ハスの実とは?
●基本情報
ハスの実とは、スイレン科の多年草[※1]のハスの花托(かたく)[※2]から採れる種子のことです。世界の熱帯・温帯地域にかけて広く自生し、沼や池、水田で栽培されています。
ハスは水生植物で、地中の地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を出します。葉・茎・花には空気を運ぶための通気孔があり、全ての部分が縦に貫通していることが特徴です。地下茎は野菜の一種であるレンコンとして親しまれています。
ハスは夏の早朝に紅色や白色などの美しい大きな花を咲かせますが、昼を過ぎるとすぐに閉じてしまいます。花の開閉を3回繰り返し、4回目に開いた際には閉じることなく散っていきます。
秋になると花托が肥大し、蜂の巣のような形になります。上面にあいたたくさんの穴に入っている種子がハスの実と呼ばれるものです。ハスの実は、緑色でどんぐりのような形をしています。甘みと苦みがあり、生のトウモロコシに似た食感があります。
ハスの実である種子は千年以上も発芽力が消失しない程、強い生命力を持っているといわれています。
<豆知識①>象徴としてのハス
日本ではハスの地下茎であるレンコンが、通気孔である穴を持っていることから「見通しが良い」といわれ、縁起が良い野菜であると考えられています。おせち料理の食材としても知られています。
古代インドでは、神がハスから誕生したという神話から吉祥の象徴とされたり、種子であるハスの実が多くつくことから生命や多産のシンボルとされています。
また、ハスは泥の沼の中から出てきたとは思えないような美しい花を咲かせ、花と同時に実をつけます。このため仏教では、迷いの世界(泥水)の中にあっても、迷いに染まらず悟り(花と実)を得ることをハスの花に例え、仏教の台座である蓮台[※3]にハスの花の形が使われています。
日本や中国では、仏教での極楽浄土とは蓮池のことであるとされていたため、寺院などの境内には蓮池がよく見られます。
<豆知識②>ハスの葉の表面張力
ハスの葉の表面には数マイクロメートル[※4]程の非常に小さなデコボコがあり、そのデコボコの表面にはさらに小さな突起がついています。そのため、表面張力が働き、ハスの葉は雨に濡れることも泥で汚れることもありません。
この構造を参考にしたコーティング技術の研究が進められ、家の外壁やトイレの便器、繊維などに応用されたり、雨が降っても窓に水玉がつかず、ワイパーを必要としない自動車などが開発されています。
●ハスの名前の由来
ハスの実がつく花托が蜂の巣とよく似ていることから「蜂巣(はちす)」と呼ばれていましたが、その後、蜂巣が略されてハスと呼ばれるようになりました。漢字の「蓮(ハス)」は漢名からきたもので、ハスの実が連なって実ることからこの漢字が使われるようになったといわれています。
●ハスの実の歴史
ハスは、白亜紀後期の約1億年前には地球上に出現していたとされている植物です。
インドでは紀元前3000年もの古い時代からハスが食用とされていただけではなく、宗教などにも深く関わっていると考えられ大切にされてきました。ハスの実は、松の実やクコの実と同様に健康食品として重宝され、古代中国では皇帝への貢物として用いられていました。今でも精進料理に欠かすことのできない食材です。日本でも約2000年前の弥生時代の地層からハスの実が発見されていることから、古くから親しまれていた植物であったと考えられています。
<豆知識③>大賀ハス
1951年、千葉県にある東京大学検見川の落合遺跡から、植物学者である大賀一郎博士により今から2000年以上前のものとされる古代のハスの実が発掘されました。発掘された3個のハスの実のうちのひとつを発芽・開花させることに成功し、国内外に「世界最古の花・生命の復活」と伝えられ、注目を集めました。その後、その種子であるハスの実が「大賀ハス」として日本各地をはじめ世界各国に伝えられ、友好親善を深めています。
1993年、大賀ハスは「千葉市の花」に指定され、千葉公園に移植されました。毎年6月下旬から7月にかけて美しい花を咲かせています。
●ハスの実の用途
未熟なハスの実は柔らかく甘みがあるため、剥いて生のまま食べられます。熟すにつれて暗黒色の硬いハスの実となります。熟したハスの実は煮たり、炒めたりする他、天日干しをして乾燥させて食べられています。また、甘納豆や汁粉にしたり、中国や台湾ではつぶしたハスの実を餅にして、月餅や最中などのお菓子の材料に使用しています。ハスの実の芯の部分を集め、お茶にして飲まれる場合もあります。
ハスの実を入れたお粥は、造血作用や精力の強化などに効果があるとされ、薬膳料理[※5]としても親しまれています。
●ハスの実に含まれる成分と性質
ハスの実には、ビタミンB₁、カリウムやカルシウムなどの体をつくることに必要不可欠なミネラル、食物繊維などが豊富に含まれています。
漢方では、ハスの実が「連実(れんじつ)」と呼ばれ、滋養強壮や婦人病、下痢止めなどに効果があるといわれています。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:花托とは、花びら・雄しべ・雌しべ・萼(がく)などを支えるための、花の台座となる部分のことです。]
[※3:蓮台とは、蓮華の形につくられた仏様が座る台座のことです。]
