マグネシウム

Magnesium  Mg

マグネシウムは、体内で約300種類以上もの酵素の働きを助けるミネラルの一種です。カルシウムと密接な関わりがあり、骨や歯の形成に必要な栄養素です。多くの体内酵素の正常な働きとエネルギー産生を助けるとともに、血液循環を正常に保つ作用があります。

LINEスタンププレゼント!お友達登録はこちら。配信期間2025/01/23

マグネシウムとは

●基本情報
マグネシウムは、体内で約300種類以上もの酵素の働きを助けるミネラルの一種です。カルシウムと密接な関わりがあり、骨の健康を維持する働きもあります。
マグネシウムは、体内で行われるほとんどすべての生合成や代謝 [※1]の働きに必要なミネラルです。

マグネシウムは元素記号Mg、原子番号12の金属です。地球上で6番目に多い元素で、様々な成分と反応した形で広く存在し、酸化物、水酸化物、フッ化物、リン酸塩、炭酸塩などがあります。これらは水に溶けにくい性質を持っています。
植物中に含まれるマグネシウムは、クロロフィル(葉緑素)という光合成を行う物質の一部となって存在しています。

マグネシウムは人間の体内に約25 gあり、その50~60%は骨に存在してカルシウムやリンなどとともに骨をつくっています。残りの約20%は筋肉中に存在し、そのほかの残りは多くが脳、神経、肝臓、血液、細胞内液にたんぱく質と結合した形で分布し、酵素の働きを助けて細胞で行われる機能に関わっています。
マグネシウムは、体内で7番目に多く含まれるミネラルで、体内のミネラルバランスを整える上でも重要な役割を担っています。

また、マグネシウムは、体内で約300種類もの酵素の働きを助け、三大栄養素である炭水化物 (糖質)、脂質、たんぱく質の代謝に関わっています。三大栄養素からエネルギーをつくり出す過程では酵素が必要なため、マグネシウムは酵素が働くために必要不可欠な栄養素です。特に、炭水化物 (糖質)の代謝でマグネシウムが活躍します。
また、つくり出したエネルギーを効率良く利用するためにもマグネシウムが働いています。
そのほか、マグネシウムはたんぱく質や核酸の合成を助ける働きもあります。このように、マグネシウムは酵素反応を助けて体内で起こる様々な生理機能を支えています。

マグネシウムの吸収率は、カルシウム、リン、フィチン酸、脂肪酸、食物繊維などを一緒に摂取することにより低くなる場合があります。
マグネシウムはナッツ類や魚介類、豆類に多く含まれており、特に魚介類に多い理由は、マグネシウムが海水に多く含まれているためです。牛乳や肉類には少ないため、肉類が多い欧米型の食事よりも魚や大豆製品の多い和食のほうが効率良くマグネシウムを摂取できます。また、玄米にもマグネシウムが多く含まれます。
マグネシウムはすべての細胞や骨に広く分布し、精製・加工していない食品にはまんべんなく含まれているため、通常の食事をしている健康な人の場合、欠乏症が起こるほど不足することはほとんどありません。しかし、摂取が少なくなりがちな栄養素でもあるため、2004年からは栄養機能食品 [※2]の栄養成分にも追加されています。

●マグネシウムの歴史
マグネシウムは、古代ギリシャのマグネシアという地域で採掘される鉱物が、様々な病気を治す効果があると評判になり、鉱物中に含まれていた有効成分が、土地の名前にちなんでマグネシウムと名付けられました。
また、1915年、アメリカの生化学者デニスが、血液中にマグネシウムが含まれていることを発見しました。
1931年には、アメリカの研究者マッカラムらが、子どものラットをマグネシウムの少ないエサで飼育すると11~12日で血管拡張、痙攣などの欠乏症が発症し、それらはマグネシウム塩を与えることによって治ることを明らかにしました。その後1934年、心臓不整脈、血液中のカルシウムの減少、血中コレステロールの増加がマグネシウムの欠乏によって起こること、腎臓の組織に変化が起こることも見出しました。

