ラベンダー

Lavender

ラベンダーは安全で使いやすく、身体と精神の両面に良い効果をもたらすため、古くから愛されている万能ハーブです。筋肉痛、神経痛、生理痛などの痛みを和らげるほか、血圧を下げ心拍を鎮めるなど幅広く作用し、切り傷ややけどにも使用でき、皮膚細胞の活性化を助けます。また、ストレスの影響を受ける心を癒やし、怒りを鎮静させ、精神をリラックスさせます。

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ラベンダーとは?

●基本情報
ラベンダーは、地中海西部の森林の豊かな地域が原産のシソ科の多年草で、数千年に渡り最も愛されてきた芳香性ハーブです。すがすがしい香りと可憐な花で「ハーブの女王」とも呼ばれ、栽培品種は100種類を超えるといわれています。
ラベンダーはヨーロッパやアフリカ、アメリカに広く分布し、花色は白、淡紫から濃紫までと幅広く、草姿は形や高さも様々です。主に栽培されている品種に、イングリッシュラベンダー(コモンラベンダー)、フレンチラベンダー(ストエカス)などがあります。
ラベンダーは観賞用として花を楽しむほか、花や茎葉など全草に香原料として芳香成分を含有しているため、ハーブティーや精油(エッセンシャルオイル)、入浴剤、ドライフラワー、ポプリなどに利用されています。
蒸留して得られた精油は香料や香水の材料になりますが、ラベンダーの精油は、アロマテラピーにおいて頻繁に使われています。精油の主成分は酢酸リナリル[※2]を中心とするエステルやリナロールなどのモノテルペンアルコール[※3]で、緊張やストレス、不安感をやわらげる鎮静・鎮痙作用と、抗菌・抗真菌作用を発揮します。このメカニズムは、大脳辺縁系を介しての自律神経系への芳香効果と、平滑筋に対する神経伝達物質の関与による直接的な効果の複合作用と考えられています。そのため、精油はリラックスを目的としたオイルマッサージに繁用されています。
現在でも、ドイツでは不安や不眠対策に茶剤として利用したり、神経痛には外用アルコール製剤を塗布するなどして用いられています。この他にも、神経性による胃炎や胃腸の不快感、ロエムヘルド症候群[※3]などの機能的な腹部の失調に対して、ドイツのコミッションE[※4]がラベンダーの使用を承認しています。

●ラベンダーの歴史
ラベンダーの語源は、ラテン語で「洗う」という意味の「ラワーレ」に由来しています。古代ギリシャの時代には心身の浄化に用いられ、古代ローマ時代には傷口の洗浄や入浴時の芳香剤、美容のための香料として用いられていました。
その後、中世においては、ドイツの博物・植物学の祖といわれる修道女ヒルデガルドによってヨーロッパ全土に広まったといわれています。
スペインやポルトガルでは、祝福のためにラベンダーが家や教会の床にまかれました。ラベンダーは香りだけでなく、気分を高め、肺炎をはじめとするウイルスと戦い、ハエや蚊を寄せ付けない効果もあります。またイギリスでは、ウイルスや菌、伝染病を追い払うためのかがり火にラベンダーが使われていました。
中世におけるペスト[※5]流行時には、ラベンダー畑で働いていた農夫だけは感染を免れたといわれ、その強い殺菌性や抗菌性を利用して、小枝をローズマリーやアンジェリカと共にペスト患者の家で薫蒸したとされています。そしてフランスでは、伝染病であるコレラ対策にも用いられていました。第一次世界大戦時にはその高い殺菌性により、病院の床や壁の消毒に使われていました。

●ラベンダーの利用法
・ラベンダーティー
ラベンダーは100種を超える品種があり、ハーブティーには主にイングリッシュラベンダーが使用されています。ラベンダーティーは、すがすがしく気品のある香りが特徴です。ラベンダーの香りには、イライラや不眠症、神経性の頭痛やめまいなどに効果があり、気分が落ち着いてリラックスできることがわかっています。そのほか、ラベンダーティーは消化不良、生理不順、腹部にガスが溜まっている時にも役立ちます。
香りが強すぎて飲みにくい場合は、ほかのハーブに少しだけブレンドすると香りがやわらぎ、飲みやすくなります。また、ラベンダーティーを使って蒸気を顔に当てるフェイシャルスチームを行えば、肌トラブルの改善にも効果があります。

