ヨモギとは?
●基本情報
ヨモギとはキク科ヨモギ属に属する多年草植物で、若葉を食用にする代表的な春の野草のひとつです。繁殖力が強く、いたるところで育つことができる野草で、乾いた道端によく生えています。ヨモギの葉は先がとがり、深い切れ込みが入っています。表面は緑色ですが、裏は灰白色の綿毛が密生しています。また夏から秋にかけて淡褐色の小さい花を多数咲かせます。
ヨモギは古くから切り傷、食あたり、下痢止めなど外用・内服を問わず利用されてきた薬草でもあります。沖縄ではヨモギのことを「ふうちばあ」と呼び、乾燥したヨモギの葉を煎じて、健胃剤として飲むことや、リカー[※1]に漬けたものをヨモギ(薬用)酒として利用したりしています。夏にはよく茂ったヨモギの葉を刈り取って乾燥させ、臼でついて綿毛を集め、灸の「もぐさ」としても利用してきました。
中国で古くから漢方薬として利用されてきたヨモギの葉は、別名「艾葉(がいよう)」といい、単独では消炎、収斂(しゅうれん)[※2]、止血、止瀉薬(ししゃやく)[※3]に、また、他の薬草と組み合わせて、腹痛や下痢止め、利尿、解熱、鎮咳、便秘などの改善にも効果的です。
ヨーロッパでもヨモギはリウマチや不妊に効果のある薬草として用いられてきました。ただし、妊娠中の摂取は控えたほうが良いとされています。
このようにヨモギは、昔から万能薬草として用いられるほど薬効が高く、栄養価も高い植物です。
またヨモギには美容効果も期待できます。ヨモギ蒸しという韓国の伝統的な民間療法により、女性本来の美しさを引き出します。
春から初夏にかけての若葉を食用とし、日本では草餅やヨモギ団子、おひたし、和え物、天ぷらやヨモギ茶として親しまれています。摘んだヨモギは、茎の堅い部分を折って取り除き、きれいに洗って塩を加えた熱湯でゆでます。アクが強いようなら、ゆで湯に重曹を入れるとアクを抜くことができます。ゆでたヨモギは水にとってそのまま1時間程おいて使用します。もち米に混ぜて、草餅やヨモギ団子などにするのが一般的です。
ヨモギは日本人にとって極めて身近な存在であり、あの独特の香りから春の訪れを感じる植物としても愛されています。
ヨーロッパなどでは、ヨモギの若葉を脂っこい料理の付け合わせに使用するなどされています。
●ヨモギの原産地、生産地
原産地は北アジアで、ヨーロッパや北アフリカ、中国などの国々、日本では野や山など、多くの場所で自生しています。ヨモギは日本各地に自生し、東北では3~4月、その他の地域では3月頃に旬を迎えます。
●ヨモギの種類
ヨモギの種類は非常に多く、200種類以上も存在します。日本には数十種類のヨモギがあるといわれ、その中でも一般的に目にするのが、カズサキヨモギとオオヨモギです。
●ヨモギの特徴
ヨモギの葉には、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、葉緑素、食物繊維、たんぱく質、カルシウム、鉄、β‐カロテン、葉酸などの健康成分がバランス良く含まれています。
また精油成分であるシネオール[※4]やα‐ツヨン[※5]が含まれているため、ヨモギ独特の香りが生まれます。
[※1:リカーとは、アルコール分の強い蒸留酒のことです。]
[※2:収斂とは、縮んだり、引き締まることを指します。]
[※3:止瀉薬とは、下痢止めのことです。]
[※4:シネオールとは、別名ユーカリプトールといい、天然に存在する有機化合物です。心地良い芳香と味を持つことから、食品添加物・香料・化粧品に利用されます。]
[※5:α‐ツヨンとは、ニガヨモギ、ヨモギ、セージなどの精油成分です。]
ヨモギの効果
ヨモギには葉緑素や鉄、β‐カロテン、ビタミン、食物繊維など健康を総合的にサポートする成分が含まれており、以下のような効果が期待できます。
またヨモギ蒸しによる美容に対する効果も期待できます。
●コレステロール値を下げる効果
葉緑素は別名クロロフィルとも呼ばれ、野菜や海草など、光合成を行う生物が持つ緑色の天然色素です。葉緑素は植物の成分ですが、人間の血液中の色素であるヘモグロビンと似た構造をしており、コレステロールを吸着して体外に排出し、血中コレステロール値を下げる働きがあることが知られています。つまり、血中コレステロール値が高くなると血がドロドロになるとされているので、ドロドロ血を予防して、血液をきれいに保つ働きがあります。【7】
●貧血を予防する効果
ヨモギは良質の葉緑素を含んでいます。葉緑素は末梢血管を拡張し、新陳代謝を高め造血作用に役立ちます。
