カリン

chinese quince
花梨 安蘭樹(アンランジュ)クワズナシ 木瓜 和木瓜
Chaenomeles sinensis

カリンは、ビタミンCやタンニン、クエン酸、食物繊維などの成分を豊富に含み、咳止めや喉の痛みの予防、美肌効果、疲労回復、整腸作用など様々な効果を発揮します。昔から食用や薬用、芳香剤として親しまれている果実です。

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カリンとは?

●基本情報
カリンとは、バラ科カリン属(ボケ属とすることもある)に属する落葉小高木植物[※1]です。樹高は6~10m、木肌は黄褐色で成長するにつれて樹皮が鱗のようにはがれ、きれいな模様が現れます。葉は互生し、若い葉の裏面には綿のように柔らかい毛が生えていますが、だんだんと抜け落ち無毛の硬い葉に変わります。
4月~5月に直径3cmほどの5枚の花弁からなる白色やピンク色の花を咲かせます。
カリンの果実はつるつるとした鮮やかな黄色で洋梨のような楕円形、または卵形をしています。とても甘酸っぱい香りが特徴です。
カリンの原産地は、中国の湖北、浙江省(せっこうしょう)[※2]です。

●カリンの名前
カリンの学名のChaenomelesは、ギリシャ語で「裂けたりんご」の意味を持つ「chaino melon」が語源です。
アジアでは、寺の境内に植えられている場合「安蘭樹(アンランジュ)」と呼ばれています。
日本ではカリンは生では食べることができないことから「クワズナシ(喰わず梨)」という別名を持っています。

●カリンの歴史
カリンは、約2000年も昔から中国で薬用として使われてきました。中国の古い薬学書である本草綱目(ほんぞうこうもく)[※3]には「カリンには、咳止め、利尿作用、鎮痛作用がある」と記されています。また、衣類に香りをつけたり、室内に置く芳香剤としても使われていました。
日本には、約1100年前の平安時代に弘法大師が唐からカリンの苗を持ち帰ったことから伝わったといわれています。カリンの栽培は江戸時代になってから盛んに行われるようになりました。新緑や紅葉も大変きれいなことから、全国各地の家庭の庭に植えられ親しまれていました。
昭和50年代にカリン酒が咳止めに効果的であるとメディアが取り上げたことで、カリンの認知度はさらに高まりました。現在では、カリンエキスが配合されているのど飴など、数多くのカリンを使用した商品が販売されています。

●カリンの利用
カリンには、石細胞[※4]が多く含まれているため、果物ナイフはなかなか歯が立たないほど硬く、渋みも強いので生では食べられません。
加熱すると渋みがなくなるため、ジャムや果実酒、シロップ漬、ゼリーなどに加工して食べられます。カリンエキスはシャーベットにも利用されています。

カリンの木はとても硬く緻密で光沢があり、色合いも大変美しいため、家の柱や家具、杖、額縁、彫刻材料、バイオリンなどに利用されています。

●カリンの生産地
カリンは全国で栽培されています。長野県での生産量が最も多く、日本の総生産量の約3分の1を占めています。次いで、山形県、香川県と続き、東京都や愛媛県、山梨県でも多く栽培されています。
カリンは収穫期間が長く、市場には10月の初旬から12月初旬にかけて出回っています。

<豆知識>カリンとよく似たマルメロ
長野県諏訪地方でお土産の定番とされているカリンの砂糖漬けは、正確にいうとカリンの果実ではなく、カリンとよく似たマルメロの果実からつくられています。諏訪地方では古くから、マルメロもカリンと呼んで、慣れ親しんできました。カリン祭りやカリン並木があるほど、この果実は諏訪地方で暮らす人々の生活に根付いています。
マルメロは、香りや成分、薬効までカリンとよく似ている果実です。両者の違いとして、カリンは果実の表面がつるつるとして光沢がありますが、マルメロの果実の表面には褐色の綿毛が生えています。

