イノシトール

inositol
ビタミンB8

イノシトールは、筋肉や神経細胞に多く存在している栄養素で、以前はビタミンB群の仲間として扱われていましたが、体内でも生合成でき欠乏症もないため、現在はビタミン様物質として扱われています。水溶性で穀物や果物などの食品に多く含まれ、脂肪肝や動脈硬化の予防から神経細胞の働きを助ける作用まで幅広い働きを持っています。

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イノシトールとは

●基本情報
イノシトールとは 糖アルコールの一種です。生体内でグルコース(ブドウ糖)から生合成され、動物の体内では細胞膜に多く含まれています。植物では穀物の糠や豆に多く含まれています。白色の結晶性粉末で、臭いはなく、後味のないすっきりした甘みを持っています。
イノシトールには9種類の異性体(cis-, epi-, allo-, myo-, muco-, neo-, D-chiro-,L-chiro-, scyllo- )が存在しますが、ミオイノシトールのみが生物活性を有するため、通常はミオイノシトールをイノシトールと呼んでいます。ミオとは筋肉を指し、筋肉の中に多く含まれる成分であることに由来しています。
イノシトールは、植物中ではイノシトールまたはフィチン酸(イノシトール 6リン酸[※1])の形態で存在し、動物体内ではイノシトールまたはイノシトールリン酸の形態で存在しています。一般に食品添加物に栄養強化剤として使用が認められており、脂肪肝や動脈硬化を予防し、脳細胞に栄養を与える効果があるといわれています。また、人間の初乳に多く含まれ、乳児に欠かすことのできない成長物質ともいわれており、粉ミルクにも添加されています。

●イノシトールの歴史
イノシトールは 100 年ほど前に哺乳動物の筋肉組織の抽出物から発見されました。その後、マウスやラットによる実験をもとに、1940年代に成育や毛髪を正常に保つビタミンとして報告され、ビタミンB群の一種と考えられていました。その後の研究によって、体内でもグルコース(ブドウ糖)から合成されることがわかり、現在ではビタミン様物質として取り扱われています。

●イノシトールの摂取量
イノシトールは、体内でグルコース(ブドウ糖)からも合成されますが、合成量には限界があり、それだけでは十分な量とはいえないため、毎日の食事やサプリメントで摂取することが大切です。脂肪肝、肝硬変、高コレステロール血症、動脈硬化症などに対して効果を得るために1日に必要な摂取目安量は500~2000mgとされています。

[※1:イノシトール 6リン酸とは、イノシトールの6個のヒドロキシ基(アルコールや糖などのOH基のこと)が全てリン酸化されたもので、フィチン酸とも呼ばれています。穀物の糠や種子など多くの植物組織に存在する、主要なリンの貯蔵形態です。]

イノシトールの効果

●生活習慣病の予防・改善効果
イノシトールには脂肪肝[※2]を防ぐ効果があります。イノシトールは「抗脂肪肝ビタミン」とも呼ばれ、脂肪の流れを良くして、肝臓に余分な脂肪が蓄積しないようにコントロールする働きを担っています。
血管や肝臓の脂肪やコレステロールの流れも良くするので、脂肪分の多い食事が好きな方やお酒を飲む量が多い方は、イノシトールを十分に摂取していれば、血管にコレステロールが貯まって起こる動脈硬化の予防も期待できます。【1】【4】

●神経機能を正常に保つ効果
イノシトールは、ホスファチジルイノシトールというリン脂質の構成成分です。リン脂質は細胞膜に含まれている成分で、特に神経細胞の膜に多く存在しています。リン脂質は脳細胞に栄養を供給したり、神経の働きを正常に保つ働きを担っています。したがって、リン脂質の構成要素であるイノシトールは、神経の伝達や脳の活動を正常に保つ上で欠かすことのできない成分といえます。【2】

●髪を健康に保つ効果
イノシトールは、神経の伝達や脳の活動を正常に保つ上で欠かすことのできない成分であり、神経細胞に栄養を供給する働きを担っています。神経細胞はあらゆる器官に刺激を伝達するほか、発毛や育毛などの頭皮の健康を指示する情報の伝達も担っています。この働きによって頭皮の健康が保たれ、抜け毛や湿疹等の頭皮のトラブルを防ぐことができると考えられています。したがって、イノシトールによる神経細胞の活性化が、健康な髪を維持する効果があると考えられています。【2】【4】

