ブドウ

Grape
葡萄  Vitis spp

秋の代表的なフルーツであるぶどうには、強い抗酸化力を持つアントシアニンやレスベラトロールなどのポリフェノールをはじめ、ミネラル類、有機酸など様々な有効成分が豊富に含まれています。視機能の維持や生活習慣病の予防、老化の予防など様々な効果が期待されています。

ブドウとは

●基本情報
ぶどうは、ブドウ科ブドウ属に属する、ツル性の落葉低木植物[※1]です。現在、世界で最も多い生産量を誇る果物のひとつといわれています。8月から10月初旬頃に旬を迎えるぶどうは、秋を代表する果物としてよく知られています。日本での主な生産地は、甲州ぶどうで知られている山梨県や長野県、山形県です。
ぶどうはそのまま食べられる他、レーズンやジュース、ワイン、ぶどう酒などに加工され広く親しまれています。

<豆知識①>ぶどうの木の花言葉
ぶどうからつくられるぶどう酒は、世界最古のお酒であるといわれています。ぶどうの房を潰して容器に入れておくだけで、果皮に存在する菌の力により簡単に発酵させることができます。
そのため、ぶどうの木の花言葉はイギリスでは「陶酔」、フランスでは「忘却」「情熱の陶酔」など、その多くがお酒に関わった言葉になっています。

●ぶどうの名前の由来
ぶどうの名前の語源はあまりよく分かっていませんでしたが、大宛国(現在のウズベキスタンのカラキルギジスタン地方)でぶどう酒の意味を持つ「ブダウ」が、中国で「プタオ」と呼ばれるようになり、日本語で「ぶどう」と呼ばれるようになったという説が有力になりつつあります。

●ぶどうの歴史
ぶどうは1億4300~6500万年前には出現していたとされる世界最古の果物のひとつで、古代エジプトの壁画などにも描かれています。「ぶどう発祥の地」といわれるコーカサス地方にあるグルジアでは、5000年以上も昔からワインづくりが行われていました。クレオパトラも愛したといわれるグルジアワインは、「クレオパトラの涙」とも呼ばれ、他の国では見られない個性豊かなワインだったといわれます。しかし、当時はその多くが地元の人々によって消費されていました。
日本には古くから山ぶどうが自生していましたが、他国のぶどうは奈良時代にシルクロードを経て伝わってきたといわれています。鎌倉時代初期にはすでに山梨県で甲州ぶどうと呼ばれる品種が栽培されていました。明治時代に入ると欧米から多数の品種が導入され、ヨーロッパブドウとアメリカブドウを交配させたデラウェアなどが本格的に栽培されるようになりました。現在では改良が進み、多数の品種が誕生しています。

●ぶどうの品種
ぶどうの品種はとても多く、世界には1万種以上も存在するといわれています。このうち日本では30~40種類のぶどうが栽培されています。
未熟なぶどうの果皮は緑色をしていますが、熟すにつれて果皮の色は変化し「黒」、「赤」、「緑」の3つの色に分かれていきます。黒は巨峰やピオーネ、赤は甲斐路や安芸クイーン、緑はマスカット・オブ・アレキサンドリアなどの品種が有名です。

以下はよく知られている主な品種です。

・巨峰
日本で最も好まれ、最も多くつくられている品種です。国内生産量の約35%を占めています。正式な品種名は「石原センテニアル」といい、石原早生とセンテニアルを交配させてつくられました。
開発された研究所から見える雄大な富士山にちなんで、巨峰(商標名)と名付けられました。

・デラウェア
食卓でよく目にするなじみの深い品種のぶどうです。粒が小さめで果汁が多く、種がないことから人気を集めています。オハイオ州デラウェアで発見されたため、デラウェアと名付けられました。

・甲州
原産地である山梨県の甲州地方で古くから栽培されている歴史のある品種です。果皮は薄紫色で、程よい甘酸っぱさを持っています。甲州ワインの原料としても利用されています。

