寒天

かんてん

あらゆる食品の中でトップクラスの食物繊維量を含む寒天は、生活習慣病予防や便秘の解消に効果的であるとされ人気の食材です。
カロリーがなく腹もちの良い寒天は、ダイエットの強い味方で、温度の変化によって食感も変わるため、様々な料理に活用されています。

寒天とは

●基本情報
寒天の原料は紅藻類、特に天草(テングサ)という海藻です。天草とは1種類の海藻の名前ではなく多年草の海藻の総称です。昔は伊豆産のマクサやヒラクサ、オバクサなどが良質とされていましたが、現在では世界各地から海藻が輸入され、様々な原料から寒天がつくられています。
寒天はテングサなどの紅藻類から得られる天然多糖類で、熱水により抽出することができます。寒天は加熱すると溶解し、冷やすことで凝固してゲルになります。

●寒天の性質
寒天は、固まる温度と溶ける温度に大きな違いがあります。
液体の状態にある寒天が固まり始める温度は40℃ぐらい、溶ける温度は90℃ぐらいです。この温度差を利用し、とろみを生み出すことができます。
寒天のゲルはもう一度熱を加えることで液体に戻る性質を持っています。また、1ℓの水を固めるために必要な寒天はわずか10gと凝固力が非常に高いことも寒天の大きな特徴といわれています。
寒天は酸に弱いという特性ももっています。キウイフルーツや柑橘類などの酸味の強い果物や果汁を加えると固まりにくくなる性質があり、酸味の強いものを加えて加熱すると、組織がバラバラになってしまいます。酸味の強いものを加えるときは寒天を溶かし、あら熱をとった後に手早く混ぜ合わせます。

●寒天の種類
寒天は大きく3種類に分類されます。
・角寒天
自然凍結と天日乾燥を繰り返す、昔ながらの製法で作られるブロック体の寒天です。調理する前に、水に30分ほどつけて柔らかくします。溶かして使う際には沸騰したお湯の中に細かくちぎって入れ、かたまりが消えるまで煮ます。

・糸寒天
角寒天と同様、昔ながらの製法で作られ、サラダなどに使用される糸状の寒天です。溶かしても使用できますが、その際は透明になるまで煮込みます。

・粉寒天
専用の工場内で通年製造される粉末状の寒天です。単に食品だけでなく、工業用・医薬用・化粧品用などに用途が拡がっています。
粉寒天は水に加えてから火にかけます。底に溜まらないようによくかき混ぜながら3分ほど煮ます。

●寒天に含まれる成分
寒天はそのほとんどが食物繊維で、100g中80.9gとあらゆる食品の中で食物繊維を一番多く含んでいます。日本薬局方の寒天の項には「粘滑薬又は、包摂薬として、慢性便秘に水に溶かすか粉末として服用するか、あるいは配合剤として用いる」とあります。
寒天に緩下作用、整腸作用があることが知られていたなかで、食物繊維が注目されました。
食物繊維は「非栄養素」とよばれていましたが、食物繊維には他の栄養素にない重要な生理機能があることが発見され現在では「第6の栄養素」と呼ばれています。
寒天には食物繊維の他にもカルシウム、鉄、カリウムなどが含まれています。

●寒天の生理機能
寒天に豊富に含まれる食物繊維が、様々な生理機能を発揮します。排便を促して便秘を解消したり、コレステロールの吸収を防ぐ効果が良く知られています。また、寒天は食品として利用することで、満腹感が出て食べすぎを予防し、肥満を防ぐといった効果があります。

<豆知識>寒天とゼラチンの違い
寒天と同じく冷やすとゲルを形成するものにゼラチンがありますが、原料も性質も全く違うものです。寒天の凝固点は40℃前後と比較的高く、室温で容易に固めることができます。また、一度固まったゲルの融点は80℃以上なので溶けにくいゲルともいえます。夏の室温で溶けだしたり、冷蔵庫でなければ固まらないゼラチンと違い扱いやすい性質です。
寒天は砂糖とともに用いられることが多く、この際にゲルの強度や粘度が大きく変化します。

