にんにくとは?
●基本情報
にんにくはユリ科ネギ属に属している多年生草[※1]の香味野菜です。にんにくは鱗茎(りんけい)[※2]の部分が食用とされており、4~10数個の鱗片(りんぺん)からなります。
にんにくの原産地は中央アジアが有力と考えられており、耐寒性や耐雪性はありますが、暑さには強くない特徴を持ちます。現在では世界各地で栽培されており、西洋では生や粉末加工して香辛料に使われ、東洋では強壮野菜として常食されています。
●にんにくの品種
にんにくの品種は、大きく寒地系品種と暖地系品種に分けることができます。
現在最も多く出回っている寒地系品種はホワイト六片種で、暖地系品種は壱州早生(いしゅうわせ)と呼ばれているにんにくです。これらの品種は鱗片が食用とされ、保存性があるため市場に1年中出回っています。
鱗片を食用とするにんにくの他に、若い葉を収穫した葉にんにくや、若い花茎を食用とする茎にんにくがあります。
葉にんにくは蒜苗(そあんみゃお)とも呼ばれており、中国からの輸入品が主です。また、茎にんにくはにんにくの芽、または蒜苔(そあんたい)とも呼ばれており、中国から冷凍品として多く輸入されています。
●にんにくの歴史
にんにくは、エジプトでは古くから栽培が行われていたといわれています。紀元前の古代エジプト時代、王たちがピラミッドの建設に従事した労働者ににんにくを食べさせ、重労働に耐えられる活力をつけさせたという記録が残っています。
エジプトで汎用されたにんにくは、地中海沿岸から古代ギリシャ、ローマに伝わりヨーロッパ全土に広がっていったといわれています。
東洋へは、エジプトからアラブ諸国、さらにインドへと伝わっていきました。インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」には、にんにくは鼻風邪や排尿困難、てんかん、喘息、食欲不振、胃潰瘍、体力減退、胃腸障害、神経疲労などに効くとの記載がされています。
中国では紀元前140年頃、漢の武帝の時代ににんにくが伝えられたといわれています。紀元前500年頃著された神農本草経にも大蒜(おおびる)として記載されています。1596年、明代の医師である李時珍が著した本草網目にもにんにくの薬効についての記載があります。
にんにくは中国、朝鮮半島を経て日本へ伝えられ、古事記や日本書紀にも主に消化や鎮痛、解熱、強壮などの薬用、魔よけに用いられていたという記述が残っています。また戦後には香辛料として頻繁に利用されるようになりました。
●にんにくの選び方と保存方法
にんにくは皮と粒に着目して選びます。
にんにくの皮は表面の色が白いほど新鮮で、乾燥しすぎずツヤのあるものが良いとされています。
にんにくは常温で風通しの良いところで保存します。場所がなければ紙袋に入れて、涼しい場所で保存することも可能です。ネットなどに入れて日陰に吊るしておくことも良いとされています。
にんにくは水気に弱く、湿気の多い場所や水のかかるような場所では腐りやすいため避ける必要があります。
●にんにくの調理方法
にんにくは、日本では古くから薬用として利用されていましたが、戦後は香りづけの薬味として普及するようになりました。にんにくは細かく刻むほど、香りが強くなるため切り方によって香りを調節することができます。
炒めものにする場合、にんにくを先に炒めますが、これはにんにくの香りを油に移すためです。その際、高温の油に入れるとすぐに焦げてしまうため、油とにんにくを入れてから弱火でじっくり火を通します。
にんにく特有の臭いは生のときやおろした状態で最も強く、加熱したり高濃度の液体に漬けると臭いが弱くなります。にんにくの臭いが気になる時にはしょうゆやはちみつに漬けたり、揚げたり焼いたりして食べると臭いが抑えられます。
●にんにくの生産地
にんにくの主な生産地は青森県や岩手県、香川県、秋田県、福島県などです。
にんにくは4~7月に旬を迎えますが、保存性が高い食材のため1年中市販されています。
●にんにくに含まれている成分とその性質
にんにくには硫化アリルの一種であるアリインが多く含まれています。
にんにくを切ったり、すりおろしたりすることでにんにく中のアリナーゼと呼ばれる分解酵素が働き、にんにく独特の臭いであるアリシンが生成されます。
アリインやアリシンのことをアリル化合物と呼びます。このアリル化合物がビタミンB1と結合しやすく、アリチアミンと呼ばれる物質に変化することで、より体内への吸収が高まり疲労回復に役立ちます。
アリシンは油と一緒に調理することで、分解されにくくなりその作用が高まります。
アリシンは体内で胃の消化液の分泌を活発にし、食欲を増進させたり、ビタミンB₁の吸収を高めたりするなどの働きをしているため、ビタミンB₁を多く含む豚肉や大豆などと一緒に食べると良いといわれています。
