麻黄とは
●基本情報
麻黄は、中国~モンゴル、日本にも自生するマオウ科の植物です。中国では5000年も前から使用されてきました。砂浜や温暖な土地でよく見られ、多肉多汁の球果[※1]をつけます。植物の根元から枝が出ており、ハーブとして使用する際は小枝や根が使われます。麻黄の名前は、舌の先を麻痺させ黄緑色にすることが由来で、動物でさえも麻黄が生えていても決して食べようとしないといわれています。
●麻黄の歴史
麻黄は、バラモン教の聖典や「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」[※2]に掲載されています。麻黄に含まれる有効成分のエフェドリンは、1892年に長井長義がこの結晶を単離[※3]し、構造が決定しました。アメリカでは薬として、エフェドリン医療薬の原料にもなっています。薬として用いられる際は麻黄の根や茎を乾燥させて使用しており、サプリメントでは合成したものが使われてきました。特にアメリカではダイエットや筋肉の増強、代謝アップなどが期待できるとして麻黄のサプリメントは人気を博しました。しかしその後、容易に手に入れやすいためにやせ薬としてや運動能力の向上を目的に使用が広がり、不整脈や心臓発作などの副作用による被害が発生しました。このような被害が社会問題となり、安全性に関わるとしてアメリカでは2004年4月にFDA(米国食品医薬品局)[※4]により、サプリメントとしての販売は禁止されました。日本でも麻黄は医薬品として厳しく管理がされており、特に地上茎に関しては食品としての流通は禁止されています。現在は、咳を鎮める作用や体内の余分な水分を排出する作用を持つため、漢方薬の葛根湯[※5]や小青竜湯[※6]などに配合されています。
●麻黄を摂取する際の注意点
麻黄を摂取する際は専門医に相談することをおすすめします。特に抗うつ剤を服用している方や心臓に疾患のある方、高血圧や緑内障の方は摂取を控える必要があります。また、神経を刺激する効果があるためドーピング対象物質となっています。スポーツ競技などをされる方は競技前に摂取すべきではありません。大量に摂取すると血圧上昇やひきつけなどを起こすことがあるので注意する際は適切な量を守ることが大切です。
●麻黄に含まれる成分と性質
麻黄には、エフェドリンやフラボノイド、タンニン、サポニンを含んでいます。有効成分であるエフェドリンは交感神経を刺激するアドレナリンに似た働きを持っており、心臓や肺、神経組織に働きかけます。交感神経の興奮作用以外にも気管支の拡張作用や抗炎症作用など様々な働きがあります。
[※1:球果とは、松・杉などの針葉樹がつくる果実のことです。木質の鱗片(りんぺん)が重なって球形や円錐形を形成します。]
[※2:神農本草経(しんのうほんぞうきょう)とは、中国最古の薬物学書です。]
[※3:単離とは、様々なものが混合している状態から、特定の要素のみを取り出すことです。]
[※4:米国食品医薬品局とは、アメリカの連邦政府機関のひとつで、食品、化粧品、および栄養補助食品の安全な使用と適正な表示を徹底させる機関のことです。]
[※5:葛根湯とは、主薬の葛根をはじめとする7種類の生薬からなる漢方薬の一種です。発汗作用があり、体の熱や腫れ、痛みを発散して治す効果があります。]
[※6:小青竜湯とは、8種類の生薬により構成される漢方薬の一種です。発汗作用があり、体の熱や腫れ、痛みを発散させます。また、水分バランスを調整する働きもあります。]
麻黄の効果
麻黄に含まれるエフェドリンには、神経興奮作用、気管支拡張作用、抗炎症作用、発汗作用などがあるため以下のような効果が期待できます。ただ、効能を得るためには安全とはいえない、多量の摂取が必要となるので、十分に気を付ける必要があります。
●喘息を予防する効果
麻黄には喘息や気管支炎の症状を緩和する効果があります。麻黄は粘膜[※7]の腫れを緩和し、気道の気管支痙攣をやわらげる働きがあります。そのため、中国では古くから何世紀にも渡って喘息の治療に使われてきました。【1】
●風邪の症状を緩和する効果
麻黄の小枝には発汗を促進する働きがあるため、中国では悪寒を伴う風邪の症状を緩和するために使われています。また、粘膜の血管を収縮させる作用があるため鼻づまりの薬としても使われています。【2】
●むくみを予防・改善する効果