また、ヨモギは鉄分も豊富に含んでいるため、貧血予防にも効果的です。鉄は体中に酸素を運搬するための赤血球を構成する、人間の体に欠かすことのできないミネラルです。体内の鉄分の7割は赤血球にあり、3割は肝臓などに蓄えられています。鉄分が不足すると赤血球が小さくなり、「鉄欠乏性貧血」を引き起こします。月経のある女性や妊婦の方に鉄欠乏性貧血は多く起こります。貧血になると、血液の酸素を運ぶ機能の低下に伴い、体中が酸素不足になります。それを補うために心拍数が上がり、動機や息切れが起こります。さらに顔色や皮膚が青白くなり、全身の臓器が低酸素状態におちいることで、めまいや頭痛、耳鳴りなどが起こります。
良質の葉緑素や鉄分を豊富に含むヨモギは特に女性の強い味方といわれています。
●生活習慣病の予防・改善効果
β‐カロテンは強い抗酸化作用[※6]をもち、体内の活性酸素[※7]の除去を促します。体内に活性酸素が増えすぎると、細胞や体の組織が攻撃され、それによって体の不調や病気が引き起こされます。ヨモギは100g中に5300μg(マイクログラム)ものβ‐カロテンを含んでいるため、活性酸素による体のサビつきや体の不調、病気を予防してくれます。
またβ‐カロテンの抗酸化作用によって、血液中の悪玉コレステロールを減らし、血管を若々しく保つことにつながります。血管の不調を予防し生活習慣病を予防します。【2】【4】【5】【7】【9】【10】
●粘膜や皮膚を健康に保つ効果
ヨモギに含まれるβ‐カロテンは体内で必要な分だけビタミンAに変換されます。β‐カロテンは、目の働きを助けたり粘膜や皮膚の調子も整えてくれます。また、ビタミンAが不足すると肌がカサカサしたり、喉などの気管の粘膜が弱り、風邪などの感染症にかかりやすくなります。目に疲れを感じている方や皮膚や粘膜の調子が悪いと感じている方は、体内のビタミンAが不足している可能性があります。
●便秘を解消する効果
食物繊維は人間の消化酵素では消化できない難消化性成分の総称で、腸内環境を改善する働きがあります。水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維に分類でき、それぞれ生理作用に異なる特徴を持ちます。
不溶性食物繊維は腸のぜん動を刺激して、腸内に溜まった有害物質の排出を促す作用があります。その結果、便秘の解消や、腸に関する病気の抑制をします。水溶性食物繊維は、腸内でのコレステロールや糖質の腸内からの吸収を妨げ、血清コレステロールや血糖の上昇を抑える作用があります。糖尿病などの予防効果が期待されています。
ヨモギには不溶性食物繊維が豊富に含まれているため、便秘の解消や、大腸がんを予防する効果が期待されています。
●胃の健康を保つ効果
漢方薬として売られているヨモギの乾燥葉は煎じて飲んだり、薬湯にしたりします。乾燥葉を煎じて飲用することで健胃効果が期待されます。これは、ヨモギの生薬としての薬理作用のひとつで、ヨモギが鎮咳作用や鎮痛作用、健胃作用をもつことに由来しています。日陰干し葉を煎じてはちみつを加えて飲むと、かんの虫に有効といわれ、ヨモギとショウガを同量煎じて一緒に飲むと、血便に効果があるといわれています。
●体を温める効果
ヨモギの葉を木綿袋に入れて湯船に入れると、高い温熱効果を発揮し、湯冷めを防ぎます。腰痛、神経痛、痔の痛みにも効果が期待できます。
●美容効果
ヨモギの美容効果を利用したものとして、ヨモギ蒸しが挙げられます。
ヨモギ蒸しとは、約600年前から韓国に伝わる伝統的な民間療法で、ヨモギと数種類の薬草を煮詰めることで発生した、漢方成分を含んだ蒸気を利用した美容法です。
漢方成分を多く含む蒸気を体の下半身を中心に当てて温めることで、体に良い漢方成分が皮膚から吸収されやすくなります。
蒸気を全身に浴び、体の芯を温めて発汗することで、代謝が上がり、体に溜まった老廃物や毒素を排出するように促します。その効果は、婦人科系疾患の改善、美肌・美白の美容効果、冷えの改善、デトックスダイエットなどが挙げられます。さらにヨモギの香りがリラックス効果を与えてくれます。実際に韓国では、婦人病の治療と予防、産後の機能回復のため昔からヨモギ蒸しが行われてきました。女性ホルモンを整える効果が高いので、肌につやと透明感をもたらし、女性らしい美しさを与えてくれます。
近年日本でもヨモギ蒸しは、美容と健康、リラックス効果を求めて女性たちの間で密かなブームとなっています。
●喘息を予防する効果
乾燥したヨモギの葉を水から沸かして薬湯にすれば呼吸が楽になり、体が温まります。ヨモギの根を漬け込んだ日本酒は喘息予防にもなります。
●その他のヨモギの持つ効果
ヨモギに含まれる精油成分で、ヨモギ独特の香りのもとであるシネオールやα‐ツヨンは、体を温める、胃腸を丈夫にする、冷え性、腰痛、生理痛、生理不順、筋肉痛、リウマチ、喘息、気管支炎、貧血、整腸などに作用します。さらに食欲を増進させる働きも持っています。
