ジンゲロールとは
●基本情報
ジンゲロールとは、ファイトケミカルの一種で、生のしょうがに多く含まれている辛味成分のひとつです。
ファイトケミカルとは、植物がつくり出した化学物質の総称で、植物が紫外線や外敵などから身を守るために生成している物質です。
ジンゲロール(gingerol)という名称は、しょうがの英語名であるジンジャー(ginger)に由来しています。
ジンゲロールはジンゲロン、ショウガオールをはじめとする、しょうがに含まれる代表的な有効成分のひとつであり、
しょうがを加熱させたり、乾燥させると、ジンゲロールは独特の香りを持つジンゲロンやショウガオールへと変化します。
ジンゲロールは殺菌作用、免疫細胞を活性化させる作用、胆汁の分泌を促進する作用、吐き気や頭痛を抑える作用など、様々な働きを持っています。
ジンゲロールを含んだしょうがは、その働きを利用して日本の食事に取り入れられてきました。
寿司と合わせて食するガリは、ガリの材料であるしょうがに含まれている、ジンゲロールの殺菌作用を活用した代表例であるといえます。ガリに含まれているジンゲロールによって、寿司に使用されている生魚の生臭さを解消したり、食中毒などの予防ができるのです。
また、ジンゲロールやショウガオールに共通した働きとしては、血管を拡張する作用、抗酸化作用[※1]などが挙げられています。
しょうがをすり下ろしてつくる「しょうが湿布」や「しょうが風呂」などは、皮膚からジンゲロールを含んだしょうがエキスを吸収できるため、血行を促進するのに効果的な使用例です。
●ジンゲロールの歴史
ジンゲロールを含むしょうがは、しょうがの原産地のひとつであるインドにおいて、紀元前300~500年前頃から保存食や医薬品として使用されていました。
インドの古い医学書物では、その効能により「しょうがは神からの治療の贈り物である」と記されています。
ジンゲロールを含むしょうがは、その効果によって遥か昔から人々に重宝されていたとされていたのです。
●ジンゲロールの効果的な摂取方法
ジンゲロールは酸素に弱い性質を持っているため、酸素に触れた状態で加熱すると酸化し、本来の働きを行うことができなくなります。
よって、ジンゲロールを摂取する際には、しょうがに熱を加えず、空気に触れている時間をできるだけ短縮することが大切です。
例えば、すり下ろしたしょうがを冷奴にのせて食す時などは、食べる直前にすり下ろすことで、より効果的にジンゲロールを摂取することができます。
[※1:抗酸化作用とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ作用です。]
ジンゲロールの効果
●冷えを改善する効果
ジンゲロールと、ジンゲロールが加熱によって変性してできるショウガオールの作用によって、冷えを改善する効果があると考えられています。
冷えは、血行の悪さが原因で起こる症状であり、冷え性などの症状は末梢血管における血行障害であるともいわれています。
冷え性になると、手足の先が冷えるなどの症状以外にも、頭痛や肩こりなどの症状が併発する恐れがあり、血流を改善することは、症状を緩和する有効な方法のひとつです。
人間の血行不良には、プロスタグランジン[※2]という物質が原因のひとつであるとされています。
プロスタグランジンは、血管を収縮したり、血小板の粘着性を高めたりする働きを行っており、プロスタグランジンのバランスが崩れてしまうと、血管が収縮しすぎたりして、血行不良が起こるのです。
ジンゲロールには、プロスタグランジンの作用を抑制する働きがあるため、血管を拡張させ、血流を改善に導くことができるとされています。
ジンゲロールの血管を拡張させる作用によって血流が促進されるため、ジンゲロールを摂取することで、冷えを改善する効果が期待されています。【2】
●免疫力を向上させる効果
ジンゲロールを摂取することによって、免疫細胞[※3]を賦活させ、免疫力を向上させることができます。
人間の持つ免疫力は、体内に存在している免疫細胞の機能によって維持されており、免疫細胞は体内に侵入してきた細菌やウイルスに反応して活動を行います。
ジンゲロールを摂取することで、免疫細胞のひとつ、白血球の数を増やし、免疫機能を活性化させることができます。
また、ジンゲロールは気管支炎などの炎症を引き起こす細菌を攻撃する力も持っているため、直接的に細菌などを撃退する働きも行います。
さらに、ジンゲロールには血流を促進する作用によって、体温を上昇させることも、免疫力の向上につながります。
体温と免疫力は密接に関わっており、平均体温が1℃下がると免疫力が約30%低下するともいわれています。
低体温は体内の酵素や免疫細胞の活動を鈍らせるため、ジンゲロールの血流を改善する作用によって体温を上げることは、免疫力の向上にも効果的です。
