フラーレン

fullerene
C60

フラーレンは、炭素でできたサッカーボール型の分子で、強い抗酸化力を持っており、その働きから美白効果やシミ・シワ、ニキビ改善などが期待されています。化粧品に多く配合されており、近年注目が集まっています。

フラーレンとは

●基本情報
フラーレンとは炭素でできた球状の不溶性分子です。サッカーボール型の分子構造をしており、60個の炭素分子のみでできているのでC60とも表記されます。サッカーボールは五角形と六角形が合わさった独特な構造で、建築家のR・バックミンスター・フラーがモントリオール万博のアメリカ館で使用し、注目されました。その建物の建築家の名前にちなんでフラーレンと名付けられました。またこの構造は極めて安定で、100℃以上でもほとんど分解されません。また、光や酸に対しても安定だといわれています。
フラーレンは、肌の老化の原因となる活性酸素[※1]を吸収する働きがあり、美白効果やシミ・シワ、ニキビの改善などが期待できます。この強い抗酸化力[※2]が注目され、化粧品成分として配合されています。

●フラーレンの歴史
フラーレンは1985年に宇宙空間の研究をしていたクロート、スモーリー、カールらによって偶然発見されました。この発見をきっかけに研究が進み、1991年に働きが解明された大変新しい成分です。最初は宇宙に存在する物質のひとつとして発見された成分ですが、その後の研究により、落雷によって形成される鉱物や白亜紀と第三紀の堆積層にも含まれていることが発見されました。また、備長炭やローソクなど地球上に存在するものにも含まれていることが知られています。1990年代になると電気を通すことがわかり、他にも大変独特な性質をもつことがわかりました。このような功績に対し、1996年にクロート、スモーリー、カールの3人はノーベル化学賞を受賞しています。現在ではこの特性を活かし、半導体や医薬・化粧品など様々な分野での利用が期待されています。

●フラーレンの働き
フラーレンは活性酸素の消去を促す働きがあります。過剰な活性酸素は生活習慣病[※3]や老化などの様々な病気を引き起こす一因だといわれています。フラーレンは強力な抗酸化力を持っているため、医薬品や化粧品で活用されています。【2】【8】
フラーレンは、他の不安定な成分を安定化させる働きがあります。抗酸化力の高い成分は不安定で、時間とともに酸化[※4]されてしまいます。古くなり、酸化した化粧品を使用すると肌の酸化にもつながります。フラーレンはβ-カロテン、アスタキサンチン、ハイドロキノン、ビタミンCなどが光によって分解を受けることを抑制する作用があるため、化粧品の成分が酸化によって劣化することを保護する効果があると考えられます【4】。

●フラーレンの安全性
フラーレンは化粧品など外用で使用される場合を想定し、安全性を確認しています。ヒトでのパッチテスト[※5]を行った結果、影響は見られませんでした。この結果からフラーレンは化粧品などの原料として極めて高い安全性を持つ可能性が示唆されています。

[※1:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。ストレス、紫外線、喫煙などの要因によって体内で過剰に発生した場合、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます。]
[※2:抗酸化力とは、たんぱく質や脂質、DNAなどが酸素によって酸化されるのを防ぐ力です。]
[※3:生活習慣病とは、病気の発症に、日頃の生活習慣が深く関わっているとされる病気の総称です。糖尿病、脳卒中、脂質異常症、心臓病、高血圧、肥満などが挙げられます。]
[※4:酸化とは、物質が酸素と化合し、電子を失うことをいいます。サビつきともいわれています。]
[※5:パッチテストとは、アレルギー性疾患の原因物質を調べるための検査のことです。原因と推定される物質を体皮に貼って反応を調べます。]

フラーレンの効果

フラーレンは強い抗酸化力を持っています。特にフラーレンは数種類ある活性酸素に対して効果を発揮し、活性酸素をスポンジのように吸収します。この働きにより、以下のような効果が期待できます。

●美肌効果
シミの原因となるメラニン色素[※6]は、活性酸素が引き金のひとつとなってつくられます。フラーレンは活性酸素を抑制することでメラニンの生成を減少させる効果があります。また、フラーレンには抗酸化力による抗炎症効果があることも分かっています。これにより、肌の赤みを軽減させる効果もあります。フラーレンが配合された化粧品を使うことで、メラニン生成の抑制・抗炎症作用の両面から美肌効果が期待できます【6】

●老化を防ぐ効果
シワができる要因のひとつに紫外線による光老化があります。皮膚が紫外線にさらされることで活性酸素が発生し、シワの原因となる酵素の活性を促進することが分かっています。フラーレンは、抗酸化力によりシワの面積を減少させることが研究されています。【1】【5】

●ニキビを改善する効果
ニキビはアクネ菌[※7]の増殖・毛穴のつまりなど様々な肌環境が原因で起こる炎症性疾患です。また、過剰な活性酸素が炎症を起こす一因にもなっています。フラーレンはこのような原因でできたニキビを減少させる働きがあります。【1】【5】

●髪を健康に保つ効果
頭皮の皮脂[※8]が酸化することにより毛乳頭[※9]の死滅(アポトーシス)を誘導する原因にもなるといわれています。フラーレンは酸化から頭皮を保護することによって頭皮、頭髪をすこやかに保つ働きがあり、毛髪の成長速度も増加するということが研究結果により分かっています。また、毛髪は紫外線やブラッシング、ドライヤーなどにより日常的にダメージを受けています。フラーレンはこのようなダメージを抑制し、毛髪をキレイに保つ効果もあります。【2】【3】