●美味しいカリンを選ぶポイント・保存方法
美味しいカリンを選ぶポイントは2つあります。
・果実が全体にムラなく、明るい黄色に色付いていること
・カリン特有の甘酸っぱい香りが強いこと

まだ色付いていないカリンは追熟させる必要があります。冷暗所に新聞紙などに包んで保存し、果実全体がムラなくきれいな黄色になり、香りがしっかりと出てきたら食べ頃です。

●カリンの特徴
カリンには、強い抗酸化作用があると知られているビタミンC、渋みの原因となるタンニンが豊富に含まれています。
抗酸化作用とは、紫外線や喫煙、ストレスなど生活の様々な場面で発生する活性酸素[※5]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きのことです。
例えば、鉄クギを空気中に放置し続けると鉄クギはサビついてしまいます。これが酸化です。人間の体内で酸化が起こると病気や老化、肌トラブルの原因になってしまいます。カリンに含まれるビタミンCやタンニンが体内で強い抗酸化作用を発揮し、酸化から体を守ることで病気や老化、肌トラブルが予防されます。

また、カリンには不溶性食物繊維の一種であるペクチンカリウムクエン酸、リンゴ酸、アミグダリン、香りの成分であるトリテルペン化合物[※6]なども豊富に含まれています。
アミグダリンはそのまま食べると体に有害ですが、加熱することで分解され抗菌作用や抗炎症作用があるベンズアルデヒド[※7]に変化します。ベンズアルデヒドはカリンの種に多く含まれるため、種ごと加工して食べることで喉の痛みなどに効果的です。

[※1:落葉小高木植物とは、定期的に葉を完全に落とし、樹高が5m以上10m未満の植物のことです。]
[※2:浙江省とは、中華人民共和国の省のひとつです。華東地区中部に位置し、東シナ海に面しています。]
[※3:本草綱目(ほんぞうこうもく)とは、中国で分量や内容が最も充実した薬学著作のことです。]
[※4:石細胞とは、細胞膜が硬く石のようになった細胞のことです。]
[※5:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。紫外線やストレスなどにより体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※6:トリテルペン化合物とは、炭素が30個つながってできるC30構造をもつ化合物のことです。殺菌作用があり、喉の炎症を防ぐ働きがあります。]
[※7:ベンズアルデヒドとは、最も簡単な芳香族アルデヒドのことです。カリンやモモ、アンズなどの香りの成分です。]

カリンの効果

カリンには、抗酸化作用の強いビタミンC、タンニンをはじめとするポリフェノール、ベンズアルデヒド、トリテルペン化合物、クエン酸、リンゴ酸、カリウム、食物繊維の一種であるペクチンなどが豊富に含まれており、以下のような効果が期待されます。

●感染症を予防・改善する効果
カリンには、ベンズアルデヒドやタンニンをはじめとするポリフェノール、トリテルペン化合物が豊富に含まれています。これらの成分は、感染症の原因となる細菌やウイルスが喉の粘膜を通り体内に侵入してくる際、喉で細菌やウイルスを殺したり、炎症を和らげる働きがあるため咳止めや喉の炎症の予防に効果を発揮します。
さらに、カリンに豊富に含まれるビタミンCは、細菌やウイルスを除去する白血球の働きをサポートするため、免疫力を強化し、感染症の予防や病気の回復を早める効果があります。【3】【6】

●ストレスへの抵抗力を強化する効果
カリンに豊富に含まれるビタミンCには、集中力の向上やストレスの解消、心地よさなどの感情を生み出すドーパミンや気持ちを落ち着かせる働きがあるGABA(ギャバ)などの神経伝達物質[※8]やストレスを緩和する副腎皮質ホルモン[※9]の合成をサポートする働きがあります。そのため、ビタミンCを摂取することは、ストレスに対する抵抗力を高めたり、イライラを鎮める効果があります。