寒天の効果

寒天には、食物繊維などの栄養素が豊富に含まれるため、以下のような効果が期待できます。

●便秘を解消する効果
食物繊維は、大腸内で水分を吸うと膨張して便のかさを増し、柔らかくします。 このような便が腸壁を刺激し、排便が楽になります。柔らかい便は痔の予防にもなります。
また、現在主流となっている欧米型の食事を続けると便の量が少なくなり、大腸内に長く滞留するようになります。大腸内で発ガン物質やそれを助ける物質ができた場合、体内にとどまり吸収する可能性のある時間も長くなります。また、動物性たんぱく質や脂肪を多く摂ると悪性の物質ができやすくなるという実験結果も出ています。寒天を食べることで腸内に食物繊維を増やすと、発ガン物質が吸着され排泄されるので大腸は影響を受けにくくなります。
また、腸内細菌のバランスがガンの予防や発生に関わりがあるといわれます。食物繊維は腸内細菌の中でも善玉菌を増殖しやすくする働きもあります。善玉菌は、腸内で悪玉菌の増殖を抑えたり有害物質が吸収されることを防いでくれます。【1】

●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化を進行させる最大の因子は、血液中のコレステロール量の増加です。その予防のためには、善玉コレステロールが増え、悪玉コレステロールが減ることが理想的とされています。
寒天は、食事に含まれる余分なコレステロールの吸収を防ぎ、コレステロール値を下げることがわかっています。寒天に含まれる食物繊維は、胆汁酸が腸壁で吸収されることを防ぎます。胆汁酸は脂質の消化を助ける主成分ですが、使われても腸壁から吸収されて肝臓でリサイクルされます。しかし、食物繊維が胆汁酸の再吸収を防ぐため、胆汁酸は新たに肝臓でつくらなければなりません。胆汁酸の成分の原料はコレステロールであるため、新しい胆汁酸を合成するために体内のコレステロールがそれだけ少なくなるのです。【2】

●糖尿病を予防する効果
人間の血液中にはブドウ糖と呼ばれる、体を動かす上で重要なエネルギーが含まれています。このブドウ糖が細胞へと運ばれて筋肉や臓器で使われています。
ブドウ糖は食物を消化・吸収することで作られ、血糖ともいわれています。
ただし、この血糖は多すぎても少なすぎても体に悪影響を与えてしまいます。
そのため、食後に血糖が高くなりすぎないようにインスリンというホルモンが働き血糖値の調節をします。
糖尿病はインスリンの分泌障害によって、食物としてとり入れた糖質の体内利用がうまくいかず血糖値が異常に高くなる病気です。
日本人の糖尿病患者のおよそ95%が、2型糖尿病と呼ばれる食べ過ぎや運動不足などの生活習慣病が原因となる生活習慣病であるといわれています。
食物繊維を多く摂るようにすると、胃がその内容物を腸へ送りだすスピードが遅くなります。そのため、腸壁からの糖質吸収にも時間がかかり血糖値の上昇も緩やかになります。
さらに、食物繊維を長期にわたって食べ続けると、インスリンの働きが良くなり、ブドウ糖の代謝が高まるともいわれています。【2】

●肥満を防ぐ効果
食物繊維そのものはノーカロリーですから、多く食べても太り過ぎの心配はありません。しかも、食物繊維には吸水力があり水分を吸うとかさが増えますので、 少量でも満腹感が得られます。また、糖質の吸収に時間がかかるので満腹感が長持ちするというメリットもあります。またその結果、肥満に起因する高血圧の症状を防ぐ効果も期待されています。【2】

寒天は食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○便秘がちの方
○動脈硬化を予防したい方
○糖尿病を予防したい方
○ダイエットしたい方

寒天の研究情報

【1】高齢者80名を対象に、寒天およびオリゴ糖を3ヶ月間摂取させたところ、排便状況(排便回数、下剤服用回数)および腸内環境(糞便中水分量、短鎖脂肪酸量、腸内細菌叢)に改善が見られました。また、腸内細菌の総菌数が増加し、善玉菌のビフィズス菌も増加傾向が見られたことから、寒天は便秘改善および腸内環境改善効果が期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006668375

【2】Ⅱ型糖尿病患者76名を対象に、食事ダイエットに加え、寒天を12週間摂取させたところ、HbA1c、内臓脂肪面積、皮下脂肪、総脂質、糖負荷試験後のインスリン値、総コレステロールの増加が緩和されたことから、寒天は糖尿病予防に役立つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15642074

参考文献

・鎌田實 監修 「寒天」パワーを使い切る!健康便利帳 青春出版社

・田村 朝子、島崎 みつ子 (2008) “寒天ゼリーおよびオリゴ糖長期摂取による施設入所高齢者の排便状況改善効果” 日本家政学会誌 59(5), 327-335, 2008-05-15

・Maeda H, Yamamoto R, Hirao K, Tochikubo O. (2005) “Effects of agar (kanten) diet on obese patients with impaired glucose tolerance and type 2 diabetes.” Diabetes Obes Metab. 2005 Jan;7(1):40-6.

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