脂質

lipid

三大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質)の中で最もエネルギーが高く、体を動かすパワーの源です。水に溶けない有機化合物であり、脂肪を体内に蓄える力があります。細胞膜など体の構成成分としてエネルギーと水分を体内に貯蔵する大事な供給源として働きます。

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脂質とは

●基本情報
脂質は、脂肪酸とグリセリンが結合した高分子化合物です。体内で酸化を受け、1g当たり9kcalのエネルギーを生じます。
脂質は非常にたくさんの種類があります。体内では多くが中性脂肪として存在し、コレステロールも脂質の一種です。
少量でも多くのエネルギーを得ることができる効率の良いエネルギー源で、使用されない分は皮下や腹腔内に蓄えられ中性脂肪となって貯蔵されます。
体脂肪は体温を維持したり、内臓のクッション役として体内機能を守る働きもします。
また体を動かすエネルギー源となるほか、細胞膜や血液、ホルモンの材料となります。しかも体内でつくることのできない必須脂肪酸が含まれており、細胞膜の成分やホルモンの材料として役立つため、不足すると発育や皮膚の健康に影響が出てしまいます。また、脂質は腸に到達すると脂肪分解酵素によって脂肪酸とグリセリンに分解されますが、このとき腸が刺激を受けることで、排便が促されます。
脂質は食事のおいしさを高め、水分がなくても吸収できるため脂肪量が高いと食事のかさが減り、必要以上に食べ過ぎてしまいがちです。脂肪の摂り過ぎは肥満を引き起こすため適度な摂取が必要です。

●脂質の種類
脂質には、常温で液体の「油」と、常温で固体の「脂」があります。
またアルコールと脂肪酸のみからなるものを単純脂質、分子中にリン酸や糖などを含む脂質を複合脂質といい、それら単純脂質や複合脂質から加水分解によって誘導されたものを誘導脂質といいます。コレステロールは動物における代表的な誘導脂質です。

●脂質の特徴
脂質の主成分は脂肪酸で、炭素、水素、酸素からできており、それぞれの結合の形で飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸に分かれます。飽和脂肪酸は炭素同士の二重結合がない脂肪酸で牛脂やラードの動物性脂肪に多く含まれています。低い温度でも固まりやすい性質を持つため、人の体内では固まりやすくなります。このため過剰に摂ると血液の粘度が増して動脈硬化になりやすくなります。不飽和脂肪酸は炭素同士が二重結合で結ばれた脂肪酸で、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸があり、悪玉(LDL)コレステロールの抑制や過酸化脂質の発生を予防する効果があります。不飽和脂肪酸は魚やオリーブオイルなどに多く含まれているため手軽に摂ることが可能です。
不飽和脂肪酸の一種であるリノール酸やα-リノレン酸などは必須脂肪酸とも呼ばれ人間に必要不可欠な栄養素なのですが、これらは体内で生成することができないので、主に食品から摂取する必要があります。
必須脂肪酸以外で有益とされているものはDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸です。マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸などは不飽和脂肪酸の一種なのですが摂り過ぎると悪玉(LDL)コレステロールを増加させるといわれています。
また脂質は脂溶性ビタミンであるビタミンA、ビタミンK、ビタミンD,ビタミンEなどの吸収にも関わり、ビタミンの吸収もサポートします。

<豆知識①>1日の食事摂取基準
脂質は1日の摂取エネルギーの20~30%ぐらい摂ると良いとされています。
1日に約2000kcal必要な人であれば、脂質は1gで9kcalのエネルギーを作るので約50gです。そのうち食材の中に含まれている油分もあるので、調理するときや食べるときに使える油の目安量は約15gとなります。たとえばトーストに薄くバターを塗って約5g、天ぷらやフライ1人前で油脂約10g程度の油を簡単に摂れてしまいます。普段の食生活で脂質を摂り過ぎていないか注意が必要です。

