高麗人参

Korean panax ginseng
オタネニンジン 薬用人参 朝鮮人参

高麗人参とは、オタネニンジンという和名を持つウコギ科の薬用植物の根っこを乾燥させたものです。高麗人参にはサポニンが豊富に含まれており、サポニンの持つ様々な効果が複合的に働くことで、身体的、精神的な健康にパワーを発揮します。

高麗人参とは?

●基本情報
高麗人参とは、オタネニンジンという和名を持つウコギ科の薬用植物の根っこを乾燥させたものです。高麗人参は、中国東北部から朝鮮半島にかけて自生しており、東洋では古来より滋養強壮剤として知られ、現在ではサプリメントなどの健康食品にも配合されています。
日常的に食用として用いられているにんじんはセリ科の植物で、一般的にサプリメントで用いられている高麗人参とは種類が異なります。
高麗人参にはサポニンが豊富に含まれ、高麗人参の良否はサポニンの種類の多さで決まるといわれるほど様々な健康効果を持ちます。
高麗人参は栽培が難しいため古くから高値で取引され、身体的、精神的な健康に効果を持ち、「漢方の王様」ともいわれています。

●高麗人参の歴史
高麗人参の歴史は古く、紀元前1世紀に中国の文献「急就草」という書物に記述があります。
漢方薬として用いられた高麗人参は、その高い薬効から、中国で万里の長城を建設した秦の始皇帝が愛飲したといわれ、今日まで数千年に渡って重宝されてきました。
また、中国の漢方の薬物書で最も古いといわれている「神農本草経」においては、高麗人参を高いランクの上薬(生薬)として「五臓を補い、精神を安定し、邪気を除き、身を軽くして寿命を延ばす」という効能が記述されています。
日本には、天平11年に渤海文王の使いが、聖武天皇ににんじん30斤を奉呈したという記録が残されています。また、奈良時代の代表的建築「正倉院」には、光明天皇が生薬として高麗人参を人々に薦めたという文献があり、さらには、高麗人参そのものも保存されています。
日本では1722年頃の江戸時代、8代将軍、徳川吉宗が日本の御薬園で採取した御種(ニンジンの根)を諸大名に配布し、栽培を奨励したことに由来し、オタネニンジンと呼ばれるようになりました。
その後、1728年に日光の御薬園で初めて国産化に成功し、1760年頃には、日光のオタネニンジンは5万株にも広まり、国産化が進みました。
高麗人参の栽培技術は、福島県会津若松付近、長野県丸子付近、島根県大根島で引き継がれていますが、現在では、ほとんどの高麗人参を中国や韓国から輸入しています。
約1300年前に伝わった高麗人参は、今も人々の健康を支え続けています。

●高麗人参の栽培年数による違いと種類
高麗人参には、栽培年数によって1年根から6年根までの6階級に分かれます。
6年以上経つと表皮組織が老化を起こし始めるため、6年根が最も良いとされています。
高麗人参を収穫した後の土地は、6年間寝かせておかないと次の栽培ができないといわれる程、高麗人参が土地の養分を吸い取ってしまいます。
高麗人参は栽培がとても難しく、高級品として知られ、形の良い天然のものは数百万円もの高値が付くこともあります。

高麗人参の種類には、水参(すいじん)、白参(はくじん)、紅参(こうじん)があります。
水参は畑から掘り、乾燥させないままのにんじんで、白参は水参の皮を剥いでそのまま乾燥させたものです。そして、紅参は水参を長期間保存するために、水蒸気で蒸した水参を乾燥させたもので、その過程でサポニンが多くなります。
高麗人参の中で最も多くの健康成分が凝縮されているのは紅参で、30種類ものサポニンを含みます。

●高麗人参の摂取方法
高い健康効果を持つ高麗人参は、多くの健康食品などに配合されています。
高麗人参は酒に漬けたり、粉末を溶かしてお茶にしたり、根っこを天ぷらにするなど様々な摂取方法があります。
滋養強壮に良いとされる韓国料理に「参鶏湯(サムゲタン)」がありますが、高麗人参が使われているため「食べる漢方薬」ともいわれています。

●高麗人参を摂取する際の注意点
高麗人参は血圧を上げる効果があることから、高血圧の方は摂取を避ける必要があります。
高麗人参を長期間摂取すると、まれに不眠や動悸、血圧の上昇、頭痛を引き起こすことがあります。また、胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、妊娠・授乳中、子どもは摂取を控える必要があります。
医薬品との相互作用が報告されているため、薬と併用する際は医師への相談が推奨されています。

<豆知識>父母の日の贈り物
高い栄養価を持つ高麗人参は、韓国では健康を願う贈り物としても活用されています。
韓国では5月8日を両親を敬う父母の日として、日頃の感謝を伝える日とされています。この日は日本の「母の日」と同様に、赤いカーネーションを贈る習慣があります。そのカーネーションとともに父母の日に人気がある贈り物が、高麗人参です。
韓国では高麗人参を贈ることで、両親へ日頃の感謝とともに健康を願う気持ちを伝えています。

