ヤツメウナギ

Lamprey  Petromyzontiformes
川八目(かわやつめ)  ヤツメ

ヤツメウナギとは、北海道・青森・秋田や、北朝鮮・中国東北部等の河川で漁獲されるヤツメウナギ科の天然魚です。また、ビタミンAの含有量が水産物の中でも上位であり、昔から夜盲症や脚気の薬として用いられてきました。さらに、ビタミンEやコレステロール値を下げる作用のあるDHAやEPAも豊富に含んでいます。

ヤツメウナギとは?

●基本情報
ヤツメウナギとは、ヤツメウナギ目ヤツメウナギ科の円口類の総称で、一般的にはカワヤツメのことを指しています。日本では、茨城県以北の太平洋および島根県以北の日本海に分布しています。海外では、スカンジナビア半島[※1]、朝鮮半島、アラスカなどに生息しており、主に熱帯から寒帯の河川に生息しています。食用としては、干物・燻製・素焼き・椀種[※2]などにして食され、干物は古くから漢方薬としても利用されてきました。
ヤツメウナギ科の仲間として、スナヤツメやミツバヤツメ、シベリアヤツメなどが挙げられます。

体形は約50~60㎝とウナギに似ていますが、目の後方にえら穴が7つあり、目が8つあるように見えることからヤツメウナギと言われています。あごがなく口が吸盤状で、骨はすべて軟骨であり、現存する脊椎動物のうち最も原始的な生物なため、古生代の生物の生きた化石として貴重な存在とされています。ヤツメウナギは養殖が不可能と言われており、市場に出回るものは天然物のみであり、非常に漁獲量が少ないことから流通量も年々減少しています。近年は圧倒的なほど生体の数が減り、絶滅危惧種に指定されています。「幻の生き物」とも呼ばれるほど希少価値の高い魚です。

●ヤツメウナギの歴史
日本では、ヤツメウナギが古くから滋養強壮や薬用食として用いられ、民間薬として目の不調を訴える人たちに「救いの神」として奉られてきました。その歴史は江戸時代にはじまり、水戸藩二代目藩主である水戸光圀が、藩の医者に命じて編集させた有名な家庭医学書である「救民妙薬」[※3]では夜盲症[※4]の薬として紹介されています。また、江戸時代の百科事典「和漢三才図絵」[※5]にも「ヤツメウナギは小児の疳の虫(ひきつけ)・眼疾(目の病気)を治す効がある」と紹介されています。ヤツメウナギは、古くから人々の経験により「食べる薬」として、多くの古文書に記載され、用いられてきました。
現在では、一般的に薬品やサプリメントの原材料となることが多く、乾燥品を粉砕して飲用したり、身や肝から魚油を抽出して利用されています。また食用としては、滋養強壮に最高の健康食品であり、食感はうなぎのような弾力もある反面、コリコリした軟骨があるのが特徴です。蒲焼き・丸焼き・味噌煮・刺身・肝焼きといった方法で食べられることが多く、「寒ヤツメ」と呼ばれる寒い時期に漁獲された脂の乗ったヤツメウナギは、食通の間ではとてもおいしいと重宝されています。

●ヤツメウナギに含まれる成分と性質
ヤツメウナギには、ビタミンA(レチノール)ビタミンDビタミンE・ビタミンB群などのビタミン類や、亜鉛などのミネラル類コエンザイムQ10DHAEPA、多価不飽和脂肪酸のαリノレン酸といった現代病に効果を発揮する健康成分を多く含んでいます。その中でもヤツメウナギは特にビタミンAを多く含んでいるのが特徴です。
ビタミンAは魚の内臓に比較的多く含まれ、サバイワシなどの青魚でもそのほとんどは内臓に蓄えられています。それに対し、ヤツメウナギは内臓だけでなく、肉質部分にまでビタミンAが蓄えており、その量はウナギの3.4倍、ウルメイワシの63倍、マサバの340倍にも達します。
ビタミンAは夜盲症や視力低下に有効に作用することから、治療薬として処方されます。

●ヤツメウナギの雑学
ヤツメウナギは特殊な魚で、幼生期はアンモシーテスと呼ばれ、河川に棲んでいます。目は皮下に埋まり、口も吸盤状ではなく、えら穴も不完全な状態です。孵化をした仔魚は泥が堆積している川の下流に下り、泥の中に潜んで藻類などの有機物を食べて成長します。誕生してから四年目ぐらいの夏の終わりから秋に変態し、海に移動します。海では餌をとらず、吸盤状の口でほかの魚に吸着して、寄生をしています。その際に、体液や血液・身を腺液で溶かして栄養を摂取します。
そして、二年ほどが過ぎた春から初夏に産卵のため川の上流へ遡り、直径1mm程度の卵を産みます。ヤツメウナギの成体の寿命は二年程で、産卵を終えると必ず死んでしまいます。