●角質層を正常に保つ効果
肌表面には角質層があり、肌のバリア機能を維持しています。バリア機能は紫外線を浴びることにより減少するトランスグルタミナーゼという酵素と関係があります。フラーレンは紫外線によって減少するトランスグルタミナーゼの生成を促し、角質層[※10]の外膜となる成分を増加させる働きがあります。これにより、フラーレンはスキンケアの基礎となる角質層を正常に保ってくれると考えられます。

[※6:メラニン色素とは、シミの原因になるものです。メラニン色素の蓄積によってシミは形成されます。]
[※7:アクネ菌とは、皮膚の毛包内(毛の根っこ部分)に生息する微生物のひとつです。誰でも持っている菌ですが、増殖するとにきびや吹き出物の原因となります。]
[※8:皮脂とは、皮脂腺から毛や表皮の表面に分泌される分泌物です。]
[※9:毛乳頭とは、毛球の下面のへこみ部分のことです。髪の成長に必要な栄養素や酵素を毛母細胞に送り出し、指示を出す役割を果たしています。]
[※10:角質層とは、表皮を多い、皮膚の最も外側に位置している層です。肌の深部から新しい細胞が生まれ変わるたびに、垢となって剥がれ落ちることで一定の厚みを保っています。]

フラーレンは食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○美肌を目指したい方
○シミ、そばかすが気になる方
○いつまでも若々しくいたい方
○健やかな髪を保ちたい方
○薄毛でお悩みの方

フラーレンの研究情報

【1】水溶性フラーレンは高い抗酸化作用を有し、リノール酸の酸化を抑制することがわかりました。また、フラーレンの抗酸化作用は様々なビタミンCやビタミンEなどと比較して、紫外線などの様々な条件下で高い抗酸化力を持つことから、高い抗酸化作用が期待されています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17151439

【2】フラーレンゲルを1日2回、尋常性座瘡患者に4週間~8週間塗布したところ、皮膚の炎症が23.2% と37.8% 緩和されました。またハムスター皮脂細胞を用いた実験では、フラーレンが皮脂産物の産生を調節する働きをもつことから、フラーレンは皮膚保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20887812

【3】フラーレンは、t-BuOOHによる皮膚細胞HaCaTへのダメージを緩和するはたらきを持つことから、フラーレンは皮膚保護作用を持つと考えられています。
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15363830600665433

【4】フラーレンのトリマロン酸誘導体が活性酸素(ヒドロキシラジカル)を除去することにより、神経細胞保護作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9256500

【5】フラーレンは非常に高いラジカル補足能を有しており、高い抗酸化作用を持つと期待されています。
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00037a064

【6】ヒトメラノーマ細胞に紫外線(UVA)を照射すると、メラニン顆粒が増加します。その細胞へフラーレンを添加すると紫外線照射によるメラニン生成を抑制することが認められました。また、ヒト臨床試験においてフラーレン美容液を健常成人女性に1日2回、4週間および8週間、顔全体に塗布しました。その結果、メラニンインデックスは、4週目から低下し、8週目ではさらに低下していました。肌の血流量を示すヘモグロビンインデックス値(肌の赤み)では、8週目で低下していました。このメカニズムは、抗酸化力による抗炎症作用によるものだと考えられました。

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参考文献

・山根一眞 トヨタ世界一時代の日本力 小学館

・Laura Garwin,Tim Lincoln,松下武義 知の歴史 徳間書店

・山崎昶 サッカーボール型分子C60 講談社

・増野匡彦 フラーレン生物活性 日本薬学会

・伊藤雅之 化粧品原料としての抗酸化剤フラーレン(2) COSMETECH JAPAN Vol.2 No.1 (2012)

・Takada H, Kokubo K, Matsubayashi K, Oshima T. (2006) “Antioxidant Activity of Supramolecular Water-Soluble Fullerenes Evaluated by β-Carotene Bleaching Assay” Biosci Biotechnol Biochem. 2006 Dec;70(12):3088-93. Epub 2006 Dec 7.

・Inui S, Aoshima H, Nishiyama A, Itami S. (2011) “Improvement of acne vulgaris by topical fullerene application: unique impact on skin care.” Nanomedicine. 2011 Apr;7(2):238-41. Epub 2010 Sep 29.

・H. Takada, H. Mimura, L. Xiaob, R. M. Islam, K. Matsubayashia, S. Ito & N. Miwa (2006) “Innovative Anti‐Oxidant: Fullerene (INCI #: 7587) is as “Radical Sponge” on the Skin. Its High Level of Safety, Stability and Potential as Premier Anti‐Aging and Whitening Cosmetic Ingredient”

・青島央江、都賀谷京子、後藤忠示、伊藤雅之、小久保研、山名修一、大島巧 (2009) “フラーレン類の抗酸化能評価および汎用化粧品成分の光分解抑制効果” 日本香粧品学会誌 33 (3) 149-154 (2009).

・Dugan LL, Turetsky DM, Du C, Lobner D, Wheeler M, Almli CR, Shen CK, Luh TY, Choi DW, Lin TS. (1997) “Carboxyfullerenes as neuroprotective agents.” Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Aug 19;94(17):9434-9.

・McEwen CN, McKay RG, Larsen BS (1992) “C-60 as a radical sponge” J Am Chem Soc, 114, 4412-4414, 1992.

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