エルダーベリーとは?
●基本情報
エルダーベリーとは、スイカズラ科ニワトコ属のエルダーという落葉低木植物[※1]の果実のことです。エルダーベリーの木の高さは3~10mで、葉はフチにギザギザがある細長い楕円形をしています。初夏にエルダーフラワーと呼ばれる小さな白い花を各枝先に一斉に咲かせます。エルダーフラワーはマスカットのような甘い香りが特徴です。その後、ビルベリーによく似た黒色を帯びた紫色の果実をつけます。日本のエルダーベリーは完熟すると赤くなりますが、ヨーロッパのエルダーベリーは完熟すると黒く変化します。
●エルダーベリーの名前の由来
エルダーベリーの「エルダー」は、アングロ・サクソン語で「炎」を意味する「エルド」からきています。エルダーベリーの枝の芯を抜き取り、ストロー状にしたものを火おこしの道具として利用していたためです。
日本では、エルダーベリーの木の枝や幹などを打撲や骨折、打ち身などの湿布薬として使用していたため、折れた骨を接ぐ木という意味で「接骨木(せっこつぼく)」とも呼ばれています。
●エルダーベリーの歴史
エルダーベリーの歴史は古く、ヨーロッパでは石器時代から食べられていました。
ギリシャ・ローマ時代には「万能の薬箱」や「田舎の薬箱」と呼ばれ、エルダーベリーやエルダーフラワーは歯痛を鎮めたり、風邪などの感染症の薬などに使用されていました。葉や幹、根の皮は傷や火傷の塗り薬として余すところなく使われており、広く親しまれてきました。その当時、高価な薬や治療を受けることができなかった人々にとってエルダーはなくてはならないものでした。
18世紀には、エルダーフラワーを入れた水が肌の美白やそばかすの除去のために効果的であるとされ、ヨーロッパで流行しました。
現在では日本でもエルダーベリーのサプリメントなどが販売されています。
●エルダーベリーの原産地・自生地
エルダーベリーの原産地は、北米やヨーロッパです。
フランス中部のトゥレーヌ地方では、ロワール川沿いやシェール川沿いに多く自生しています。
●エルダーベリーの調理法
エルダーベリーは酸味が強いため生ではあまり食べられません。パイやフルーツソース、シロップ、ジャム、ゼリーなどに加工されたり、ワインの材料に使われています。また、エルダーベリーの果汁や色素は着色料としても使用されています。
乾燥させたエルダーフラワーは、衣をつけて揚げたフリッターやジャム、グラニュー糖をまぶしてお菓子として食べられています。イギリスでは、保存食としてエルダーフラワーと砂糖を煮詰めてつくる砂糖水(コーディアル)が古くから親しまれています。
生や未熟な果実、種子、葉、樹皮には、人体に有害な成分が含まれているため、熟した果実や花以外は食べることができません。
●エルダーベリーに含まれる成分と性質
エルダーベリーには、ポリフェノールの一種であるイソケルセチンやルチン、アントシアニンが豊富に含まれています。さらに、抗酸化物質を含むビタミンAやビタミンCも含まれるため、とても強い抗酸化作用があります。
抗酸化作用とは、体内のサビつきの原因となる活性酸素[※2]を除去し、体が酸化することを防ぐ働きのことです。例えば、鉄くぎを空気中にさらしておくと鉄くぎはサビついてしまいます。これが酸化です。酸化は体内でも同じように起ってしまい、病気や老化、肌トラブルの原因になってしまいます。
<豆知識>エルダーベリーに関する伝説や迷信
ヨーロッパ各地には、エルダーベリーに関する様々な伝説や迷信があります。
例として、イエスキリストが処刑された十字架の木や、キリストを裏切ったとされるイスカリオテのユダ[※3]が首をつった木はエルダーベリーの木であると伝えられています。また、グリム童話やアンデルセン童話の中にもよくエルダーベリーの木が登場します。最近では、人気ファンタジー小説の「ハリーポッターシリーズ」にも最強の杖として登場しています。エルダーベリーに関する伝説に、恐ろしいものや不気味な内容が多いのは、エルダーベリーの葉や未熟な果実などが有毒であるためだとする一説もあります。子どもを近づかせないための知恵なのかもしれません。
このように、ヨーロッパではエルダーベリーに関する伝説や迷信が数多く存在し、今も語り継がれているのは、ヨーロッパの人々がエルダーベリーを大変身近で親しんできた証だといえます。有効成分を含むことからエルダーベリーやエルダーフラワーを薬やハーブティとして利用したり、エルダーベリーの小枝を家の中のドアや窓に吊り下げたり、棺の中に入れて魔除けとするなど、ヨーロッパの人々にとってエルダーベリーの木とはとても懐かしく身近なものだそうです。
[※1:落葉低木植物とは、定期的に葉を完全に落とし、成長しても樹高が約3m以下の植物のことです。]
[※2:活性酸素とは、普通の酸素に比べ、著しく反応が増すことで強い酸化力を持った酸素のことです。体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるといわれています。]
[※3:イスカリオテのユダとは、キリストの12人の弟子の1人です。キリストを銀貨30枚で売った裏切者として有名です。]
