筋骨草とは
●基本情報
筋骨草は、野原や耕地に生育しているシソ科の植物であるキランソウの生薬としての名前です。
筋骨草には「ジゴクノカマノフタ」「カマノフタ」の別名があります。
語源は不明ですが、春の彼岸の地獄の釜が開く頃に花が咲くという説や、茎葉が地面を這い、おおい隠すようにして生育するため、地面に蓋をしているように見えるという説、薬効があるため地獄へ行く釜にふたをするほどの効き目があるという説があります。
●筋骨草の歴史
筋骨草は、本州、四国、九州、朝鮮半島や中国に分布しており、日本では一般的に見られる野草です。
3月から6月ごろにかけてきれいな紫色の花を咲かせ、この時期の全草を乾燥させたものを生薬として使います。中国では生薬とし、日本では古くから民間薬として咳止めや去痰作用、健胃や下痢止め作用を期待して使われていました。
●筋骨草の特徴
筋骨草は、冬期にも葉をつけ、全体に細かい毛が生えています。
葉は少し赤みをおびた長楕円形をしており、裏側は紫色です。
春になると濃紫色の唇形の花を数個ずつつけます。
筋骨草の効果
●骨粗しょう症を予防する効果
骨は毎日代謝されており、骨をつくり出す骨新生と古くなった骨を壊す骨破壊とを繰り返しています。
この骨代謝のバランスが崩れると骨が破壊されるばかりで新しいものがつくられず、骨がスカスカになってしまいます。
骨粗しょう症は、骨の中がスカスカの状態になり、もろくなる病気です。骨がスカスカになると、わずかな衝撃でも骨折をしやすくなります。
骨粗しょう症は、生命をおびやかす病気ではありませんが、骨粗しょう症による骨折から寝たきりになる方が多く現在では問題となっています。
骨粗しょう症は加齢による骨量の低下や、閉経などが主な原因といわれており、女性の場合は閉経期を迎えて女性ホルモンの分泌が低下すると急激に骨密度が減り、同年代の男性に比べて骨密度が低くなります。
女性ホルモンの一種であるエストロゲンには、骨吸収をゆるやかにして骨からカルシウムが溶け出すことを抑制する働きがあります。閉経後、エストロゲンの減少により骨吸収のスピードが速まり、骨形成が追いつかずに骨がもろくなってしまいます。
筋骨草はホルモンバランスの乱れによる骨の代謝異常を改善し、骨粗しょう症を予防します。
卵巣を摘出した骨粗しょう症モデルマウスを使用した実験では、筋骨草エキスを摂取することにより大腿骨[※1]の骨重量・カルシウム含有量・コラーゲン含有量・灰分[※2]量の低下を有意に抑制する働きがあることが証明されました。
この実験の結果から、筋骨草エキスは骨量の減少を抑え、骨粗しょう症の予防につながると考えられます。
また、筋骨草エキスを大豆イソフラボンと合わせて摂取することで、骨の中のカルシウム量・コラーゲン量を増やすことができたという報告があります。【1】
●関節痛の症状を緩和する効果
日本の高齢者人口が年々増加している中、同様に増加している症状のひとつとして変形性関節症が挙げられます。変形性関節症は関節のクッション部分である軟骨がすり減ったり筋力が低下することにより関節に炎症が起きたり、関節が変形したりすることにより発症します。炎症や痛みが生じ歩くことも困難になり介護が必要となるため、問題となっています。
筋骨草エキスを摂取することにより、破骨細胞[※3]の働きを抑制し軟骨下骨[※4]の骨化を促進することが研究されています。
さらに、筋骨草エキスとグルコサミンを併せて摂取することにより、相補的に損傷部の修復を促しよりしっかりと指示された軟骨の形成が促進されることが期待されています。
これらの実験により、筋骨草とグルコサミンを併用することにより、変形性関節症の予防・改善する効果があることがわかりました。【2】【3】
●関節の浮腫を予防する効果
細菌やウイルスなどが関節内に侵入することにより炎症性の細胞が発生すると、関節の浮腫が症状として現れる場合があります。
筋骨草は関節内に発生する炎症性の細胞の発生を抑え、浮腫を抑制する働きがあります。また、この筋骨草の働きはグルコサミンと併せて摂取することで、より強い効果を発揮するということがわかっています。
さらに筋骨草には痛みを抑える鎮痛作用があり、さらに関節の健康に必須の成分であるコラーゲンの合成を促進するため、関節の様々な悩みに対する効果が期待できます。【2】【3】
●筋肉を増強する効果
体の筋力は運動することによって増加します。運動時に、筋骨草も併せて摂ることで筋肉の量がさらに増加しました。またこの時、疲労耐性のある筋肉の割合が増えるという結果が得られました。
筋肉量の増加と質の変化に伴い、骨格筋での脂肪燃焼を促し、抗肥満効果も期待できます。
[※1:大腿骨とは、哺乳類の体で最も長く太く、股から膝の間を構成する骨のことです。]
[※2:灰分とは、栄養学で、食物中に含まれる無機物、すなわち鉱物質やミネラルのことです。]
[※3:破骨細胞とは、古くなった骨を壊す役目を担った細胞の総称です。古くなった骨を吸収するため、骨の生まれ変わりにおいて重要な役割を果たします。]
[※4:軟骨下骨とは、軟骨の土台となる骨のことです。]
筋骨草はこんな方におすすめ
○骨粗しょう症を予防したい方
○関節痛を予防したい方
○関節浮腫を予防したい方
○筋力を増強したい方
筋骨草の研究情報
【1】卵巣摘出マウスおよび関節炎ラットを対象に、筋骨草を投与すると、骨吸収と骨形成のバランスが改善されたほか炎症が緩和されたことから、筋骨草は骨粗鬆症予防ならびに抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18520054
【2】筋骨草には機能性成分ネオクレロダンジテルペンという成分が含まれており、炎症物質LPSによるNO(一酸化窒素)産生が阻害するはたらきを持つことから、筋骨草は抗炎症作用を有すると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22917649
【3】筋骨草には機能性成分ネオクレロダンジテルペンという成分が8種類含まれており、炎症物質LPSによるNO(一酸化窒素)を産生を阻害するはたらきが確認されました。筋骨草は抗炎症作用や関節痛予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22872587
参考文献
・Ono Y, Fukaya Y, Imai S, Yamakuni T. 2008 ” Beneficial effects of Ajuga decumbens on osteoporosis and arthritis ” Biol Pharm Bull. 2008 Jun;31(6):1199-204.
・Sun Z, Li Y, Jin DQ, Guo P, Song H, Xu J, Guo Y, Zhang L. 2012 ” neo-Clerodane diterpenes from Ajuga decumbens and their inhibitory activities on LPS-induced NO production.” Fitoterapia. 2012 Dec;83(8):1409-14.
・Sun Z, Li Y, Jin DQ, Guo P, Xu J, Guo Y, Zhang L. 2012 “Structure elucidation and inhibitory effects on NO production of clerodane diterpenes from Ajuga decumbens.” Planta Med. 2012 Sep;78(14):1579-93.