●美肌・美白効果
カリンに豊富に含まれるビタミンCには、シミやそばかすを予防し、ハリのある若々しい肌を保つ効果があります。
シミ・そばかすの原因となるメラニン色素は、アミノ酸の一種であるチロシンから生成されます。
ビタミンCにはチロシンの働きを抑制し、メラニン色素の沈着を防ぐ働きがあるため、シミ・そばかすを予防する効果があります。ビタミンCはメラニン色素を素早く分解する働きを持つため、日焼けした肌をできるだけ早くもとに戻す美白効果も期待できます。【7】

●丈夫な体をつくる効果
カリンに豊富に含まれるビタミンCは、丈夫な血管や筋肉、骨、肌などをつくるコラーゲンの合成に必要不可欠な成分です。コラーゲンはたんぱく質の一種で体内のたんぱく質の30%を占めており、体の組織や細胞をしっかり結びつける接着剤のような働きをします。ビタミンCにはコラーゲンの合成をサポートし、骨を丈夫にしたり壊血病[※10]などを予防する効果があります。

●高血圧や動脈硬化を予防・改善する効果
血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増加すると、血管の内壁が脂質で分厚くなり、こぶのようにせり出して血管を狭めるため、高血圧や動脈硬化などが引き起こされます。カリンに豊富に含まれるビタミンCやポリフェノールの一種であるタンニンには、血中の悪玉(LDL)コレステロールを減少させ、血液をきれいにする働きがあるため、高血圧を防ぎ動脈硬化を予防する効果があります。
また、カリンに含まれているカリウムには、ナトリウムの排泄を促し、血圧の上昇を抑える働きがあるため、高血圧の予防や改善にも効果的です。【2】【4】

●疲労回復効果
カリンには、クエン酸やリンゴ酸が豊富に含まれます。
激しい運動やストレス、不規則な生活によって細胞が酸欠状態になると、疲労物質である乳酸が溜まります。クエン酸やリンゴ酸は、乳酸を分解しエネルギーに変える働きがあるため、疲労の蓄積を抑制し、回復を早める効果があります。

●むくみを予防・改善する効果
カリンに含まれるカリウムは、体内の余分な水分を排出する働きがあります。そのため、細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防や改善に効果を発揮します。

●便秘を解消する効果
カリンに豊富に含まれるペクチンは、強い粘性を持っているため、腸内の有害物質を吸着させて一緒に体外に排泄する働きを持っています。また、腸内の善玉菌[※11]である乳酸菌などを増やし、腸の調子を整える働きも持つため、便秘の解消に効果があります。

●体を温める効果
カリンに豊富に含まれているビタミンCやクエン酸には、血流を改善する働きがあります。そのため、体を温める効果が期待できます。

[※8:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※9:副腎皮質ホルモンとは、副腎皮質から分泌されるホルモンのことです。代表的なホルモンに、コルチゾールやアルドステロンがあります。]
[※10:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
[※11:善玉菌とは、ヒトの腸内に棲む細菌の一種です。健康に役立つ働きを行っており、もともと大腸に棲んでいる腸内ビフィズス菌や乳酸菌、腸球菌などが善玉菌といわれます。]

カリンは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○免疫力を向上させたい方
○ストレスをやわらげたい方
○シミ、そばかすが気になる方
○丈夫な体をつくりたい方
○血圧が高い方
○コレステロール値が気になる方
○疲れやすい方
○むくみを改善したい方
○便秘でお悩みの方
○冷え症の方

カリンの研究情報

【1】カリンが高い抗酸化活性を示すことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22792785

【2】糖尿病ラットに、カリン果実を50、100mg/kgの量で14日間摂取させたところ、血糖値や血中トリグリセリド、総コレステロールが低下し、肝臓障害の指標ALT、ASTが低下しました。一方、抗酸化酵素は増加したことから、カリンが糖尿病予防効果および肝臓保護作用を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21764274

