ライチとは?
●基本情報
ライチは、ムクロジ科レイシ属の常緑高木植物[※1]です。
高さが5~15mにもなり、2~3月に花を咲かせ、6~7月に果実が熟します。
初夏に旬を迎えるライチは、暗紅色をしたうろこ状の皮に覆われています。皮は簡単にむくことができ、皮をむくと白色で半透明のゼリー状の果肉が現れます。個性的な香りを持つ果肉は甘みと酸みのバランスが良くジューシーな味わいが特徴です。果肉の中には大きめの種がひとつ入っています。
唐の時代の書物に「ライチは枝から穫ると1日で色が変わり、2日で香りが変わり、3日で味が変わり、4日で色も香りも消えてなくなる」と記されているように生のライチは傷みやすく、あまり日持ちしません。そのため、冷凍品や缶詰、酒類の香料として多く出回っています。新鮮な生のライチは冷凍品とは比べ物にならない程香りが強く、味に深みがあります。
中国では古くは強壮剤として用いられ、またライチの種子は漢方薬の「レイシカク」として使われています。
ライチの語源は中国語の呼び名である「茘枝(リーチー)」を音読みしたもので、属名であるレイシもこれに由来します。
ライチは中国では縁起の良い果物とされています。ライチは立子(子どもをもうける)に通じ、夫婦の円満や子孫の誕生などに象徴されます。
ライチの品種には、黒葉や妃子笑(ひししょう)、熟しても果皮が緑色の玉荷包(ぎょくかほう)などがあります。
<豆知識①>楊貴妃が愛した果実、ライチ
ライチは「美の果実」と呼ばれ、世界三大美女のひとりに数えられている楊貴妃が愛したことで有名です。唐の玄宗皇帝は、ライチが食べたいという楊貴妃のために、中国本土でも5月の1ヵ月間しか出回らない幻のライチを、広東地方から長安までの数千里もの距離を3日間で運ばせたといわれています。
楊貴妃の美しさの秘訣はライチにあったのではないか、ともいわれています。
●ライチの原産地・生産地
ライチの原産地は、中国南部からベトナム北部です。
現在は主に中国や台湾、インドなどの熱帯・亜熱帯地域で生産されています。日本国内では、沖縄県や鹿児島県で生産されていますが、国内で流通しているライチの多くは台湾や中国などから輸入されたものです。
●ライチの歴史
中国南部では3000年も前からライチが生産されていたといわれています。中国の古い書物によると、漢の時代にはすでにライチが皇帝への献上物として珍重されていたとされています。当時は、のどの渇きを潤したり、疲労回復の薬として使われていました。中国の薬学の書籍である本草綱目には、ライチの種に薬効があるあるとされ、記載されています。日本には、1720年頃に伊豆大島に、江戸時代の終わり頃に鹿児島県に伝えられたといわれています。
●ライチに含まれる成分と性質
ライチには、葉酸が豊富に含まれています。葉酸は「造血のビタミン」とも呼ばれ、造血や細胞の生まれ変わりに関わり、胎児の発育に必要不可欠な成分であると考えられています。胎児が発育する妊娠中の女性や、乳幼児期、成長期の子どもに特に必要な栄養素とされ、厚生労働省によって妊娠中は妊娠していない時の2倍近い量の葉酸の摂取が推奨されています。
他にもライチには、ビタミンCなどのビタミン類、カリウムや銅などのミネラル類、ロイコシアニジンなどのポリフェノールなどが豊富に含まれています。
ビタミンCやロイコシアニジン、アントシアニンなどのポリフェノールは、強い抗酸化作用を持つことで有名です。
抗酸化作用とは、紫外線や喫煙、ストレスなど生活の様々な場面で発生する活性酸素[※2]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きのことです。
人間の体内に活性酸素が過剰に発生し酸化が起こると、病気や老化、肌トラブルが引き起こされます。ライチに含まれる抗酸化物質が体内で強い抗酸化力を発揮して酸化から体を守ることで、病気や老化、肌トラブルを予防することができます。
また、ビタミンCがコラーゲンの合成をサポートすることで骨を丈夫にしたり、血管から出血しやすくなる壊血病[※3]などを予防する働きがあります。
さらに、ライチの種子にもサポニンやタンニン、アントシアニンなどが含まれています。その抽出物にもコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸の分解を抑える効果が報告されています。
[※1:常緑高木植物とは、幹や枝に一年中葉がついていて、樹高が5m以上の植物のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※3:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
ライチの効果
ライチには、葉酸やビタミンCなどのビタミン類、カリウムや銅などのミネラル類、ロイコシアニジンなどのポリフェノールなどが豊富に含まれているため、以下のような健康に対する効果が期待されています。
●妊娠中の方など女性の健康を保つ効果
ライチに含まれる葉酸には核酸がうまく働くためのサポートをする働きがあります。
人間は約60兆個の細胞からできており、常に細胞の生まれ変わりが行われています。核酸は細胞の生まれ変わりをコントロールする重要な存在です。葉酸が不足すると核酸がうまく働かなくなり、細胞の生まれ変わりが正しく行われなくなります。
特に、赤ちゃんの新しい細胞や血液がつくられる妊娠期や授乳期のお母さんにとって、葉酸は必要不可欠な栄養素です。妊娠中だけでなく、妊娠前から葉酸を摂取することにより、赤ちゃんの神経系の病気の発生リスクを軽減させることができるといわれています。
●貧血を予防する効果
ライチに豊富に含まれる葉酸は、ビタミンB12とともに赤血球をつくるために欠かせない成分です。赤血球は、呼吸をした際に肺に取り込まれた酸素を全身に運ぶ役割を果たしています。赤血球の量が減ると、細胞に供給される酸素が不足するため、顔が青白くなる、少し動いただけでも息切れがする、動悸が起こる、疲れやすくなる、立ちくらみがするなどの貧血症状が引き起こされます。
ライチには、鉄と協力して赤血球を形成する働きを持つ葉酸に加え、鉄の吸収を高めるビタミンCや銅も豊富に含まれているため、貧血の予防・改善に適した果実であると考えられています。
●高血圧を予防する効果
ライチにはカリウムも豊富に含まれています。
カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合って、血圧を正常に保つ働きをしています。
味の濃い食事などによって過剰に塩分を摂り続けると血液中のナトリウムが増え、高血圧を引き起こす原因となります。ライチにはナトリウムを体外に排泄する働きも持つカリウムが含まれているため、高血圧の予防効果が期待されています。
