フェルラ酸

ferulic acid

フェルラ酸はポリフェノールの一種で、植物の細胞壁などに含まれる成分です。抗酸化作用を持つため酸化防止のために菓子やデザートに使用されます。フェルラ酸には脳機能改善効果や高血圧改善などの効果があり、最近では軽度のアルツハイマー病の症状改善についても注目されています。

フェルラ酸とは

●基本情報
フェルラ酸はポリフェノールの一種で、酸化防止や紫外線吸収機能が認められ、医薬品、食品、化粧品などの原料として使用されています。自然では、植物の細胞壁やγ-オリザノールの構成成分としても存在します。主に化学合成で製造されますが、新しく米ぬかから抽出する技術も発見されています。

●フェルラ酸の歴史
フェルラ酸は1886年にオーストラリアのHlasiwetz Barthによって発見されました。1935年にはマロン酸[※1]とバニリン[※2]による合成法が確立し、フェルラ酸の性質や特徴に関心が集まり盛んに研究が進みました。日本では厚生労働省の食品添加物リストの「酸化防止剤」としてあげられています。

●フェルラ酸の働き
フェルラ酸は食品では酸化防止剤として、抹茶の退色防止やバナナの黒変防止、グリーンピースの色調保持、抹茶の退色防止などの用途で使用されています。フェルラ酸はその成分自身で食品添加物リストにもあげられていますが、フェルラ酸が含まれるγ-オリザノールや米ぬか油抽出物も、同様に酸化防止剤として登録されています。また、フェルラ酸の構造がチロシンと拮抗していることからシミの原因となるメラニンの生成を抑えるとして多くの化粧品に配合されています。その他にも有害な紫外線の吸収性が強いことも明らかになっています。

[※1:マロン酸とは、二価カルボン酸のひとつです。天然ではサトウダイコンに含まれる成分です。]
[※2:バニリンとは、バニラの香りの主成分である有機化合物のことです。]

フェルラ酸の効果

●アルツハイマー病を予防する効果
​フェルラ酸には脳神経保護作用があることがラットを使った実験で明らかになりました。また、フェルラ酸には老化や酸化ストレスによって、炎症を引き起こされる脳のβ-アミロイドペプチド[※3]を保護する作用があることがわかっています。アルツハイマー型認知症患者を対象に行った研究では、脳の認知機能の改善やアルツハイマーの進行を抑える働きが報告されています。また、脳神経細胞は老化や、アルツハイマー病などになることで減少します。フェルラ酸は、傷んだ脳細胞を修復し、細胞が死んでしまうことを防いでくれる脳細胞保護作用があるため、学習記憶向上作用も期待できます。【1】【4】

●美白効果
フェルラ酸は紫外線の吸収性があることや、メラニンの生成を抑制することから美白の効果が期待できます。肌のシミやくすみ、そばかすの原因となるメラニン色素を生み出すチロシナーゼ[※4]という酵素に直接働きかけることで、メラニンの生成を抑制します。肌の色素沈着を防ぎ、透明感のある肌に導く効果が期待されています。【2】【6】

●高血圧を予防する効果
フェルラ酸は抗酸化作用を持つことから血圧を下げる効果が期待されます。フェルラ酸をラットに投与したところ、ラットの血圧が降下した研究が報告されています。また、善玉(HDL)コレステロールを活性化させることで、悪玉(LDL)コレステロールの増加を防ぎ、動脈硬化などの疾患を予防します。【3】

[※3:β-アミロイドペプチドとは、通常は神経の成長と修復を行うたんぱく質ですが、炎症によりアルツハイマーを引き起こす原因物質にもなります。]
[※4:チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンを作る酵素のことです。この酵素の活性を阻害することにより、メラニンの生成を抑制します。]

食事やサプリメントで摂取できます

こんな方におすすめ

○認知症を予防したい方
○美肌を目指したい方
○脳梗塞を予防したい方
○生活習慣病を予防したい方

フェルラ酸の研究情報

【1】アルツハイマー病モデルマウスを対象に、フェルラ酸を投与したところ、脳内の活性酸素が抑制され、脳細胞が保護されたことから、フェルラ酸はアルツハイマー病、認知症予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15955457

【2】ヒトの皮膚にフェルラ酸+ビタミンC+ビタミンEの混合溶液を塗布したところ、UV照射による皮膚の傷害が緩和されたことから、フェルラ酸は皮膚保護作用を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18603326

【3】高血圧自然発生ラットにフェルラ酸9.5㎎/㎏投与したところ、血漿中のアンギオテンシン変換酵素活性を低下させ、血圧低下が認められました。フェルラ酸は高血圧予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18345632

【4】アルツハイマー病モデルマウスを対象に、フェルラ酸を投与したところ、認知機能が改善したことから、フェルラ酸はアルツハイマー病、認知症予防に役立つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11325798

【5】Ⅰ型、Ⅱ型糖尿病モデルマウスを対象に、フェルラ酸(Ⅰ:型糖尿病マウス0.01%、Ⅱ型糖尿病マウス0.05%フェルラ酸含有)含有餌を与えると、血糖値が改善されたことから、フェルラ酸は糖尿病予防に役立つと期待されています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004684178

【6】ブタの皮膚にフェルラ酸+ビタミンC+ビタミンEの混合溶液を4日間塗布したところ、UVBおよびUVAによる皮膚細胞障害が緩和されたことから、フェルラ酸は皮膚保護作用を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16528359

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参考文献

・Mohmmad Abdul H, Butterfield DA. (2005) “Protection against amyloid beta-peptide (1-42)-induced loss of phospholipid asymmetry in synaptosomal membranes by tricyclodecan-9-xanthogenate (D609) and ferulic acid ethyl ester: implications for Alzheimer’s disease.” Biochim Biophys Acta. 2005 Jun 30;1741(1-2):140-8.

・Ardiansyah, Ohsaki Y, Shirakawa H, Koseki T, Komai M. (2008) “Novel effects of a single administration of ferulic acid on the regulation of blood pressure and the hepatic lipid metabolic profile in stroke-prone spontaneously hypertensive.” J Agric Food Chem. 2008 Apr 23;56(8):2825-30. doi: 10.1021/jf072896y.

・中嶋 洋子 著、阿部 芳子、蒲原 聖可監修 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社

・森下 比出子、大西 基代、松尾 貴子、谷口 久次、野村 英作、細田 朝夫、築野 卓夫、辻脇 里美、佐々木 秀行 (2004) “フェルラ酸の抗酸化作用と血糖上昇抑制” 和歌山大学教育学部紀要. 自然科学 54, 43-52, 2004-02-27

・Yan JJ, Cho JY, Kim HS, Kim KL, Jung JS, Huh SO, Suh HW, Kim YH, Song DK. (2001) “Protection against beta-amyloid peptide toxicity in vivo with long-term administration of ferulic acid.” Br J Pharmacol. 2001 May;133(1):89-96.

・Tournas JA, Lin FH, Burch JA, Selim MA, Monteiro-Riviere NA, Zielinski JE, Pinnell SR. (2006) “Ubiquinone, idebenone, and kinetin provide ineffective photoprotection to skin when compared to a topical antioxidant combination of vitamins C and E with ferulic acid.

・Murray JC, Burch JA, Streilein RD, Iannacchione MA, Hall RP, Pinnell SR. (2008) “A topical antioxidant solution containing vitamins C and E stabilized by ferulic acid provides protection for human skin against damage caused by ultraviolet irradiation.” J Am Acad Dermatol. 2008 Sep;59(3):418-25.

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