エルダーベリーの効果
エルダーベリーには、強い抗酸化力を持つポリフェノール(イソケルセチン、ルチン、アントシアニン)やビタミンA、ビタミンCなどがたっぷり含まれており、以下のような健康に対する働きが期待できます。
●生活習慣病を予防する効果
エルダーベリーに含まれるイソケルセチンには、血液をサラサラにする、アレルギーや脂肪の吸収を抑えるという働きがあります。また、ルチンには血管を強化し、血流をスムーズにする働きや血圧を下げる働きがあります。
そのため、血管が詰まることで引き起こされる動脈硬化や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を予防する効果が期待できます。【2】
●視機能を維持する効果
エルダーベリーには、アントシアニンやビタミンAが豊富に含まれています。
ビタミンAはものを見るのに必要なロドプシン[※4]を構成する成分のひとつです。このロドプシンは、視神経から脳へ情報を伝える際にいったん分解されます。その後再合成されて、また目から脳への情報伝達のために働きます。すっきりものを見るためには、このロドプシンの再合成が大切です。エルダーベリーに含まれるアントシアニンとビタミンAは、疲れ目の予防や改善に働きかけ、視機能を維持する効果が期待できます。
●感染症を予防・改善する効果
エルダーベリーには、ビタミンCが豊富に含まれています。
ビタミンCは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を撃退する白血球の働きを強化し、ビタミンC自体にも細菌やウイルスに対抗する力を持っています。
そのため、ビタミンCを積極的に摂取することは、免疫力を向上させ、風邪などの感染症を予防したり、感染症の回復を早めることに効果があります。
また、エルダーベリーに含まれるポリフェノールの強い抗酸化力による、インフルエンザの予防効果も確認されています。 【4】【5】
●ストレスへの抵抗力を高める効果
エルダーベリーに含まれるビタミンCには、抗ストレスホルモンである副腎皮質ホルモン[※5]の合成や神経伝達物質[※6]の合成を助ける働きがあるため、ストレスへの抵抗力を強化する効果があります。
●美肌・美白効果
紫外線を浴びると、体内でシミやそばかすの原因となるメラニン色素が生成されます。メラニン色素はアミノ酸の一種であるチロシンからつくられます。
エルダーベリーに豊富に含まれるポリフェノールやビタミンCには、このチロシンの働きを抑えて、シミやそばかすの原因となるメラニン色素の沈着を防ぐ効果があります。
ビタミンCにはメラニン色素を早く分解する働きもあり、日焼けをした肌を元の白い肌に戻すために力を発揮します。
●丈夫な体をつくる効果
エルダーベリーに含まれるビタミンCは、コラーゲンの合成に必要不可欠なビタミンのひとつです。
コラーゲンとは、体の組織や細胞をしっかり結びつける接着剤のような働きを持ち、丈夫な血管や筋肉、骨、肌などをつくるたんぱく質のことです。
ビタミンCには、コラーゲンの合成を助け、骨がもろくなる骨粗しょう症[※7]や血管から出血しやすくなる壊血病[※8]を予防する働きがあります。
また、エルダーベリーに含まれるビタミンAには、目、鼻、口などの粘膜の保護、肌や髪、爪を健康な状態に保つ働きがあります。
[※4:ロドプシンとは、網膜に存在している色素であり、視紅とも呼ばれている物質です。とらえた光の情報を、脳に電気信号として送る役割を担っています。]
[※5:副腎皮質ホルモンとは、副腎皮質から分泌されるホルモンのことです。代表的なホルモンに、コルチゾールやアルドステロンがあります。]
[※6:神経伝達物質とは、神経細胞の興奮や抑制を他の神経細胞に伝達する物質のことです。]
[※7:骨粗しょう症とは、骨からカルシウムが極度に減少することで、骨の内部がスカスカになった症状であり、非常に骨折しやすくなることで知られています。高齢者に多い症状で、日本では約1000万人の患者がいるといわれており、高齢者が寝たきりになる原因のひとつです。]
[※8:壊血病とは、ビタミンCの不足によって体内の各器官に出血性の障害が生じる疾患のことです。]
食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○生活習慣病を予防したい方
○血圧が高い方
○血液をサラサラにしたい方
○脂っこい食事が多い方
○目の健康を維持したい方
○免疫力を向上させたい方
○ストレスをやわらげたい方
○肌荒れでお悩みの方
○丈夫な体をつくりたい方
エルダーベリーの研究情報
【1】慢性便秘者20名に対し、エルダーベリーを摂取させたところ、大腸通過時間が短縮されたことから、エルダーベリーが便秘改善効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20433751
