クワンソウとは
●基本情報
クワンソウとは、日本では近畿以西の温暖な地域に見られる中国原産ユリ科ワスレグサ属(キスゲ属)の多年生[※1]植物で、沖縄では庭先や畑などで栽培され、食用としても用いられています。
クワンソウは鮮やかなオレンジ色をしたロート型の花を秋に咲かせますが、クワンソウと同じ仲間であるユリ科キスゲ属の植物は、夏に花を咲かせる種が多いのですが、クワンソウの花は秋に咲くためアキノワスレグサという和名が付けられています。常葉萱草(トキワカンゾウ)とも呼ばれますが、マメ科の甘草(カンゾウ)とは異なる種類です。また、沖縄の方言では「ニーブイグサ(ねむり草)」とも呼ばれています。
沖縄ではクワンソウを食べるとよく眠れるという伝承が古くからあります。現在でも沖縄で栽培が行われています。葉は乾燥させてお茶として、茎や花(つぼみを含む)は食材としてお浸しや味噌汁などに利用されています。しゃきしゃきとした歯ごたえがあり、クセのないさっぱりとした味です。
●クワンソウの歴史
クワンソウは琉球王朝の時代から食されていたことがわかっています。
海外との交易で栄えていた琉球には、中国から多くの冊封使(さっぽうし/さくほうし)[※2]が渡来してきました。琉球王府では冊封使をもてなすため、国の威信をかけて豪華な遊宴を催したとされ、その贅を尽くした料理の素材にクワンソウが使われた記録が残っています。また、琉球王府の医師であった渡嘉敷親雲上通寛(とかしきつうかん)が、中国の北京に留学し、帰国後の1832年に著した琉球食療法の指南書「御膳本草」にもクワンソウが掲載されています。
クワンソウはかつて、どこの家の庭にも植えられていたといいます。沖縄の一般家庭では、クワンソウを食したり、葉や茎を刻んで乾燥させたものを煎じて服用すると安眠効果があるなど、様々な薬効をもつと言い伝えられ、古くから民間療法的に食されてきた伝統があります。沖縄の人は現在もクワンソウを食しており、若芽や葉、根元の柔らかい部分は和え物に、花は酢の物や天ぷらなどにして食べます。花びらをてんぷらにしたものは、見た目の鮮やかさからかつては王室料理としても提供されていたといいます。
現在、沖縄ではクワンソウを県指定の伝統的農産物28品目[※3]の1つに指定して、積極的な普及活動が行われています。近年になるまで科学的根拠が解明されることがありませんでしたが、最近の研究により睡眠誘発効果が実証されたことから注目を集めています。
●クワンソウに含まれる成分と性質
クワンソウの根にはアミノ酸であるアスパラギン酸、リジンやトリテルペンなどが含まれています。花にはヒドロキシグルタミン酸、β-シトステロールという成分が含まれています。また、クワンソウにはオキシピナタニンという成分が含まれており、睡眠調整活性成分としての効果が研究されています。
[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:冊封使とは、中国の皇帝が臣下の国の国王を任命するための、詔勅(しょうちょく)を携えてやって来る使者のことです。1404年から1866年の間に24回の冊封が行われました。]
[※3:伝統的農産物とは、現在の食生活に定着しており、郷土料理に利用され、沖縄の気候・風土に適合している、という3つの条件を満たす農産物のことです。他にゴーヤーや島ニンジン、紅芋などがあります。]
クワンソウの効果
●睡眠を促す効果
クワンソウにはオキシピナタニンが豊富に含まれていることが最近の研究により明らかとなり、寝つきの悪さや、夜中の中途覚醒、早く目が覚めるといった睡眠に関する悩みを解消する効果・効能があることがわかってきました。
睡眠薬とは違う穏やかな効き目で睡眠を誘発し、入眠改善効果や中途覚醒抑制効果が期待されています。【1】
●その他のクワンソウの効果
クワンソウによって質の高い睡眠を得ることができれば、肉体的な疲労も改善されるようになります。熟眠することによって細胞の代謝がしっかりと行われるようになるため、成長ホルモンが放出されることによって肌荒れなどのトラブルも改善され、美肌効果が実感できます。
また、ストレスの軽減にも効果を発揮し、自律神経の状態を正常に保つ手助けをしてくれるため、自律神経の調整が上手くいく効果が期待できます。【2】
クワンソウはこんな方におすすめ
○睡眠でお悩みの方
○疲労が取れない方
クワンソウの研究情報
【1】マウスにクワンソウを摂取させたところ、暗期(活動期)における徐波睡眠と逆説睡眠(レム睡眠)が増加したことから、クワンソウが睡眠改善効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9628113
【2】マウスを対象に、クワンソウ抽出物を90, 180, 360mg/kg の量で摂取させたところ、強制水泳試験(FST)および尾懸垂試験(TST)における不動時間が短縮しました。また前頭葉におけるドパミンの増加と、前頭葉ならびに海馬におけるヒスタミンやノルエピネフリンの増加が確認されたことから、クワンソウが抗うつ作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22197914
参考文献
・Uezu E. 1998 “Effects of Hemerocallis on sleep in mice.” Psychiatry Clin Neurosci. 1998 Apr;52(2):136-7.
・Gu L, Liu YJ, Wang YB, Yi LT. 2012 “Role for monoaminergic systems in the antidepressant-like effect of ethanol extracts from Hemerocallis citrina.” J Ethnopharmacol. 2012 Feb 15;139(3):780-7.