山椒

Japan pepper
ハジカミ

山椒はことわざにも使われているように、古くから人々の生活になじみのある香辛野菜です。
山椒にはサンショオールやシトロネラール、ジペンテン、フェランドレン、ゲラニオールなどの有効成分が含まれており、胃腸の機能を高める効果などが期待できます。

山椒とは?

●基本情報
山椒はミカン科サンショウ属のとげのある落葉低木です。高さは2~3m程になります。
原産地は日本や中国、朝鮮半島などの東アジアや北アメリカです。樹木全体に独特の香りがあり、ピリッとした辛みを持つことが特徴で、若葉、花、実の全ての部分が利用されています。山椒特有の香りと辛みを生かし、薬味や香辛料として様々な料理に使われています。昔から主に食べ物に風味を添えるために用いられてきました。若葉を「木の芽」、4月~5月につける黄色い花を「花山椒」、その後にできる青い実を「青山椒」、成熟した実を「実山椒」と呼び使用しています。実山椒のうち、実が裂けて種子がはじけたものを「割り山椒」、青山椒を粉にしたものを「粉山椒」と呼んでいます。山椒には雄株と雌株があり、実がなるのは雌株の方です。そのため、雌株を実山椒、雄株を花山椒とも呼びます。
また、木の幹は、堅く香りも良いため、最高級品のすりこぎ棒として販売されています。
山椒は古くから医薬品として漢方や西洋医学、民間薬などの分野でも用いられてきました。

<豆知識①>山椒のことわざ
日本には「山椒は小粒でもぴりりと辛い」ということわざがあります。
見かけや体は小さいけれど、気性や才能が非常に優れており侮れない者という意味です。山椒自体はとても小さい粒であるにも関わらず、強い辛みを持つことから転じてできたことわざです。山椒は昔から日本人にとってなじみの深い存在であったことが分かります。

●山椒の歴史
山椒は魏志倭人伝(ぎしわじんでん)[※1]や古事記(こじき)[※2]に山椒の古名である「ハジカミ」の名で記録されており、最も古くからある香辛野菜であるといわれています。平安時代からは薬用として用いられており、のぼせや咳、下痢などに効果があるとされていました。室町時代に書かれた大草家料理書[※3]には、うなぎの蒲焼きに山椒の粉をふりかけることが紹介されており、すでに今日のような使われ方がされていたと考えられています。山椒はもともと北海道から九州までの山野に自生しており、明治時代から栽培が始められました。

<豆知識②>山椒は権力の象徴
中国では山椒は古代より漢方薬として利用されてきましたが、その香りを楽しむために独特の使われ方がされていました。前漢の時代に皇居の居室では、壁の中に山椒の実を塗り込み部屋中に優雅な香りを漂わせたそうです。
これをまねて、貴族は庭に山椒を敷きつめたり、豪商は土壁に山椒を塗り込むなどしていました。当時の中国では、山椒は権力の象徴として扱われていたようです。

●山椒の旬
山椒は若葉、花、実の全てが利用されているため、部位によって旬が少しずつ違っています。
木の芽や花山椒は4月~5月に、青山椒は6月頃に、実山椒はその後から秋にかけて旬を迎えます。

●山椒の生産地
山椒は中部・東海地域から西の地域で栽培されており、特に近畿地域の山間部で多く栽培されています。
山椒の最大の生産地は和歌山県で、次に高知県、京都府と続きます。(2009年)
和歌山県は全体の収穫量の半分以上を占め、日本一の栽培面積を誇ります。和歌山県内の主要産地は有田郡有田川町や海草郡紀美野町などです。

●山椒の利用法
山椒は部位によって香辛料や調味料、薬味、漢方薬、美容品など様々に利用されています。
木の芽はお吸い物や酢の物、ちらし寿司などの材料に使われます。花山椒は高級珍味として食通に知られており、主に佃煮や料理の彩りに使われ、爽やかな風味と食感が楽しまれています。青山椒や実山椒は乾燥させずに生のまますりつぶして使うものと、乾燥させ挽いたものを使用する2通りがあります。生のまま使用する場合は佃煮や魚料理の臭い消しとして、ちりめん山椒や有馬煮(ありまに)[※4]、懐石料理などに使われます。乾燥させ挽いたものは粉山椒や七味とうがらし、カレー粉、ウスターソース、山椒塩などのように香辛料や薬味として使用されます。また漢方薬の素材としても活用されます。
美容品としては保湿・血行促進・白髪予防の薬用シャンプーなどに山椒エキスが使われています。

