ヒジキとは?
●基本情報
ヒジキとは、ホンダワラ科ホンダワラ属に属している海藻の一種です。生のヒジキは黄褐色を呈しているため、海藻の中でも褐藻類[※1]に分類されています。ヒジキは岩場に生育しており、全長20~100cm程度まで成長します。ヒジキの体は茎と葉からなる一年生植物ですが、根は糸状で5~8年生き続ける多年生植物です。
ヒジキは日本では北海道から本州、四国、九州、南西諸島(奄美大島、沖縄)にまで分布しています。また、日本国外では朝鮮半島や中国南部にも分布しています。
ヒジキの名前の由来ははっきりとわかっていませんが、古名のヒズキモが転じてヒジキとなったといわれています。漢字名の鹿尾菜はヒジキの形状が鹿の黒くて短いしっぽに似ていることが由来です。
古くからヒジキを食べると長生きするといわれており、敬老の日にちなみ9月15日はヒジキの日にも定められています。現在は敬老の日が9月の第3月曜日と定められているため、ヒジキの日=敬老の日にはなりません。
●ヒジキの歴史
ヒジキは約1万年前の縄文時代の遺跡に見られることから、日本人は古くからヒジキを食用としていたと考えられています。平安時代初期に書かれた歌物語である「伊勢物語」には、鹿尾菜藻と古名で記載されています。また、927年頃に書かれている「延喜式(えんぎしき)[※2]」にはヒジキが朝廷への貢納品として選ばれたことが記されています。また、934年頃に書かれた「和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)[※3]」にもヒジキの記載があります。
寛永20年、徳川三代将軍家光の時代に書かれた料理所である寛永料理物語では、ヒジキの調理法として「にもの、あへもの」と記されていました。
<豆知識①>伊勢ヒジキの歴史
伊勢ヒジキとは三重県の伊勢志摩で採取されたヒジキのことをいいます。1638年に発行されたといわれている「毛吹草(けふきぐさ)[※4]」に、鹿尾菜(ヒジキ)が伊勢の国の名産品として紹介されています。
志摩地方より海路約120㎞の三重県伊勢市北部周辺は水はけの良い土地、広い干し場、適切な風量、雨量などヒジキの加工に必要な条件がそろっていたため、本格生産が行われるようになりました。
●ヒジキの種類
代表的なヒジキの種類には芽ヒジキ、長ヒジキ、寒ヒジキの3種類が挙げられます。
芽ヒジキは米ヒジキ、姫ヒジキとも呼ばれており、ヒジキの葉の部分を指します。芽ヒジキは口あたりの良い食感が特徴で、サラダや混ぜご飯、炊き込みご飯に適しています。
長ヒジキは茎ヒジキとも呼ばれており、ヒジキの茎の部分を指します。長ヒジキは太くて長めで、芽ヒジキと比較すると、歯ごたえのある食感です。炒め物や煮物に適しているといわれています。
1本のヒジキから芽ヒジキは約80%、長ヒジキは約20%の割合で採取することができます。
寒ヒジキは早どれヒジキとも呼ばれており、冬の寒い時期に若いヒジキを刈り取って加工したものです。
<豆知識②>素干しヒジキと干しヒジキ
素干しヒジキはヒジキを採集後海水でよく洗い、そのまま浜辺の小石や砂地に干して仕上げます。素干しヒジキには渋み成分が含まれているため、食用には適しません。
干しヒジキは素干しヒジキを適量の淡水とともに鉄釜中で4~5時間煮沸します。その際に、ヒジキの藻体中の褐色色素が分解されたり流出したりして減少するため、それを補うために10分の1程度のアラメを一緒に煮ます。煮沸したヒジキを5cm程度に短く切ってから天日干しで乾かします。これを干しヒジキと呼び、素干しヒジキと区別しています。
●ヒジキの選び方と扱い方
ヒジキは真っ黒で色むらがなく、つややかなものが良品だといわれています。また、よく乾燥しているヒジキを選ぶこともポイントです。
干しヒジキは水洗いをして砂を落とし、水かぬるま湯で戻します。水気を切ってから調理することが一般的です。干しヒジキは水で戻すと10倍程度までかさが増します。
●ヒジキの生産地
ヒジキの採取時期は地域によって異なります。主な産地は日本国内であれば長崎県や三重県、愛知県、熊本県、千葉県、宮城県、神奈川県、愛媛県などです。特に千葉県や三重県、長崎県の3県で採取されるヒジキは国内収穫量全体の約65%を占めています。
