グリコーゲン

glycogen

グリコーゲンとは、カキ、エビなどに含まれている多糖類で、エネルギーを貯蔵し人間の活動に欠かせないものです。
普段は、肝臓や骨格筋等に蓄えられており、急激な運動を行う際のエネルギー源として、あるいは空腹時の血糖維持に利用されます。

グリコーゲンとは?

●基本情報
グリコーゲンとは、多数のブドウ糖が複雑につながった多糖類です。動物デンプンとも呼ばれています。多数のグルコースが結合し、その構造はアミロペクチン[※1]に似ていますが、さらに枝分かれの頻度が多く、分子量も大きくなっています。
グリコーゲンは主に人の肝臓や骨格筋で合成されており、骨格筋で筋収縮のエネルギー源となるほか、肝臓のグリコーゲンは血糖値を一定に保つために使われるなど、様々な役割を担っています。グリコーゲンは、食事の間などに血糖値が下がってくるとブドウ糖を放出し、活動に必要なエネルギーを供給します。
グリコーゲンが蓄えられる場所は主に筋肉と肝臓で、筋肉では筋運動のエネルギー源として使われます。ただし、脂肪ほどはエネルギーの貯蔵には向かないため、一時的なエネルギー貯蔵の役割を担います。
人間の体内に存在する糖質のほとんどは、グリコーゲンとして肝臓や筋肉中に存在しています。肝臓での主な機能は、食事からの炭水化物がエネルギー源として速やかに供給されない場合に、グリコーゲンを分解してグルコースを生成し、他の組織に供給することです。
筋肉に含まれるグリコーゲンを筋グリコーゲンといいます。筋肉のエネルギー源を速やかに供給することに使われます。筋肉に蓄えられる量は筋肉の1~2%ほどですが、筋肉は体のあらゆる場所にあるので、総合的には筋肉のグリコーゲンは肝臓のグリコーゲンの2倍ほどになります。
12~18時間絶食すると肝臓におけるグリコーゲンは枯渇しますが、筋肉のグリコーゲンは運動負荷後にのみ枯渇します。マラソン選手はゴールにたどり着くころにはほとんどすべての筋肉グリコーゲンを燃焼します。

●グリコーゲンの歴史
1856年に、フランスの生理学者クロード・ベルナールは十分な栄養素を与えられた動物の肝臓に多糖類が蓄えられていることを発見し、グリコーゲンと命名しました。
さらに、このグリコーゲンは唾液などによってマルトース[※2]になること、希酸[※3]を加えて火にかけて煮立たせるとグルコースを生じることが認められました。
1891年には、フォイトが糖を与えたニワトリの肝臓を観察し、糖からグリコーゲンが合成されることを証明しました。

●グリコーゲンの合成と分解
グリコーゲンは、動物における炭水化物の主要な貯蔵形態であり、おもに肝臓と筋肉で合成されます。細胞内のグルコースは、グルコース6-リン酸[※4]を経てグルコース1-リン酸[※5]に、さらにUDP-グルコース[※6]を経てグリコーゲンとなります。食後はすい臓からインスリン[※7]が分泌されて、肝臓からの糖の放出は抑えられ、グリコーゲンの合成が進みます。
空腹時には、グルカゴン[※8]やアドレナリン[※9]などのホルモンが分泌され、グルカゴンは肝臓で、アドレナリンは肝臓と筋肉で、グリコーゲンの分解を促進します。
一方、グリコーゲンの分解では、グルコース1-リン酸を経てグルコース6-リン酸が生じ、さらにグルコース6-ホスファターゼ[※10]という酵素によってグルコースとなり、血液中に放出されます。この酵素は肝臓には存在するが、筋肉には存在しないため、筋肉中のグリコーゲンはグルコースにはなりません。

<豆知識>スポーツ選手が行う『グリコーゲンローディング』
グリコーゲンローディングとは、グルコースローディングとも言いますが、試合前に炭水化物をたくさんとり、グリコーゲンの形で筋肉に蓄えておくことで、持久力を維持するための手法です。グリコーゲンの入ったスポーツ飲料も市販されています。

