キクラゲとは?
● 基本情報
キクラゲはキクラゲ科キクラゲ属のキノコで、ブナやカエデなど広葉樹の枯れ木に生えます。漢字では「木耳」と書きます。キクラゲの形が耳に似ていることから中国でこのように呼ばれています。クラゲのようなコリコリとした食感から「キクラゲ」という名前が付けられました。中国では、昔から不老長寿の妙薬として珍重されてきました。
● キクラゲの種類、特性
キクラゲの本種はヨーロッパにはなく、アジアから北・南米の熱帯に分布します。
キクラゲは春から秋にかけて、広葉樹の倒木、切り株、枯れ木などに生える木材腐朽菌です。ゼラチン質の耳に似た形をしたキノコで、平地から山岳地帯まで様々な所に自生します。乾燥すると薄くなり、カラカラになります。「キクラゲ」という商品名で流通していますが、それはキクラゲ類の総称を指し、アラゲキクラゲ、コクロキクラゲ、シロキクラゲなど数種類が含まれます。大きく分けると白と黒の2種類に分けられ、シロキクラゲは高級種として知られています。
基本的にキクラゲと総称されているキノコは、直径3〜6㎝、高さは約3㎝ほどの大きさで、その形状は円盤状、杯状、耳状など変化に富んでいます。中でもシロキクラゲは大変ユニークな外見で、全体が純白の花びら状をしており耳状の片の集団で、直径3〜10㎝の塊となって生育しています。
どのキクラゲも背面の一部で基物につきます。群生していると、隣同士でくっつくことが多くなります。樹木に付着している面に極細毛が密生し、裏側は胞子[※1]ができ褐色で滑らかです。人工栽培も盛んにされ、栽培は原木、菌床の袋栽培で行われます。ナラやクリの木などに菌を植えて栽培する方法がとられています。市販されているものは、多くが乾燥品です。
● キクラゲの栄養成分
キノコ特有の多糖類[※2]、高分子多糖体[※3]のβ-グルカンを含み、生体免疫力を高める働きがあります。他のキノコ類に比べてキクラゲには、ミネラル類である鉄分とカルシウムが多く含まれることがポイントです。幅広いミネラルの補給源として期待できると同時に、貧血気味の方は積極的に摂りたい食品です。また、ビタミンB群やビタミンEのほか、体内でビタミンDに変化するエルゴステリンという成分が豊富なため、カルシウムとリンの吸収を良くする働きがあり、血液をサラサラにし、血栓症を予防します。ビタミンDは、丈夫で健康な骨をつくります。丈夫な骨は常に骨代謝によって新しくつくられ続けなければなりません。その骨代謝に効果を発揮するのがキクラゲの特徴です。ビタミンDは破骨細胞[※4]を活性化して古い骨を壊し、骨芽細胞[※5]を活性化して新しい骨をつくることに働きかけます。ビタミンDは、骨の新陳代謝の過程で、破壊と再生が行われるよう調整する役割を果たしています。
さらに、食物繊維も豊富で(100g中に5.2g)、食物繊維が豊富なことで有名なごぼう (100g中に5.7g)と比較しても遜色ありません。整腸効果も期待できます。
● シロキクラゲとクロキクラゲの栄養成分
一般的に中華料理などで食するキクラゲの多くがクロキクラゲで、シロキクラゲは数が少なく、高価で希少価値が高いとされてきました。しかし近年、栽培法が色々と考案され、以前に比べてシロキクラゲも入手しやすく、価格も落ち着いてきたといわれています。シロキクラゲとクロキクラゲは、成分に若干の違いがあります。
シロキクラゲには抗酸化作用[※6]があり、過酸化脂質[※7]の増加を抑え、動脈硬化や老化防止にも働きかけます。肺を潤し、咳を止める効果もあるので、カラ咳が出る時、老人性のぜんそくに有効です。また、植物性のコラーゲンを含むので、肌に潤いを与えます。続けて食べれば、シミやそばかすなどに有効で美肌効果があります。
栄養成分的にはクロキクラゲの方が鉄分、ビタミンB2が豊富に含まれています。そのため、動脈硬化、高血圧、
心臓疾患、婦人科系の疾患の改善に働きかけるといわれています。
<豆知識①>食品としてのキクラゲ
キクラゲを食用としている国は、主に日本、中国、韓国などの東アジアです。日本では、古くから食用として人々の生活に取り入れられており、15世紀(室町時代)以後には、食用にされていたという記録が残っています。大変栄養素に富んでおり、様々な健康効果が期待されるキクラゲですが、その見た目の印象に加えて無味無臭であったため、食材と思われるまでに時間がかかったといわれています。
乾燥すると著しく収縮し固くなりますので、水に30分ほど浸けてもどしてから調理します。スープや炒め物など中華料理には頻繁に使われています。また滋養があることから、薬膳料理にも使用されています。
乾燥品が主流ですが、より美味しく味わいたい場合は、天然もので調理するほうが望ましいといわれています。天然物の旬は春と秋です。全体的にしっとりとしていて湿り気があり、色が濃いものを選ぶとよいでしょう。
乾燥品の場合、選ぶ際のポイントとしては、色が黒くしっかり乾燥しており、形が大きいものが良品とされています。
