馬肉とは?
●基本情報
日本で肥育されている馬の中で食用に加工されるのは農用馬です。農用馬の中でも体重が1トンぐらいまでのものを「重量種」、体重がその半分くらいのものを「軽種馬」と言われるのですが、馬肉になるのは重量種に分類される馬です。したがって、私たちが普段見ているサラブレッドのような馬は食用になることはありません。重量馬は日本人好みの「霜降り」が豊富な肉質です。
●馬肉として使用される馬の種類
○ブルトン種
フランス・ブルターニュ地方原産の中量級の馬。体高は150cm~160cmで首は短く、胴は太くてたくましい体形をしています。
○ペルシュロン種
フランス原産の重種馬にアラブ種の血が入っている品種です。脚が短く、胴が太く、体高は通常は160cm~170cmですが、大きいものになると2mを超えるとも言われています。
体重は1トンになり、サラブレッドの倍ほどになります。
日本では北海道で導入、ばんえい競馬にも登場します。
○ベルジャン種
ベルギー・ブラバント地方原産で、他品種の影響はほとんど受けていない品種です。
体高は160cm~170cmくらいで頭部は短く、頸が太く、前後躯ともがっしりとした体形です。
●馬肉を食べる国、反対する国
一般に日本で食べられている肉は牛、豚、鶏であり、馬肉は普段の生活で頻繁に食する肉ではありません。しかしながら、日本において馬肉を食べることは問題なく、「馬刺し」は高級料理のイメージがあります。日本では熊本が馬肉をよく食べる県として有名かもしれません。
中国、韓国、イタリア、フランスなどでも馬肉は食べられてはいるのですが、世界的に見ると食べない国のほうが圧倒的に多いようです。中には元々食べてはいたが、動物愛護団体からの反対があって、食べなくなった背景をもつ国もあります。
●馬肉の歴史
馬は約2000年前にモンゴルから家畜として日本に伝わりました。天武天皇が「牛馬犬猿鶏の肉を食うことなかれ」と言っていることから、馬肉を食べる習慣があったのではないかと考えられます。しばらくの間肉を食べる習慣がなかった日本ですが、熊本城を築いた加藤清正が「馬を食べる」ルーツであるといわれています。豊臣秀吉と共に朝鮮出兵に行った際に食料がなくなり、軍馬をやむなく食べたところ大変おいしく、帰国後も馬刺しを食したことから領地の熊本で馬刺しが有名になり、その後全国に広がったとされています【1】。
江戸時代になると栄養価の高さから薬膳料理として提供され、風邪に効くといわれていました。現代においても生の馬肉は体を冷やすといわれており、民間療法として残っています。
●なぜ「桜」と呼ばれるのか
馬肉を食べたことがある人なら、「桜」は馬肉を指すと知っているでしょう。
なぜ馬肉を「桜」と呼ぶようになったかは諸説あります。
例えば肉を食べることが禁止されていた時代に隠語に置き換えていたという説。ちなみに猪のことは「牡丹」、鹿のことは「紅葉」と呼ばれています。
その他にも馬肉が空気に触れると桜色になるからといった説や、桜の季節に馬肉がおいしいからといった説があります。
●馬肉の部位
①たてがみ
首の部分にある脂。あっさりとしていて赤身の肉と一緒に食べるとおいしいと人気の部位です。
②肩ロース
赤身と脂のバランスが大変良い部位で、馬刺しや、しゃぶしゃぶに用いられます。
③肩バラ
サシが入りやすく、人気の部位。炙ると脂のうまみが引き立つ部位です。
④リブロース
牛肉でも高級部位と知られていますが、馬肉も同じように商品価値の高い部位となっています。
⑤サーロイン
リブロースと比べるとサシは少なめですが、赤身の部分に適度に脂がのっているためステーキなどの調理に用いられます。
⑥ヒレ
肉質が大変柔らかい部位で、厚切りにしても馬刺しでいただける部位です。
⑦バラオビ
バラの中でも脂がのっていて、焼き物や煮物などの料理に使いやすい部位です。
⑧ふたえご
あばら部分の3層になった部分でユッケや桜納豆に使われることが多い部位です。
⑨モモ
モモの中でも細かく分けると、クロッド、お尻部分のランプ、外モモ、内モモとわけられます。すべて赤身の肉となり馬刺し、ステーキ、鍋といった幅広い料理に用いられる部位です。
●馬肉に含まれる栄養成分
〇鉄
