フェンネル

fennel
ウイキョウ スイートフェンネル
Foeniculum vulgare

フェンネルは古くから薬草として親しまれてきたハーブの一種です。魚と相性がよく、「魚のハーブ」とも呼ばれ、料理にもよく利用されています。利尿作用や発汗作用があり、古代からダイエット効果があるとして女性に親しまれてきました。また、消炎効果もあり、風邪や咳止めとしても利用されています。

フェンネルとは

●基本情報
フェンネルはセリ科ウイキョウ属の多年草[※1]植物で、ハーブの一種です。原産地は地中海沿岸から西アジアにかけてです。日当たりさえよければどこでも育つといわれています。草丈1~2mにもなる大型のハーブで、鳥の羽のように広がった糸状の細い葉と傘を開いたような形に咲く黄色い小花が特徴です。葉・茎・種子すべてを利用することができ、特に葉は薬用に、茎は野菜として食用に、種子は香辛料として多く利用されます。株の根元が白く肥大するフローレンスフェンネルは、変種で肥大部分を野菜として利用します。また、葉が赤銅色になるブロンズフェンネルなどの種類があります。一般的に芳香成分として、フェンチン、アネトール、エストラゴールを含み、その他にペトロセニン酸、オレイン酸、リノール酸[※2] 、フラボノイド (ルチンなど) 、ビタミン類、ミネラルなどが含まれています。

●フェンネルの歴史
フェンネルは、古代ローマで強壮用の食物として用いられていました。ヨーロッパでは古くから薬草として人々の生活の中で欠かせないハーブで、「フェンネルを見ても摘もうとしない者は悪魔だ」という言葉があるほどでした。盛んに用いられるようになったのは中世以降で、特にフェンネルの種子は目に良く、若返りの効果もあると信じられていました。そのため、当時は煎液を洗眼用に使ったり、浴剤としてふんだんに使ったりしていたといわれています。また、家庭の常備薬のように消化促進、咳止めなどにも使用されていたという記録も残っています。中国では諸説ありますが、フェンネルの全草に強い芳香があるため「香りを回らす」という意味で茴香(ウイキョウ)と呼ばれ、ブレンドスパイスの五香(ウーシャン)[※3]や漢方薬にも用いられています。日本にも古い時代に中国から伝来し、薬用として利用されてきました。

●フェンネルの利用法
・香辛料
フェンネルの持つ独特の芳香は魚の生臭さや脂っぽさを消す効果があります。そのためヨーロッパでは「魚のハーブ」と呼ばれています。また、乾燥させた種子はアニスに似たすっきりとした甘さとぴりっとした風味があり、フェンネルは魚の香草焼きに欠かせないハーブとなっています。イタリアでは、パンを焼くときにフェンネルの葉をパン種の下に敷いて風味づけとして使います。他にも、ソースやスープ、若葉はオリーブ油やお酢に漬け込んで調味料としても使われています。フェンネルの種子はカレー粉の主原料のひとつで、そのまま、または砕いてパンやクッキー、ピクルスの風味づけとしてよく利用されています。

<豆知識>ブーケガルニには欠かせないフェンネル
ブーケガルニとはフランス語で「香草の束」のことです。魚のスープをとるときに臭み消しとして、数種類のハーブを入れて使います。各地方により中に入るハーブはまちまちですが、フェンネルはこの中に欠かせないハーブです。フランスの魚料理のブイヤベースにも使用されます。

・ハーブティー
フェンネルの種子はハーブティーとしてもよく利用されます。フェンネルの持つ甘みとスパイシーな香りは食欲を抑える働きがあります。フェンネルの芳香成分であるフェンチンが多いといわれています。またフェンネルには、炎症を鎮める効果もあり、風邪などを引いたときにフェンネルのハーブティーを飲むと早期回復が期待できます。ハーブティーとして利用する場合、浸出時間は少し長めにすることがポイントです。

・エッセンシャルオイル
フェンネルはエッセンシャルオイル[※4]としても強い薬効があります。はちみつと一緒にお湯に溶かし、咳止めの薬として利用されています。関節炎やリウマチの患部に塗ることで炎症を鎮めるといった効果も期待できます。

・野菜
フローレンスフェンネルの肥大した根元はセロリに似ており、生のまま、または茹でたものをサラダとして食べるのが一般的です。また、煮込むことで甘さが繊細になるのでスープや煮込み料理にもよく合います。

●フェンネルを摂取する際の注意点
授乳期に摂取すると、母乳の出をよくすることが知られていますが、同時に子宮を刺激するともいわれているので妊娠中は摂取しすぎないよう気を付ける必要があります。また、にんじん、セロリ、ヨモギ、セリ科の植物にアレルギーのある人は、フェンネルにもアレルギーが起こる可能性があるので摂取には注意が必要です。

[※1:多年草とは、茎の一部、地下茎、根などが枯れずに残り、複数年に渡って生存する草のことです。]
[※2:リノール酸とは、人間の体内で合成できない不飽和脂肪酸の一種です。大豆油やコーン油などの植物性の油に多く含まれます。]
[※3:五香(ウーシャン)とは、中国料理に使われる代表的なブレンドスパイスのことを指します。5種類のスパイスが使われ、陳皮、シナモン、クローブの3種類が共通で、残り2種類は地方によって異なります。]
[※4:エッセンシャルオイルとは、植物に含まれ、揮発性の芳香物質を含む有機化合物を指し、精油とも呼ばれます。]

