なすとは
●基本情報
なすとは、ナス科ナス属の植物で原産地はインドです。熱帯では多年生植物ですが、日本では一年生植物として知られています。世界中で栽培されており大きさや色、形、へたの色まで多種多様です。特にアジアで多く栽培されており、日本では各地で小なすや賀茂なすなど多くの地方品種が栽培されています。育て方や品種改良によって形状も異なり、小丸なす、卵形なす、水なす、長なす、白なす、青なすなどが有名です。
●なすの歴史
原産地であるインドでは有史以前から栽培されていたといわれています。中国には紀元前5世紀頃に伝わり、ヨーロッパには13世紀に中東や地中海沿岸を経て伝わったといわれています。日本には奈良時代に中国を通じて伝えられました。
東大寺正倉院の古文書には「天平勝宝2年(750年)6月21日藍園茄子を進上したり」と記録されており、平安時代の法典「延喜式(えんぎしき)」[※1]には、栽培法だけでなく漬物のつくり方なども記されています。
江戸時代に入ると、初なすを少しでも早くつくろうと静岡県の三保で促成栽培[※2]がされるようになりました。当時、初なりのなすはとても高価なものでした。この頃に多くの品種が生まれ、なすは重要な野菜のひとつとなりました。
「なす」の呼び名は宮中の女房言葉からきたものといわれ、平安時代の和名類聚抄[※3]には「奈須比」との記載があります。その他にもその味から「中酸実」を略したもの、「夏実」からきたもの、「茄」は植物をさし、「茄子」は果実を指すという説など名前の由来には様々な説があります。
<豆知識①>一富士二鷹三なすび
初夢に見ると縁起が良いとされるものを示したことわざですが、これは一に富士山、二に愛鷹山(あしたかやま)、三に初なすの値段と、駿河国(静岡県)で高い物を並べたものとの説があります。
●なすの生産地
なすは6月~9月が旬の夏野菜です。全国各地で栽培されており高知県、熊本県、群馬県、福岡県が主な生産地です。生産時期は年間を通しており、12月~6月に収穫される冬春なすは高知県や熊本県が、7月~11月に収穫される夏秋なすは茨城県や群馬県で多く生産されています。
世界では中国、インド、エジプトなどで多く生産されています。
●なすに含まれる成分と性質
なすに含まれる成分の90%以上が水分ですが、ビタミンKやカリウム、葉酸も含んでいます。食物繊維はセロリよりも豊富に含んでおり生体調整機能に優れているといわれています。
「なす紺」といわれるほど鮮やかな青紫色は、アントシアニンの一種であるナスニンという成分です。またアクにはクロロゲン酸が含まれます。このナスニンやクロロゲン酸といったポリフェノールの持つ抗酸化力が体の老化や生活習慣病、ガンの予防に効果があるとして注目されています。
他にも炎症を抑えるプロテアーゼインヒビターや夏バテ防止に威力を発揮するコリンなどの成分を含んでいます。
●なすの調理法
なすは油と相性がよく油を含みやすい性質のため、炒めものや揚げ物にして食べるのがおすすめです。抗酸化作用のあるビタミンEが豊富な植物油と組み合わせて摂ると最適です。また切ってすぐに水にさらすとアクが抜けポリフェノールの酸化による変色を防ぐことができます。漬物にするときは鉄くぎや焼きみょうばんを入れるとナスニンが安定するため、色も鮮やかに仕上がりナスニンの摂取量も多くなります。
●なすの保存法
ヘタの切り口がみずみずしく皮にハリとツヤがあるものを選びましょう。
保存は常温で2~3日のうちに使い切ってください。また5℃以下の温度では組織が壊れて傷みやすくなるので注意が必要です。
[※1:延喜式(えんぎしき)とは、平安時代中期に施行された格式のことです。三大格式のひとつであり、ほぼ完全な形で今日に伝えられている唯一の格式といわれ、日本古代史研究に不可欠な文献です。]
[※2:促成栽培とは、温度や光線などの調節で、野菜・花卉(かき)の発育を促し、普通栽培よりも早く収穫する栽培法です。]
[※3:和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)とは、平安時代中期につくられた辞書のことです。]
なすの効果
なすは血液の循環をよくする、尿の出をよくする、のぼせや高血圧の予防、体を冷やす、炎症を抑えるなど様々な薬効が期待できるとして日本や中国では古くから民間療法に使われてきました。
●夏バテを予防する効果
なすには体を冷やす作用があり、体の内側から余分な熱をとりのぼせやほてりを鎮めます。またなすに含まれるコリンという成分には、胃液の分泌を促す働きがあり肝臓機能を高める効果があるため食欲不振に有効です。このことから、夏に起こりがちな不調にぴったりの夏野菜といえます。
<豆知識②>秋なすは嫁に食わすな
このことわざは、なすを食べると胃腸や子宮が冷えるため、流産などを避けるようにとの意味があります。夏に旬を迎える野菜は鎮静・炎症効果があり、体温を下げると考えられていたためです。
●生活習慣病の予防・改善効果
コリンは体内でアミノ酸から合成される物質で、神経伝達物質であるアセチルコリンやリン脂質であるレシチンなどの成分となります。アセチルコリンには血管を拡張して血圧を下げる働きがあります。レシチンは細胞膜を作る成分で、肝臓への脂肪の蓄積や血管壁へのコレステロールの沈着を防ぐことから、高血圧や動脈硬化脂肪肝などの生活習慣病の予防に効果があります。血圧の上昇を抑えるカリウムも比較的多く含まれます。
また、なすに含まれるナスニンは、コレステロール値を下げる働きが報告されているため、様々な成分の相乗効果が期待できます。【1】
●ガンを予防および抑制する効果
なすはナスニンやクロロゲン酸というポリフェノールを含んでいます。ポリフェノールには活性酸素や過酸化脂質の生成を抑制する働きがあり、老化やガンの抑制が期待できます。
ナスニンにはコレステロール値を下げる働きがあり、様々な野菜の抽出物で発ガン物質の抑制効果を調べたところ、なすの抑制効果がトップクラスであったとの報告があります。