高麗人参の効果

●低血圧を予防する効果
低血圧は、心臓から血液を送り出す力が弱く、血液の循環が滞り、頭痛やめまい、立ちくらみ、脱力感などを引き起こします。低血圧の原因のひとつとして副交感神経の緊張があるといわれています。
高麗人参に含まれるサポニンには、自律神経を調整する働きがあるため、副交感神経の緊張を鎮め、低血圧を予防する効果があります。

●貧血を予防する効果
高麗人参には、貧血を予防する効果があります。
貧血は鉄の不足などによって、体中に酸素を運搬するヘモグロビンを含む赤血球が不足し、めまいや立ちくらみといった症状を引き起こす病気です。
高麗人参はヘモグロビンを持つ赤血球をつくる細胞の分裂を促進し、貧血を予防する効果があります。

●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化は加齢による老化などが原因で、動脈にコレステロールや脂肪が蓄積し、血管がつまり、弾力性を失ってしまう病気です。動脈硬化が進行すると、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こします。
高麗人参は中性脂肪の値を下げ、コレステロールの分解・排出を促進するため、動脈硬化を予防する効果があります。【1】【2】【3】

●脳の機能を改善する効果
高麗人参に含まれるサポニンの一種ジンノセサイドが、外界や体内の刺激を受け取る脳内受容体を刺激し、加齢による認知機能の低下を防ぐ効果が期待されています。
認知機能とは、外部からの情報に対する考え方や受け取り方のことで、高次的な脳の機能を指します。
認知機能の低下を予防する効果について、40歳以上の健常者112名に2ヵ月間高麗人参を摂取させると、抽象的思考や物事への反応時間などが改善したという研究結果もあります。【6】

●ストレスをやわらげる効果
身体に強いストレスを受けると、不眠や過呼吸、さらにうつ病などを引き起こします。
高麗人参には、ジンノセサイドという成分が含まれ、自律神経を整えることで、心身症や全身の倦怠感、イライラといった症状の不定愁訴症候群[※1]などに働きかけます。

●感染症を予防する効果
高麗人参には、風邪やインフルエンザなどの感染症を予防する効果があります。
この効果について実験結果が報告されています。
227人に12週間にわたり高麗人参エキスを毎日100mg摂取させると、成分を全く含まない偽薬群に比べ、風邪やインフルエンザにかかる人が明らかに少なく、また、ウイルスや細菌から体を守る免疫機能をつかさどるナチュラルキラー細胞が活性化したことがわかっています。

●冷え性を改善する効果
女性に特に多い冷え性は、ホルモンバランスや食生活の乱れなどによって引き起こされます。
原因のひとつとして、血流の悪化によって血液が末梢血管までしっかりと行きわたらず、血行不良を起こしていることが挙げられます。
高麗人参は血管を広げることで血液の流れを良くし、全身に血液を循環させることで、冷え性を改善する効果があります。【8】

●美肌効果
人間の肌は、睡眠不足や加齢、生活習慣の悪化などが原因で、肌荒れやニキビなどの肌トラブルが起こりやすくなります。
高麗人参には、美しい肌の原料となるたんぱく質の合成を促す働きがあり、肌の生まれ変わりを活性化することで、美肌づくりをサポートする働きがあります。
また、高麗人参に含まれるサポニンには皮膚を守る働きがあり、菌や紫外線などの外部刺激から肌を守り、小ジワにもはたらきかけます。高麗人参からつくられたエキスには、特に肌の内部まで入り込み美肌を保つアンチエイジング効果があります。

●脱毛を抑える効果
高麗人参からつくられたエキスはまつ毛の脱毛ケアにも効果的です。まつ毛が抜けやすい方は、高麗人参エキスの配合されたまつ毛美容液や目もと専用のクレンジングを使用することで、まつ毛が抜けるのを防ぐことができ、まつ毛のケアにもつながります。

[※1:不定愁訴症候群とは、原因が不明であるのに、体に様々な症状が起こる病態です。]

高麗人参は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○体のだるさを感じる方
○貧血でお悩みの方
○血流を改善したい方
○ストレスをやわらげたい方
○風邪をひきやすい方
○肌荒れを改善したい方
○脱毛を抑えたい方

高麗人参の研究情報

【1】健康な成人17名 (平均30±9歳、カナダ) を対象とした二重盲検クロスオーバー無作為化プラセボ比較試験において、高麗人参3 gまたは、高麗人参から抽出した同等量のジンセノシド、ポリサッカライドを単回摂取させたところ、高麗人参摂取群でのみAugmentation index (動脈硬化の指標) の低下が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20134405

【2】健康な成人男性10名 (平均29±1歳、日本) を対象とした無作為化二重盲検プラセボ比較試験において、高麗人参粉末250 mg、牛黄粉末50 mg、甘草粉末50 mgを含むカプセルを単回経口摂取させた結果、摂取60分後の心電図における補正QT値及びRT値が短縮する傾向 (心機能障害のリスク減少傾向) が認められました。このことから、高麗人参は心機能障害リスクを低下させる働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18490845

