モリンガとは?
●基本情報
モリンガは、ワサビノキ属ワサビノキ科の多肉質の落葉樹[※1]です。
モリンガは治療薬として古代ギリシャ時代から利用されていました。またインドの伝承医学であるアーユルヴェーダ[※2]でもメディカルハーブの1つとして記されています。
古代エジプトの香水キフィーには、モリンガの種子から採れるオイルが含まれていたといわれています。モリンガは病気を治す有益な植物として、当時インドからアジア各国、アフリカなどの熱帯・亜熱帯地方に広まっていきました。
モリンガの原産はインド・ヒマラヤといわれています。荒れた乾燥地帯や汚れた水しかない過酷な環境でも育つことから非常に生命力が強く、さらに栄養成分が豊富なことから、近年世界中でモリンガの植樹と栄養補給にモリンガが食されるようになりました。日本では九州・沖縄地方を中心にモリンガの栽培が行われるようになり、モリンガを使ったサプリメントやお茶、美容商品が日本でも販売されています。
モリンガは根にホースラディッシュのような刺激味があります。ホースラディッシュとは、根にワサビに似た辛味と香気を持つ植物です。モリンガは、ホースラディッシュの代用として用いられることがあるため、別名「ホースラディッシュ・ツリー」と呼ばれています。
モリンガの幹は淡いグレーから銅色をしており、大きい羽状の複葉はマスタードのような香りがします。また香りのよい黄色がかった白い5弁の花が咲き、大きくぶらさがった豆のようなさく果が実ります。このさやが45 cmにも達することから、ドラムスティックと呼ばれることもあります。
●モリンガの利用法
モリンガは「種・葉・枝・幹・茎・さや・根・花」はほとんどすべての部分を利用できることから、「ミラクルツリー(奇跡の木)」と呼ばれ、近年ではスーパーフードとしても注目されています。
モリンガの葉、花、未熟な実は採れる時に集めて生で使用されます。葉には貝や甲殻類の毒素を中和する効果があるとされ、料理にも使用されています。また葉は栄養豊富で、家畜の餌や堆肥としても利用されています。
熟した種子は、ふさから出してナッツのように炒って食べられます。モリンガの種子は「ベン・ナッツ」とも呼ばれ、これからとれるオイルを「ベンオイル」と呼びます。このオイルは味・香り・色はなく酸化しにくいため、その用途は幅広くサラダ・ドレッシング、時計の潤滑油、画材、軟膏に利用されるなど、食品・薬剤の成分として使用されています。また長鎖脂肪酸[※3]が多く含まれていることから、肌に優しく、フランスでは高級化粧品として利用されています。
樹皮、根、根皮は必要に応じて集めてジュースにしたり、生または乾燥させて煎じ薬にしたりします。またレイヨン、セロファン製造などにも利用されます。
<豆知識>モリンガの浄水効果
モリンガは浄水効果を持っています。モリンガの種子油を搾り取ったしぼりかすを粉末にして、汚水に投入すると水が浄化できるといわれています。これはモリンガの種子に含まれるたくさんのたんぱく質のうち、あるたんぱく質が水に溶け込んでいる異物を接着剤のような効果で固める働きがあるからです。
●モリンガに含まれる成分と性質
モリンガにはビタミンAやC、β-カロテンが豊富に含まれています。またミネラルとしてもカルシウムやカリウム、鉄を豊富に含んでいます。モリンガの葉は栄養素が豊富でビタミンAの補給として、貧困地域の乳児や妊婦、授乳婦の栄養失調の治療と予防のために使用されています。また代謝を促す栄養成分も豊富なため、ダイエットやアンチエイチングにも効果的といわれています。
[※1:落葉樹とは、定期的に葉を完全に落とす樹木のことです。]
[※2:アーユルヴェーダとは、インドで古くから語り継がれている東洋医学のひとつです。「予防医学」の考え方を重視し、世界保健機構(WHO)が正式に奨励している医学です。]
[※3:長鎖脂肪酸とは炭素数14以上の脂肪酸のことで、食用脂肪の構成脂肪酸もほとんどが長鎖脂肪酸です。]
モリンガの効果
●炎症を抑制する効果
モリンガには炎症を抑える効果があります。
関節炎を発症したラットを用いた研究では、モリンガの根および葉、またはその両方のメタノール抽出液を与えて痛みについて評価したところ、非ステロイド性鎮痛剤であるインドメタシンと同様に作用することが報告されています。さらにモリンガの種子には、β-シトステロールが含まれています。β-シトステロールは不飽和脂肪の一種で、高等植物[※4]に含まれるコレステロールと非常によく似た構造をしています。β-シトステロールには、喘息モデル動物での気道の炎症を抑える効果が報告されています。これは、β-シトステロールが、免疫系細胞の反応を抑制してT細胞[※5]からの放出・合成を阻害することで、喘息に対して効果があるとされています。またモリンガの根のジュースは、炎症性疾患に効果があるとされ、利用されています。【2】【6】