【2】Ⅱ型糖尿病はインスリン抵抗性およびβ細胞の障害によって引き起こされます。エルダーベリーの抽出物の一つであるナリニンゲンは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)ガンマを活性化し、グルコースの取り込みを促進することが分かりました。エルダーベリーはⅡ型糖尿病予防効果を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20222152
【3】エルダーベリーが、歯周病菌ポリフィロモナス菌およびアクチノバチルス菌の感染により生じる炎症物質NF-κBやフォスファチジルイノシトールを抑制されたことから、エルダーベリーが歯周病予防および歯肉炎予防効果を持つことが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16460254
【4】エルダーベリーは、様々なインフルエンザ株(H3N2、H1N1)の赤血球凝集抑制作用が知られています。B型インフルエンザ感染者を対象に、エルダーベリーを摂取させたところ、完治日数が短縮したことから、エルダーベリーがインフルエンザ治療に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9395631
【5】A型またはB型インフルエンザ患者60名を対象に、エルダーベリー果汁15mLを摂取させたところ、完治日数が短縮したことから、エルダーベリーがインフルエンザ治療に有益であることが示唆されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15080016?dopt=Abstract
参考文献
・CMPジャパン「ハーブ」プロジェクトチーム 薬用ハーブの機能研究 健康産業新聞社
・Picon PD, Picon RV, Costa AF, Sander GB, Amaral KM, Aboy AL, Henriques AT. (2010) “Randomized clinical trial of a phytotherapic compound containing Pimpinella anisum, Foeniculum vulgare, Sambucus nigra, and Cassia augustifolia for chronic constipation.” BMC Complement Altern Med. 2010; 10: 17.
Published online 2010 April 30. doi: 10.1186/1472-6882-10-17
・Christensen KB, Petersen RK, Kristiansen K, Christensen LP. (2010) “Identification of bioactive compounds from flowers of black elder (Sambucus nigra L.) that activate the human peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) gamma.” Phytother Res. 2010 Jun;24 Suppl 2:S129-32.
・Harokopakis E, Albzreh MH, Haase EM, Scannapieco FA, Hajishengallis G. (2006) “Inhibition of proinflammatory activities of major periodontal pathogens by aqueous extracts from elder flower (Sambucus nigra).” J Periodontol. 2006 Feb;77(2):271-9.
・Zakay-Rones Z, Varsano N, Zlotnik M, Manor O, Regev L, Schlesinger M, Mumcuoglu M. (1995) “Inhibition of several strains of influenza virus in vitro and reduction of symptoms by an elderberry extract (Sambucus nigra L.) during an outbreak of influenza B Panama.” J Altern Complement Med. 1995
・Zakay-Rones Z, Thom E, Wollan T, Wadstein J. (2004) “Randomized study of the efficacy and safety of oral elderberry extract in the treatment of influenza A and B virus infections.” J Int Med Res. 2004 Mar-Apr;32(2):132-40.