桔梗(キキョウ)

Balloon flower

桔梗は古くから根の部分が生薬「桔梗根」として使用されている、伝統ある植物です。
桔梗の根にはサポニンやイヌリンなどの有効成分が含まれており、鎮咳去痰作用や整腸作用があるといわれています。

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桔梗とは?

●基本情報
桔梗はキキョウ科キキョウ属の多年草[※1]です。
「秋の七草[※2]」のひとつで、6月~10月にかけて青紫色、または白色の5方向に裂けた鐘形の美しい花を咲かせます。かつては日本各地と朝鮮半島から中国北東部にかけての日当たりの良い野山に自生していましたが、現在は自生している桔梗は非常に少なく、絶滅危惧種に指定されています。

名前の由来は中国語の「桔梗」が「キチコウ」と読まれ、それが転じ、「キキョウ」となりました。

●桔梗(キキョウ)の歴史
桔梗は古くからその美しい花が人々に愛されてきた植物です。
出雲風土記(733年)をはじめ、万葉集(759年)では山上憶良(やまのうえのおくら)が詠った秋の七草の歌[※3]に桔梗が登場します。
また古今和歌集(905年)や延喜式[※4](927年)、枕草子(996年)、徒然草(1330年)などにも桔梗が登場し、古くから親しまれてきた植物であることがわかります。
観賞用として昔から多くの園芸品種が栽培され、白花、八重、錦、二重、紋などが知られていました。しかし、これらの多様な園芸品種は明治時代中頃までに絶えてしまい、現在ではアポイギキョウ、ウズキキョウ、五月雨、小町など数品種があるにすぎません。

また、桔梗の根を乾燥させたものが生薬「桔梗根」として使用されています。桔梗根には、皮付きのまま乾燥させた「生干桔梗(しょうぼしぎきょう)」と、皮を剥いで乾燥させた「晒桔梗(さらしぎきょう)」の2種類があります。昭和30年代までは国産の野生の生干桔梗が多く利用されていました。その後、韓国産の晒桔梗が輸入されるようになり、昭和50年代には中国産の野生品が輸入されるようになりました。昭和60年頃からは大部分が中国の栽培品で晒桔梗が流通されるようになりましたが、近年、中国産の晒桔梗が高騰してきたため、皮付きの生干桔梗が流通するようになってきました。

●桔梗(キキョウ)に含まれる成分と性質
桔梗の根には薬用成分であるサポニンが含まれており、咳や痰(たん)、のどの痛みを抑える効果があるとされ、漢方薬に配合されています。サポニンは植物に含まれているステロイド、あるいはトリテルペンの配糖体[※5]の一種で、植物の苦みや渋みのもととなる成分です。
桔梗の他にも、大豆や高麗人参、田七人参、アマチャヅルなど、主にマメ科の植物に多く含まれています。ラテン語のせっけんを意味する「サポ」が名前の由来であるように、水に溶けるとせっけんのように泡をつくる発泡作用があります。
サポニンのつくり出す泡が脂質を溶かす働きを持つことがわかっていることから、桔梗に含まれるサポニンには健康に対する効果が期待されており、サプリメントなどにも利用されています。
サポニンは適量を摂取することで効果を発揮しますが、取り過ぎると吐き気をもよおすことがあるため、過剰摂取には注意が必要です。
桔梗の根には他にも、多糖類の一種で水溶性食物繊維のイヌリンが含まれています。イヌリンには腸内環境を整えたり、コレステロールを体外に排出させる働きがあります。
また、イヌリンには他の糖の吸収を抑える働きもあります。イヌリンは砂糖やでんぷんといった糖の仲間ですが、人間はイヌリンを分解する酵素を持っていないため、食べてもほとんど吸収されません。
イヌリンは腸で水分を吸収するとゲル状になり、一緒に摂った糖の吸収を抑えるという特徴を持っているため、血糖値の上昇を抑えることができます。
尚、イヌリンはインスリンの分泌を抑制するため、余分な糖の蓄積を抑えるのにも役立ちます。
食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2つに分類されます。
不溶性食物繊維とは水に溶けない食物繊維で、腸を刺激し、腸内に溜まった有害物質の排出を促す作用があります。肥満や便秘の解消、腸の病気予防などに効果があります。
水溶性食物繊維とは水に溶ける食物繊維で、腸内で水分を含みヌルヌルとしたゲル状となり、有害な成分を吸着して排出させます。糖尿病や動脈硬化、高血圧の予防に効果があります。

