(2), 261-264, 2004-03-20

・編集:指田 豊、山崎 和男 生薬学改訂第6版 南江堂

・難波 恒雄 著 和漢百科図鑑[I] 保育社

・監修:伊田 喜光、寺澤 捷年 編著:鳥居塚 和生 モノグラフ生薬の薬効・薬理 医歯薬出版株式会社

・Hsiao CY, Tsai TH, Chak KF. (2012) “The molecular basis of wound healing processes induced by lithospermi radix: a proteomics and biochemical analysis.” Evid Based Complement Alternat Med. 2012;2012:508972.

・Zhen-Jun S, Yuan-Yuan Z, Ying-Ying F, Shao-Ju J, Jiao Y, Xiao-Wei Z, Jian C, Yao X, Li-Ming Z. (2012) “β, β-Dimethylacrylshikonin exerts antitumor activity via Notch-1 signaling pathway in vitro and in vivo.” Biochem Pharmacol. 2012 Aug 15;84(4):507-12.

・Kim EK, Kim EY, Moon PD, Um JY, Kim HM, Lee HS, Sohn Y, Park SK, Jung HS, Sohn NW. (2007) “Lithospermi radix extract inhibits histamine release and production of inflammatory cytokine in mast cells.” Biosci Biotechnol Biochem. 2007 Dec;71(12):2886-92.

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