葉も実もおいしくいただける山椒ですが、葉はそのままではそれ程強い香りを持ちません。これは葉の組織中に香り成分のシトロネラールが閉じ込められているためです。葉を使用する際は手のひらでパンと叩いて組織を壊し、香り成分を外に出してから使用すると、山椒特有の香りを楽しむことができます。

●山椒に含まれる成分と性質
山椒には、サンショオールやシトロネラール、ジテルペン、フェランドレン、ゲラニオールなどの精油成分が含まれています。
サンショオールは内臓器官の働きを活発にし、消化不良を改善するなどの効能が知られています。また、新陳代謝を活発にしたり、発汗作用を持つなどの働きもあるといわれています。
サンショオールは青山椒に最も多く含まれている成分です。サンショオールには麻酔と似た作用があるため青山椒をそのまま食べると、舌が痺れるので注意が必要です。
山椒を入浴剤に用いると神経痛、リウマチ、痛風、肩こり、冷え性などの症状を和らげるといわれています。また、山椒を煎じただし汁でうがいをすれば、歯痛にも効果があるとされています。

[※1:魏志倭人伝とは、「三国志」魏書東夷伝の中の一部のことです。2~3世紀の倭人の風習および邪馬台国について記されています。]
[※2:古事記とは、現存する日本最古の歴史書のことです。上・中・下の3巻から成ります。]
[※3:大草家料理書とは、日本料理の一流派である大草流の料理法や儀式を伝える江戸時代初期の相伝書のことです。]
[※4:有馬煮とは、佃煮などにした実山椒を用いてつくられた煮物のことです。兵庫県の有馬地方が山椒の名産地であったことから実山椒を使った料理を「有馬~」と呼ぶことがあります。]

山椒の働き

山椒は漢方薬や生薬として使用され、健康に対して以下のような効果が期待できます。

●胃腸の機能を高める効果
山椒に含まれる辛み成分であるサンショオールには、胃を丈夫にし、腸の働きを整える効果があります。
サンショオールには大脳を刺激して内臓器官の働きを活発にする作用があるとされ、消化不良や消化不良が原因の胸苦しさなどに効果があるとされています。【2】

●冷え性を改善する効果
山椒に含まれる辛み成分であるサンショオールには、新陳代謝を活発にしたり、発汗作用の働きがあることが知られており、冷え性の改善に効果があるといわれています。【1】

●痛みを軽減する効果
山椒には鎮痛作用があり、打撲や打ち身、捻挫、むち打ち症[※5]などの解消に効果があるといわれています。
他の生薬と組み合わせて使用されることも多くあります。

[※5:むち打ち症とは、車の追突事故などで頚(くび)や頭部に衝撃を受け、後に肩こりや首のだるさ、首の痛みが生じ、それに伴い頭痛やめまいが起こったり、気持ち悪くなったりするなどの症状のことです。すぐに症状が現れないこともあるので注意が必要です。]

山椒はこんな方におすすめ

○胃腸の健康を保ちたい方
○冷え性の方

山椒の研究情報

【1】ラットに山椒抽出物を摂取させたところ、大動脈の血管弛緩効果が確認されました。山椒は血管拡張作用を持つ内皮細胞由来NOSとその関連物質を活性化し、血管平滑筋を弛緩することで、血管拡張作用を示すことから山椒が血流改善効果ならびに高血圧予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20347946

【2】モルモットから摘出した消化管に、山椒の有効成分であるβサンショオールおよびγサンショオールを投与したところ、回腸、遠位結腸および胃の輪走筋・縦走筋を弛緩させる働きが見られたことから、山椒が健胃効果ならびに清澄効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11301873

【3】山椒は日和見感染菌、病原菌に対する発育阻害作用を示すことから、山椒が抗菌作用を持ち、感染症を予防するのに有益であると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15957372.

参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・内田正宏 芦沢正和 花図鑑野菜 星雲社

・Li X, Kim HY, Cui HZ, Cho KW, Kang DG, Lee HS. 2010 “Water extract of Zanthoxylum piperitum induces vascular relaxation via endothelium-dependent NO-cGMP signaling.” J Ethnopharmacol. 2010 May 27;129(2): 197-202.

・Hashimoto K, Satoh K, Kase Y, Ishige A, Kubo M, Sasaki H, Nishikawa S, Kurosawa S, Yakabi K, Nakamura T. 2001 “Modulatory effect of aliphatic acid amides from Zanthoxylum piperitum on isolated gastrointestinal tract.” Planta Med. 2001 Mar;67(2):179-81.

・Bafi-Yeboa NF, Arnason JT, Baker J, Smith ML. 2005 “Antifungal constituents of northern prickly ash, Zanthoxylum americanum mill.” Phytomedicine. 2005 May;12(5): 370-7.

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