国内生産ヒジキが100%天然のヒジキであるのに対し、輸入品のほとんどは韓国や中国で養殖されたヒジキです。現在、日本で流通しているヒジキは約5割が韓国産、約3割が中国産、約2割が国内産です。
●ヒジキに含まれる成分と性質
ヒジキにはカルシウムや鉄、ヨウ素、マグネシウム、マンガンなどのミネラル類、ビタミンB1やビタミンB2、食物繊維などが含まれています。
カルシウムはマグネシウムとともに骨や歯の強化を促す重要な働きを担うミネラルです。カルシウムとマグネシウムがより効率良く働く比率は、カルシウム:マグネシウム=2:1だといわれています。ヒジキはカルシウムとマグネシウムの比率が良く、私たちの体内に効率的に吸収されます。
[※1:褐藻類とは、藻類の一種です。藻類は色調により、緑藻類、褐藻類、紅藻類、藍藻類に分けられます。]
[※2:延喜式とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
[※3:和名類聚抄とは、平安時代中期につくられた辞書のことです。]
[※4:毛吹草とは、江戸時代の俳諧論書のことです。]
ヒジキの効果
ヒジキには、カルシウムや鉄、ヨウ素などの栄養素が含まれており、以下のような健康に対する働きが期待できます。
●骨や歯を丈夫にする効果
体内のカルシウムの99%が、骨や歯に存在しています。細胞と同じように骨も新陳代謝を繰り返しており、この骨の代謝に関与しているのがカルシウムです。カルシウムが不足すると、骨密度[※5]が低下し骨や歯がもろくなります。
またヒジキにはカルシウムとともに働き、骨や歯の発育を促すマグネシウムとマンガンが含まれています。
ヒジキにはカルシウムやマグネシウム、マンガンがバランス良く含まれているため、骨や歯を丈夫にすることが期待できます。
●血流を改善する効果
筋肉にごくわずかに存在しているカルシウムが筋肉の収縮をスムーズにすることで、血流の改善が期待できます。カルシウムが含まれるヒジキは肩こりや腰痛、冷え性などの予防・改善に効果的です。
●精神を安定させる効果
カルシウムには神経のいらだちを抑える精神安定剤の働きがあるため、不足するとイライラやストレスの原因となります。ヒジキにはカルシウムが豊富に含まれているため、神経のいらだちを落ち着かせる効果があります。
●貧血を予防する効果
貧血とは赤血球に含まれるヘモグロビン[※6]量が減少している状態のことをいいます。貧血状態になると、動悸、息切れ、めまいなどの様々な症状が全身に現れます。
ヒジキにはヘモグロビンをつくる材料となる鉄が含まれるため、貧血予防に効果的です。
ただし、ヒジキに含まれる鉄は吸収率が約5%と低い非ヘム鉄であるため、肉や野菜と一緒に摂取し鉄の吸収率を高めることが大切です。
●髪や爪、肌を健康に保つ効果
ヒジキに豊富に含まれているヨウ素は、甲状腺[※7]ホルモンの一種であるチロキシンとトリヨードチロニンの材料になります。この2つのホルモンにはエネルギー代謝を活発にし、新陳代謝を促進する働きがあります。
私たちの体は約60兆個もの細胞からできており、髪や爪、肌もそのうちのひとつです。新陳代謝が活発になると、常に新しい細胞ができるため髪や爪、肌を美しく保つことができます。
●成長を促進する効果
ヨウ素からつくられる甲状腺ホルモンは、三大栄養素である炭水化物・たんぱく質・脂質の代謝を高める働きがあります。代謝が高まると、三大栄養素が体内で効率良く働き、成長が促進されます。ヒジキには甲状腺ホルモンをつくる材料となるヨウ素が多く含まれているため、成長を促す効果があるといわれています。
●動脈硬化を予防する効果
ヒジキに豊富に含まれている食物繊維には、動脈硬化を予防する効果があります。
動脈硬化とは動脈の弾力性が失われ、硬くなった状態をいいます。進行すると血管の中にコレステロールが溜まり、血液の流れが滞ります。血管の老化現象ともいわれており、悪化すると脳出血や脳梗塞、眼底出血[※8]などの病気に発展する可能性があります。
食物繊維はコレステロールの吸収と血中のコレステロールの増加を抑制します。また、コレステロールを材料にしてつくられる胆汁酸を吸着し、体外に排出する働きもあります。
