ハマナス

Japanese rose
浜茄子 ハマナシ(浜梨)

ハマナスは北日本の浜辺に咲く野バラで、ビタミンCやポリフェノールが豊富に含まれます。乾燥させた花を健康茶として飲用したり、生薬として下痢止めや月経不順の改善に利用されてきました。また、その芳香から香水にも利用されています。果実は生食の他にジャムや果実酒にして食され、根は染料としても利用されています。

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ハマナスとは

●基本情報
ハマナスはバラ科バラ属の落葉低木[※1]で、東アジア原産の植物です。花には芳香があり、ピンク色の一重の花をつけます。春に花が咲いたあと、秋には2cm程の果実が赤く熟します。枝にはトゲがびっしりと付いており、斜め上に伸びで灌木状に茂ります。成長すると高さ1.5m、株張り[※2]も1.5m程になります。ハマナスは花の咲き方の違いにより、多くの品種が知られており、八重咲きのヤエハマナス、白い花を付けるシロバナハマナス、白い花で八重咲きのシロバナヤエハマナス、ノイバラとハマナスの雑種でピンクと白のグラデーションの小さな花を付けるコハマナスなどがあります。
中国では玫瑰(マイカイ)として知られており、蕾を乾燥させたものが玫瑰花茶(メイクイハナチャ)として飲用されています。

●ハマナスの歴史
ハマナスは古くから北海道をはじめ北日本の浜辺に自生しており、北海道では戦前から精油を採取するためにハマナスが栽培されていました。またアイヌの人々はビタミンが不足することで引き起こされる水腫病[※3]の予防のために、ハマナスの花を煎じて飲用していたといわれています。このことは秋田県立図書館の蔵書で、江戸時代にロシアによって蝦夷地[※4]が侵略されるのを防ぐため派遣された、秋田藩の医師岩谷省達が書き残した「胡地養生考」にも記載されています。その中には、ハマナスは他の植物に比べビタミンCが多く含まれることなども記載されています。
また、江戸時代には長崎の出島のオランダ商館医であるシーボルトが、帰国の際にオランダに持ち帰ったことで、ヨーロッパに伝えられました。その後、ヨーロッパでは他のバラとかけあわされ、様々な品種が誕生しました。
ハマナスはもともと梨のような実をつけることからハマナシと呼ばれていました。それが東北弁で訛ったことにより、ハマナスと呼ばれるようになったといわれています。
北海道では昭和53年に道花として制定されました。

●ハマナスの生産地
ハマナスは東アジアに分布しますが、日本では北海道や茨城県以北の太平洋側、鳥取県より北の日本海側の海岸の砂地などに自生しています。開花期は4月~7月です。

●ハマナスの利用法
ハマナスの花は生薬として利用されおり、抗炎症作用、打撲やリウマチの改善、下痢止めや月経不順の薬としてお茶にして飲用されてきました。中国茶として知られる玫瑰花茶は、バラの優しい芳香とクセのない味わいが特徴です。また優しい芳香を持つ花は、香水の原料に用いられます。
果実は梨のような味で、熟すとそのまま食べることができますが、ジャムや果実酒としても親しまれており、果実酒には疲労回復や不眠症などに効果があるといわれています。
根皮の煎汁は秋田県の秋田黄八丈[※5]の染料としても利用されています。

●ハマナスに含まれる成分と性質
ハマナスの花はビタミンCが含まれるため、美肌効果や貧血防止効果があります。ポリフェノールも豊富で、動脈硬化や脳梗塞の予防にも効果を発揮します。
また、花にはゲラニオールやシトロネロールといった精油成分が含まれ、その芳香にはリラックス効果が期待できます。
果実には食物繊維が豊富に含まれるため、腸の調子を整える働きがある他、マンガンやカルシウムなどのミネラルも含まれます。さらに、ホルモンバランスの乱れを改善する効果もあります。

[※1:落葉低木とは、定期的に葉を完全に落とし、成長しても樹高が約3m以下の植物のことです。]
[※2:株張りとは、根に近い茎の節から新芽が出て株分れすることです。]
[※3:水腫病とは、水ぶくれになり、顔がむくみ、腹が太鼓のようになって死ぬ病気のことです。]
[※4:蝦夷地とは、アイヌの居住地を指して用いた言葉で、江戸時代に使われていました。]
[※5:秋田黄八丈とは、秋田県で織られる黄八丈(きはちじょう)を指します。黄八丈は八丈島に伝わる草木染めの絹織物です。]

