葉酸

folic acid
プテロイルモノグルタミン酸 ビタミンB9 ビタミンM

葉酸とは、水溶性のビタミンB群の一種で、ビタミンB12とともに赤血球の形成を助ける栄養素です。この働きから、造血のビタミンとも呼ばれます。また、葉酸は胎児の正常な発育に寄与する栄養素としても重要な働きを行うため、特に妊娠初期の女性に必要です。

葉酸とは?

●基本情報
葉酸とは、水溶性のビタミンB群の一種で、ビタミンB12とともに赤血球の合成に働きます。この働きから、造血のビタミンとも呼ばれます。
体内の葉酸のうち約50%が肝臓に蓄積され、その他、細胞分裂の盛んな組織に多く存在しています。

胎児が発育する妊娠中の女性や、乳幼児期、成長期の子どもに特に必要な栄養素で、厚生労働省によって妊娠中の摂取は妊娠していない時の2倍近い量の摂取が推奨されています。

葉酸は、光によって分解され、アルカリ性では熱に安定で、酸性では熱に弱い性質を持っています。

●葉酸の歴史
葉酸は、イギリスの研究者ルーシー・ウィルスによって発見されました。
ウィルスは、インドのボンベイで女性に見られた妊娠時の巨赤芽球性貧血の研究を行いました。
1931年には酵母エキスの中に貧血を予防する物質が含まれていることを発見し、サルの貧血予防物質として見出されたことから、サル (Monkey)の頭文字に由来してビタミンMと名付けました。
また、1941年には、ほうれんそうからも同じ物質が発見され、ラテン語で「葉」「ほうれんそう」を意味するfoliumから葉酸 (folic acid)と命名されました。名前の通り、葉野菜には葉酸が多く含まれています。
その他、葉酸はビタミンB群の中で9番目に発見されたことからビタミンB9とも呼ばれたり、化学的にはその構造から、プテロイルグルタミン酸という名前が付けられています。
また、近年になると葉酸が胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクを軽減する効果があることが発表され、妊娠時に必要な栄養素として広く認識されるようになりました。

●葉酸の吸収
葉酸は、レバーや葉野菜などに多く含まれるビタミンです。水溶性ビタミンであるため、茹でるなどの調理によって損失しやすく、含まれている葉酸量はアスパラガスでは約90%に、菜の花やブロッコリーでは60%前後に、モロヘイヤやほうれんそうでは40%前後に減少します。また光や熱にも弱い性質をもっているため、冷暗所に保存するなどの工夫が必要です。新鮮なうちに加熱せずに食べられるサラダや納豆、果物の生搾りジュースなどにすると効率良く葉酸を摂取することができます。
葉酸は、ビタミンCによって活性型に変換され、体内で効果を発揮します。また、葉酸は体内でビタミンB12とともに協力して働いています。このため、葉酸を摂取する時にはビタミンCやビタミンB12を一緒に摂取すると、体内で効率良く利用されます。
これらの葉酸の性質から、妊娠期には特に必要量を十分に摂取することが難しいため、サプリメントなどで補うことも大切です。

●葉酸の欠乏症
葉酸は、健康な人の場合、腸内細菌によって合成されるため、通常の食事によって不足することはほとんどありません。しかし、必要量が増加する妊娠中の女性やお酒をよく飲む人、避妊薬のピルやアスピリン [※1]、抗ガン剤を使用している人には不足しがちな栄養素です。
葉酸が不足すると、赤血球をうまくつくることができず、貧血の原因となります。赤血球は、そのもととなる赤芽球が分裂してつくられます。この分裂がうまくいかないと、赤芽球の成熟だけが進んで大きくなり、死んでしまいます。赤芽球のサイズが大きくなり正常な赤血球の数は減るため、この貧血を巨赤芽球性貧血といいます。鉄が欠乏することによって起こる貧血と違い、酸素を運ぶ役割をしているヘモグロビンの量が足りていても貧血となるため、悪性貧血とも呼ばれます。この貧血は、体の成長に葉酸が使われ、必要量が多い成長期の子どもに特に多く起こります。
妊娠の初期に葉酸が不足した場合は、胎児の神経管閉塞障害の危険性が高まります。神経管閉塞障害が起こると、無脳症や二分脊椎という重度の先天性異常が起こります。
また、葉酸が不足すると血液中のホモシステインというアミノ酸の量が増え、動脈硬化の原因となります。
その他、腸管粘膜、口内、舌に炎症が起きやすくなることが知られています。

●葉酸の過剰症
葉酸は、食品から摂取する場合には、過剰摂取によって健康に害が起こる心配はありません。
しかし、薬などによって葉酸を大量投与した場合には、神経障害や発熱、じんましん、皮膚炎などが起こる可能性があります。また、多量摂取が続くと亜鉛の吸収を阻害することもあるため、サプリメントなどで摂取する場合も、上限量を上回らないように注意する必要があります。

