EGFとは
●基本情報
EGFとは、上皮細胞を再生させる因子のことで、人が本来持っているたんぱく質です。肌の表面の角質層[※1]にはEGFを受け取るための受容体[※2]が備わっています。人の体には、肌や唾液、母乳などに存在しています。この唾液にもEGFが存在していることが、ケガをしたときに傷口を舐めることや口の中の傷が比較的早く治りやすいといわれる理由です。唾液は年齢を重ねると共に分泌が少なくなるので、何度もしっかり食べ物を噛んで食べること、意識して固いものを食べることが大切です。
また、年齢を重ねることでEGFの量は減少していくため、肌の老化やシワの原因になってしまいます。EGFを肌に補給することで新陳代謝[※3]が活発になり、美肌効果、傷の治りを早める効果が期待できます。
●EGFの歴史
EGFは、1962年にアメリカの生物学者スタンレー・コーエンにより発見されました。コーエンは、マウスの新生児の顎下線から小たんぱく質の因子を見つけ、この因子によって皮膚細胞が活性化されていることを実証しました。この因子がEGFです。1970年までには、ウサギの傷口にEGFを塗ると傷の治りが早いことなどを観察し、EGFの立体構造の解明を行いました。その後、肌の再生などの治療における有効性が認められて1986年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。
発見された当初は火傷を負った肌の再生を目的とし、皮膚再生医療の分野で使用されていました。最近では、高いアンチエイジング効果が期待されており、化粧品などに配合されています。発見当時はそれほど多くのEGFを抽出することができなかったため、誰もが知る一般的な成分ではなく、ごく限られた機関でだけで利用されていました。具体的には、1gで約8000万円という非常に高価なものでした。現在では、遺伝子工学の発展にともなって大量に生産されるようになり、日本では2005年に厚生労働省より化粧品への配合が認可され、多くの方が利用できるようになりました。
●EGFの副作用
EGFを過剰に摂取することでの副作用は特にはありません。
EGFは、肌表面にある受容体と結びつくことによって新しい細胞の生成を促進する効果を発揮するのですが、受容体には、EGFが細胞内で飽和状態となると余分な EGFを受け入れることができなくなるという自動調節機能が備わっています。そのため、EGFを化粧品として大量に肌に塗っても不必要な分裂や増殖を引き起こすことはありません。
[※1:角質層とは、表皮を多い、皮膚の最も外側に位置している層です。肌の深部から新しい細胞が生まれ変わるたびに、垢となって剥がれ落ちることで一定の厚みを保っています。]
[※2:受容体とは、細胞表面や内部に存在している物質です。ホルモン・神経伝達物質・ウイルスなどと結合することにより、細胞の機能に影響を与えます。]
[※3:新陳代謝とは、古い細胞や傷ついた細胞が、新しい細胞へ生まれ変わることを指します。]
EGFの効果
●新陳代謝を活発にする効果
EGFには、細胞の再生や新たな細胞の生成を促して、新陳代謝を高める効果があります。
EGFは人の体に存在するものですが、年齢を重ねることでその分泌量は減少していきます。EGFの減少は、肌の老化やシワの原因になってしまいます。一般的にEGFは、50歳以上では男性は3分の1、女性では10分の1に減少することが確認されています。【1】
●美肌効果
EGFは皮膚の老化防止や若返りなどの目的で、近年化粧品などへの使用に注目が集まっています。
肌はターンオーバーにより肌細胞の生まれ変わりを繰り返しています。ターンオーバーとは、基底層[※4]で新たに生み出された細胞が、肌の表面にある角質層へと押し上げられ、しばらくすると垢となって剥がれ落ちる一連の流れのことをいいます。この周期は、通常約28日間といわれていますが、年齢を重ねることで周期が遅くなってしまいます。さらに、不規則な生活や紫外線など様々な原因によってこの周期が乱れると、角質が厚くなる、乾燥しやすくなるといった肌トラブルを抱える原因となってしまいます。EGFは体内の新陳代謝を活発にしてくれ、ターンオーバーの周期の乱れを正すことにつながります。【2】【3】
●傷の治りを早める効果
EGFはそもそも火傷による皮膚移植や、角膜切開による傷の回復促進などの目的に医療の分野で使用されてきた実績があります。新陳代謝を活発にすることで、皮膚の細胞を再生させる効果があるからです。
EGFは新しく生成された細胞の成長を促進させることができると確認されています。【2】【3】【4】
[※4:基底層とは、表皮の一番深い部分にある層です。血液から栄養分と酸素を吸収し、新しい表皮細胞を生み出します。]
EGFは食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○新陳代謝を活発にしたい方
○美肌を目指したい方
○火傷や傷のダメージを抑えたい方
EGFの研究情報
【1】尿中のEGFを測定した結果、年齢とともにEGFが減少する傾向が確認できました。男女とも20代をピークに減少し、50歳以上では男性は3分の1以下、女性では10分の1以下になっていました。このことから、EGFは新陳代謝や老化と関係が深いと考えられています。
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/117628
【2】成長因子であるEGFを加えたとき、ケラチノサイトの遊走は増進されました。EGFだけでなくサイトカインであるIL-1α, IGF やMGSA等を加えることにより、ケラチノサイトの 遊走はさらに増進しました。このことから、EGFは皮膚保護作用ならびに創傷治癒促進効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23490414
【3】EGFレセプターの抑制剤は、腫瘍に対し抑制作用を示しますが、反面、皮膚細胞に対しては毒性を示します。このことからも皮膚細胞の正常な新陳代謝において、EGFは創傷治癒促進および皮膚保護作用を有すると考えられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17141360
【4】EGF, FGF, PDGF やTGFβのような成長因子は傷害を受けた部分を修復する働きを持つことから、EGFは創傷治癒促進効果が期待されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1325207
参考文献
・石田寅夫 ノーベル賞の生命科学入門 がんの謎に迫る 講談社
・宮崎, 伸一郎. (1992) 泌尿器系疾患における尿中,血漿中および組織中Epidermal growth factor量の検討” 泌尿器科紀要 (1992), 38(8): 919-924
・Peplow PV, Chatterjee MP. (2013) “A review of the influence of growth factors and cytokines in in vitro human keratinocyte migration.” Cytokine. 2013 Mar 11. pii: S1043-4666(13)00068-9. doi: 10.1016/j.cyto.2013.02.015. [Epub ahead of print]
・Hu JC, Sadeghi P, Pinter-Brown LC, Yashar S, Chiu MW. (2007) “Cutaneous side effects of epidermal growth factor receptor inhibitors: clinical presentation, pathogenesis, and management.” J Am Acad Dermatol. 2007 Feb;56(2):317-26. Epub 2006 Dec 1.
・Martin P, Hopkinson-Woolley J, McCluskey J. (1992) “Growth factors and cutaneous wound repair.” Prog Growth Factor Res. 1992;4(1):25-44.