●抗菌効果
モリンガは強い抗細菌成分を含みます。
モリンガの種子に含まれる水およびエタノール抽出物が食中毒原因菌であるコレラ、大腸菌、黄色ブドウ球菌の3種の細菌に対し、抗菌作用を示したことが報告されています。
またモリンガに含まれるイソチオシアネート類には、胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍[※6]の原因ともなるピロリ菌[※7]に対する効果も報告されています。そのためモリンガには、抗菌効果があるとされています。【4】【5】
●生活習慣病の予防
ストレス・加齢・紫外線を浴びる・喫煙、そして暴飲暴食・寝不足などによって体内に活性酸素が蓄積されてしまいます。活性酸素が増えることで、糖尿病や高血圧などの生活習慣病やガンなどの病気にかかりやすくなってしまいます。モリンガにはポリフェノールとビタミンCやビタミンEといったビタミン群も豊富に含まれています。特にビタミンCと血流改善の効果が期待されるビタミンEを一緒に摂ることで相乗効果が起こり、抗酸化作用が強力になるといわれています。さらに血圧を下げる効果や、悪玉コレステロールや中性脂肪を下げる効果が期待されるGABA(γ-アミノ酸)も豊富に含まれています。
●アンチエイチング効果
モリンガには活性酸素を除去し細胞のさび付きを防ぐポリフェノールが含まれ、さらにビタミンA・ビタミンC・ビタミンEなどビタミンも豊富に含まれています。モリンガを摂取することで老化予防や美肌効果、ニキビや吹き出物の改善にも働きかけます。
●便秘改善解消
モリンガには豊富な食物繊維が含まれています。食物繊維には「不溶性食物繊維(水に溶けない食物繊維)」と「水溶性食物繊維(水に溶ける食物繊維)」があり、それぞれ別の働きがあります。モリンガには両方の食物繊維が含まれるため、摂取することで便秘の改善解消につながるといわれています。また便秘の改善解消だけでなく、体内の毒素・有害物質を体外に排出して腸内環境を整備してくれるため、デトックス効果も期待されます。
[※4:高等植物とは、体制の発達した植物のことです。一般に、根・茎・葉に分化し、維管束をもつ種子植物とシダ植物をさします。]
[※5:T細胞とは、免疫機能に関わる細胞であり、B細胞が抗体をつくる力を促進し、侵入してきた異物を攻撃します。]
[※6:胃潰瘍、十二指腸潰瘍とは、胃や腸の粘膜が傷つき、進行すると穴があいてしまう病気のことです。]
[※7:ピロリ菌とは、正式にはヘリコバクター・ピロリ菌といい、胃粘膜に感染するらせん状の細菌です。]
モリンガは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○炎症を抑えたい方
○免疫力を向上させたい方
○いつまでも若々しくいたい方
○糖質・脂肪の吸収を抑えたい方
○便秘がちな方
モリンガの研究情報
【1】ラットに、モリンガ葉水抽出物 (200 mg/mL) を高脂肪食と併用して30日間投与したところ、併用しなかった群と比べて、肝臓中と腎臓中のコレステロール値が低いことが分かりました。このことから、モリンガは、コレステロールの吸収を抑える働きがあることが考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10661880
【2】I型アレルギーの遅発相マウスモデルに対し、モリンガ葉を3種の混合比(0.3%,1.0%および3.0%)で混ぜた粉末飼料を摂取させ、好酸球の集積および血清中の総IgE量に対する影響を調べた結果、白血球、抗酸球およびIgEの有意な低下が認められました。このことから、モリンガは、Ⅰ型アレルギーを抑制する働きがある可能性が考えられました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10030333557
【3】高血圧自然発症ラット(SHR)にモリンガ葉の10倍水抽出物を強制経口投与し、血圧上昇抑制効果について検討した結果、投与後25日目以降有意な血圧上昇抑制作用が認められました。このことから、モリンガは高血圧予防に役立つ可能性が考えられました。