このようなジンゲロールの様々な作用の相乗効果によって、免疫力を向上させる効果が得られると考えられています。【5】【6】
●吐き気・頭痛を抑える効果
ジンゲロールには、二日酔いやつわりなどの吐き気、頭痛を抑えることができると考えられています。
吐き気や頭痛の原因は様々ですが、その症状にはセロトニン[※4]という神経伝達物質が深く関与しています。
吐き気や頭痛は、セロトニンが嘔吐中枢を刺激することによって起こるとされており、ジンゲロールには抗セロトニン作用があるため、セロトニンの作用を抑制し、吐き気や頭痛を抑える効果が得られるといわれています。
●コレステロール値を低下させる効果
ジンゲロールは胆汁の排泄を促進する作用を持ち、血中のコレステロールを低下させることができます。
胆汁とは、肝臓から分泌される消化液で、消化酵素は含まれていません。
胆汁は、油と水の両方になじむ性質を持っており、摂取された脂質やたんぱく質を自身に溶かし込むことで、十二指腸へと運び、膵液[※5]と一緒になって消化作用を行います。
胆汁は、ほとんどが水で構成されていますが、胆汁に含まれている胆汁酸[※6]は、コレステロールを利用してつくり出されます。
よって、ジンゲロールによって胆汁の排泄が促進されると、新しい胆汁が肝臓によって生成されます。
新しい胆汁の生成を促すことで、体内のコレステロールがより多く使用されることとなり、コレステロール値を低下させる効果につながります。【3】
●ダイエット効果
ジンゲロールには、ダイエットに効果的な成分であるとされています。
ジンゲロールは血流を改善する作用を持つため、体内の代謝[※7]を活性化させ、エネルギーの消費を増加させるといわれています。
血流が促進させることによってエネルギー代謝も向上すると、エネルギーの消費量が増加すると考えられます。
●老化を防ぐ効果
ジンゲロールには抗酸化作用があります。抗酸化作用によって、体内で過酸化脂質の影響による血管の老化や、細胞やDNAの酸化による異常細胞の産生を抑えてくれると考えられます。【1】
[※2:プロスタグランジンとは、体内に細菌が侵入した時に、体内でつくられるホルモン様物質のことです。炎症、発熱を引き起こす原因といわれています。]
[※3:免疫細胞とは、白血球に含まれている、生体を防御する機能を持った細胞を指します。]
[※4:セロトニンとは、精神を落ち着かせる働きのある神経伝達物質のことです。]
[※5:膵液とは、膵臓から分泌され、十二指腸に排出される消化液です。たんぱく質・脂質・炭水化物などを分解する消化酵素を含んでいます。]
[※6:胆汁酸とは、胆汁に含まれている物質です。消化管内で食物の脂肪や脂溶性ビタミンをより吸収しやすくする働きをします。]
[※7:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
食事やサプリメントで摂取できます
ジンゲロールを含む食品
○しょうが(特に金時しょうが)
こんな方におすすめ
○冷え性の方
○免疫力を向上させたい方
○二日酔いやつわりなどの吐き気を抑えたい方
○コレステロール値が気になる方
○肥満を防ぎたい方
○老化を防ぎたい方
ジンゲロールの研究情報
【1】 ジンゲロールの、抗酸化および消炎作用の分子メカニズムについて調べました。抗
酸化活性アッセイでは[6]-ジンゲロール、[8]-ジンゲロール、[10]-ジンゲロールおよび[6]-ショウガオールはそれぞれDPPHのIC50は、26.3μM, 19.47μM, 10.47μMそして8.05μMでした。炎症性メディエーター(一酸化窒素およびプロスタグランジンE(2))の生産は、用量に依存して抑制されました。このことから、各ジンゲロールは抗炎症性作用および抗酸化作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19833188
【2】ジンゲロールまたはショウガオールを含んでいるショウガの地下茎の抽出物は、LPS誘発プロスタグランジンE2の産生を抑制し、抗炎症作用を持つことが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16709450
【3】高脂肪食摂取マウスに、しょうがの一種高良姜およびジンゲロールを6週間摂取させたところ、コレステロールの生合成が抑制されたことから、しょうがの高脂血症予防および抗肥満効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21954187
【4】高脂肪食ラットに、しょうがの有効成分ジンゲロール類似体を摂取させたところ、インスリンおよび食欲促進物質レプチンの血中濃度の減少し、脂肪および体重が減少したことから、しょうがの抗肥満作用が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21851089
