ラクトビオン酸とは
●基本情報
ラクトビオン酸は、牛乳や乳製品中に含まれるラクトース(乳糖)を酸化させることによって作られる酸性のオリゴ糖です。ラクトースは、牛乳の中に含まれますが、ラクトビオン酸はカスピ海ヨーグルトに含まれる成分です。カスピ海ヨーグルトに含まれる酢酸菌の働きでラクトースはラクトビオン酸に変換されます。
ラクトビオン酸は1つの分子の中に、甘みを感じる糖としての性質と、酸味を感じる酸としての性質のどちらも持っている成分です。また、水への溶解性が非常に高く、水に溶けにくい抗生物質を溶け易くするために利用されることもあります。その溶解性は乳酸カルシウムに比べると10倍以上、炭酸カルシウムとの比較では4万倍以上とされています。従来のカルシウム素材と比較すると、比較的高い水溶性と良好な味質を持つことから、透明度の高い飲料などへの添加が容易な成分です。
また、ラクトビオン酸は、カルシウムなどミネラルの吸収を促進することや、大豆イソフラボンの一種ゲニステインを代謝してエクオールという成分をつくる効率をアップさせるといった働きがあります。更年期障害の緩和効果や骨粗しょう症の予防に効果があるとされている、近年注目の成分です。
●日本でのラクトビオン酸の活用
ラクトビオン酸は構造の特徴から様々な効果が期待されており、化学合成でつくられていましたが、高価で食品素材に適用可能な安全な製造方法が知られていなかったことから食品素材として国内で利用されてきませんでした。
しかし、これまでは天然物中の所在が確認されていなかったラクトビオン酸が、家庭で調製されるカスピ海ヨーグルト中に存在し、すでに多くの人々に食されてきたことが明らかになり、今後の有効利用に向けてますます期待が高まっています。
<豆知識>カスピ海ヨーグルトとは
長寿者が多いことで知られるコーカサス地方[※1]の伝統的発酵乳です。日本には研究のために持ち帰られ、その後、広まっていきました。
通常のヨーグルトとの違いは、酸味が少なく粘り気があり、常温でも発酵することです。発酵に関わる主な菌株は酢酸菌と乳酸菌で、カスピ海ヨーグルト中ではこの酢酸菌の働きでラクトース(乳糖)の酸化が起こり、ラクトビオン酸が蓄積されています。
[※1:コーカサス地方とは、カスピ海と黒海に挟まれたコーカサス山脈とその周辺の地域のことです。]
ラクトビオン酸の効果
●骨粗しょう症を予防する効果
ラクトビオン酸にはカルシウムの吸収を促進し、骨密度を向上させる働きがあります。また、ミネラルが腸管内で水に溶けにくい形になるのを防ぐ働きもあります。腸内でカルシウムをはじめ、水に溶けにくいミネラル類が水に溶けるように作用するため、カルシウムの体内吸収が良くなり、骨粗しょう症の予防にも繋がります。
●更年期障害の症状を改善する効果
ラクトビオン酸は、女性ホルモンのような働きを持っている大豆イソフラボンの吸収を良くし、エクオールへの変換を助けます。エクオールは活性型イソフラボンの一種であるダイゼインの腸内細菌代謝[※2]物で、体内の女性ホルモン受容体に結びつき、女性ホルモンのような働きをするパワーがイソフラボンより強いとされています。そのため、昨今のイソフラボンの研究では、イソフラボンをただ摂取するだけではなく、いかにエクオールに効率よく変換させることができるかが重要視されるほどです。女性ホルモンが減少することで起こるほてりやのぼせ、イライラなどの更年期障害に良いとされています。
●腸内環境を整える効果
オリゴ糖には小腸で消化、吸収されてしまう種類と、胃や小腸では消化されずに大腸まで届く難消化性の種類があります。ラクトビオン酸は難消化性のオリゴ糖で、消化されずに腸まで達したオリゴ糖がビフィズス菌のエサになり、腸が刺激されてぜん動運動[※3]が活発になるので、便秘が解消されやすくなります。
また、ビフィズス菌の働きが良くなることで腸内環境が酸性に傾き、アルカリ性の腸内環境を好む悪玉菌が生息しにくくなり、善玉菌が増殖しやすくなるため、腸の働きがさらに向上して便秘の予防、解消に役立ちます。また、ビフィズス菌選択増殖活性を有していることからも、お腹の調子の改善に効果的といえます。
●肌の調子を整える効果
ラクトビオン酸は皮膚構造における保湿機能を担うラメラ構造を安定化させるはたらきを持つことが知られており、保湿効果や皮膚保護作用が期待されています。【1】【2】
ラクトビオン酸は食事やサプリメントで摂取できます
ラクトビオン酸を多く含む食品
カスピ海ヨーグルト
こんな方におすすめ
○骨粗しょう症の予防をしたい方
○更年期障害の予防をしたい方
○お腹の調子を整えたい方
ラクトビオン酸の研究情報
【1】ラクトビオン酸は、皮膚のアルキルグリコシド(APG)のコロイド構造に作用し、皮膚の安定性や保湿にかかわるラメラ構造形成を安定化することから、ラクトビオン酸は保湿効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22204132
【2】健常人77名を対象、ラクトビオン酸を2週間塗布し、皮膚の紅斑やメラニン指数ならびに経皮水損失等を比較したところ、グリコール酸に比較して、ラクトビオン酸は優れた皮膚保護機能が見られたことから、ラクトビオン酸は皮膚保護作用ならびに保湿機能を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20367666
【3】ラクトビオン酸は日本ではカスピ海ヨーグルトとして広く知られています。ラクトビオン酸はヨーグルトの上澄みに含まれており、上澄み100g にはラクトビオン酸が45mg 含まれており、ヨーグルトやラクトビオン酸に高い機能性が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19109260
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2601586
参考文献
・Tasic-Kostov MZ, Reichl S, Lukic MZ, Jaksic IN, Savic SD. 2011 “Does lactobionic acid affect the colloidal structure and skin moisturizing potential of the alkyl polyglucoside-based emulsion systems.” Pharmazie. 2011 Nov;66(11):862-70.
・Tasic-Kostov M, Savic S, Lukic M, Tamburic S, Pavlovic M, Vuleta G. 2010 “Lactobionic acid in a natural alkylpolyglucoside-based vehicle: assessing safety and efficacy aspects in comparison to glycolic acid.” J Cosmet Dermatol. 2010 Mar;9(1):3-10.
・Kiryu T, Kiso T, Nakano H, Ooe K, Kimura T, Murakami H. 2009 “Involvement of Acetobacter orientalis in the production of lactobionic acid in Caucasian yogurt (“Caspian Sea yogurt”) in Japan.” J Dairy Sci. 2009 Jan;92(1):25-34.