・マスカット・オブ・アレキサンドリア
「ぶどうの女王」とも呼ばれ、贈答用として人気が高い品種です。大粒ですが、果皮が薄いため皮ごと食べることが可能です。芳醇な香りと上品な甘さを持ち、糖度は高いものだと20度にもなります。エジプトが原産で、明治時代初めに日本に導入され、現在では岡山県を中心に栽培が行われています。

<豆知識②>甲州ぶどうの誕生
甲州ぶどうの誕生に関する説は2つあります。

・行基説
718年、僧の行基が甲斐の国の渓谷で行った修行の最終日、夢の中で左手に宝印、右手にぶどうを持った薬師如来が現れました。 行基はその夢を喜び、すぐに夢の中に現れた姿と同じ薬師如来像を建立し、安置したのが柏尾山大善寺です。以来、行基は法薬としてぶどうの栽培方法を村人に教え、この地でぶどうが栽培されるようになったことが甲州ぶどうの始まりだと一説では考えられています。
現在の薬師如来像の持物は失われていますが、元々は右手にぶどうを持っていたといわれています。

・雨宮勘解由(あめみやかげゆ)説
1186年、雨宮勘解由は祭りの日に山梨県勝沼で山ぶどうの変性種を見つけました。将来有望なぶどうになると確信した雨宮勘解由は、5年もの歳月をかけて改良を続けた結果、30余房の優秀な甲州ぶどうを収穫することに成功しました。その後、村人にも苗を分けて、甲州ぶどうの普及活動を行ったため、甲州ぶどうが栽培されるようになったという説もあります。

●ぶどうの選び方・保存方法
美味しいぶどうを選ぶポイントは、茎が太く、粒がポロポロ落ちずに揃っていて、皮にハリがあることです。
ぶどうの粒の表面には、ブルームと呼ばれる白い粉ついています。これは病気や乾燥からぶどう自身が身(実)を守るために出すものです。ブルームがきれいについていることは、より新鮮なぶどうであるという証です。
ぶどうは上側程甘みが強いため、下側から食べると最後までおいしく食べることができます。

保存する場合は、袋などに入れて冷蔵庫の野菜室で保存します。水に浸すと傷みやすくなるため、食べる直前に洗うようにします。

●ぶどうに含まれる成分と性質
ぶどうに多く含まれる糖質はブドウ糖と果糖で占められており、これらの含有量は果物の中でもトップクラスを誇ります。
ぶどうの果皮や種子には、アントシアニンやレスベラトロール、タンニンなどのポリフェノールが豊富に含まれています。レスベラトロールは「若返りの成分」とも呼ばれ注目を集めており、ぶどうの中でもデラウェア種に多く存在するといわれています。
ポリフェノールは、強い抗酸化力を持っていることで知られています。
抗酸化作用とは、紫外線や喫煙、ストレスなど生活の様々な場面で発生する活性酸素[※2]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きのことです。
例えば、クギを放置し空気中にさらしておくとクギがサビついてしまいます。これが酸化です。人間の体内で酸化が起こると、病気や老化、肌トラブルが引き起こされます。ぶどうに含まれるこれらのポリフェノールが体内で強い抗酸化力を発揮して酸化から体を守ることで、病気や老化、肌トラブルが予防されます。

また、ぶどうの種子から抽出される油であるブドウ種子油(グレープシードオイル)には、必須脂肪酸[※3]であるリノール酸やオレイン酸、強い抗酸化作用を持つプロアントシアニジンが豊富に含まれています。プロアントシアニジンの抗酸化力は、ビタミンEの5倍もあるといわれています。

他にも、カリウムなどのミネラル類やビタミン類、酒石酸などの有機酸も含まれています。

[※1:落葉低木植物とは、定期的に葉を完全に落とし、成長しても樹高が約3m以下の植物のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※3:必須脂肪酸とは、体内で他の脂肪酸から合成できないために食品から摂取する必要がある脂肪酸のことをいいます。]