フェンネルの効果

●ダイエット効果・腸内環境を整える効果
フェンネルは特にダイエット効果で古くから注目されていました。フェンネルはギリシャ語で「マラスロン」といいます。これは「やせる」という意味の言葉から派生したといわれています。フェンネルには利尿作用と発汗作用があり、さらに便秘を解消し、お腹に溜まったガスを排出する作用があります。これにより、肥満の原因となる体内の余分な水分や老廃物を排出する効果が期待できます。また、フェンネルの香りには食欲を抑える働きもあることから、古代の女性からダイエットの目的で親しまれてきました。【1】

●胃の健康を保つ効果
フェンネルには消化を促す作用があります。消化酵素の分泌を刺激して、消化を促す効果があるため、胃もたれの予防効果が期待できます。冷えによる胃の痛みや消化不良、おなかの張りなどの症状に効果があります。【2】

●炎症や痛みを抑制する効果
フェンネルのエッセンシャルオイルは咳止めの薬として使われてきました。また、関節痛の緩和にも効果があるとされています。乳児仙痛発作の既往歴がある乳児121名 を対象とした試験では、0.1%フェンネル種子油(5~20mℓ)を1日4回、7日間摂取させたところ、疝痛(せんつう)[※5]が軽減したという報告があります。【2】【3】

[※5:疝痛(せんつう)とは、俗に「さしこみ」といわれる発作性の痛みのことです。腹部の空洞性臓器(胃・腸・膀胱・子宮)並びに管状臓器(胆道・腎盂・尿管)の壁をつくる平滑筋の異常収縮によって起こります。刺すような激痛が、数分~数時間の間隔で周期的に反復します。]

フェンネルはこんな方におすすめ

○体内の毒素を排出したい方
○便秘でお悩みの方
○関節痛を緩和したい方
○風邪をひきやすい方

フェンネルの研究情報

【1】便秘症の患者86名を対象に、フェンネル含有サプリメントを28日間摂取したところ、腸内の蠕動運動が促進され、便秘の症状を改善されたことから、フェンネルが便秘改善効果を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17095420

【2】フェンネルを含むハーブ抽出物は、100μg/ml の濃度でピロリ菌の発育を阻害し、炎症性物質TNFα, IL-8の活性を抑制するはたらきを持つことから、抗炎症作用ならびに健胃作用を持つと期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22433535

【3】乳児疝痛発作のある乳児121名を対象とした無作為化プラセボ比較試験において、0.1% フェンネル種子油懸濁液5 ~20 mL (12 mL/kg/日) を1日4回、7日間摂取させたところ、疝痛が軽減したことから、フェンネルが消炎鎮痛作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12868253

【4】顔に限局した軽度および中程度の特発性多毛症の女性38名を対象として、1%, 2% フェンネル含有クリームを1日2回、12週間顔面に塗布させたところ、顔面における毛髪の直径が減少しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/13678227

【5】フェンネル種子の熱水抽出物は, 水-エタノール系のリノール酸の酸化に対して合成抗酸化剤であるBHT とほぼ同等の強い抗酸化活性を持つことから、フェンネルは高い抗酸化作用を示すと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003168142

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参考文献

・板倉弘重監修 からだに効くハーブティー図鑑 主婦の友社

・本多京子 食の医学館 小学館

・大森夕香 ハーブティー・カクテルティーの事典 成美堂出版

・内田正宏 芦沢正和 花図鑑野菜 星雲社

・秋庭隆 食材図典 小学館

・桔梗泉 楽しいハーブ百科 主婦と生活社

・佐々木薫 ハーブティー事典 池田書店

・リエコ・大島バークレー 英国流メディカルハーブ 説話社

・林真一郎 メディカルハーブの事典 東京堂出版

・武政三男 80のスパイス辞典 フレグランスジャーナル社

・アースプランツリサーチオーガニゼーション HERB BIBLE 双葉社

・独立行政法人国立栄養研究所 “「健康食品」の安全性・有効性情報 「健康食品」の素材情報データベース”

・Bub S, Brinckmann J, Cicconetti G, Valentine B. (2006) “Efficacy of an herbal dietary supplement (Smooth Move) in the management of constipation in nursing home residents: A randomized, double-blind, placebo-controlled study.” J Am Med Dir Assoc. 2006 Nov;7(9):556-61. Epub 2006 Sep 26.

・Zaidi SF, Muhammad JS, Shahryar S, Usmanghani K, Gilani AH, Jafri W, Sugiyama T. (2012) “Anti-inflammatory and cytoprotective effects of selected Pakistani medicinal plants in Helicobacter pylori-infected gastric epithelial cells.” J Ethnopharmacol. 2012 May 7;141(1):403-10. Epub 2012 Mar 13.

・Alexandrovich I, Rakovitskaya O, Kolmo E, Sidorova T, Shushunov S. (2003) “The effect of fennel (Foeniculum Vulgare) seed oil emulsion in infantile colic: a randomized, placebo-controlled study.” Altern Ther Health Med. 2003 Jul-Aug;9(4):58-61.

・Javidnia K, Dastgheib L, Mohammadi Samani S, Nasiri A. (2003) “Antihirsutism activity of Fennel (fruits of Foeniculum vulgare) extract. A double-blind placebo controlled study.” Phytomedicine. 2003;10(6-7):455-8.

・中山 玲子、菊崎 泰枝、中谷 延二、堀内 久志 (1996) “Antioxidative Activity of Constituents from Fennel Seeds” 日本家政学会誌 47(12), 1193-1199, 1996-12-15

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