必須ミネラルの一つで赤血球を構成する成分となり、全身の細胞や組織に酸素を運ぶ役割をしています。馬肉には牛肉、豚肉、鶏肉よりも多くの鉄分が含まれていて、貧血予防に良いとされています。
〇カルシウム
骨や歯のもととなり、丈夫な体作りには欠かせない成分です。
〇グリコーゲン
多数のブドウ糖が複雑につながった糖類で、動物デンプンとも呼ばれています。主に肝臓や骨格筋で合成されており、筋収縮のエネルギー源となります。
〇ビタミンA
目の健康維持や皮膚の、粘膜の免疫力の向上を期待できます。
〇ビタミンE
強い抗酸化作用を持ち、活性酸素から体を守ります。血管や肌、細胞の老化予防を助けます。
〇亜鉛
たんぱく質や核酸の代謝に関与して健康の維持に役立ちます。また味覚を正常に保ったり、皮膚や粘膜の維持を助ける働きもします。
<馬肉の豆知識>
○牛のレバ刺しは禁止されているのに、馬のレバ刺しが食べれるのはなぜ?
レバ刺しは独特の食感があるため人気がありましたが、2012年より法律によって牛のレバ刺しの提供は禁止されることになりました。その発端となったのはO-157が原因の食中毒です。
ではなぜ、馬のレバ刺しが大丈夫なのでしょうか。それは、馬は牛のように反芻することがないため、菌を消化器官に保有していないこと、そして体温が高いのでO-157のような菌が生息できないという点が挙げられます。つまり馬はO-157のリスクが低いため、生食で提供されているのです。
馬肉の効果
○疲労回復
馬肉にはグリコーゲンといった疲労回復を促進する栄養素が含まれています。
集中力を高めたり、血糖値を調整する効果もあります。
○コレステロールのコントロール
馬肉の中には必須脂肪酸(リノール酸、αリノレン酸、オレイン酸等)が多く含まれており、コレステロール値を下げたり、血液循環をよくする働きがあります。
○美肌効果
通常の食事では摂取することが難しいビタミンやミネラルが豊富で、特に皮膚を美しく保つために必要なビタミンAや抗酸化作用のあるビタミンE、そして老化防止作用、保湿や抗炎症作用があるリノール酸も含んでいます。
○貧血予防
馬肉には鉄分が豊富に含まれており、その量は牛や豚に比べて2~4倍と言われています 【2】。
ビタミンB₁₂は悪性貧血を防いでくれる働きを期待できます。
こんな方におすすめ
○貧血気味の方
○味覚を正常に保ちたい方
○疲れやすい方
○高血圧を予防したい方
馬肉の研究情報
多くの国であまり食べられていない馬肉ですが、馬肉の生産時にメタン排出量が大変少ないことや、n-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)が豊富であるということがわかっています。そのため西ヨーロッパのいくつかの国で消費量がゆっくりと増加しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26047980/
馬肉にはマカデミアナッツなどにも含まれている動脈硬化や高血圧などを予防するバルミトレイン酸と血中のコレステロール値を下げる効果のあるα-オレイン酸が牛肉や豚肉よりも多く含まれており、健康に寄与する可能性が示されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2882581/
参考文献
【1】https://www.jstage.jst.go.jp/article/seib/50/0/50_161/_pdf
【2】日本食品標準成分表2015年版(七訂)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/11/30/1365343_1-0211r8_1.pdf)
Comparison of Carcass and Meat Quality Obtained from Mule and Donkey.
Polidori P, Vincenzetti S, Pucciarelli S, Polzonetti V.
Nutrient profile of horsemeat. J Food Compost Anal.
Bandiani A, Nanni N, Gatta PP, Tolomelli B, Manfredini M.