●マグネシウムの欠乏症
通常の食事をしている場合、マグネシウムが不足することはほぼありません。
ただし、睡眠不足や運動不足が続いている時、ストレスが多い時には体内のマグネシウムが消費されるため、マグネシウムの必要量が多くなります。また、肉や加工食品、清涼飲料水などに多く含まれるリンを過剰に摂取すると、マグネシウムの吸収が妨げられます。大量のアルコールを摂取したり、利尿剤を長期間使用すると尿とともに排出され、マグネシウム不足になることもあります。
マグネシウムが不足すると、血圧上昇、不整脈、動脈硬化、狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患 [※3]の危険性が高まります。不足状態が悪化すると、発育不全、筋肉の痙攣、皮膚や筋肉などへのカルシウム沈着、神経過敏症などの神経症状、不安や抑うつ症などの精神症状、記憶障害、注意力散漫などの症状が現れます。
また、骨粗しょう症や糖尿病などの生活習慣病の危険性も高まります。

●マグネシウムの過剰症
マグネシウムは、過剰に摂取すると小腸で吸収量が調節されます。摂取しすぎても尿や汗と一緒に体外に排泄されるため、通常の食品で摂取する場合には過剰摂取による健康障害や副作用はみられません。
しかし、腎臓に障害がある場合には過剰摂取に注意が必要です。
過剰摂取により神経や心臓の筋肉が正常に働かず低血圧や筋肉の麻痺が現れたり、下痢、吐き気、筋力の低下が起こる場合があります。

摂取の基準は表の通りです。


​<豆知識①>にがりとマグネシウム

豆腐やこんにゃくをつくるときの凝固剤として、代表的なものが「にがり」です。にがりは、海水から塩をつくる時にできる副産物です。海水を煮詰めて濃縮させると、塩が固体となって現れます。この塩を取り除いて残った液体がにがりで、主成分は塩化マグネシウムです。ほかには塩化ナトリウム (一般的な食塩)や亜鉛、鉄、リンなどのミネラルが50種類以上含まれています。しかし、最近ではより工業的に扱いやすい硫酸カルシウムなどが使われることが多くなり、凝固剤としてにがりを使用することが少なくなっています。
一時期、ミネラルが豊富ということで、にがりを水に溶かして飲む健康法や、にがりを使ったダイエットが流行しました。しかし、摂りすぎによって健康に害が出ることもあります。マグネシウムは下剤としても利用されており、その量に個人差はありますが過剰に摂ると下痢を起こします。
豆腐に含まれるにがりはごく微量なため、マグネシウムの過剰摂取を心配する必要はありません。にがりは豆腐から摂取する程度が良いといえます。

<豆知識②>マグネシウムとカルシウムのバランス
マグネシウムとカルシウムは深く関わっているため、バランス良く摂取することが大切です。理想的なバランスが取れていると、心臓や血管などの機能が正常に働き、骨や歯を丈夫に保つことに役立ちます。マグネシウムは体内に入ると骨に貯蔵され、不足すると骨から血液にマグネシウムが溶け出します。
骨粗しょう症の予防のために、カルシウムの積極的な摂取がすすめられていますが、マグネシウムへの関心はあまり高くありません。カルシウムが過剰になるとマグネシウムの吸収を低下させるため、カルシウムを摂取するとともに、マグネシウムの摂取も心掛けることで、さらに丈夫な骨をつくることができます。

[※1:代謝とは、生体内で物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※2:栄養機能食品とは、通常の食生活を行うことが難しく1日に必要な栄養成分を摂取できない場合に、その補給や補完のために利用する食品のことです。国の許可や届出の必要はありませんが、規格基準を満たしていることが必要です。]
[※3:虚血性心疾患とは、心筋に血液を送る冠動脈の血流が不足することによって起こる疾患です。血流が不十分だと狭心症、心筋への血液不足が深刻な場合には心筋に壊死が起こり心筋梗塞となります。]