<豆知識②>キクラゲの調理ポイント
滋養のあるキクラゲは中華料理としてだけでなく、気軽に日常のお惣菜として食卓に取り入れることも可能です。
乾燥キクラゲを水でもどす際、10倍に増えます。水でもどしたキクラゲは、酢の物、和え物、炒め物、スープなどに幅広く活用できます。コリコリとした歯ごたえが美味しさの秘訣で、きゅうり、セロリ、はくさい、もやしなどと好相性です。
また、ちょっと高価なシロキクラゲには、ユニークな調理法があります。もどした後、さらに熱湯にくぐらせてから、シロップ漬けなどにして常備しておくとデザートとして楽しめます。
[※1:胞子とは、シダ植物・コケ植物・藻類・菌類などに形成された生殖細胞のことです。]
[※2:多糖類とは、糖質の最小単位である単糖が、多数結合したものです。]
[※3:多糖体とは、たくさんの糖が連なったものです。高分子とは分子量10000以上が目安です。高分子多糖体とは、その両方をあわせ持つもので、身近なものでは、でんぷんやセルロースなどが挙げられます。]
[※4:破骨細胞とは、古くなった骨を壊す役目を担った細胞の総称です。古くなった骨を吸収するため、骨の生まれ変わりにおいて重要な役割を果たします。]
[※5:骨芽細胞とは、骨組織の表面に存在し、新しい骨をつくる働きを持つ細胞です。カルシウムを沈着させ、新しく丈夫な骨を再生していきます。]
[※6:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
[※7:過酸化脂質とは、コレステロールや中性脂肪などの脂質が活性酸素によって酸化されたものの総称です。]
キクラゲの効果
キクラゲは一人で何役もこなす万能食材で、幅広い効能を持っています。キノコの一種であるキクラゲには多岐にわたる有効成分が明らかにされています。
● 免疫力を高める効果
高分子多糖体のβ-グルカンを含み、生体免疫力を高める効果があります。β-グルカンは人間の体内で、免疫機能をつかさどるマクロファージやナチュラルキラー細胞、白血球のT細胞、B細胞の働きを活性化し、免疫の関連物質であるインターフェロンの生成を促す作用があります。免疫にかかわる因子を活性化することで免疫力を高めます。
また、ブドウ糖や果糖などが多数つながってできた物質であるマンニトール[※8]やトレハロース[※9]といった糖質を約60%も含んでいるので、抗ウイルス作用も期待できます。
●骨粗しょう症の予防効果
エルゴステリン[※10]から変化した豊富なビタミンDは小腸や腎臓でカルシウムの吸収を促進し、吸収率の悪いカルシウムをしっかりと体に取り込んでくれます。骨では血液中のカルシウム濃度を調整し、カルシウムが不足しているときは尿からの排出を防ぐなど、骨のカルシウム濃度を一定に保つ働きを持っています。もともとカルシウム、マグネシウムが豊富ですので、強い骨を目指す方に適した食材です。
●疲労回復、老化防止効果
ビタミンB群、ビタミンEが豊富なので、疲労回復、老化防止にも効果があります。
さらに、キクラゲ独特のヌルヌル成分にも効果があります。このぬめりは膠質(にかわしつ)と呼ばれるものですが、滋養強壮、乾燥肌防止、老化を防ぐ効果などがあります。
● 脳梗塞や心筋梗塞の予防効果
体内でビタミンDに変化するエルゴステリンという成分が豊富なため、カルシウムとリンの吸収を良くすることで、血液をサラサラにし、血栓を予防します。そのため、脳梗塞や心筋梗塞など、あらゆる血栓症の予防効果があります。
● 造血作用・貧血の改善効果
鉄分、カリウムを豊富に含んでいるため、造血作用があり、貧血を予防、改善する効果があります。
● コレステロール値、血糖値、血圧を下げる効果
酸性多糖類を多く含むので、コレステロール、血糖値の上昇を抑制します。またカリウムも多く含んでいるのでナトリウムの排出を促進し、血圧を下げる効果があります。【1】
● 健康な皮膚、髪、爪をつくる効果
ビタミンB2が豊富に含まれているため、細胞の新陳代謝を助け、健康な皮膚や髪、爪をつくり、成長を促します。また、粘膜を保護する働きもあるので、目、舌、唇など、粘膜性の部位の健康にも効果があり、肌荒れや口内炎の改善が期待できます。
● 大腸ガンの予防、便秘の改善効果
特に乾燥キクラゲの場合、食物繊維がずば抜けて多いため、大腸ガンの予防、便秘の改善に効果を発揮します。
[※8:マンニトールは、糖アルコールの一種で、白色で甘みのある水溶性の結晶です。天然に広く存在し、食品ではコンブやキノコ類などに多く含まれます。食品添加物や医薬品にも利用されています。]
[※9:トレハロースとは、グルコースからできた糖の一種です。高い保水力を持つため、化粧品や食品に使用されています。]
[※10:エルゴステリンはキノコに含まれる成分で、光に当たるとビタミンDに変化します。体内では、カルシウムの吸収をよくする働きがあります。]
キクラゲは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○免疫力を向上させたい方