【3】急性心筋梗塞患者50名 (試験群25名、平均61.4±12.4歳、韓国) を対象とした無作為化プラセボ比較試験において、冠動脈ステント留置術後に高麗人参3 g/日を8ヶ月間摂取させたところ、冠動脈血流予備能 (SFR) や血管新生細胞 (CD34+、CXCR4+、CD117+) の増加が認められたということがわかりました。このことから高麗人参は心筋梗塞に予防的に働く可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20641058

【4】II型糖尿病患者36名 (試験群24名、平均79歳、フィンランド) を対象とした二重盲検プラセボ比較試験に高麗人参100 mg/日または200 mg/日を8週間摂取させたところ、空腹時血糖値の低下が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8721940

【5】II型糖尿病患者19名 (平均64±2歳、カナダ) を対象とした二重盲検クロスオーバー無作為化プラセボ比較試験において、高麗人参6 g/日を12週間摂取させたところ、空腹時および糖負荷試験によるインスリン濃度の低下、インスリン感受性の上昇が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16860976

【6】高麗人参100 mgとイチョウ葉エキス60 mgを 1日2回摂取したところ、38~66歳の人において記憶力が向上しました。

【7】涙液分泌減少症患者15名 (24~77歳) に、1%コンドロン、システインなどの点眼剤と併用して高麗人参 (コウジン末) を6 g/日 (3回分服) 、1~9ヶ月間経口投与したところ、涙液中のラクトフェリン濃度が低下し自覚所見が改善されました。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902075514292576

【8】血流障害ラットを用いて高麗人参の作用について検討しました。70%メタノール抽出高麗人参を冷水処置ラットに与えたところ、冷水誘発による局所血管の収縮による血流の低下を回復させることが分かりました。また、この回復は交感神経系を介した作用であることが分かりました。これらのことから、高麗人参抽出物は、自律神経失調症や冷え症の治療に良いと考えられました。

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参考文献

・中尾哲章、鈴木泰、松田整二、竹田真、新飯田裕一  “涙液分泌減少症へのコウジン末の使用経験” あたらしい眼科: 6(8):1205-8

・松田秀秋、井戸康子、久保道徳、寒川慶一 (1997) “薬用人参の薬理学的研究(第 12 報) : 紅参のラット皮膚血流改善作用” 和漢医薬学会大会要旨集 14, 57, 1997-08-14

・原山 建郎 久郷 晴彦 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・CMPジャパン「ハーブ」プロジェクトチーム 編 薬用ハーブの機能性研究 健康産業新聞社

・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館

・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・吉川敏一 辻智子 医療従事者のための機能性食品(サプリメント)ガイド―完全版 講談社

・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社

・Pharmacist’s Letter/Prescriber’s letter Natural Medicine Comprehensive Database、5th ed. Stockton, CA: Therapeutic Research Faculty(2003)((独)国立健康・栄養研究所監訳: 「健康食品」データベース

・Jovanovski E, Jenkins A, Dias AG, Peeva V, Sievenpiper J, Arnason JT, Rahelic D, Josse RG, Vuksan V. (2010) “Effects of Korean red ginseng (Panax ginseng C.A. Mayer) and its isolated ginsenosides and polysaccharides on arterial stiffness in healthy individuals.” Am J Hypertens. 2010 May;23(5):469-72. Epub 2010 Feb 4.

・Zheng A, Moritani T. (2008) “Effect of the combination of ginseng, oriental bezoar and glycyrrhiza on autonomic nervous activity as evaluated by power spectral analysis of HRV and cardiac depolarization-repolarization process.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2008 Apr;54(2):148-53.

・Ahn CM, Hong SJ, Choi SC, Park JH, Kim JS, Lim DS. (2011) “Red ginseng extract improves coronary flow reserve and increases absolute numbers of various circulating angiogenic cells in patients with first ST-segment elevation acute myocardial infarction.” Phytother Res. 2011 Feb;25(2):239-49. doi: 10.1002/ptr.3250.

・Sotaniemi EA, Haapakoski E, Rautio A. (1995) “Ginseng therapy in non-insulin-dependent diabetic patients.” Diabetes Care. 1995 Oct;18(10):1373-5.

・Vuksan V, Sung MK, Sievenpiper JL, Stavro PM, Jenkins AL, Di Buono M, Lee KS, Leiter LA, Nam KY, Arnason JT, Choi M, Naeem A (2006) “Korean red ginseng (Panax ginseng) improves glucose and insulin regulation in well-controlled, type 2 diabetes: results of a randomized, double-blind, placebo-controlled study of efficacy and safety.” Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2008 Jan;18(1):46-56. Epub 2006 Jul 24.

・Sørensen H, Sonne J. (1996) “A double-masked study of the effects of ginseng on cognitive functions.” Current Therapeutic Research. 1996; 57(12): 959-68.​​

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