<豆知識>多くの武将が愛した桔梗紋
桔梗は日本文化として古くから生活に根付いています。
桔梗の木偏を取ると、「吉更」となり、「さらに吉」となることから好まれ、明智光秀や柴田勝家、大田道灌、加藤清正などは家紋として桔梗紋を使用していました。

[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:秋の七草とは、萩(ハギ)、尾花(オバナ)、葛(クズ)、撫子(ナデシコ)、女郎花(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、桔梗の七草を指します。「春の七草」は無病息災を願って七草粥として食されますが、「秋の七草」は観賞用として使用されます。]
[※3:秋の七草の歌とは、「秋の野に咲きたる花を指折りてかき数ふれば七種(ななくさ)の花。萩が花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、藤袴また朝貌の花」と詠まれる歌のことです。当時は桔梗が朝貌(あさがお)と呼ばれていました。]
[※4:延喜式とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
[※5:配糖体とは、糖と様々な種類の成分が結合した有機化合物のことです。生物界に広く分布し,植物色素であるアントシアニンやフラボン類などがあげられます。]

桔梗の効果

桔梗の根には薬用成分であるサポニンや水溶性食物繊維であるイヌリンが含まれており、以下のような健康効果が期待できます。

●咳や痰(たん)を抑制する効果
桔梗根にサポニンとよばれる薬用成分が含まれています。サポニンは適量を摂取することで、のどなどの気管の分泌液の分泌を促進し、痰を除く働きを持つため、鎮咳去痰薬[※6]として利用されています。咳や痰、のどの腫れや化膿などにも効果があるとされ、風邪薬などに他の生薬と合わせて配合されることが多くあります。
また桔梗根には抗炎症作用が確認されており、気道や気管の炎症を抑制する効果も期待されています。【7】

●腸内環境を整える効果
桔梗根に含まれる水溶性食物繊維であるイヌリンには、体内の老廃物を吸着して体外へ排出する働きがあります。また、腸のぜん動運動を活発にして、腸の内側をきれいにすることで腸の通りを良くします。
さらにイヌリンは腸内細菌によって分解されると、善玉菌[※7]のエサであるフラクトオリゴ糖[※8]に変わり腸内の善玉菌の増加をサポートします。善玉菌が増えることで腸内環境が整い、便秘の予防や解消に期待ができます。

●糖尿病を予防する効果
桔梗根に含まれるイヌリンには、血糖値の上昇を抑える効果があります。イヌリンは水溶性の食物繊維で多糖類の一種です。人間は砂糖やでんぷんといった糖の仲間であるイヌリンを分解する酵素を持っていないため、イヌリンは胃や腸で吸収されることがありません。さらに、イヌリンは他の炭水化物などの糖の吸収を抑えて血糖値の上昇を緩やかにするため、糖尿病の予防にもつながります。
また、桔梗根に含まれるサポニンの一種プラチコジンには膵液分泌促進作用や筋肉への糖取り込みの促進も確認されており、糖尿病予防効果が期待されています。【2】【3】【5】

●コレステロール値を下げる効果
桔梗根に含まれるサポニンの一種プラチコジンには、コレステロール低下効果が報告されています。【3】【6】

[※6:鎮咳去痰薬とは、咳を鎮めて痰を除く薬のことです。]
[※7:善玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸にすんでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]
[※8:フラクトオリゴ糖とは、新鮮なたまねぎやトマト、バナナなどに含まれる糖分のことです。]

桔梗は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○咳や痰でお悩みの方
○のどの痛みがひどい方
○腸内環境を整えたい方
○血糖値が気になる方
○コレステロール値が気になる方
○便秘でお悩みの方

桔梗の研究情報

【1】骨髄分化肥満細胞にアレルギー物質を投与した後、桔梗抽出物を投与すると、アレルギー関連物質であるIL-6、PG-D2、LTC4、COX-2 の活性化が抑制されたことから、桔梗が抗アレルギー作用ならびに抗炎症作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20717534