ブドウの効果

ぶどうには、様々な有効成分が豊富に含まれており、これらの成分は以下のような健康に対する効果が期待できます。

●視機能を改善する効果
ぶどうには、アントシアニンが豊富に含まれています。
人は物を見る時、まず目に入ってきた映像を目の網膜に映し出します。網膜にはロドプシンと呼ばれるたんぱく質が存在し、そのロドプシンが分解されることにより発生する電気信号が脳に伝わり、「目が見える」と感じます。分解されたロドプシンは再合成され、再び分解されるという流れを繰り返しますが、疲れや加齢によりロドプシンの再合成能力は低下します。アントシアニンにはこのロドプシンの再合成を助ける働きがあるため、年齢や目の疲れによるショボつきやかすみ、ぼやけなどを予防・改善する効果があります。また、アントシアニンには目の周りの血流を改善し、眼精疲労を改善する効果があります。

●生活習慣病の予防・改善効果
血液中の悪玉(LDL)コレステロールが増加すると、血管の内壁が脂質で分厚くなり、こぶのようにせり出して血管を狭めるため、高血圧や動脈硬化などが引き起こされます。ポリフェノールや有機酸、ブドウ種子油に含まれるリノール酸やオレイン酸をはじめとする様々な成分には、血中の悪玉(LDL)コレステロールを減少させる働きがあります。さらに、ぶどうに含まれるカリウムには、血圧の上昇を抑える働きがあります。そのため、これらの成分が豊富に含まれているぶどうには、高血圧を防ぎ、動脈硬化などの生活習慣病の予防に効果があると考えられています。
また血糖値上昇を抑制する働きも報告されており、糖尿病予防効果も期待されています。
また、アントシアニンには内臓脂肪の蓄積を抑え、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)を予防する効果があることも明らかになり、注目を集めています。【1】【2】【4】

●老化を防ぐ効果
人間の体は約60兆個もの細胞からできており、それらの細胞が日々生まれ変わりを続けることで若々しさが維持されています。しかし、加齢とともに細胞の生まれ変わりのスピードが遅くなったり、新しく生まれた細胞の質が低下してしまうと、老化が引き起こされます。ぶどうに含まれるレスベラトロールには、細胞の生まれ変わりを正常に保ったり、細胞の質の低下を防ぐ働きがあるため、老化を防ぐ効果が期待されています。
さらに、タンニンやブドウ種子油に多く含まれるプロアントシアニジンなどには、皮膚細胞の酸化を抑制し肌のシミやしわ、そばかすなどを防止する働きもあるため、ぶどうには美肌効果もあると考えられています。【8】

●疲労回復効果
ぶどうには、体内に吸収されやすい単糖類であるブドウ糖や果糖が豊富に含まれています。ブドウ糖や果糖は摂取後、体内で素早くエネルギーに変換されるため、即効性のある優れたエネルギー源になると考えられています。
さらに、有機酸には疲労物質である乳酸を分解しエネルギーに変える働きがあるため、疲労の蓄積が抑えられます。そのため、これらの成分が豊富に含まれるぶどうは、疲労回復に高い効果を発揮するといわれています。

●下痢を予防する効果
ぶどうに含まれるタンニンには、強い殺菌作用により腸内の悪玉菌[※4]を減少させる働きがあります。そのため、悪玉菌が原因となって起こる下痢を予防する効果が期待できます。【5】【6】

●むくみを予防・改善する効果
ぶどうは漢方として尿の排出を促し、肝機能や腎機能を高め、むくみを解消する働きがあるとされています。ぶどうに含まれるカリウムにも、体内の余分な水分を排出する働きがあるため、ぶどうには細胞間に溜まる水分が原因で起こるむくみの予防・改善に効果を発揮するといわれています。【7】

[※4:悪玉菌とは、ヒトの腸内にすむ細菌の一種です。増えすぎると体に悪い影響を及ぼすと考えられており、ウェルシュ菌、ブドウ球菌、緑膿菌などが悪玉菌といわれます。]