【3】カリン抽出物がウイルス増殖抑制作用ならびにウイルス性血液凝集抑制作用をもつことから、カリンが抗ウイルス作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18456441

【4】Ⅰ型糖尿病ラットに、カリン抽出物を5mg/kg の量で投与したところ、BUN(腎機能マーカー)、血糖、血清総コレステロール、トリアシルグリセロール、LDLコレステロール、肝臓障害の指標ALT、ASTが減少しました。一方、HDLコレステロール、ヘモグロビン(Hb)、抗酸化酵素SODやカタラーゼが増加したことから、カリンが糖尿病予防効果を持つことが示唆されました。

【5】カリンにはフラボノイドの一種、アピゲニン、アピゲニン7-グルクロニド、アピゲニン‐4’‐メトキシ‐7‐グルクロニドが含まれています。これらは、セロトニン、血小板活性因子、プロスタグランジン‐E2誘発によるひっかき行動を抑制するはたらきを持つことから、カリンが抗炎症作用および抗アレルギー作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12843634

【6】カリン果実はStreptococcus pyogenes (A群溶血性連鎖球菌)に対して抗菌性およびストレプトリジンに対する抗溶血作用を有していることが知られています。カリン果実に含まれる機能性成分トリテルペン及びβ-sitosterolがこれらの働きを有していることがわかりました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008731762

【7】カリン抽出物は、ヒスタミン遊離阻害作用とヒアルロニダーゼ阻害作用を有することから、カリンが抗炎症作用や抗アレルギー作用および肌保護作用を持つと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008731954

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参考文献

・大澤謙二、安田英之、森田博史、糸川秀治 (1997) “カリン(Chaenomeles sinensis)果実より単離されたトリテルペン及びβ-sitosterolの抗菌活性及び抗溶血活性” 生薬學雜誌 51(4), 365-367, 1997-08-20

・ZHANG Ting, MI Mantian, TANG Yong, ZHAO Jing (2007) “THE EXTRACTION OF POLYPHENOL CONTENTS OF CHAENOMELES SINENSIS AND ITS EFFECT ON SCAVENGING DPPH” Yingyang XuebaoVol.29, No.5, Page485-489 (2007)

・大澤謙二、宮崎都子、今井啓二、荒川勉、安田英之、竹谷孝一 “カリン(Chaenomeles sinensis)果実のヒアルロニダーゼ阻害効果及びラット肥満細胞からのヒスタミン遊離阻害効果について”  生薬學雜誌 53(4), 188-193, 1999-08-20

・Liu S, Bai Z, Li J. (2012) “[Comprehensive evaluation of multi-quality characteristic indexes of Chaenomeles speciosa and C. sinensis fruits].” Zhongguo Zhong Yao Za Zhi. 2012 Apr;37(7):901-7.

・Sancheti S, Sancheti S, Seo SY. (2011) “Antidiabetic and antiacetylcholinesterase effects of ethyl acetate fraction of Chaenomeles sinensis (Thouin) Koehne fruits in streptozotocin-induced diabetic rats.” Exp Toxicol Pathol. 2011 Jul 15. [Epub ahead of print]

・Sawai R, Kuroda K, Shibata T, Gomyou R, Osawa K, Shimizu K. (2008) “Anti-influenza virus activity of Chaenomeles sinensis.” J Ethnopharmacol. 2008 Jun 19;118(1):108-12. Epub 2008 Mar 27.

・SANCHETI Sandesh, SANCHETI Shruti, BAFNA Mayur, SEO Sung-Yum  SEO Sung-Yum (2010) “Antihyperglycemic, antihyperlipidemic, and antioxidant effects of Chaenomeles sinensis fruit extract in streptozotocin-induced diabetic rats” Eur Food Res Technol 2010

・Oku H, Ueda Y, Ishiguro K. (2003) “Antipruritic effects of the fruits of Chaenomeles sinensis.” Biol Pharm Bull. 2003 Jul;26(7):1031-4.

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