・ラベンダー精油(エッセンシャルオイル)
ラベンダーの精油は新鮮な花から抽出されます。ラベンダーは代表的な精油として使用され、アロマテラピーでは子どもや高齢者にも安心して使うことができるほど作用が穏やかなため、はじめて精油を使う方に勧められています。
心地よい穏やかな香りは、緊張やストレス、不安感をやわらげ、気分をゆったりと落ち着かせてくれます。また、心地よく眠りたい時には寝室で芳香浴をしたり、就寝前にアロマバス(浴槽に精油を数滴入れる)として使用すると、心身の緊張がほぐれ、心地よく眠ることができます。
最近のアロマテラピーは、頭痛や神経痛、筋肉痛、月経痛などの症状にも効果があるとされています。さらに、抗菌作用や抗炎症作用、消毒作用もあるので、感染症やインフルエンザ、ニキビ、水虫などにも効果が期待できます。そして虫除けや消臭にも役立ちます。

●ラベンダーを摂取する際の注意点
ハーブティーで使用するときは、香りが強いので少量を使用する方が賢明です。
妊婦および授乳中の安全性には正確なデータが無いため、利用は控える必要があります。

[※1:酢酸リナリルとは、ベルガモット様の香りを持つ酢酸エステルです。]
[※2:モノテルペンアルコールとは、10個の炭素原子を持つ鎖状炭素骨格に水酸基が結合した化合物のことです。]
[※3:ロエムヘルド症候群とは、胃のガス増加・貯留が原因で横隔膜が上がって心臓の位置が移動することにより、運動が妨げられて起こる、狭心症状や各種の胃腸症状を指します。]
[※4:コミッションEとは、ドイツ連邦保健庁の薬用植物の評価委員会のことです。 医薬品としてハーブを利用する際、安全性・効果の評価の実施、医薬品として承認するための組織です。]
[※5:ペストとは、ペスト菌の感染によって発症する急性感染症のことです。皮膚の変色から黒死病ともいわれます。]

ラベンダーの効果

●リラックス効果
ラベンダーの精油の香りやハーブティーは、体と心の両方にリラックス効果をもたらします。精油に多く含まれる酢酸リナリル成分が神経を鎮静させるといわれ、不眠の改善に働きます。さらにラベンダーの香りは、怒りをやわらげ中枢神経のバランスを回復させるといわれ、ストレスや不安、落ち込んだ気分などの神経疲労に活力を与え、心の不調を取り除いてくれます。

●疲労回復効果
ラベンダーには、手足の冷えや筋肉のこりをやわらげてくれる作用があり、疲労回復に効果があります。

●頭痛・生理痛を緩和する効果
ラベンダーのリラックス効果は、中枢神経に働きかけ神経のバランスを取り戻してくれます。精油に多く含まれる酢酸リナリルという成分が神経を鎮静させるとともに痛みをやわらげる効果があるため、頭痛・生理痛にも効果を発揮します。

●風邪の症状を緩和する効果
ラベンダー精油には優れた消毒作用があるため、普段から芳香浴などをすると、部屋の空気も浄化されるため、風邪予防につながります。ハーブティー、精油の蒸気吸入あるいは肌に擦り込んで揮発成分を吸わせるヴェポラップとして用いると、風邪はもちろん、咳、喘息、気管支炎、インフルエンザ、扁桃炎、咽頭炎にも効果的です。また、ラベンダーティーは解熱作用や体内の解毒作用を持っているため、発汗を促して熱を下げると同時に体外に毒素を排出してくれます。【3】

●美肌効果
ラベンダーは、外用殺菌消毒薬として切り傷ややけど、ただれやにきびなどに効果があります。やけどの場合、患部にラベンダーの精油の原液を塗布すると組織の回復を促すため治りが早く、傷跡も残りにくいといわれています。
ラベンダー精油には、皮脂の分泌バランスを整える働きがあります。殺菌効果に加えて、皮膚細胞を活性化させる作用もあるので、湿疹や日焼け、シミの改善にも効果を発揮し、肌トラブルを改善してくれます。