また、アリシンは加熱するとスコルジニンと呼ばれる有効成分に変化します。
スコルジニンは毛細血管を拡張して、細胞の生まれ変わりである新陳代謝を活性化する働きがあります。
新陳代謝が衰えてくると、メラニン色素が肌の内部に残ってしまい、シミや肌あれの原因となります。
その他にも、にんにくにはビタミンB群やリン、カリウムなどのミネラル類が多く含まれています。
<豆知識>にんにくの口臭の消し方
にんにく料理を食べた後、口の中には特有のにおいが残りますが、この際、ある程度にんにくのにおいを抑えることができる方法がいくつかあります。
・コーヒー豆を噛む
炒ったコーヒー豆を5、6粒よく噛んだ後、水やお湯で口をゆすぎます。コーヒー豆に含まれている消臭効果を持つフルフリール基と呼ばれる物質が、にんにくの臭い成分と結びつくことで、にんにく特有のにおいが消えます。また味噌汁を飲むことも一法です。コーヒー豆と同様に大豆の中にフルフリール基を持った成分が入っているからです。
・牛乳を飲む
牛乳のたんぱく質がにんにくの臭み成分と結合し、胃に流れ込みます。にんにくの臭みを取るために牛乳を飲む場合は、一気に飲まず噛むようにしてゆっくり飲むことが大切です。
・ガムを噛む
ガムに含まれている香料や、その他の特殊成分がにんにくのにおいを隠します。また、ガムを噛んでいると唾液の分泌が高まります。唾液中のたんぱく質がにんにくのにおい成分と結びつくため、においが消えます。
・加熱してにんにくのにおいを消す
にんにくは加熱すると、におい成分をつくり出す酵素が壊れるため、生で食べるほどの強いにおいは出ません。また、酵素は酸やアルカリに弱いため、にんにくを酢漬けにするとにおいがほとんど取れます。
[※1:多年生草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年にわたって生存する草のことです。]
[※2:鱗茎とは、短い茎の周囲に生じた多数の葉が養分を貯えて成長とともに厚みを増し、重なり合って球形になったもののことです。]
にんにくの効果
●疲労回復効果
にんにくに含まれているアリシンとビタミンB1には、疲労を回復させる効果があるといわれています。
アリシンはビタミンB1と結合すると体内に吸収されやすいアリチアミンと呼ばれる成分に変換されます。アリチアミンは活性持続性型B1とも呼ばれています。変換されることによって、長く血液中に留まることが可能になり、長時間に渡って疲労回復のために利用されます。
また、アリシンにはビタミンB1の吸収を高める働きもあります。ビタミンB1は食事から摂った糖質をエネルギーに変えるために必要とされる栄養素です。糖質をエネルギーに変える力が低下してしまうと、疲労物質である乳酸が溜まりやすくなり、疲労を感じるようになります。
アリシンとビタミンB1の相乗効果によって、疲労を回復させる働きがあると考えられています。
にんにくを細かく刻んだり、すりおろしたりしてにんにく臭を出すことによって、よりアリシンの効果が高まります。【1】
●冷え性を改善する効果
アリシンに熱が加わることで変化したスコルジニンと呼ばれる成分には血行を良くする作用があるため、冷え性の改善に効果が期待できます。
冷え症とは血行不良によって体の部位が極端に冷たくなることをいいます。特に末端である手足に冷えを感じることが多いといわれています。
冷え症が長く続くと肌荒れや肩こり、腰痛、関節の痛み、むくみ、便秘、抵抗力の低下などの症状が現れる場合があります。
冷え性は特に女性に多いといわれており、男性と比べ筋肉量が少ないため熱の生産量が少なく、月経で血液が減少しがちなことが要因として考えられています。
●動脈硬化を予防する効果
動脈硬化とは動脈の弾力性が失われ、硬くなった状態をいいます。進行すると血管の中にコレステロールが溜まり、血液の流れが滞ります。血管の老化現象ともいわれており、悪化すると脳出血や脳梗塞、眼底出血[※3]などの病気の一因になります。
コレステロールには、悪玉(LDL)コレステロールと、善玉(HDL)コレステロールがあります。悪玉コレステロールは生活習慣病の原因となり、善玉コレステロールは余分なものを肝臓に運ぶ働きをします。
にんにくに含まれているアリシンには血流を改善する効果に加え、善玉コレステロールを増やし悪玉コレステロールを減らす働きがあります。コレステロールの増加を抑えて血液が固まるのを遅らせるため、動脈硬化予防に効果が期待できます。
また、スコルジニンには血管を拡張し、血液の流れをスムーズにすることで、血圧を下げたり、血中の余分なコレステロールを排除する働きがあります。【6】
●免疫力を高める効果
人間の体には外部から入ってくる細菌やウイルスから身を守るための免疫機能が備わっています。