ブドウはこんな方におすすめ

○目の健康を維持したい方
○生活習慣病を予防したい方
○いつまでも若々しくいたい方
○疲労を回復したい方
○下痢になりやすい方
○手足のむくみが気になる方

ブドウの研究情報

【1】健康な成人69名を対象に赤ワインを1日あたり男性300mL、女性200mL 、4週間摂取させたところ、HDLコレステロールの増加が認められたことから、ブドウにはコレステロール血症予防効果と動脈硬化予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15674304

【2】メタボリック症候群の成人27名において、ブドウ種子抽出物を150mg もしくは300mg 、4週間摂取させたところ、収縮期および拡張期血圧の低下が見られたことから、ブドウ種子には高血圧予防効果が期待されます。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19608210

【3】ブドウの機能性成分レスベラトロールを免疫細胞のマクロファージに投与すると、炎症関連物質TNFを増加させることなく免疫力増強効果が確認されたことから、ブドウには免疫向上効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10761539

【4】高血圧成人患者64名において、ブドウジュースを1日当たり7mL/kg を8週間摂取させたところ、空腹時血糖値の低下と夜間血圧低下の促進が見られたことから、ブドウには糖尿病予防効果と高血圧予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20844075

【5】ブドウ種子抽出物は高い抗酸化力を持つことが知られており、小腸上皮細胞において炎症関連物質であるNF-κB やIL-1β、IL-8、MCP-1 の産生を抑制するはたらきがあります。ブドウには腸内での抗炎症作用をもち、腸保護作用や下痢予防効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21895782

【6】下痢誘発ラットにおいて、ブドウ種子抽出プロアントシアニジンを250mg/kg 摂取させたところ、下痢の発生度合いの減少と、腸粘膜の酸化ストレス物質MDAの減少、抗酸化酵素SODやGSH-Px のはたらきがましたことから、ブドウは下痢予防効果と腸内環境保護作用を持つと期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21534629

【7】むくみに悩む女性14名にブドウ種子エキスを14日間摂取させたところ、足のむくみサイズなど、むくみ症状に改善が見られたことから、ブドウにはむくみ改善効果が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22752876

【8】酵母由来のサーチュイン遺伝子での研究で、レスベラトロールが寿命に関連のあるサーチュイン遺伝子の活性を13倍に増強したことから、レスベラトロールに寿命延長効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12939617

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参考文献

・本多京子 食の医学館 小学館

・Hansen AS, Marckmann P, Dragsted LO, Finné Nielsen IL, Nielsen SE, Grønbaek M. 2005“Effect of red wine and red grape extract on blood lipids, haemostatic factors, and other risk factors for cardiovascular disease.” Eur J Clin Nutr. 2005 Mar;59(3):449-55.

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・Bertelli AA, Ferrara F, Diana G, Fulgenzi A, Corsi M, Ponti W, Ferrero ME, Bertelli A. 1999 “Resveratrol, a natural stilbene in grapes and wine, enhances intraphagocytosis in human promonocytes: a co-factor in antiinflammatory and anticancer chemopreventive activity.” Int J Tissue React. 1999;21(4):93-104.

・Dohadwala MM, Hamburg NM, Holbrook M, Kim BH, Duess MA, Levit A, Titas M, Chung WB, Vincent FB, Caiano TL, Frame AA, Keaney JF Jr, Vita JA. 2010 “Effects of Concord grape juice on ambulatory blood pressure in prehypertension and stage 1 hypertension.” Am J Clin Nutr. 2010 Nov;92(5):1052-9.

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・Howitz KT, Bitterman KJ, Cohen HY, Lamming DW, Lavu S, Wood JG, Zipkin RE, Chung P, Kisielewski A, Zhang LL, Scherer B, Sinclair DA. 2003 “Small molecule activators of sirtuins extend Saccharomyces cerevisiae lifespan.” Nature. 2003 Sep 11;425(6954):191-6.

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