●むくみを予防・改善する効果
ライチに含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがあります。そのため、ライチには細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防・改善に効果があると期待できます。
●動脈硬化を予防する効果
血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増加すると、血管の内壁が脂質で分厚くなり、こぶのようにせり出して血管を狭めるため、高血圧や動脈硬化などが引き起こされます。ライチに含まれるビタミンCや、ロイコシアニジンなどのポリフェノールには、血中の悪玉(LDL)コレステロールを減少させる働きがあります。そのため、ライチは動脈硬化などの生活習慣病の予防に効果的であると考えられています。
●美白効果
シミ・そばかすの原因となるメラニン色素は、アミノ酸の一種であるチロシンから生成されます。ライチに豊富に含まれているビタミンCには、チロシンを生成する酵素であるチロシナーゼの働きを抑制し、メラニン色素の沈着を防ぐ働きがあります。さらに、ロイコシアニジンなどのポリフェノールには、細胞の酸化を抑制し肌のシミやしわ、そばかすなどを防止する働きもあるため、ライチには美白効果があると考えられています。【1】
●血糖値を下げる効果
ライチの種子抽出物をマウスに皮下注射させる実験で、ライチ種子に血糖降下作用があることが明らかになっています。【5】
ライチは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○妊娠中の方、妊娠を考えている方
○貧血でお悩みの方
○血圧が高い方
○手足のむくみでお悩みの方
○動脈硬化を予防したい方
○美肌を目指したい方
○血糖値が気になる方
ライチの研究情報
【1】ライチ果実から抽出した生理活性物質の特定を行いました。ライチ抽出物は、高い抗酸化活性(DPPHラジカル補足能、ABTS・FRAP抗酸化能)を示し、またチロシナーゼを抑制する働きもありました。以上のことから、ライチ果実抽出物は化粧品成分として有用であることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22889092
【2】ライチによるラットCCl4誘発肝毒性に対する作用について調べました。ライチ抽出物100mg/kg、500mg/kgの投与は、CCl4誘発によるALP、GPT、GOTの数値の上昇を有意に抑制し、形態学的な病変を防ぎました。これらのことからライチ抽出物は、 肝保護作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21540102
【3】ライチ抽出フェノール類は、リノール酸やDPPHラジカル、ヒドロキシラジカルを抑制しました。ライチはこの抗酸化作用によって実果皮の褐色変化を防いでいることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17851428
【4】ライチの花抽出エキスの抗酸化活性を測定しました。ライチ花抽出エキスは、Cu(Ⅱ)に誘発されるLDLタンパク、ヒト血液酸化ラジカル、ペルオキシラジカルによる赤血球溶血を抑制しました。これらの抽出物を測定すると、ライチ花には抗酸化能の強いゲンティスティック酸、エピカテキンが存在することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22417418
【5】ライチ抽出物から単離したαメチレンシクロプロピルグリシンを60、130、230、400mg/kg、マウスへ皮下投与した結果、マウスの血糖値を濃度依存的に下げることがわかりました。このことから、ライチ種子エキスには、血糖降下作用があると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13901296
参考文献
・Kanlayavattanakul M, Ospondpant D, Ruktanonchai U, Lourith N. (2012) “Biological activity assessment and phenolic compounds characterization from the fruit pericarp of Litchi chinensis for cosmetic applications.” Pharm Biol. 2012 Aug 14. [Epub ahead of print]
・Bhoopat L, Srichairatanakool S, Kanjanapothi D, Taesotikul T, Thananchai H, Bhoopat T. (2011) “Hepatoprotective effects of lychee (Litchi chinensis Sonn.): a combination of antioxidant and anti-apoptotic activities. J Ethnopharmacol. 2011 Jun 14;136(1):55-66. Epub 2011 Apr 20.
・Duan X, Wu G, Jiang Y. (2007) “Evaluation of the antioxidant properties of litchi fruit phenolics in relation to pericarp browning prevention.” Molecules. 2007 Apr 11;12(4):759-71.
・Chen YC, Lin JT, Liu SC, Lu PS, Yang DJ. (2011) “Composition of flavonoids and phenolic acids in lychee (Litchi Chinensis Sonn.) Flower extracts and their antioxidant capacities estimated with human LDL, erythrocyte, and blood models.” J Food Sci. 2011 Jun-Jul;76(5):C724-8. doi: 10.1111/j.1750-3841.2011.02164.x. Epub 2011 May 17.
・GRAY DO, FOWDEN L. (1962) “alpha-(Methylenecyclopropyl)glycine from Litchi seeds.” Biochem J. 1962 Mar;82:385-9.