<豆知識②>生活の中で気をつけるポイント
脂質は体を動かすエネルギー源であり、皮膚や粘膜の健康を保ち、脂溶性ビタミンの吸収を助けてくれます。脂質が不足するとホルモンバランスが崩れたり、便秘や肌荒れの原因になります。
ダイエット中の方で極端に脂質を摂らない方がいますが、お肌の調子やホルモンバランスに影響が出ますので、適度に食事に取り入れましょう。その時は、様々な健康効果の期待できる「不飽和脂肪酸」を多く含む、オリーブオイルや菜種油、ひまわり油などを選ぶと良いでしょう。

脂質の効果

●エネルギーを生成する効果
脂質は少量でも多くのエネルギーを得ることができる効率のよいエネルギー源です。使われなかったエネルギーは多くが中性脂肪となって貯蔵されます。
糖質は水に溶けてしまうのに対し、脂質は溶けないため貯蔵にぴったりです。またエネルギーに変化するときに水を生み出すため、エネルギーと水を同時に貯蔵することができます。
脂質は高エネルギーで効率の良いエネルギー源となります。【1】

●体温を保持する効果
脂質は炭水化物やたんぱく質が働いて生み出した熱を守り、体脂肪として体温を保持します。
脂質があることで一定の体温維持が可能となり、逆に脂質が不足するとエネルギー不足になりやせ細ります。そればかりか血管や細胞ももろくなり、体温保持もしにくくなるため適度な摂取が重要です。

●脂溶性ビタミンの吸収を促進する効果
ビタミンAやビタミンEは脂溶性ビタミンと呼ばれ、脂質と結びつくことで吸収力が上がり、体内で効率良く働きます。また消化や吸収、排泄をスムーズに行うために脂質が働きます。脂質はエネルギーとなるほかに体内の流れをスムーズにさせる効果があります。なめらかな肌や柔らかな体は脂質が適度に含まれてこそ美しいものです。潤いを守り健康な体を保つために脂質を上手に摂取することで、脂溶性ビタミンの吸収促進効果を発揮します。【3】

脂質は食事やサプリメントで摂取できます

脂質を多く含む食品

○油脂類:ラード、マヨネーズ、マーガリン、バター、チーズ
○食用油:ごま油、大豆油、コーン油、オリーブ油、
○肉類:脂身の多い肉(霜降り肉、ロース、ひき肉、皮など)
○魚介類:油ののっている魚(さば、さんま、ぶり、まぐろ、トロ)
○食材類:マカダミアナッツ、くるみ、サラミ、ソーセージ、生クリーム

こんな方におすすめ

○活力をつけたい方
○食欲不振の方
○丈夫な体をつくりたい方

脂質の研究情報

【1】35-57歳の男性を12年間追跡調査した結果、血清コレステロール値が160mg/dL 以下で死亡率が上昇することが明らかとなったことから、脂質が生命活動に必要不可欠なものであると考えられています。

【2】神経組織に多く発現しているシアル酸を有するスフィンゴ糖脂質、ガングリオシドの神経系における生理的機能に関する解析の結果、複合型ガングリオシドが神経機能の維持や修復に必須であることが明らかとなったことから、脂質は神経機能維持に欠かせないものであると考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006607738

【3】血中のトリグリセライドが低値を示す病気(β-リポ蛋白欠損症、Bassen-Korn-zweng症候群)では、肝細胞内でのトリグリセライド運搬タンパク質の異常を引き起こし、ビタミンEなどの脂溶性ビタミン、コレステロール値などが低下します。臨床症状として網膜色素変性症、棘状赤血球、失調症などが現れることが知られています。このことから、脂質が脂溶性ビタミンやコレステロールの吸収に関係していると考えられています。

参考文献

・吉田企世子 あたらしい栄養学 高橋書店

・工藤秀機 蒲池桂子 栄養を知る事典 日本文芸社

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版

・中屋 豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・田島 織絵、古川 圭子 (2007) “スフィンゴ糖脂質欠損マウスを用いた加齢に伴う神経の変性と再生関連分子の探索” 中部大学生命健康科学研究所紀要 3, 47-51, 2007-03

・中村 治雄 “トリグリセライド低値” 血清脂質のやさしいみかた 7-8

・Neaton J.D. et. al (1992) “Serum cholesterol and mortality” Arch. Int. Med. 152:1490, 1992

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