ホップとは
●基本情報
ホップはアサ科の多年草つる性植物で、成長すると6~8mほどの長さになります。雄株と雌株が別々にあり、栽培されているホップのほとんどは雌株です。受精すると種子をつけてしまい、苦味や香りが劣化してしまうため、雄株は全て排除し未受精の雌株ホップだけを栽培して使用します。雌株は生育すると、濃い緑色のハート形をした葉と、まつぼっくりに似た形をした毬果(きゅうか)を付けます。ビールの香りづけやハーブとして用いるのもこの部分で、苦味と香りのもととなる成分が含まれています。アジア西部やコーカサス地方原産といわれていますが、ヨーロッパでも多く自生します。現在は、ビールの原料として広く栽培されていて、寒冷な場所を好むため、日本においても北海道や東北地方で栽培されています。開花は夏で、ハーブとしては、開花後すぐに収穫して乾燥させます。和名では、セイヨウカラハナソウとも呼ばれています。
●リラックス効果のあるハーブ
ホップは、ビールの原料として広く知られている植物ですが、人々の健康に役立つ様々な働きを持つため、古くから広い地域で治療に用いられてきました。中世ヨーロッパでまとめられたハーブ事典には鎮静、育毛効果を利用された記録があるほか、北アメリカ先住民族では伝統的に薬草として、インドの伝承医学アーユルヴェーダや中国医学では不眠の薬として利用されてきました。筋肉を弛緩させてリラックス効果を得るほかのハーブと異なり、ホップは穏やかに神経に作用するため、上手に活用することで緊張や不安感をやわらげる効果が期待できます。不眠、リラックス、抗ストレス、消化促進・健胃、神経性の便秘や下痢、腹痛、高血圧改善などに効果があるとされ、民間療法的には皮膚の擦り傷や切り傷、膀胱炎などにも利用されていました。
12世紀ごろからビールの原料としてホップの栽培がヨーロッパで広まり、現在では、ホップに含まれる精油成分や乾燥ホップに含まれる物質が穏やかな鎮静作用を持つことが明らかになっています。ハーブ先進国であるドイツのコミッションE[※1]で承認されたハーブで、不安、心配、不眠などの不快な症状への薬理効果が認められています。
●女性のためのハーブ
ホップは優れたホルモン様作用があることから、月経前症候群による過度の緊張や生理痛、不安・不眠といった更年期障害の諸症状を緩和してくれます。また、利尿を促す効果もあるため、体液の鬱滞を取り除き、泌尿器系からの毒素の排出を早めてくれます。これが肝臓の働きと連動して血液浄化作用を持つことにより、皮膚のトラブルを解消して、透明感のある肌づくりをサポートしてくれます。ポップ抽出物が配合された化粧品を使用すれば、肌を柔らかくしなやかに保ち、しわを防いでくれます。ただし、男性にとっては性欲減退を招く可能性がありますので注意が必要です。
●摂取の際の注意点
ホップは、特に摂取量などは決まっていませんが、強い鎮静作用があるため、うつ症状に悩む方は多量に服用しないように注意が必要です。
[※1:コミッションEは、ドイツ連邦保健庁の薬用植物の評価委員会のことです。 医薬品としてハーブを利用する際、安全性・効果の評価の実施、医薬品として承認するための組織です。]
ホップの効果
最近では、ヒトの臨床試験や動物を使った試験が行われ、ホップの多彩な機能性が科学的に研究され報告されています。
●不眠を改善する効果
ホップは鎮静作用が優れており、落ち着かない時や不安な時、ストレスを感じている時や眠れない時などに効果を発揮します。乾燥したホップの花を枕の詰め物として使用するハーブピロ―がありますが、眠気を誘うものとして使用され、不眠対策に効果があります。
ホップの毬果(きゅうか)の中には、黄色い粒状のホップ腺が付いています。ホップ腺には結晶性苦味成分のフムロン、ルプロン、芳香成分のフムレン、ミルセンなどが含まれており、ビールの苦味と爽快な香りを生み、ビールの泡持ちを良くする重要な働きを担っています。また、過剰なたんぱく質を沈殿させるため、ビールの濁りを取り除く作用もあり、雑菌の繁殖を抑えてビールの腐敗を防ぎ、保存性を高める働きも持っています。ホップ腺に含まれるフムロンには、イライラや不安、不眠を解消してくれる鎮痛作用があり、ケルシトリンには利尿作用があります。【2】
●生活習慣病の予防・改善効果
ホップ成分には、コレステロール値や中性脂肪値、血糖値の上昇を抑制する作用があることが報告されています。
ホップ抽出物の主成分であるイソフムロン類には、血管の弛緩作用と血糖値の上昇を抑制する作用があることがわかり、高血圧症状および糖尿病を改善する可能性が示されています。また、動脈硬化についても、コレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制し、血液中の善玉(HDL)コレステロールを増加させる作用があることが報告されており、動脈硬化の初期症状を抑える効果も認められています。【4】【5】【6】
●花粉症を予防する効果
ホップ成分には、スギ花粉症患者のアレルギー症状を抑制するという報告もされており、花粉症予防効果が期待されています。【3】
●ダイエット効果
ホップ成分のイソフムロン類が肝臓のコレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制し、血液中の善玉(HDL)コレステロールを増加させ、肥満を防ぐ効果があることが報告されています。
●食欲増進効果
ホップの持つ鎮静作用が全身の筋肉の緊張をほぐすことによって、痙攣と腸の疝痛(せんつう)[※2]をやわらげるため、IBS (過敏性腸症候群) [※3]、憩室炎[※4]、神経性消化不良、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、ストレス性の消化問題などの良薬として用いられてきました。ホップの苦み成分には消化を助け、肝臓機能を促進する作用があり、胆汁と消化液の分泌が促されることにより、食欲を増進させる効果を持ちます。
●女性特有の悩みを改善する効果
ホップには、女性ホルモン様物質であるフィストロゲンが含まれており、女性ホルモンと似た働きをします。したがって、加齢により低下していく女性ホルモンをフィストロゲンで補うことができます。このため、女性ホルモンのバランスの乱れから生じる月経前症候群による過度の緊張やイライラ、肩こり、冷え性、肌の老化、生理痛、不安や不眠などの更年期障害の諸症状を緩和する効果があります。【1】
[※2:疝痛(せんつう)とは、俗に「さしこみ」といわれる発作性の痛みのことです。腹部の空洞性臓器(胃・腸・膀胱・子宮)並びに管状臓器(胆道・腎盂・尿管)の壁をつくる平滑筋の異常収縮によって起こります。刺すような激痛が、数分~数時間の間隔で周期的に反復します。]
[※3:IBSとは、大腸の運動や分泌系の異常で起こる病気の総称です。]