[※1:アミロペクチンとは、千数百個のブドウ糖分子が枝分かれしながらつながったものです。]
[※2:マルトースとは、麦芽糖とも呼ばれる水飴の主成分です。]
[※3:希酸とは、硝酸や濃硫酸などの強い酸化力を持つ酸以外の酸のことをいいます。]
[※4:グルコース6-リン酸とは、グルコース代謝の中心的な化合物のことをいいます。]
[※5:グルコース1-リン酸とは、デンプンなどの多糖にホスホリラーゼが作用して生じる解糖系の中間体物質のことをいいます。]
[※6:UDP-グルコースとは、ウリジンニリン酸グルコースのことでヌクレオチド糖の一種です。]
[※7:インスリンとは、血糖値をコントロールする作用を持ったホルモンです。]
[※8:グルカゴンとは、すい臓のランゲルハンス島α細胞から分泌されるホルモンのことをいいます。]
[※9:アドレナリンとは、副腎髄質から分泌され、血糖を上昇させるホルモンです。]
[※10:グルコース6-ホスファターゼとは、グルコース6-リン酸からリン酸部分を除去する糖新生経路の酵素のことをいいます。]

グリコーゲンの効果

●疲労回復効果
ブドウ糖などの糖質が不足すると身体が疲れやすくなってしまいます。
規則正しい生活、バランスのとれた食事、適度な運動とストレスを発散させることが疲労回復だけでなく、疲労しにくい体をつくることにもなります。
グリコーゲンは、疲労回復に効果があると考えられます。【1】【2】

●集中力を高める効果
脳の唯一のエネルギー源であるブドウ糖は、脳を活性化させ、集中力や記憶力を高める効果があります。睡眠中でも体は休んでいますが、脳ではエネルギーが消費されています。そのため、朝にはブドウ糖はほとんどなくなっているといわれています。朝食をしっかりと摂ることでブドウ糖が補給されるので、脳の活性化につながります。また、エネルギーがつくられると同時に熱も発生するため、体温上昇効果も期待できます。
研究によると、朝食を食べるグループと食べないグループに分けて学業成績の関連を調べたところ、朝食を食べたグループの方が学業成績が良かったという結果も出ています。このことからも朝食を摂り、しっかりとエネルギーを補うことで脳の活性化ができると考えられます。
また、空腹になると人間はイライラしてしまう傾向があります。これは血糖値が低くなり、脳のエネルギー源が不足になるためともいわれています。

●血糖値を調節する効果
血液中の糖が減少してくると、動悸や冷汗、手足の震えなどの症状がでてきます。
そこで、蓄えられていたグリコーゲンが分解され糖となり、血液中に放たれ血糖値を調節することで、血液中の糖の減少による動悸などの症状を抑えることができます。

グリコーゲンは食事やサプリメントで摂取できます

グリコーゲンを含む食品

○ウニ
○牡蠣
○ホタテ
○動物の肝、筋肉

こんな方におすすめ

○疲労を回復したい方
○脳を活性化したい方
○集中力や記憶力を向上させたい方

グリコーゲンの研究情報

【1】グリコーゲンが枯渇した後の運動において、グリコーゲンを摂取したのちの骨格筋に対する影響を15分、6時間、48時間後と報告した。その結果、グリコーゲンが枯渇した後に持久運動を続けることで筋肉の能力が高まるということが報告されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10409578

【2】ラットを使った実験によって、トレーニング状態で骨格筋の糖輸送体 GLUT-4 が多い状態のほうが筋肉の回復のレベルを増加させたという報告があります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9049757

参考文献

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・則岡孝子 著 ひと目でわかる あなたに必要な栄養成分と食べ物 河出書房新社

・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・川端輝江 しっかり学べる!栄養学 ナツメ社

・PECK RITTER リッター生化学 東京化学同人

・小林修平 監修 最新栄養学 建帛社

・日本薬学会 編 環境・健康科学辞典 丸善

・Greiwe JS, Hickner RC, Hansen PA, Racette SB, Chen MM, Holloszy JO. (1999) “Effects of endurance exercise training on muscle glycogen accumulation in humans.” J Appl Physiol. 1999 Jul;87(1):222-6.

・Nakatani A, Han DH, Hansen PA, Nolte LA, Host HH, Hickner RC, Holloszy JO. (1997) “Effect of endurance exercise training on muscle glycogen supercompensation in rats.” J Appl Physiol. 1997 Feb;82(2):711-5.

・Takahashi T, Suzuki M. (1975) “Influence of thyroid hormone on glycogen metabolism in rat liver.” Endocrinol Jpn. 1975 Jun;22(3):187-94.

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