マグネシウムの効果

●丈夫な骨をつくる効果
マグネシウムは、カルシウムやリンとともに骨や歯の発育や強化に重要な役割を担うミネラルです。骨をつくる主な成分はリン酸カルシウムです。マグネシウムも骨の中に存在し、弾力性を与え、しなやかな骨の維持に役立っています。
また、マグネシウムは体内でカルシウムと深く関わって働きます。マグネシウムは、骨や歯にカルシウムが行き届くように調節しているのです。このため、カルシウムの摂取量が増えるとマグネシウムの必要量も増えます。体内のマグネシウムとカルシウムのバランスを保つと、丈夫な骨や歯をつくることができます。【1】【2】

●高血圧を予防する効果
マグネシウムは、動脈を弛緩させて血圧を下げる働きがあり、高血圧を予防します。反対に、カルシウムやナトリウムは動脈を収縮させて血圧を上げる働きがあり、これらの量が過剰になると高血圧につながります。マグネシウムは細胞内のカルシウムやナトリウムの量を調節し、正常な血圧の維持や血液の循環を保つ効果があります。【4】【5】【7】【9】

●心疾患を予防する効果
マグネシウムは血液中のカルシウムの量を調節し、筋肉の収縮をスムーズにする効果があります。
筋肉の収縮は、筋肉細胞の中にカルシウムが流れ込んで刺激を与え、緊張が高まることによって起こります。マグネシウムはこのカルシウムの動きを必要に応じて抑え、調節する働きを持ちます。このため、マグネシウム不足によって必要以上に細胞内のカルシウムが増加すると、筋肉の収縮がうまくいかず痙攣や振るえなどが起こり、心臓が規則正しく拍動できないといった症状が起こります。筋肉の痙攣が血管壁で起こると、狭心症や心筋梗塞の危険性も高まります。マグネシウムに対してカルシウムの摂取が高まるほど、心臓発作による死亡率が高いことがわかっています。【6】

●生活習慣病の予防・改善効果
Ⅱ型糖尿病患者にマグネシウムを摂取させたところ、空腹時血糖値の低下と血中HDLコレステロールが増加したことから、マグネシウムに糖尿病予防効果が期待されています。【3】

●精神を安定させる効果
マグネシウムは、神経の興奮を抑え、神経伝達を正常に保つ働きがあります。このため、マグネシウムを摂取することで精神的なイライラする気持ちをやわらげ、安定した精神状態を保つ効果があります。
また、神経伝達を正常にすることで、体温を調節するメカニズムにも関わっています。

食事やサプリメントで摂取できます

マグネシウムを含む食品

○野菜類
○大豆製品:大豆、豆腐、納豆など
○穀類:玄米など精製していない穀類
○種実類:アーモンド、落花生、ごま、そばなど
○魚介類:キンメダイ、干しエビ、ヒジキ、ワカメなど

こんな方におすすめ

○骨や歯を強くしたい方
○血圧が高い方
○心疾患を予防したい方
○生活習慣病を予防したい方
○イライラしやすい方

マグネシウムの研究情報

【1】8~14歳の女性120名において、マグネシウムを1日当たり300mg 、12ヶ月間摂取させたところ股関節の骨密度が増加したことから、マグネシウムが骨の健康に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17018656

【2】健常成人男性にマグネシウムを1日15mmol 、30日間摂取させたところ、骨吸収と骨代謝にかかわる物質であるPTH を低下させ、骨重量損失を軽減し骨の重量を保つことが示唆されました
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9709941

【3】Ⅱ型糖尿病患者に対するマグネシウムの研究(9件:370名)で解析されています。マグネシウムサプリメントを1日360mg 、4週間~16週間にわたり摂取させたところ、空腹時血糖値の改善と血中HDLコレステロールの増加がみられたことから、マグネシウムに糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16978367

【4】高血圧患者に対するマグネシウムの研究(20件、1220名)において、マグネシウムを1日あたり10~40mmol 、3~24週間摂取したところ、収縮期血圧、拡張期血圧の低下がみられたことから、マグネシウムに高血圧予防効果が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12160191

【5】高血圧患者に対する、カリウム、カルシウム、マグネシウムの摂取を調査した研究(3件、277名)で解析がされています。カリウムとマグネシウムを8週間以上摂取した場合、収縮期血圧と拡張期血圧が低下する傾向が見られました。このことより、マグネシウムには血圧低下効果が示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7889886