【5】マウスに卵白アルブミン(OVA)を与えた際の免疫抑制作用について、ジンゲロールの与える影響を調べました。ジンゲロールを摂取させたOVAマウスではIgG(IgG1、IgG2b)の量は減少し、マウスの細胞性免疫応答を抑制できたと示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21441866
【6】ショウガの主成分である6-ジンゲロールが肺の中のIL-4、-5を抑えることがわかり、好酸球増多を抑制することがわかっています。このことから、ジンゲロールは、アレルギー性喘息の治療への応用の可能性が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18692598
参考文献
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・石原 結實 生姜力―病気が治る!ヤセる!きれいになる!1週間で効く8つの活用法! 株式会社主婦と生活社
・齋藤真嗣 体温を上げると健康になる サンマーク出版
・Dugasani S, Pichika MR, Nadarajah VD, Balijepalli MK, Tandra S, Korlakunta JN. (2010) “Comparative antioxidant and anti-inflammatory effects of [6]-gingerol, [8]-gingerol, [10]-gingerol and [6]-shogaol.” J Ethnopharmacol. 2010 Feb 3;127(2):515-20. Epub 2009 Oct 13.
・Lantz RC, Chen GJ, Sarihan M, Solyom AM, Jolad SD, Timmermann BN. (2007) “The effect of extracts from ginger rhizome on inflammatory mediator production.” Phytomedicine. 2007 Feb;14(2-3):123-8. Epub 2006 May 18.
・Beattie JH, Nicol F, Gordon MJ, Reid MD, Cantlay L, Horgan GW, Kwun IS, Ahn JY, Ha TY. (2011) “Ginger phytochemicals mitigate the obesogenic effects of a high-fat diet in mice: a proteomic and biomarker network analysis.” Mol Nutr Food Res. 2011 Sep;55 Suppl 2:S203-13. doi: 10.1002/mnfr.201100193.
・Okamoto M, Irii H, Tahara Y, Ishii H, Hirao A, Udagawa H, Hiramoto M, Yasuda K, Takanishi A, Shibata S, Shimizu I. (2011) “Synthesis of a new [6]-gingerol analogue and its protective effect with respect to the development of metabolic syndrome in mice fed a high-fat diet.” J Med Chem. 2011 Sep 22;54(18): 6295-304.
・Lu J, Guan S, Shen X, Qian W, Huang G, Deng X, Xie G. (2011) “Immunosuppressive activity of 8-gingerol on immune responses in mice.” Molecules. 2011 Mar 22;16(3):2636-45.
・Ahui ML, Champy P, Ramadan A, Pham Van L, Araujo L, Brou Andr? K, Diem S, Damotte D, Kati-Coulibaly S, Offoumou MA, Dy M, Thieblemont N, Herbelin A. (2008) “Ginger prevents Th2-mediated immune responses in a mouse model of airway inflammation.” Int Immunopharmacol. 2008 Dec 10;8(12):1626-32. Epub 2008 Aug 8.