[※4:マイクロメートルとは、長さの単位で、1マイクロメートルは1000分の1mmです。]
[※5:薬膳料理とは、健康保持のための食事として、中国の医食同源(薬食同源)の考えから生まれた漢方薬の材料を使った中国料理のことです。]
ハスの実の働き
ハスの実には、ビタミンB₁やカリウム、カルシウム、食物繊維などが豊富に含まれており、これらの成分には以下のような健康に対する効果・効能が期待できます。
●婦人病の予防・改善効果
ハスの実には、生薬として婦人病の予防や改善に効果があると期待されています。
自律神経と月経周期をコントロールする女性ホルモンは密接に関係しており、自律神経の働きの乱れは月経痛や月経異常などの婦人病の一因となります。ハスの実には自律神経の働きを安定させる作用があるとして、婦人病の予防や改善に効果があるといわれています。また、ハスの実には精神を安定させ、イライラを鎮める効果も期待されています。【1】
●むくみの予防・改善効果
ハスの実には、生薬として自律神経を安定させる効果があるといわれています。そのため、ハスの実は自律神経の乱れが原因で起こるむくみや体温低下の予防、改善に効果があると考えられています。
また、ハスの実に含まれるカリウムには、体内の余分な水分を排出する働きがあるため、細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防や改善にも効果を発揮します。
●胃腸の機能を高める効果
ハスの実には、胃腸の機能を高める効果があるといわれています。
ハスの実には自律神経を安定させる働きがあるため、ストレスなどで自律神経のバランスが崩れ、胃腸の機能異常が原因で起こる下痢や便秘などを改善する効果が期待されています。
さらに、ハスの実には食物繊維が含まれています。食物繊維は体内で腸を刺激して、腸のぜん動運動[※6]を活発にさせる働きがあります。そのため、ハスの実を摂取することは便秘の解消や腸の病気の予防に効果があるといわれています。【2】
●疲労回復効果
ハスの実には糖質が豊富に含まれているため、ハスの実を摂取することで体を動かすエネルギー源を補うことができます。
さらに、ハスの実にはビタミンB₁が含まれています。糖質の代謝が上手く行われないと糖質はエネルギーになりきれず、疲労物質である乳酸に変わってしまいます。ビタミンB₁は体内で糖質の分解を助け、効率よくエネルギーへと変換するサポートをするため、疲労回復に効果があります。
●高血圧を予防する効果
ハスの実には、カルシウムやカリウムなどのミネラルが豊富に含まれています。
ミネラルは体をつくることに必要不可欠な栄養素です。カルシウムは骨の主要な構成成分であり、不足すると骨密度[※7]の低下を招き、骨折しやすくなったり、骨粗しょう症[※8]を引き起こしやすくなります。そのため、カルシウムの摂取は非常に重要だといわれています。さらに、カルシウムは血液や筋肉にも存在し、血液凝固や精神安定、筋肉の働きをサポートしています。
カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合って存在し、体内の水分調節や、神経の伝達にも関わっています。塩分を多く含んだ食生活をしていると体内にナトリウムと水分が溜まり、血管が圧迫され高血圧などになりやすくなります。カリウムには余分なナトリウムと水分を体外へ排出する働きがあるため、高血圧の予防にも効果があります。
鉄などのミネラルを含むハスの実には、体の機能を正常に保つ効果も期待できます。
他にハスには免疫機能を調節することで自己免疫疾患予防効果、抗炎症作用も報告されています。【3】【4】【5】【6】
[※6:ぜん動運動とは、腸に入ってきた食べ物を排泄するために、内容物を移動させる腸の運動です。]
[※7:骨密度とは、骨の密度をいいます。一定の面積あたり骨に存在するカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを示し、骨の強度を表します。]
[※8:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
ハスの実は食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○月経によるお悩みがある方
○手足のむくみでお悩みの方
○腸内環境を整えたい方
○便秘でお悩みの方
○イライラしやすい方
○疲れやすい方
○高血圧を予防したい方
ハスの実の研究情報
【1】マウスにおいて、ハス種子を摂取させたところ、運動活動性が緩和されました。ハス種子エキスには精神鎮静作用が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19010651
【2】下痢ラットにおいて、ハスの地下茎抽出物を100, 200, 400, 600mg/kg を摂取させたところ、糞便の湿潤性の改善と、蠕動運動の緩和が見られたことから、ハスに下痢止め作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9776868
【3】ヒツジ赤血球細胞に、ハスの地下茎ならびに種子抽出物を100, 300mg/kg を投与すると、白血球とリンパ球は増加し、好中球数が減少したことから、ハスが免疫調節機能を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20079418