葉酸の摂取基準は表の通りです。

[※1:アスピリンとは、アセチルサリチル酸ともいい、炎症の治療や解熱・鎮痛剤として用いられる薬です。]

葉酸の効果

●胎児の神経管閉鎖障害を予防する効果
葉酸は、妊娠を考えている女性や授乳中の女性にとって、特に重要な栄養素です。
妊娠すると、ごく初期の時点で胎児の神経管がつくられます。この神経管は、約28日で閉鎖し発達するにつれて脳や脊髄になる器官で、胎児のこの部分に障害があると奇形や下半身麻痺などが起こる、神経管閉鎖障害となります。
葉酸は細胞の新生に必要なビタミンで、妊娠してごく初期に十分に摂取することによって、神経管閉鎖障害のリスクを軽減することができます。また、口唇・口蓋裂といった障害や、先天性の心疾患の予防にも、妊娠期の葉酸の摂取が役立ちます。
ただし、妊娠の時期を正確に予測するのは難しいため、妊娠を考えている女性は妊娠がわかってから葉酸を多く摂取するのではなく、妊娠の可能性がある段階で葉酸が多く含まれている食品を意識して摂取することが大切です。
赤ちゃんが生まれてからも、乳幼児の発育に大きな影響を及ぼすため、授乳中も葉酸を積極的に摂取する必要があります。【1】【2】

●成長を促進する効果
葉酸は、たんぱく質や核酸を合成するための約20種類の酵素が働くために必要な補酵素として、重要な役割を担っています。核酸とはDNAやRNAの総称で、細胞の核の中で遺伝情報を持ち、その情報通りにたんぱく質など体をつくる指令を出しています。DNAの合成が正常に行われることで、細胞はその情報を正確にコピーしながら分裂して増え、新陳代謝や成長を促すことができます。
葉酸は、特に細胞増殖が最も盛んに行われる胎児期や幼児期の、健全な発育のために重要な栄養素です。
成人にとっても、葉酸はたんぱく質の合成のために必要です。腸管や口腔内、舌などの粘膜は細胞の生まれ変わりが早く、葉酸が不足すると炎症が起きるなどすぐに影響が出ます。葉酸を摂取することによって、皮膚や粘膜を強く健康に保つことに役立ちます。

●貧血を予防する効果
葉酸は、新しい赤血球をつくり出すために必要不可欠なビタミンです。
赤血球の寿命は約120日で、体内では新しい赤血球が常につくられています。葉酸は、ビタミンB12とともに補酵素として働き、赤血球のもととなる赤芽球の合成に関わっています。赤芽球が正常につくられないと、赤血球も正常につくられないため、葉酸は貧血の予防に効果があるといえます。【7】【8】

●動脈硬化を予防する効果
葉酸は、動脈硬化の予防に重要な役割を果たしています。
葉酸は、体内でビタミンB6やビタミンB12とともに、ホモシステインというアミノ酸をメチオニンやシステインに変換します。葉酸が不足してこの働きが正常に行われなくなると、血液中のホモシステインの量が増え、血液凝固や血管内皮細胞の機能に影響し、血栓を形成して動脈硬化の原因となります。
また、ホモシステインは、加齢に伴って血液中の濃度が上昇するともいわれています。
脂質の摂りすぎなど、動脈硬化の他の要因と葉酸の不足が重なると、様々な慢性病のリスクが高まる可能性があるほか、脳卒中や心筋梗塞などの病気を引き起こすことがあるため、これらの予防のためにも葉酸を摂取することが大切です。【3】【4】【5】

●脳の機能を改善する効果
葉酸は、ホモシステイン血症を予防し、動脈硬化を予防することで血流を維持する働きがあります。
血液は体中の細胞に酸素と栄養を届けており、血流が停滞すると、認知症や聴力障害を引き起こすといわれています。葉酸はホモシステイン血症を予防し血流を維持することにより、認知症や聴力障害を予防する働きも報告されており、認知症予防や聴力維持に期待されています。【5】【6】

葉酸は食事やサプリメントで摂取できます

葉酸を多く含む食材

○肉類:レバー
○野菜類:菜の花、枝豆、モロヘイヤ、ほうれんそう、アスパラガスなど
○果実類:いちご、ライチ、アボカド、マンゴーなど
○その他:納豆、ナッツ類、卵黄、牛乳など

こんな方におすすめ

○妊娠中の方、妊娠を考えている方
○貧血でお悩みの方
○動脈硬化を予防したい方
○肌荒れが気になる方
○お酒をよく飲む方
○成長期のお子様

葉酸の研究情報

【1】胎児神経管閉鎖障害児の出産経験を持つ母親60名を対象に、葉酸を1日当たり4mg で妊娠直前と妊娠前期に摂取させたところ、胎児神経管閉鎖障害の予防効果が見られたことから、葉酸に胎児神経管閉鎖障害予防効果があることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6786536