免疫力は加齢やストレス、活性酸素[※4]などの影響で少しずつ低下していきます。免疫力が低下し弱っているところに細菌やウイルスなどが侵入してくると、病気にかかりやすくなります。
にんにくに含まれているアリシンやその他の硫化アリル類には強力な殺菌効果があり、細菌やウイルスにも効力を発揮するため、風邪などの感染症にかかりにくくなります。【7】
[※3:眼底出血とは、眼底(瞳から入ってきた光が突き当たる眼球の奥の部分)から何らかの原因で出血した状態をいいます。]
[※4:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
にんにくは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○疲労を回復させたい方
○美肌を目指したい方
○冷え性の方
○動脈硬化を予防したい方
○免疫力を向上させたい方
にんにくの研究情報
【1】熟成ニンニクエキスは、最近では強力な抗疲労物質として注目されています。機械トレッドミル装置の反復持久運動によって引き起こされるラットにおける肉体疲労に関する熟成ニンニクエキスの疲労回復メカニズムを解明しました。ラットに、2.86 g/kg熟成ニンニクエキスを投与し、5回/1週間で4週間運動させました。熟成ニンニクエキス投与ラットは、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)活性を40%までに抑え、また、一酸化窒素(NO)濃度も減少しました。これらの結果は熟成ニンニクエキスが好気性グルコース代謝を促進し、酸化ストレスを減弱させ、そして血管拡張に基づく酸素供給を推進する可能性が示され、熟成ニンニクエキスが肉体的疲労に伴う多様な障害を回復させる可能性があると示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16651727
【2】無作為化比較試験11報をメタ分析したところ、ニンニクの投与 (600~900 mg/日、12~23週間) は収縮期血圧を下げ、高血圧症患者を対象とした3報のサブグループ解析においては拡張期血圧も下げたということがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18554422
【3】酸化ストレス肝損傷に対するニンニクエキスの効果を調べました。鉛による肝障害誘発ラットに対するニンニクエキスを50mg/kgで連続7回投与することよって、肝臓の脂質過酸化は減少し、グルタチオンは上昇しました。さらに、減少したスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼの活性が上昇しました。これらのことから、ラットにおいて、ニンニクエキスが肝損傷を改善する可能性があることを示すことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21800501
【4】ニンニクがラットの脂質と抗酸化代謝に及ぼす作用を検討しました。ラットにコントロール、RG(ニンニクのみじん切り)、BG(ニンニクを20分いためる)、AERG(ニンニクのみじん切りの水性抽出物)、AEBG(ゆでたニンニクの水性エキス)、Ch(コレステロール)を与える群に分け、コントロールを除くすべての群にChを与えました。Chの食事を供給されるラットのグループと比較して、ニンニクサンプルは、有意にTCおよびLDL-Cの上昇を阻害しました。生および煮たニンニクは血漿中脂質代謝および血漿の抗酸化活性を改善しました。これらのことから、ニンニクは、抗酸化活性を高め、コレステロールの減少効果をもつことがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16165163
【5】発酵ニンニク(MGFE)の摂取により、高脂血症の血清脂質含有量が減少するかどうかを評価しました。120-200mg/dLの血清トリグリセリド濃度の健常被験者に12週間、MGFEまたはプラセボカプセルを摂取させました。MGFE投与によって、体脂肪、腹囲には変化は認められませんでしたが、血漿中のLDLコレステロール値、総コレステロール値、LDL/HDL比はプラセボと比べて有意に減少しました。これらのことから、MGFEは、コレステロールを減少させメタボリックシンドロームを改善させる働きがある可能性が考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22041543