http://ci.nii.ac.jp/naid/10021178595
【4】ビブリオコレラ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌およびサルモネラ菌に対するモリンガの抗菌活性を調べた結果、ビブリオコレラ菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して抗菌作用を有することが分かりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20602021
【5】モリンガに含まれるイソチオシアネートに、胃がんの原因菌ともいわれているヘリコバクター・ピロリ菌に対して高い抗菌活性があることが分かりました。
http://www.tfljournal.org/article.php/20051201124931586
【6】卵白アルブミン誘発性の喘息モデルモルモットへモリンガ種子ブタノールから抽出したβ-シトステロールを投与したところ、換気量が増加し、正常群のモルモットと同程度の値まで回復しました。また、血中と気管支肺胞中の好酸球および好中球の細胞数を減少させました。β-シトステロールは、血中と気管支肺胞中のサイトカイン(TNFα、IL-4、IL-5)を低下させ、気道の炎症を抑えました。これらのことから、モリンガ種子抽出β-シトステロールは、免疫細胞の反応を抑制し、Th2サイトカインの放出・合成を阻害することで、喘息に対して薬理作用を持つ可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20946894
参考文献
・デニー バウン著 ハーブ大百科 誠文堂新光社
・レスリー ブレムネス著 ハーブの写真図鑑 日本ヴォーグ社
・生活の木 小林理恵監修 スーパーフードの教科書 からだのなかから、きれいに、輝く
・嶋田 貴志、岡森 万理子、深田 一剛、林 篤志、榎本 雅夫、伊藤 紀美子 (2011) “モリンガ葉のスギ花粉アレルゲン誘発好酸球集積に対する抑制作用” Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology 58(12), 604-607, 2011-12-15
・梶原 良、中津 沙弥香、塩野 忠彦、柴田 賢哉、石原 理子、坂本 宏司、武藤 徳男 (2008) “高血圧自然発症ラットにおけるモリンガ葉水抽出物の抗高血圧作用” Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology 55(4), 183-185, 2008-04-15
・Viera GH, Mourão JA, Angelo AM, Costa RA, Vieira RH. (2010) “Antibacterial effect (in vitro) of Moringa oleifera and Annona muricata against Gram positive and Gram negative bacteria.” Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2010 May-Jun;52(3):129-32
・Jed W. Fahey, Sc.D. (2005) “Moringa oleifera: A Review of the Medical Evidence for Its Nutritional, Therapeutic, and Prophylactic Properties. Part 1.” Trees for Life Journal 2005, 1:5
・Mahajan SG, Mehta AA. (2010) “Suppression of ovalbumin-induced Th2-driven airway inflammation by β-sitosterol in a guinea pig model of asthma.” Eur J Pharmacol. 2011 Jan 10;650(1):458-64. doi: 10.1016/j.ejphar.2010.09.075. Epub 2010 Oct 12.