楠(くすのき)とは
●基本情報
クスノキとはクスノキ科クスノキ属の常緑高木です。
食用となるアボカドや、葉が線香の原料となるタブノキ、樹皮が香辛料などに利用されるシナモンは近縁種として有名です。
木全体に特異な芳香を持つことから、「臭し(くすし)」が「クス」の語源となったといわれています。
また、「薬(樟脳)の木」が語源とする説もあります。
天然記念物に指定されているものが多く見られ、特に神木などで広く知られています。
木肌は耐湿・耐久性に優れています。葉はつやがある革のような質感で、先の尖った楕円形をしており長さは5~10cmほどです。
4月末~5月上旬にかけて落葉し、5月~6月にかけて、白く淡い黄緑色の小さな花が咲きます。
10月~11月にかけて、直径7~8mm程度の青緑色の球形の果実が紫黒色に熟し、鳥によって散布されます。
楠の葉は厚みがあり、葉をつける密度が非常に高いため、近年交通騒音の低減のため、街路樹として活用されることも増えてきました。
楠の葉は、付け根近くから3本に分かれる三行脈と呼ばれる葉脈が特徴です。
その三行脈の分かれ目には1mmほどのふくらみがあり、楠にとって無害なフジダニというダニが生育しています。このため、このふくらみはダニ室やダニ部屋と呼ばれています。
●樟脳とは
楠の枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体のことを樟脳またはカンフル・カンファーといい、強く刺すような香りを持ちます。
楠は、木全体から樟脳の香りがするため防虫剤に利用されています。
一般的に虫は樟脳のにおいが苦手で近づかないため、楠が多い林の地面は分解が遅いといわれています。
また、人形や衣服の防虫剤、また防腐剤、花火の添加剤としても使用されています。
樟脳は皮膚から吸収される際にメントールのような清涼感をもたらし、わずかに局部麻酔のような働きがあるといわれています。
飲み込んだ場合には有毒であり、発作が起こる可能性があるため注意が必要です。
しかし、樟脳は太古の昔より医薬品として服用もされてきたものです。たとえば、のどあめやうがい薬、歯磨きや湿布や軟膏など幅広い用途で使用されています。他の医薬品同様、用量・用法を守ることが大事です。
血行促進作用や鎮痛作用、消炎作用などがあるために主に外用医薬品の成分として使用されています。かつては強心剤としても使用されていたため、ほとんど用いられなくなった現在でも、「駄目になりかけた物事を復活させるために使用される手段」を比喩的に「カンフル剤」と例えて呼ぶことがあります。
●楠の生産地
台湾、中国、ベトナムなどの暖地に生息し、日本に進出したといわれています。
日本では、関東より西側においてよく見られる樹木で、太い幹を有しています。
日本一の巨木といわれている「蒲生のクス」は、鹿児島県に存在し、特別天然記念物となっています。
●木材としての楠
枝分かれが多いため、直線の材料がとりにくいという欠点はありますが、虫や腐敗に強いという特徴を生かし、古くから船の材料として重宝されてきました。
室町から江戸時代にかけて、軍船の材料として使用されたほどです。
その他にも、大きな木材が得られるという長所から家具や飛鳥時代の仏像にも使われていたようです。
●楠に含まれる成分と性質
含有される成分では、カリオフィレン、α-ピネン、シネオール、リナロール、カンファー、リモネン、ゲルマクレン、サフロールなどがあります。
抗菌、消炎効果が期待できるため、皮膚疾患であるニキビや湿疹、リウマチといった症状に対して利用されます。
また、医薬品として血行促進剤や鎮痛剤としても利用されています。
楠(くすのき)の効果
楠には、カリオフィレン、α-ピネン、シネオール、リナロール、カンファー、リモネン、ゲルマクレン、サフロールなどが含まれるため、以下のような働きが期待できます。
●血行を促進する効果
楠の葉を浴湯料として使用することにより、血行がよくなり、疲労回復やリウマチ、神経痛、肩こり、腰痛に効果があるといわれています。
また樟の生薬、樟脳には局所刺激作用、強心作用が知られており、医薬品としても利用されています。樟脳は呼吸器、血管を興奮させる作用があるため、外用医薬品として血行促進剤や鎮痛剤として利用されています。
●リラックス効果
楠の香りは刺激性でありながらリラックス効果もあるため、うつ症状をやわらげるほか、気持ちを高揚させる働きがあるといわれています。
●炎症を抑制する効果
樟脳は、炎症を抑える効果があるため、リウマチなどの症状をやわらげます。
また、外用として樟脳をアルコールに溶かしたものを湿布のようにして貼ると、打撲傷を軽減する働きがあります。【1】
●肌荒れを改善する効果
楠には、抗菌効果と炎症を鎮める効果があります。
このため、樟脳が入った化粧品を使用することにより、肌のトラブル(にきびなど)を予防する効果があります。
また、にきびができてしまった時に塗る薬にも樟脳が含まれていることも多くあります。【2】
●防虫効果
イガやコイガなどの蛾の幼虫は衣類に卵を産みつけ、孵化した幼虫が中から衣類を食べます。
また、ヒメマルカツオブシムシなどの甲虫は毛皮まで食べることで有名です。
このような虫は、楠から得られる樟脳の香りを苦手とするため、楠には衣類を食べる虫を寄せ付けない忌避効果があります。
このため、楠は古くから衣類の防虫剤として利用されています。【3】
楠(くすのき)はこんな方におすすめ
○血流が悪い方
○リラックスしたい方
○リウマチや肩こりでお悩みの方
○肌が荒れやすい方
楠(くすのき)の研究情報
【1】ラットに、楠を1日あたり8.1mg/kg の量で35日間経口投与したところ、炎症性サイトカインであるIL-6を抑制したことから、炎症を抑制する働きが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20353012
【2】楠は防虫および抗真菌、抗カビ剤として使用されています。楠の精油はアスペルギルスカビ並びにアフラトキシンの生成が低下したことから、楠は抗真菌、抗カビ作用ならびに真菌やカビ由来の皮膚障害予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18322727
【3】33種のハーブのエタノール抽出液をベニヤ板製のゴキブリのシェルター(5cm×5cm, 5mm隙間)に浸漬させ, チャバネゴキブリ10頭(オスまたはメス)を放った結果、落下したフンの数からクスノキ科のシナモンには、忌避性があることが分かりました。楠は防虫効果が期待されています。
https://ci.nii.ac.jp/naid/10016687414
参考文献
・Li H, Huang L, Zhou A, Li X, Sun J. (2009) “[Study on antiinflammatory effect of different chemotype of Cinnamomum camphora on rat arthritis model induced by Freund’s adjuvant].” Zhongguo Zhong Yao Za Zhi. 2009 Dec;34(24):3251-4.
・Liu CH, Mishra AK, Tan RX, Tang C, Yang H, Shen YF. (2006) “Repellent and insecticidal activities of essential oils from Artemisia princeps and Cinnamomum camphora and their effect on seed germination of wheat and broad bean.” Bioresour Technol. 2006 Oct;97(15):1969-73. Epub 2005 Oct 17.
・Singh P, Srivastava B, Kumar A, Dubey NK. (2008) “Fungal contamination of raw materials of some herbal drugs and recommendation of Cinnamomum camphora oil as herbal fungitoxicant.” Microb Ecol. 2008 Oct;56(3):555-60.