メープルとは
●基本情報
メープルとは、カエデ属の植物のことを指します。メープルは、カエデ科カエデ属に属し、大半が秋には落葉樹[※1]です。モミジと園芸上は区別されることがありますが、植物分類上は同じものです。メープルは、美しい紅葉が見れます。紅葉は、気温の低下により葉にたまった糖分が葉の細胞液の中で固まってしまうため、葉の中にある黄色系のフラボノールという物質が過剰の糖質により、赤色系のアントシアニンに変わることでみられます。
サトウカエデという種類のカエデの葉は、カナダの国旗に描かれています。
●メープルの利用方法
・木材
メープルは、床材として定評があります。またボーリング場のレーンやピン、バイオリンなどの弦楽器の裏板や横板としても利用されています。
・メープルシロップ
サトウカエデ、アカイタヤ、イタヤカエデなどのカエデ類の樹液からメープルシロップはとれます。カナダやアメリカでは、メープルシロップをとる目的でサトウカエデの植樹が行われています。サトウカエデは、もともと北アメリカ大西洋側カナダ南部、アメリカ北東部の原産ですが、ヨーロッパなどにもよく植えられています。日本では、かつて青森県十和田湖周辺でアカイタヤからメープルシロップをとっていましたが、現在では山形県金山町などで、わずかに生産されているだけです。
琥珀色あるいは褐色で、特有の香気と風味をもっています。ホットケーキやワッフルにかけたり、菓子の原料にしたりして利用されます。さらに独特の風味を生かして、タバコに添加剤として利用されています。
●メープルシロップの採取方法
カナダでは、サトウカエデの樹液の流動が盛んになる2月~3月にかけて樹液を採取します。地面から約1 mの位置に直径1 cm、深さ5~6 cmの細い穴をあけます。あける穴の数は樹木の直径によって異なります。直径40 cm以下の樹木では1つ、40~50 cmでは3つ、それ以上の大木では4つの穴をあけます。あけた穴に管を差し込むと、容器に樹液を受けることができます。採取した樹液を約50分の1に濃縮し、ろ過をするとメープルシロップができます。1シーズンに1本のカエデから約50リットルの樹液をとることができるので、1シーズンに1リットルのメープルシロップを得ることができるということになります。
日本では、アカイタヤに直径2 cm、深さ3 cmの穴をあけ、管を差し込んで容器に樹液を受けることで採取します。1本のアカイタヤで1日に2ℓ、1シーズンに40~60ℓの樹液がとれ、そのうち約3%に糖分が含まれています。
●メープルシロップの濃縮物
メープルシロップをさらに濃縮すると、ペースト状のメープルバター(メープルクリーム)、結晶状のメープルキャンデーができます。メープルバターやメープルクリームは、良質(還元糖[※2]含量0.5~2.0%)のメープルシロップを加工するとできあがります。メープルキャンデーは、メープルシロップを115℃まで加熱して濃縮し、46℃まで徐々に冷却しながら撹拌し、結晶を生じさせて型に入れて室温まで冷やすとできます。
●メープルに含まれる成分
メープルシロップは、同じ甘味料であるはちみつや上白糖などに比べて、エネルギーが低くカルシウム、カリウムやマグネシウムを豊富に含んでいます。また多種多様な54種類のポリフェノールも含まれています。
[※1:落葉樹とは、定期的に葉を完全に落とす樹木のことです。]
[※2:還元糖とは、ブドウ糖や果糖のような糖類で、相手から酸素を奪い自身が容易に酸化される性質のある糖類のことです。]
メープルの効果
●炎症を抑制する効果
メープルシロップには、多くのポリフェノールが含まれています。ポリフェノールは、光合成でつくられる植物の色素や苦み、渋みの成分で、強い抗酸化作用があります。メープルはこのポリフェノールを多く含み、その抗酸化作用で酸化ストレスなどから体を守り、炎症を防ぐことが期待されます。
●糖尿病の進行を抑制する効果
血糖値の高い状態は体が酸化的なストレスを強く受けている状態です。糖尿病では体にブドウ糖が多く存在することで、どうしても活性酸素[※3]が過剰にある酸化的ストレスを強く受けます。そのため、体自身がもつ抗酸化作用では、活性酸素を除去しきれず体に悪影響を及ぼす場合があります。
メープルは多くのポリフェノールを含んでおり、ポリフェノールのもつ抗酸化作用が糖尿病による合併症などの悪影響のリスクを軽減するといわれています。【1】
[※3:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
メープルは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○糖尿病を予防したい方
メープルの研究情報
【1】カナダ産メープルシロップに含まれるポリフェノール成分が、Ⅱ型糖尿病管理に関連のある炭水化物加水分解酵素阻害作用を持つことから、メープルは糖尿病予防効果を期待されています。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1756464611000296
【2】メープルシロップが前立腺と肺において、がん細胞の増殖を大きく遅らせる可能性があること、また乳がんや結腸、脳においてもがん細胞の増殖を遅らせることから、抗がん作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20132041
【3】カナダ産メープルシロップに20種類以上の抗酸化物質が含まれており、多様な機能性を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21033720
【4】メープルシロップに含まれるポリフェノールのうち、5種類が新規の天然成分、かつメープルシロップ特有の成分として同定されました。5種類の新規成分の中でも、カエデの樹液を煮詰める過程で作り出されるポリフェノールは、ケベック州にちなんで「ケベッコール(Quebecol)」と名付けられました。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1756464611000090
参考文献
・農山漁村文化協会編 地域食材大百科 果物・木の実・ハーブ 農山漁村文化協会
・日高秀昌、岸原士郎、斎藤祥治 砂糖の辞典 東京堂出版
・本多京子、根本幸夫、伊田喜光、田口進監修 食の医学館 小学館
・Emmanouil Apostolidisa, Liya Lib, Chong Leea, Navindra P. Seeram (2011) “In vitro evaluation of phenolic-enriched maple syrup extracts for inhibition of carbohydrate hydrolyzing enzymes relevant to type 2 diabetes management” Journal of Functional Foods 3(2011)100-106
・Legault J, Girard-Lalancette K, Grenon C, Dussault C, Pichette A. (2010) “Antioxidant activity, inhibition of nitric oxide overproduction, and in vitro antiproliferative effect of maple sap and syrup from Acer saccharum.” J Med Food. 2010 Apr;13(2):460-8. doi: 10.1089/jmf.2009.0029.
・Li L, Seeram NP. (2010) “Maple syrup phytochemicals include lignans, coumarins, a stilbene, and other previously unreported antioxidant phenolic compounds.” J Agric Food Chem. 2010 Nov 24;58(22):11673-9. doi: 10.1021/jf1033398. Epub 2010 Oct 29.
・Liya Li, Navindra P. Seeram (2011) “Quebecol, a novel phenolic compound isolated from Canadian maple syrup” Journal of functional Foods, 3(2011)125-128