○骨粗しょう症を予防したい方
○疲れやすい方
○老化を防ぎたい方
○貧血でお悩みの方
○生活習慣病を予防したい方
○髪や爪、肌の健康を保ちたい方
○便秘でお悩みの方
キクラゲの研究情報
【1】 糖尿病自然発症マウスに対して、キクラゲの5%熱水抽出物が有効かどうかについて調べました。5週齢のマウスを2%(2F)、5%(5F)、10%(10F)、20%(20F)の脂肪含有食を4週間与え、その後、5F群および20F群の半数例にキクラゲ5%熱水抽出物をあたえました(20FHWE)。20F群と比較して20FHWE群はエネルギー消費量は減少しました。また、血中グルコース濃度は20FHWE群で一番低いことがわかりました。このことから、キクラゲの熱水抽出物の摂取が、食後血糖を抑制する働きがあると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15527075
【2】 糖尿病マウスに対し、キクラゲ熱水溶性物質である水溶性ポリサッカロイド(FA)、酸性多糖類(FA-A)、および中性多糖画分(FAN)の作用について調べました。マウスを5群、1)コントロール群、2)FA(15g/kg)-飼料、3)FA-A(8g/kg)-飼料、4)FAN(2g/kg)-飼料、5)FAN(8g/kg)-飼料を与えたグループに分けました。FA摂取群では、コントロール群と比較し血中グルコース、HbA1c(糖尿病指標)、尿中グルコースの有意な減少が認められました。また、FAN摂取群については、用量依存的にインスリン、HbA1c、尿中グルコースを低下させました。このことから、キクラゲ摂取による糖尿病予防作用はFAおよびFANの成分の性質によるものだと考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10197314
【3】 キクラゲから抽出されたβ‐D‐グルカンはマウス肉腫に対し有効な抑制効果を示しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7196285
【4】 生キクラゲ水抽出液の50〜70%硫安沈殿物は,マウス前駆脂肪細胞3T3-L1のトリグリセライド蓄積を阻害しました。さらに陰イオン交換カラムクロマトグラフィーで部分精製した画分は、3T3-L1の分化を抑制しました。この活性画分には,分子量10000以上のタンパク質が複数認められました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10019833458
参考文献
・菅原龍幸 井上四郎 編 原色食品図鑑 建帛社
・本多京子 食の医学館 小学館
・新版 食材図典 小学館
・池上保子 著 目で見る食材便利ノート 永岡書店
・Takeujchi H, He P, Mooi LY. (2004) “Reductive effect of hot-water extracts from woody ear (Auricularia auricula-judae Quel.) on food intake and blood glucose concentration in genetically diabetic KK-Ay mice.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2004 Aug;50(4):300-4.
・Yuan Z, He P, Takeuchi H. (1998) “Ameliorating effects of water-soluble polysaccharides from woody ear (Auricularia auricula-judae Quel.) in genetically diabetic KK-Ay mice.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1998 Dec;44(6):829-40.
・Misaki A, Kakuta M, Sasaki T, Tanaka M, Miyaji H. (1981) “Studies on interrelation of structure and antitumor effects of polysaccharides:antitumor action of periodate-modified, branched (1 goes to 3)-beta-D-glucan of Auricularia auricula-judae, and other polysaccharides containing (1 goes to 3)-glycosidic linkages.” Carbohydr Res. 1981 May 18;92(1):115-29.