【2】胎児神経管閉鎖障害予防に対するビタミンの摂取による予防効果を調査した研究(7件:1817名)において、葉酸を摂取したヒトで予防効果が見られたことから、葉酸が胎児神経管閉鎖障害の予防に役立ち、特に妊娠直前から妊娠前期の摂取が効果的であることが確認されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1677062

【3】高ホモシステイン血症男性患者100名を対象に、葉酸を1日あたり0.65mg 、6週間摂取させたところ、血中ホモシステイン濃度が低下しました。ホモシステインは動脈硬化の原因物質のひとつであることから、葉酸にはホモシステイン血症予防ならびに動脈硬化予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7931701

【4】葉酸摂取と脳卒中、心臓病や腎臓病に対する研究8件を調査したところ、葉酸摂取により脳卒中のリスクを軽減することが確認されたことから、葉酸に脳卒中予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17544768

【5】動脈硬化症高齢患者818名を対象に、葉酸を1日あたり800μg 、3年間摂取させたところ、血清中葉酸濃度が上昇し、血漿中ホモシステイン濃度の低下とともに加齢による認知機能の低下が抑制されたことから、葉酸には認知症予防効果が期待されています。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17240287

【6】高ホモシステイン血症患者782名を対象に、葉酸を1日当たり800μg 、3年間摂取させたところ、加齢に伴う聴力低下が抑制されたことから、葉酸は聴力維持効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17200216

【7】思春期の女性150,700名を対象に、鉄と葉酸を毎週1回、4年間継続摂取させたところ、ヘモグロビン値と貧血に改善が見られたことから、葉酸に貧血予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18947031

【8】小児を対象に、硫酸第一鉄を1日当たり4.2mg と葉酸を1日当たり50μg 、3カ月間摂取させたところ、貧血に改善が見られ、ヘモグロビン値に改善が見られたことから、葉酸に貧血予防効果が示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18670706

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参考文献

・中村丁次監修 最新版からだに効く栄養成分バイブル 主婦と生活社

・上西一弘 栄養素の通になる第2版 女子栄養大学出版部

・則岡孝子監修 栄養成分の事典 新星出版社

・原山 建郎 著 久郷 晴彦監修 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社

・吉田企世子 安全においしく食べるためのあたらしい栄養学 高橋書店

・中屋豊 よくわかる栄養学の基本としくみ 秀和システム

・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社

・奥恒行 柴田克己 編 基礎栄養学 南江堂

・Ubbink JB, Vermaak WJ, van der Merwe A, Becker PJ, Delport R, Potgieter HC. 1994“IVitamin requirements for the treatment of hyperhomocysteinemia in humans.” J Nutr. 1994 Oct;124(10):1927-33.

・Wang X, Qin X, Demirtas H, Li J, Mao G, Huo Y, Sun N, Liu L, Xu X. 2007 “Efficacy of folic acid supplementation in stroke prevention: a meta-analysis.” Lancet. 2007 Jun 2;369(9576):1876-82.

・Durga J, van Boxtel MP, Schouten EG, Kok FJ, Jolles J, Katan MB, Verhoef P. 2007 “Effect of 3-year folic acid supplementation on cognitive function in older adults in the FACIT trial: a randomised, double blind, controlled trial.” Lancet. 2007 Jan 20;369(9557):208-16.

・Durga J, Verhoef P, Anteunis LJ, Schouten E, Kok FJ.2007 “Effects of folic acid supplementation on hearing in older adults: a randomized, controlled trial.” Ann Intern Med. 2007 Jan 2;146(1):1-9.

・Laurence KM, James N, Miller MH, Tennant GB, Campbell H. 1981 “Double-blind randomised controlled trial of folate treatment before conception to prevent recurrence of neural-tube defects.” Br Med J (Clin Res Ed). 1981 May 9;282(6275):1509-11.

・“Prevention of neural tube defects: results of the Medical Research Council Vitamin Study. MRC Vitamin Study Research Group.” Lancet. 1991 Jul 20;338(8760):131-7.

・Vir SC, Singh N, Nigam AK, Jain R. 2008 “Weekly iron and folic acid supplementation with counseling reduces anemia in adolescent girls: a large-scale effectiveness study in Uttar Pradesh, India.” Food Nutr Bull. 2008 Sep;29(3):186-94.

・Hadler MC, Sigulem DM, Alves Mde F, Torres VM. 2008 “Treatment and prevention of anemia with ferrous sulfate plus folic acid in children attending daycare centers in Goiânia, Goiás State, Brazil: a randomized controlled trial” Cad Saude Publica. 2008;24 Suppl 2:S259-71.

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