胆汁酸の排出はコレステロールの代謝を促進するため、動脈硬化の予防に効果があるといわれています。
●糖尿病を予防する効果
ヒジキには、血糖値が上がる病気である糖尿病を予防する効果があります。
ヒジキに含まれている食物繊維やマグネシウムが、摂取した食物を抱え込み小腸までゆっくりと進むことで血糖値の上昇が緩やかになり、糖尿病の予防に効果があります。
[※5:骨密度とは、骨の密度をいいます。一定の面積あたり骨に存在するカルシウムなどのミネラルがどの程度あるかを示し、骨の強度を表します。]
[※6:ヘモグロビンとは、脊椎動物の赤血球に含まれる物質で、酸素を運搬する働きを持っています。]
[※7:甲状腺とは、人間ののどぼとけの下に位置する、ホルモンを分泌する器官のことです。]
[※8:眼底出血とは、眼底(瞳から入ってきた光が突き当たる眼球の奥の部分)から何らかの原因で出血した状態をいいます。]
ヒジキはこんな方におすすめ
○骨や歯を強くしたい方
○血流を改善したい方
○イライラしやすい方
○貧血でお悩みの方
○髪や爪、肌の健康を保ちたい方
○動脈硬化を予防したい方
○糖尿病を予防したい方
○成長期のお子様
ヒジキの研究情報
【1】ヒジキ多糖類(Hf‐PS‐1)のエタノール誘発IEC-6細胞(ラット小腸由来細胞)障害に対する保護作用について調べました。Hf‐PS‐1によって、エタノール誘発アポトーシス経路の一つであるJNKの活性化が抑制されました。このことから、Hf‐PS‐1はエタノール誘発胃損傷を保護する働きを有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19735724
【2】ヒジキ可溶性ポリサッカライド(SFPS)は、シクロスホスファミド誘発免疫抑制マウスの、脾リンパ球増殖およびサイトカイン分泌を刺激したことがわかりました。このことから、SFPSは、免疫刺激物質としての利用が期待されます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22840047
【3】腫瘍を有するマウス(胆ガン、肺線ガン)に28日間、100および200mg/kgのヒジキ可溶性ポリサッカライド(SFPS)を摂取させました。胆ガンマウスのTNFαや脾細胞を増殖しました。このことから、SFPSは免疫活性を促すことで抗ガン薬として作用する働きがあることがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22120506
参考文献
・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社
・西沢一俊、村杉幸子 海藻の本―食の源をさぐる (のぎへんのほん) 研成社
・Choi EY, Hwang HJ, Nam TJ. (2010) “Protective effect of a polysaccharide from Hizikia fusiformis against ethanol-induced cytotoxicity in IEC-6 cells.” Choi EY, Hwang HJ, Nam TJ.
・Chen X, Nie W, Fan S, Zhang J, Wang Y, Lu J, Jin L. (2012) “A polysaccharide from Sargassum fusiforme protects against immunosuppression in cyclophosphamide-treated mice.” Carbohydr Polym. 2012 Oct 1;90(2):1114-9. Epub 2012 Jun 27.
・Chen X, Nie W, Yu G, Li Y, Hu Y, Lu J, Jin L. (2012) “Antitumor and immunomodulatory activity of polysaccharides from Sargassum fusiforme.” Food Chem Toxicol. 2012 Mar;50(3-4):695-700. Epub 2011 Nov 20.