【6】テコンドー成人選手30名にマグネシウムを1日10mg/kg 、4週間摂取させたところ、運動の有無にかかわらず、赤血球と白血球が増加し、ヘモグロビンも増加しました。赤血球とヘモグロビンの増加効果により、マグネシウムの運動補助機能が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17625241

【7】慢性心不全患者22名において、マグネシウムを1日800mg 、3ヶ月間摂取させたところ、心不全患者の生活の質を改善したことから、マグネシウムには心臓保護作用が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16470086

【8】肥満患者とⅡ型糖尿病患者52名にマグネシウム化合物を6ヶ月間摂取させたところ、空腹時血糖値とインスリン感受性の改善が見られたことから、マグネシウムには抗糖尿病効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21205110

【9】高血圧患者48名において、マグネシウム化合物を1日600mg 、12週間摂取させたところ、総コレステロール、LDLコレステロールと中性脂肪が低下し、HDLコレステロールが増加し、同時にインスリン感受性も改善が見られたことから、マグネシウムには生活習慣病や心血管リスク軽減効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20531272

もっと見る 閉じる

参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・奥恒行 柴田克己 編 基礎栄養学 南江堂

・Song Y, He K, Levitan EB, Manson JE, Liu S.2006 “Effects of oral magnesium supplementation on glycaemic control in Type 2 diabetes: a meta-analysis of randomized double-blind controlled trials.” Diabet Med. 2006 Oct;23(10):1050-6.

・Jee SH, Miller ER 3rd, Guallar E, Singh VK, Appel LJ, Klag MJ. 2002 “The effect of magnesium supplementation on blood pressure: a meta-analysis of randomized clinical trials.” Am J Hypertens. 2002 Aug;15(8):691-6.

・Mizushima S, Cappuccio FP, Nichols R, Elliott P. 1998 “Dietary magnesium intake and blood pressure: a qualitative overview of the observational studies.” J Hum Hypertens. 1998 Jul;12(7):447-53.

・Carpenter TO, DeLucia MC, Zhang JH, Bejnerowicz G, Tartamella L, Dziura J, Petersen KF, Befroy D, Cohen D. 2006 “A randomized controlled study of effects of dietary magnesium oxide supplementation on bone mineral content in healthy girls.” J Clin Endocrinol Metab. 2006 Dec;91(12):4866-72.

・Dimai HP, Porta S, Wirnsberger G, Lindschinger M, Pamperl I, Dobnig H, Wilders-Truschnig M, Lau KH. 1998 “Daily oral magnesium supplementation suppresses bone turnover in young adult males.” J Clin Endocrinol Metab. 1998 Aug;83(8):2742-8.

・Cinar V, Nizamlioglu M, Mogulkoc R, Baltaci AK. 2007 “Effects of magnesium supplementation on blood parameters of athletes at rest and after exercise.” Biol Trace Elem Res. 2007 Mar;115(3):205-12.

・Fuentes JC, Salmon AA, Silver MA. 2006 “Acute and chronic oral magnesium supplementation: effects on endothelial function, exercise capacity, and quality of life in patients with symptomatic heart failure.” Congest Heart Fail. 2006 Jan-Feb;12(1):9-13.

・Mooren FC, Krüger K, Völker K, Golf SW, Wadepuhl M, Kraus A. 2011 “Oral magnesium supplementation reduces insulin resistance in non-diabetic subjects – a double-blind, placebo-controlled, randomized trial.” Diabetes Obes Metab. 2011 Mar;13(3):281-4.

・Hadjistavri LS, Sarafidis PA, Georgianos PI, Tziolas IM, Aroditis CP, Hitoglou-Makedou A, Zebekakis PE, Pikilidou MI, Lasaridis AN. 2010 “Beneficial effects of oral magnesium supplementation on insulin sensitivity and serum lipid profile.” Med Sci Monit. 2010 Jun;16(6):CR307-312.

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・井上正子監修 新しい栄養学と食のきほん事典 西東社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

もっと見る 閉じる

ページの先頭へ