麻黄にはむくみを予防、改善する効果があります。神経を刺激し、関節の痛みを取り除くことで、末梢のめぐりを促してリンパ液をきれいに流してくれます。滞っていたリンパ液が流れることで、老廃物を体外に排出でき、むくみを取り除く効果が期待できます。さらに、麻黄には体内の余分な水分を排出する利尿作用もあります。
<豆知識>より効果的なハーブの調合
ハーブの調合には法則や原則があり、それに従って調合されます。ハーブを調合する際は体質や症状の最も適した作用を持つハーブを選び、次にそれに類似した性質を持つハーブを加えます。これは、類似した性質を持つハーブはお互いに強め合い、1種類のハーブを用いるよりも治療効果がアップするためです。また、ハーブの持つ作用は一つだけではないため、どの作用がメインになるかは、一緒に調合されるハーブによって決まります。例えば、麻黄はシナモンやベイベリーのような発汗作用のあるハーブと組み合わされると、麻黄の発汗作用が強化されるのです。
[※7:粘膜とは、消化管・呼吸器・排出器・生殖器などの内壁で、常に粘液で湿っている部分のことを指します。]
麻黄はこんな方におすすめ
○風邪をひきやすい方
○咳や痰でお悩みの方
○鼻づまりの方
○手足のむくみでお悩みの方
麻黄の研究情報
【1】処方に麻黄を含む漢方薬は日本伝統的医学の中でも、気管支喘息や関節痛、リウマチの治療に処方されてきました。麻黄には4種類のエフェドリンアルカロイドが含有されており、これが機能性成分として薬理作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20091242
【2】アレルギー疾患マウスを対象に、麻黄を成分に含む漢方処方薬を投与したところ、免疫細胞のT細胞の活性が調節され、過敏性気管支炎およびアレルギー性喘息、好酸球性炎症が緩和されたことから、麻黄は上気道炎および気管支喘息予防効果を持つと考えられています
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15330010
【3】マウスを対象に、麻黄を配合成分にもつ麻黄湯を投与したところ、肝臓内のATPase の活性が促進されたことから、麻黄は肝臓保護作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21246831
参考文献
・ヴィクトリアザック ハーブティーバイブル 東京堂出版
・林真一郎 メディカルハーブの事典 東京堂出版
・加藤栄 日経ヘルスサプリメント事典 日経BP社
・海老塚豊 医薬品天然物化学 南江堂
・田中平三、門脇孝、篠塚和正、清水俊雄、山田和彦、石川広己、東洋彰宏
健康食品・サプリメント〔成分〕のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 株式会社同文書院
・デイビットフローリー ヴァンサントラッド アーユルヴェーダのハーブ医学 出帆新社
・Hayashi K, Shimura K, Makino T, Mizukami H. 2010 “Comparison of the contents of kampo decoctions containing ephedra herb when prepared simply or by re-boiling according to the traditional theory” J Nat Med. 2010 Jan;64(1):70-4.
・Li XM, Zhang TF, Sampson H, Zou ZM, Beyer K, Wen MC, Schofield B. 2004 “The potential use of Chinese herbal medicines in treating allergic asthma.” Ann Allergy Asthma Immunol. 2004 Aug;93(2 Suppl 1):S35-44.
・Jia L, Zhao Y, Xing X, Wang J, Zou W, Li R, Yang H, Cheng D, Xiao X. 2004 “Investigation of differences between cold and hot nature of Mahuang decoction and Maxing Shigan decoction based on cold/hot plate differentiating assay.” Zhongguo Zhong Yao Za Zhi. 2010 Oct;35(20):2741-4.