【4】自己免疫性疾患マウス(全身性エリテマトーデス)において、ハスの機能性成分アルメパビンを6週間摂取させたところ、リンパ節膨張が抑制され、マウスの寿命も延長しました。また炎症性物質IL-2, 4, 10 およびINF-γ、自己免疫抗体の減少が見られました。ハスには自己免疫疾患予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16413531
【5】マウスにおいて、ハスの胚芽油を49日間摂取させたところ、肝臓内の抗酸化酵素グルタチオン、SOD活性、カタラーゼ活性が向上し、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒドが減少したことから、ハスには抗酸化酵素を向上させることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22321734
【6】アレルギー誘発ラットにおいて、ハスの有効成分ベツリン酸を1日当たり400mg/kg を経口投与したところ、炎症症状に緩和が見られたことから、ハスに抗炎症作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9270384
【7】動物(コイ)において、重金属中毒に対する解毒作用を調査した結果、ハスを1日当たり500mg/kgの量で摂取させたところ、重金属中毒による赤血球の減少や血糖値、血中コレステロールの増加が抑制されました。ハスには重金属中毒などに対する解毒作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21331178
参考文献
・本多京子 食の医学館 小学館
・Sugimoto Y, Furutani S, Itoh A, Tanahashi T, Nakajima H, Oshiro H, Sun S, Yamada J. 2008 “Effects of extracts and neferine from the embryo of Nelumbo nucifera seeds on the central nervous system.” Phytomedicine. 2008 Dec;15(12): 1117-24.
・Prager N, Bickett K, French N, Marcovici G. 2002 “A randomized, double-blind, placebo-controlled trial to determine the effectiveness of botanically derived inhibitors of 5-alpha-reductase in the treatment of androgenetic alopecia.” J Altern Complement Med. 2002 Apr;8(2):143-52.
・Mukherjee D, Khatua TN, Venkatesh P, Saha BP, Mukherjee PK. 2010 “Immunomodulatory potential of rhizome and seed extracts of Nelumbo nucifera Gaertn.” J Ethnopharmacol. 2010 Mar 24;128(2): 490-4.
・Liu CP, Tsai WJ, Shen CC, Lin YL, Liao JF, Chen CF, Kuo YC. 2006 “Inhibition of (S)-armepavine from Nelumbo nucifera on autoimmune disease of MRL/MpJ-lpr/lpr mice.” Eur J Pharmacol. 2006 Feb 15;531(1-3): 270-9.
・Lv L, Jiang C, Li J, Zheng T. 2012 “Protective effects of lotus (Nelumbo nucifera Gaertn) germ oil against carbon tetrachloride-induced injury in mice and cultured PC-12 cells.” Food Chem Toxicol. 2012 May;50(5): 1447-53.
・Mukherjee PK, Saha K, Das J, Pal M, Saha BP. 1997 “Studies on the anti-inflammatory activity of rhizomes of Nelumbo nucifera.” Planta Med. 1997 Aug;63(4):367-9.
・Vinodhini R. 2010 “Detoxifying effect of Nelumbo nucifera and Aegle marmelos on hematological parameters of Common Carp (Cyprinus carpio L.). ” Interdiscip Toxicol. 2010 Dec ; 3(4): 127-31.