【6】ニンニクの生エキスおよび熱水性抽出物を4週間、正常ラットに経口および腹腔内投与しました。ラットのグルコース、コレステロールおよびトリグリセリドの血清濃度を測定した結果、グルコースに変化は見られませんでしたが、中性脂肪およびコレステロールを有意に減少しました。高脂血症はアテローム性動脈硬化に対する大きな要因であるため、ニンニクは、アテローム性動脈硬化の予防につながる可能性があると考えられました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16484567
【7】抗菌薬またはオメプラゾールを加えた自家製の加工ニンニクエキスおよび市販のニンニクの錠剤だけの抗菌作用を、ピロリ菌の臨床分離株に対して判定したところ、濃度依存的に抗菌作用をを示しました。H. pylori治療のためにニンニクと従来の薬剤を組み合わせることによる可能性が臨床試験で評価されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10404325
参考文献
・CMPジャパン「ハーブ」プロジェクトチーム 薬用ハーブの機能研究 健康産業新聞社
・原山建朗 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・則岡孝子 栄養成分の事典 新星出版社
・荻野善之 野菜まるごと大図鑑 株式会社主婦の友社
・内田正宏 芦沢正和 花図鑑野菜 星雲社
・Morihara N, Ushijima M, Kashimoto N, Sumioka I, Nishihama T, Hayama M, Takeda H. (2006) “Aged garlic extract ameliorates physical fatigue.” Biol Pharm Bull. 2006 May;29(5):962-6.
・Ried K, Frank OR, Stocks NP, Fakler P, Sullivan T. (2008) “Effect of garlic on blood pressure: a systematic review and meta-analysis.” BMC Cardiovasc Disord. 2008 Jun 16;8:13.
・Kilikdar D, Mukherjee D, Mitra E, Ghosh AK, Basu A, Chandra AM, Bandyoapdhyay D. (2011) “Protective effect of aqueous garlic extract against lead-induced hepatic injury in rats.” Indian J Exp Biol. 2011 Jul;49(7):498-510.
・Gorinstein S, Leontowicz H, Leontowicz M, Drzewiecki J, Najman K, Katrich E, Barasch D, Yamamoto K, Trakhtenberg S. (2012) “Reduction of serum lipids by the intake of the extract of garlic fermented with Monascus pilosus:a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial.” Clin Nutr. 2012 Apr;31(2):261-6. Epub 2011 Oct 29.
・Thomson M, Al-Qattan KK, Bordia T, Ali M. (2006) “Including garlic in the diet may help lower blood glucose, cholesterol, and triglycerides.” J Nutr. 2006 Mar;136(3 Suppl):800S-802S.
・Jonkers D, van den Broek E, van Dooren I, Thijs C, Dorant E, Hageman G, Stobberingh E. (1999) “Antibacterial effect of garlic and omeprazole on Helicobacter pylori.” J Antimicrob Chemother. 1999 Jun;43(6):837-9.
・Batirel HF, Naka Y, Kayano K, Okada K, Vural K, Pinsky DJ, Oz MC. (2002) “Intravenous allicin improves pulmonary blood flow after ischemia-reperfusion injury in rats.” J Cardiovasc Surg (Torino). 2002 Apr;43(2):175-9.