●ヤツメウナギを摂取する際の注意点
ヤツメウナギはビタミンAの含有量が非常に多いため、一尾をまるごと食べるとビタミンA摂取量が推奨上限を超えてしまいます。そのため、特に妊娠中の方は摂取量に注意が必要です。

[※1:スカンジナビア半島とは、ヨーロッパの北端に位置する大半島です。ノルウェーとスウェーデンの二国が大部分を占めており、フィンランドの北東部も含んでいます。周囲をボスニア湾・バルト海・北海。ノルウェー海・バレンツ海などに囲まれています。]
[※2:椀種(わんだね)とは、吸い物の主となる実のことです。白身魚・鳥肉・豆腐・ゆばなどがあります。]
[※3:救民妙薬(きゅうみんみょうやく)とは、水戸光圀が藩内を巡視の際に、庶民が病気や怪我のときに薬の入手や医者の治療が受けられないことを知って藩の医者に作らせた本のことです。簡単に入手できる薬草や入手は多少困難でも実効性がある薬草の処方を記しています。]
[※4:夜盲症とは、光に対して目の反応が衰え暗い所で物が見えにくくなる症状のことです。鳥目とも呼ばれます。ビタミンAの欠乏症としても知られています。]
[※5:和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)とは、江戸時代中期の図説百科事典のことです。『倭漢三才図会略』とも言われています。]

ヤツメウナギの効果

●夜盲症や視力低下を防ぐ効果
夜盲症とは、夜や暗いところで視力が著しく衰え、よく見えなくなる病気です。
私たちは、明るい所から暗い所に入るとすぐには何も見えない状態ですが、しばらくすると暗さに慣れてまわりが見えてくるようになります。これを暗順応といいます。しかし、暗い所で働く目の網膜の細胞に異常があると、この暗順応が障害されて夜や暗い所で見えにくくなります。
ヤツメウナギに含まれるビタミンAは、目の網膜の細胞内にある光の明暗を感じとる物質の機能を高めてくれます。その光の明暗を感受する物質がロドプシンであり、ビタミンAはロドプシンの構成成分の一つです。
ビタミンAは物の色を見る力にも関わりがあります。目の網膜には光を受ける受容体が多く存在し、昼間は鮮明に、暗い所ではわずかな光でも見分けることができるようになっています。このことから、ビタミンAは目の働きとのかかわりが深いと言えます。

●皮膚と粘膜の健康を保護する効果
ヤツメウナギに含まれるビタミンAは、皮膚および口、鼻、喉、胃、腸などの粘膜にある細胞分裂を助け、細胞を健康に保ちます。また、皮膚や粘膜を構成する上皮細胞の生成に関わり、その機能維持に欠かすことのできない成分です。
皮膚や粘膜は体に病原菌が侵入してくることを防ぐ役割を持ち、その役割が正しく機能することによって、感染症や病原菌から体を守り、全体の免疫力を高めます。
しかし、体内でビタミンAが不足してしまうと、粘膜が乾燥してしまい、傷つきやすくなってしまったりするなど、粘膜保護の弱化は特に目へ短期間で影響を及ぼします。水分の保持能力が低下するとドライアイが起こり、目がしぱしぱしたり、眼精疲労から肩が凝ったりします。そういう粘膜異常による影響が出やすいと言う意味でも、ビタミンAの体への重要性は高いと言えます。

●生活習慣病の予防効果
ヤツメウナギに含まれるDHAには、血管壁の細胞膜を柔らかくする働きがあります。そのため、血流を改善する効果があるといえます。
また、DHAは血液中の中性脂肪やコレステロール生合成を抑制する効果があります。さらに、脂質の酸化を促進し、血液中の脂質を低下させることで高脂血症の改善や、予防の効果が得られます。これらの働きにより、血流を改善し、動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞などの生活習慣病の予防への効果が期待されています。

こんな方におすすめ

○目の健康を維持したい方
○夜盲症の方
○免疫力を高めたい方
○生活習慣病を予防したい方

ヤツメウナギの研究情報

【1】EPAやDHAを含むヤツメウナギなどの青魚の油を蒸留した後に試料に10%混ぜ1週間マウスに摂取させました。結果、体重増加の抑制, 血清GOT, GPT(肝臓の病気の指標となる物質)の上昇, さらに肝肥大と血清TGの低下が認められました。このことから、ヤツメウナギは血流改善に役立つ可能性があると考えられます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/130000853194

参考文献

・秋好憲一『ヤツメウナギが世界の眼を救う』文化創作出版 2006年

・井口智彦『食材健康大事典』時事通信社 2005年

・Mineo S, Konishi Y, Metori K, Tanaka T, Satho K, Yanagisawa K, Ishikawa K, Matsumoto H, Satho H. (1889) “熱処理したサバ,イワシおよびヤツメウナギ油のマウスの脂質代謝および肝臓に及ぼす影響” 日本栄養・食糧学会誌 42(6), 417-423, 1989

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