●その他の効果
近年では、1日10g以上のイノシトールの大量摂取により、パニック症候群や強迫性障害の治療に有効性が示唆されるといった脳機能改善の報告もなされています。【3】【5】
また、イノシトールは腸の筋肉の収縮活動を高めるという報告があり、収縮活動が高まると便通がよくなります。

[※2:脂肪肝とは、食べ過ぎや飲みすぎによって肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった肝臓の肥満症ともいえる状態です。肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった脂肪肝は、動脈硬化をはじめとする様々な生活習慣病を引き起こす恐れがあります。]

食事やサプリメントで摂取できます

イノシトールを含む食品

オレンジ
すいか
メロン
グレープフルーツ

こんな方におすすめ

○コレステロール値が気になる方
○生活習慣病を予防したい方
○脂っこい食事が多い方
○お酒をよく飲む方
○野菜不足の方
○ストレスをやわらげたい方
○薄毛でお悩みの方

イノシトールの研究情報

【1】 生後5週間のヒヨコを対象に、コレステロール2%, イノシトール1%, コリン1% を含む餌を15‐25週摂取させたところ、アテローム性動脈硬化症が抑制されたことから、イノシトールが生活習慣病予防効果を持つことが示唆されました。
https://www.ahajournals.org/doi/abs/10.1161/01.CIR.2.5.714

【2】イノシトール1,4,5‐トリホスフェイト受容体は、毛母細胞や神経細胞のはたらきを調整する因子であることがわかり、イノシトールが頭髪の健康維持や神経のはたらきを整えると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10877830

【3】20名のパニック障害患者を対象に、イノシトールを1日当たり18g また150㎎/日のフルボキサミンを1日あたり150mg の量で1ヶ月間摂取させたところ、パニック障害の症状(攻撃性・嘔吐・恐怖感)が改善されることから、イノシトールは、パニック障害や強迫性障害予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11386498

【4】多嚢胞性卵巣症候群の肥満女性44名 (18~40歳) を対象とした無作為化二重盲検比較試験において、イノシトールの異性体であるキロイノシトール (D-chiro-inositol) を1,200 mg/日、6~8週間摂取させたところ、血中トリグリセリドとテストステロンレベルの減少、血圧の低下が認められたことから、イノシトールが更年期障害予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10219066

【5】パニック症候群患者21名を対象に、イノシトールを1日当たり12gの量で4週間摂取させたところ、パニック症候群の重症度と発作の頻度および広場恐怖症の重症度が減少したことから、イノシトールがパニック症候群予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7793450

【6】ホスファチジルイノシトールは、血管内皮細胞遊走を抑制することで、血管内皮増殖因子(VEGF-A)誘発による血管の管腔形成を抑制したことから、ホスファチジルイノシトールは、糖尿病網膜症による網膜剥離の原因となる血管新生を抑制すると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18187933

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参考文献

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・田中平三門脇孝 健康食品のすべて(ナチュラルメディシンデータベース)

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・中嶋洋子、阿部芳子、蒲原聖可 食べ物栄養事典 主婦の友ベストBOOKS

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・J. STAMLER, C. BOLENE, R. HARRIS and L. N. KATZ (1950) “Effect of choline and inositol on plasma and tissue lipids and atherosclerosis in the cholesterol-fed chick.” Circulation. 1950 Nov;2(5):714-21.

・Blackshaw S, Sawa A, Sharp AH, Ross CA, Snyder SH, Khan AA. (2000) “Type 3 inositol 1,4,5-trisphosphate receptor modulates cell death.” FASEB J. 2000 Jul;14(10):1375-9.

・Palatnik A, Frolov K, Fux M, Benjamin J. (2001) “Double-blind, controlled, crossover trial of inositol versus fluvoxamine for the treatment of panic disorder.” J Clin Psychopharmacol. 2001 Jun;21(3):335-9.

・Benjamin J, Levine J, Fux M, Aviv A, Levy D, Belmaker RH. (1995) “Double-blind, placebo-controlled, crossover trial of inositol treatment for panic disorder.” Am J Psychiatry. 1995 Jul;152(7):1084-6

・Nestler JE, Jakubowicz DJ, Reamer P, Gunn RD, Allan G. (1999) “Ovulatory and metabolic effects of D-chiro-inositol in the polycystic ovary syndrome.” N Engl J Med. 1999 Apr 29;340(17):1314-20.

・Matsunaga N, Shimazawa M, Otsubo K, Hara H. (2008) “Phosphatidylinositol inhibits vascular endothelial growth factor-A–induced migration of human umbilical vein endothelial cells.” J Pharmacol Sci. 2008 Jan;106(1):128-35.

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