アクに含まれるクロロゲン酸が分解されてできるカフェ酸は肝臓ガンや肝硬変の予防に効果を発揮します。【2】【3】【4】【5】
●炎症や痛みを抑制する効果
なすにはプロテアーゼインヒビターと呼ばれる物質が含まれます。炎症や痛みをやわらげる作用があり、胃炎や口内炎、関節痛、神経痛、のどの痛みにも有効です。
民間療法では、なすをアルミホイルで包んで黒くなるまで蒸し焼きにしてつくった黒焼きをはちみつで練ったものを塗ると口内炎や歯痛が緩和されるといわれています。【6】
なすはこんな方におすすめ
○夏バテを改善したい方
○老化を防ぎたい方
○コレステロール値が気になる方
○生活習慣病を予防したい方
○血圧が高い方
なすの研究情報
【1】高脂肪食摂取ラットを対象に、なすに含まれるアントシアニンであるナスニンを0.1% 含む餌をとらせたところ、ナスニンを摂取しなかった場合と比較して、血中の総コレステロールの上昇が緩和されたことから、なすは高脂血症ならびに生活習慣病予防効果が期待されています。
https://ci.nii.ac.jp/naid/110002676880
【2】なすに含有される成分についてNMRを用いて分析した結果、クロロゲン酸、カフェオルキナ酸、カフェ酸など多くの機能性成分が確認されたことから、なすに高い機能性が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12744682
【3】なすに含まれるポリフェノール成分について分析した結果、クロロゲン酸が75%以上占めることがわかり、高い機能性が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16390175
【4】なすにはナスニンと呼ばれるアントシアニンが含まれています。ナスニン(50μM以下)には、マウス脳脂質過酸化予防効果を持つことから、なすは高い抗酸化作用ならびに脳保護作用が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10962130
【5】なすに含まれるアントシアニンであるナスニンは、ヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖、遊走および管腔形成を阻害することから、血管新生阻害作用を持つことがわかりました。なすは血管新生阻害作用を持つことから、有効な抗ガン作用をもつと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16076105
【6】なすには、痛み関連物質プロテアーゼインヒビターが含まれていることから、なすは抗炎症作用を持つと考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1225945
参考文献
・野間佐和子 旬の食材 春‐夏の野菜 講談社
・菅原龍幸・井上四郎 原色食品図鑑 株式会社建帛社
・本多京子 食の医学館 株式会社小学館
・佐藤秀美 イキイキ!食材図鑑 日本文芸社
・中嶋洋子 完全図解版 食べ物栄養事典 主婦の友社
・中嶋洋子 栄養の教科書 新星出版社
・五訂増補 日本食品成分表
・Kayamori Fumio, Igarashi Kiharu (1994) “Effects of Dietary Nasunin on the Serum Cholesterol Level in Rats” Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 58(3), 570-571, 1994-03-23
・Whitaker BD, Stommel JR. (2003) “Distribution of hydroxycinnamic acid conjugates in fruit of commercial eggplant (Solanum melongena L.) cultivars.” J Agric Food Chem. 2003 May 21;51(11):3448-54.
・Luthria DL, Mukhopadhyay S. (2006) “Influence of sample preparation on assay of phenolic acids from eggplant.” J Agric Food Chem. 2006 Jan 11;54(1):41-7.
・Noda Y, Kneyuki T, Igarashi K, Mori A, Packer L. (2000) “Antioxidant activity of nasunin, an anthocyanin in eggplant peels.” Toxicology. 2000 Aug 7;148(2-3):119-23.
・Matsubara K, Kaneyuki T, Miyake T, Mori M. (2005) “Antiangiogenic activity of nasunin, an antioxidant anthocyanin, in eggplant peels.” J Agric Food Chem. 2005 Aug 10;53(16):6272-5.
・Kanamori M, Ibuki F, Yamada M, Tashiro M, Miyoshi M. (1975) “Several properties of the partially purified proteinase inhibitor in eggplant exocarp.” J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 1975;21(6):429-36.