ハマナスの効果

●美肌効果
​​ハマナスの花にはビタミンCやポリフェノールの一種であるタンニンが豊富に含まれます。
ビタミンCにはコラーゲンの合成をスムーズにし、しわやたるみを防ぐ効果があり、さらにシミやそばかすなどの原因となるメラニン色素の沈着を防ぐことで、本来の透明感のある肌を維持してくれます。また、タンニンには肌を引き締める効果があります。

●女性特有の悩みを改善する効果
ハマナスの香気成分であるゲラニオールには、女性のホルモンバランスを整える作用があります。ホルモンの分泌を調節することで、女性ホルモンの乱れによって生じる、生理不順、生理痛などの症状を緩和します。

●生活習慣病の予防・改善効果
ハマナスにはビタミンCやタンニンをはじめ抗酸化作用を持つ成分が多く含まれます。体内に活性酸素が過剰に発生すると、悪玉(LDL)コレステロールが酸化し動脈硬化の原因となります。また動脈硬化により血管が固くもろくなることにより、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす原因となります。ハマナスには活性酸素を除去し、生活習慣病を予防する効果が期待できます。

●腸内環境を整える効果
ハマナスの果実には食物繊維が豊富に含まれます。食物繊維の働きにより腸の働きを活発にし、腸内に溜まった不要物を排泄します。また、ハマナスには腸内の悪玉菌[※5]を抑えて、ビフィズス菌を増加させる作用も知られているほか、最近では大腸菌やアンモニアといった悪性の腸内細菌を減少させる働きも報告されています。これらの働きにより、ハマナスには腸内環境を整える効果が期待できます。【1】

[※5:悪玉菌とは、ヒトの腸内に住む細菌の一種です。増えすぎると体に悪い影響を及ぼすと考えられており、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、緑膿菌などが悪玉菌といわれます。]

ハマナスは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○美肌を目指したい方
○シミ、そばかすが気になる方
○肌のハリや弾力を保ちたい方
○生活習慣病を予防したい方
○腸内環境を整えたい方
○便秘でお悩みの方

ハマナスの研究情報

【1】ハマナス花には整腸効果、消化酵素阻害作用を有する機能性成分加水分解型タンニンを含むことから、ハマナスは整腸効果、消臭効果、消化酵素阻害作用など様々な有用性が見いだされています。

【2】ハマナスの葉に含有されている抗菌作用を持つセスキテル化合物rugosal Aを含まれており、ハマナスには抗菌作用を持つと考えられています。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110006678876

【3】成人男女20,630名において、性別や摂取栄養素、ライフスタイルと排便回数との関係を調査した結果、食物繊維が多い人ほど、排便回数が多いことが確認されています。ハマナスは食物繊維を含むことから、便通改善効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14972075

参考文献

・本多京子 食の医学館 株式会社小学館

・田部井満男 ハーブ・スパイス館 小学館

・大森正司 ワイド版 日本茶紅茶中国茶健康茶 日本文芸社

・橋床 泰之、水谷 純也、田原 哲士 (1990) “ハマナス(Rosa rugosa)葉の主抗菌性セスキテルペンパーオキシド、rugosal Aの生合成、局在化およびその機能について” 天然有機化合物討論会講演要旨集 (32), 9-16, 1990-09-25

・山岸 喬 (2006) “~ハマナス~生活習慣病への挑戦”

・Sanjoaquin MA, Appleby PN, Spencer EA, Key TJ. (2004) “Nutrition and lifestyle in relation to bowel movement frequency: a cross-sectional study of 20630 men and women in EPIC-Oxford.” Public Health Nutr. 2004 Feb;7(1):77-83.

・Shimada Y, Tai H, Tanaka A, Ikezawa-Suzuki I, Takagi K, Yoshida Y, Yoshie H. (2009) “Effects of ascorbic acid on gingival melanin pigmentation in vitro and in vivo.” J Periodontol. 2009 Feb;80(2):317-23. doi: 10.1902/jop.2009.080409 .

・Arnaud J, Bost M, Vitoux D, Labarère J, Galan P, Faure H, Hercberg S, Bordet JC, Roussel AM, Chappuis P; Société Francophone d’Etudes et de Recherche sur les Eléments Toxiques et Essentiels. (2007) “Effect of low dose antioxidant vitamin and trace element supplementation on the urinary concentrations of thromboxane and prostacyclin metabolites.” J Am Coll Nutr. 2007 Oct;26(5):405-11.

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