●食欲増進効果
ラベンダーのリラックス効果は、消化器系にも有効で、働きを正常化させる作用があります。緊張や不安による消化器の痙攣や疝痛を鎮め、腹部膨満、腸内ガスの滞留、吐き気、消化不良などを改善して食欲を増進させる効果があります。

ラベンダーは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○ストレスのある方
○寝つきが悪い方
○疲労が溜まっている方
○風邪をひきやすい方
○生理痛で悩んでいる方
○肌トラブルで悩んでいる方

○食欲がない方

ラベンダーの研究情報

【1】30名の若年男性を対象に、ラベンダーが冠循環に及ぼす作用を測定冠動脈血流速 (CFVR)で評価しました。ラベンダーアロマテラピーは血清コルチゾールを有意に減少しましたが、コントロールでは変化は認められませんでした。CFVRは有意にラベンダーのアロマテラピーにより亢進し、血清コルチゾールを減らし、健康な男性でCFVRを改善することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17689755

【2】休憩期間のラベンダー投与が勤務成績に影響するかどうかを調査しました。(1)対照群 :(2)ジャスミン群:(3)ラベンダー群に分けました。参加者はすべてコンピュータモニタに向かい、5つの作業セッションを行います。(各セッションは、60分にわたり、各セッションの間に30分の休憩時間が与えられました)結果、ラベンダー群が、コントロールよりも作業に対する集中力が有意にあることがわかりました。ラベンダーは鎮静型の香りですが、疲労蓄積した後の休憩期間中の使用は、作業の悪化を防ぐことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16162642

【3】原発性月経困難症と生理痛に対するブレンドエッセンシャルオイルの効果について検討しました。2:1:1比でラベンダー、クラリー・セージ、マジョラムをブレンドしたエッセンシャルオイルを、3%濃度の無臭クリーム中で希釈しました。対象とした疼痛の持続時間は、2.4~1.8日までとなり、アロマテラピーによって大幅に減少することがわかりました。このブレンドエッセンシャルオイルは、原発性月経困難症の代替および補完療法となることができると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22435409

参考文献

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・ヴィクトリア・ザック ハーブティーバイブル 東京堂出版

・リエコ・大島バークレー 英国流メディカルハーブ 説話社

・Shiina Y, Funabashi N, Lee K, Toyoda T, Sekine T, Honjo S, Hasegawa R, Kawata T, Wakatsuki Y, Hayashi S, Murakami S, Koike K, Daimon M, Komuro I. (2008) “Relaxation effects of lavender aromatherapy improve coronary flow velocity reserve in healthy men evaluated by transthoracic Doppler echocardiography.” Int J Cardiol. 2008 Sep 26;129(2):193-7. Epub 2007 Aug 8.

・Sakamoto R, Minoura K, Usui A, Ishizuka Y, Kanba S. (2005) “Effectiveness of aroma on work efficiency:lavender aroma during recesses prevents deterioration of work performance.” Chem Senses. 2005 Oct;30(8):683-91. Epub 2005 Sep 14.

・Ou MC, Hsu TF, Lai AC, Lin YT, Lin CC. (2012) “Pain relief assessment by aromatic essential oil massage on outpatients with primary dysmenorrhea:a randomized, double-blind clinical trial.” J Obstet Gynaecol Res. 2012 May;38(5):817-22. doi: 10.1111/j.1447-0756.2011.01802.x. Epub 2012 Mar 22.

・Evandri MG, Battinelli L, Daniele C, Mastrangelo S, Bolle P, Mazzanti G. (2005) “The antimutagenic activity of Lavandula angustifolia (lavender) essential oil in the bacterial reverse mutation assay.” Food Chem Toxicol. 2005 Sep;43(9):1381-7.

・林真一郎 メディカルハーブの事典 東京堂出版

・アン マッキンタイア、Anne McIntyre 、金子 寛子 女性のためのハーブ自然療法―女性の一生涯をハーバルライフで綴ったバイブル 産調出版

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