[※4:憩室炎とは、消化器官にできたくぼみ(憩室)が炎症を起こしたり、穿孔(せんこう:腸管に穴があくこと)が起こった状態のことで、激痛や熱などを伴い、主に大腸でみられます。]
ホップはこんな方におすすめ
○不眠でお悩みの方
○イライラしやすい方
○生活習慣病を予防したい方
○消化を促進したい方
○更年期障害でお悩みの方
ホップの研究情報
【1】閉経後女性67名において、ホップ抽出物を1日あたり300mg 、12週間摂取させたところ、摂取6週間後には、更年期症状のほてり指数の改善が見られたことから、ホップには更年期障害予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16321485
【2】不眠症患者184名において、ホップ抽出物41.9mg とバレリアンエキスを187mg を含有する錠剤を就寝前に28日間摂取させたところ、摂取後14日で睡眠指数の改善が見られたことから、ホップとバレリアンには不眠症改善効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16335333
【3】スギ花粉症患者39名にホップ抽出物100mg を12週間摂取させたところ、4週間後のスギ花粉特異的IgE抗体が増加し、10週間後の症状スコアと薬物療法スコア(symptom medication score)が低下したことから、ホップには花粉症予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17690485
【4】糖尿病患者94名において、ホップ有効成分イソフムロンを16, 32, 48mg を12週間摂取させたところ、空腹時血糖値が低下し、糖尿病の指標であるHbA1c が低下し、さらにBMIも低下し、脂肪領域も減少しました。ホップの機能性成分イソフムロンには糖尿病予防効果、抗肥満効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19395131
【5】マウスにイソフムロンを含むホップ抽出物を摂取させたところ、脂肪燃焼関連酵素PPARαを活性化し、肝臓の脂肪酸酸化が促進されました。ホップは血中脂質上昇改善作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16099209
【6】高脂肪食摂取マウス及びラットにホップ機能性成分イソフムロンを15日間摂取させたところ、血中トリアシルグリセロールが減少し、糞便中への脂肪排泄量が増加しました。また膵臓リパーゼ活性が抑制されたことから、ホップには抗肥満作用、生活習慣病予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15852044
参考文献
・佐々木 薫 著 ハーブティー事典 池田書店
・ハーブスパイス館 小学館
・Rosemary Gladstar 著 ストレスに効くハーブガイド フレグランスジャーナル社
・Heyerick A, Vervarcke S, Depypere H, Bracke M, De Keukeleire D. 2006 “A first prospective, randomized, double-blind, placebo-controlled study on the use of a standardized hop extract to alleviate menopausal discomforts.” Maturitas. 2006 May 20;54(2):164-75.
・Morin CM, Koetter U, Bastien C, Ware JC, Wooten V. 2005 “Valerian-hops combination and diphenhydramine for treating insomnia: a randomized placebo-controlled clinical trial.” Sleep. 2005 Nov;28(11):1465-71.
・Segawa S, Takata Y, Wakita Y, Kaneko T, Kaneda H, Watari J, Enomoto T, Enomoto T. 2007 “Clinical effects of a hop water extract on Japanese cedar pollinosis during the pollen season: a double-blind, placebo-controlled trial.” Biosci Biotechnol Biochem. 2007 Aug;71(8):1955-62.
・Obara K, Mizutani M, Hitomi Y, Yajima H, Kondo K. 2009 “Isohumulones, the bitter component of beer, improve hyperglycemia and decrease body fat in Japanese subjects with prediabetes.” Clin Nutr. 2009 Jun;28(3):278-84.
・Shimura M, Hasumi A, Minato T, Hosono M, Miura Y, Mizutani S, Kondo K, Oikawa S, Yoshida A. 2005 “Isohumulones modulate blood lipid status through the activation of PPAR alpha.” Biochim Biophys Acta. 2005 Sep 5;1736(1):51-60.
・Yajima H, Noguchi T, Ikeshima E, Shiraki M, Kanaya T, Tsuboyama-Kasaoka N, Ezaki O, Oikawa S, Kondo K. 2005 “Prevention of diet-induced obesity by dietary isomerized hop extract containing isohumulones, in rodents.” Int J Obes (Lond). 2005 Aug;29(8):991-7.
・Anne McIntyre 著 金子寛子翻訳 女性のためのハーブ自然療法 産調出版
・リエコ 大島 バークレー 著 英国流メディカルハーブ 説話社
・武政 三男 著 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・林 真一郎監修 Victoria Zak 著 ハーブティーバイブル 東京堂出版