【2】ラットに、桔梗の有効サポニン成分Platycodin を10-100mg を投与したところ、インスリン分泌促進物質CCKが増加し膵液の分泌が促進されました。桔梗にインスリン分泌促進効果と糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9342945

【3】高脂肪食マウスに、桔梗抽出物を摂取させると、精巣上体の脂肪体重、脂肪細胞、血糖値の上昇が抑制されました。また脂質代謝関連物質アディポネクチン、レジスチン、レプチン、フルクトサミンおよびトリグリセリドの血中濃度が改善されました。また筋肉へのグルコースの取り込みが増加したことから、桔梗に糖尿病予防効果と生活習慣病予防が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22471365

【4】高脂肪食マウスに、桔梗根の有効サポニン成分SK1を摂取させると、高脂肪食摂取による体重、内臓脂肪および脂肪細胞の増加が抑制され、血中トリグリセリド、総コレステロールおよび遊離脂肪酸量が改善され、糞便中への脂質排泄が増加しました。また血糖値、インスリン抵抗性、肝臓の脂肪酸合成酵素、脂肪酸β酸化およびグルコキナーゼが正常化しました。桔梗に抗肥満効果および高脂血症予防効果、糖尿病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19627213

【5】糖尿病マウスに、桔梗抽出物を摂取させたところ、血糖値低下が確認されました。糖尿病治療薬と併用することで、血糖値の上昇抑制、血漿インスリン濃度の改善が見られました。桔梗に、インスリン分泌に関連しない、血糖値低下作用と糖尿病予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17226070

【6】高脂肪食摂取肥満マウスに、桔梗根抽出物を4週間摂取させたところ、血中および肝臓脂質の上昇が抑制されました。また血管内皮細胞を用いた試験では、酸化LDLによる細胞死と乳酸デヒドロゲナーゼの放出が抑制されたことから、桔梗に高脂血症予防効果と血管保護効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22652376

【7】桔梗は昔から漢方薬として用いられ、喉の痰や膿の除去を促すことなどに用いられていました。桔梗に含まれているトリテルペノイドは鎮咳、去痰、抗腫瘍、酸化防止および免疫系の増強に役立つことから、桔梗の有用性が高く評価されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17432133

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参考文献

・Oh YC, Kang OH, Choi JG, Lee YS, Brice OO, Jung HJ, Hong SH, Lee YM, Shin DW, Kim YS, Kwon DY. 2010 “Anti-allergic activity of a platycodon root ethanol extract.” Int J Mol Sci. 2010 Jul 16;11(7): 2746-58.

・Arai I, Komatsu Y, Hirai Y, Shingu K, Ida Y, Yamaura H, Yamamoto T, Kuroiwa Y, Sasaki K, Taguchi S. 1997 “Stimulative effects of saponin from kikyo-to, a Japanese herbal medicine, on pancreatic exocrine secretion of conscious rats.” Planta Med. 1997 Oct;63(5):419-24.

・Ahn YM, Kim SK, Kang JS, Lee BC. 2012 “Platycodon grandiflorum modifies adipokines and the glucose uptake in high-fat diet in mice and L6 muscle cells.” J Pharm Pharmacol. 2012 May;64(5): 697-704.

・Kim JY, Moon KD, Seo KI, Park KW, Choi MS, Do GM, Jeong YK, Cho YS, Lee MK. 2009 “Supplementation of SK1 from Platycodi radix ameliorates obesity and glucose intolerance in mice fed a high-fat diet.” J Med Food. 2009 Jun;12(3): 629-36.

・Zheng J, He J, Ji B, Li Y, Zhang X. 2007 “Antihyperglycemic effects of Platycodon grandiflorum (Jacq.) A. DC. extract on streptozotocin-induced diabetic mice” Plant Foods Hum Nutr. 2007 Mar;62(1): 7-11.

・Chung MJ, Kim SH, Park JW, Lee YJ, Ham SS. 2012 “Platycodon grandiflorum root attenuates vascular endothelial cell injury by oxidized low-density lipoprotein and prevents high-fat diet-induced dyslipidemia in mice by up-regulating antioxidant proteins.” Nutr Res. 2012 May;32(5): 365-73.

・Guo L, Zhang C, Li L, Xiao YQ. 2007 “Advances in studies on Platycodon grandiflorum” Zhongguo Zhong Yao Za Zhi. 2007 Feb;32(3): 181-6.

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