またシネオール・α‐ツヨンの香りの力は、ヨモギの灸の治療効果を高める働きがあると考えられています。
[※6:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※7:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い抗酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
ヨモギは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○貧血でお悩みの方
〇生活習慣病を予防したい方
〇目の健康を維持したい方
○便秘でお悩みの方
〇胃腸の健康を保ちたい方
〇美肌を目指したい方
ヨモギの研究情報
【1】ヨモギに含まれる精油成分α-テルピノールは抗菌作用を持つほか、炎症関連物質IL-6, TNF-α、NF-κB 及びCOX-2、iNOS のはたらきを抑制することから、ヨモギが抗炎症作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21830186
【2】高脂肪食事者を対象に、ヨモギ抽出物1% 含有する食事を14週間摂取させたところ、体重や白色脂肪組織、血糖値およびインスリン値、糖耐性能に改善が見られました。ヨモギ抽出物は肝臓の脂肪酸合成酵素(FAS)のはたらきを阻害することで、満腹中枢を刺激する血漿レプチンの上昇を抑制したことから、ヨモギが抗肥満作用および糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21773585
【3】ヨモギに含まれる成分カフィロイキニン酸は、神経細胞内に脳の老化につながるアミロイド線維が作られるのを防ぐはたらきを持ち、ヨモギが神経保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21535743
【4】Ⅱ型糖尿病マウスに、ヨモギを8週間の摂取させたところ、空腹時血糖値および糖尿病の指標となる糖化ヘモグロビン、収縮期血圧の上昇が抑制されたことから、ヨモギが糖尿病予防効果ならびに高血圧予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21138376
【5】ヨモギ抽出物はグルコース輸送受容体(GLUT4)にはたらきかけ、筋肉へのグルコースの取り込みを促進することから、ヨモギが糖尿病予防作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20944421
【6】マウスにヨモギを摂取させたところ、アレルギー関連物質ヒスタミンおよび炎症関連物質IL-4、TNF-α、NF-κB、AP-1 の活性化が抑制されたことから、ヨモギがアレルギー予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20645242
【7】高脂肪食摂取ラットに、ヨモギを摂取させると、血中及び肝臓でのトリグリセリドやコレステロールの上昇が抑制されました。ヨモギは肝臓での脂肪合成やコレステロール合成を抑制し、褐色の脂肪組織重量および精巣上体脂肪細胞のサイズを下げ、内臓脂肪の蓄積を予防することから、ヨモギが抗肥満作用ならびに高脂血症予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20041776
【8】ヨモギはアレルゲンによる炎症性免疫細胞T細胞の増殖を抑制し免疫機能を調節するはたらきをもつことから、自己免疫疾患や臓器移植による拒絶反応に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19703348
【9】LDL受容体欠損マウスに、ヨモギを摂取させると、動脈硬化が抑制されたことから、ヨモギが動脈硬化予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19166336
【10】Ⅱ型糖尿病マウスに、ヨモギ抽出物を6週間摂取させたところ、肝臓のグリコーゲン量が増加し、空腹時血糖値が低下しました。また血中インスリンおよびアディポネクチン値が増加し、糖化ヘモグロビンA(1c)および血中グルカゴン濃度が減少し、膵臓中のインスリン濃度が増加していることが確認できました。
ヨモギがⅡ型糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18703253
参考文献
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