田七人参とは?
●基本情報
田七人参は、中国の雲南省の海抜約1500m~2000mの限られた地域で生育するウコギ科の多年草で、和名をサンシチニンジン(三七人参)といいます。中国では古来より、止血作用がある生薬として用いられ、雲南地方では「金不換」(金では買えないもの)といわれるほど貴重な秘薬として重宝されてきました。
田七人参はサポニンを豊富に含むほか、体に活力を与えるアルギニン、血管に働きかけるフラボノイド、さらにビタミンやミネラルなど多くの栄養成分を含んでおり、これらが複合的に作用することで本来の効力を発揮します。
田七人参には根をそのまま乾燥させた「生田七」と、ミツロウで処理して高い保存性を持つ「熟田七」の2種類があります。栽培方法によっても自然のものと栽培されたものに分けられますが、自然のものは産出量がごくわずかであるため、大変希少なものとされています。
また、田七人参は、薬用部分として用いられる根が成長するのに約3~7年かかるという理由から名付けられたと考えられています。土地の栄養分を吸った田七人参を収穫すると、その後10年間はその土地に雑草も生えない程やせ細ってしまうといわれています。
黒褐色の田七人参は、固い石の塊のようにごつごつしており、大きいものほどサポニン量が多く含まれているといわれています。
●田七人参の歴史
田七人参は16世紀頃、中国で初めて漢方書に記載され、中国の医書「本草網目拾遺」には、高麗人参が「補気第一、精がつく」と記されているのに対して、田七人参は「補血第一、力があふれる」と記載されています。これは、高麗人参は気に働きかけるのに対し、田七人参は血のめぐりに働きかけるということを意味しています。
16世紀の末期になると、田七人参の需要が高まり、野生の田七人参が乱獲されるなどの被害が発生したため、明の時代末期から清の時代初期にかけて、田七人参の栽培化が発展したといわれています。
日本で田七人参が紹介されたのは、昭和30年代になってからだといわれており、現在では健康食品などに配合されています。
●田七人参に特有の成分「デンシチン」
田七人参には、止血効果を持つ特有の成分であるデンシチンが含まれています。
田七人参の仲間である高麗人参などには止血効果はなく、田七人参にのみ止血効果があるとされています。このことから、田七人参の止血効果に働く成分を調べた所、アミノ酸の一種であるデンシチンが発見されました。
その効果から、ベトナム戦争で兵士の戦傷の治療に用いられたともいわれています。
●田七人参の摂取方法
田七人参は、粉状、粒状、エキスを抽出したサプリメントに用いられています。
摂取の目安は、生薬成分として1日約2~5gです。現在ではティーバックタイプのものもあり、お茶として摂取することもできます。
また、田七人参は本場中国で食材としても用いられ、中国の中でも健康志向が高い一部の富裕層の間で「田七鍋」として食されているといわれています。
●田七人参を摂取する際の注意点
田七人参には一般的に問題となる健康被害や副作用は知られていませんが、まれに口の渇きや動悸、発疹、悪心や嘔気、不眠などが起きることがあります。
また、胎児や乳児に影響を与える可能性があるため、妊娠中・授乳中は摂取を控える必要があります。
田七人参の効果
●肝機能を高める効果
田七人参には肝細胞を再生する働きがあり、肝障害[※1]から肝臓を保護する効果があります。
そのため、アルコールが原因で引き起こされる肝機能の低下にも効果が期待されています。
肝臓の70%を切除した後に田七人参を投与すると、肝臓細胞の再生促進効果や保護効果、肝循環改善効果などがみられたとの報告もあります。
肝細胞は肝臓で行われる代謝[※2]のほとんどを担っており、肝細胞を再生することで脂肪肝[※3]や肝硬変[※4]などのリスクの軽減にもつながります。【1】
●免疫力を高める効果
田七人参には有機ゲルマニウムという成分が含まれ、抗ウイルス作用があります。
人間には体内に侵入してきた異物を攻撃したり、その異物を体外に排出したりする免疫機能が備わっています。免疫機能が低下すると、風邪をひきやすくなったり、インフルエンザにかかりやすくなったりします。
田七人参に含まれる有機ゲルマニウムは、体内のウイルス感染を防ぐインターフェロンを誘発します。インターフェロンは免疫機能に働きかけ、ウイルスの増殖を抑えるとともにウイルスを破壊する効果があります。インターフェロンは大量のたんぱく質とビタミンCにより、体内で合成することができます。
●生活習慣病の予防・改善効果
生活習慣病とは、加齢やストレス、不規則な生活などが原因で引き起こされる糖尿病や脳卒中などの病気の総称です。生活習慣病が日本人の3分の2を占める死亡の原因だといわれています。
生活習慣病は中性脂肪、コレステロールの蓄積や活性酸素による体のサビつきなどが原因で起こります。
田七人参は、血中の中性脂肪やコレステロールを分解し、吸収を妨げる働きがあります。
また、田七人参には活性酸素を抑制する効果もあります。
活性酸素とは、普通の酸素に比べ、強い酸化力を持った酸素のことです。活性酸素が体内で過度に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化や生活習慣病などの原因になるとされます。体内の活性酸素は紫外線やストレス、喫煙などによって増加します。
このように、田七人参は血中の中性脂肪やコレステロールの吸収を阻害し、活性酸素を抑制する働きがあるため、生活習慣病の予防・改善効果があります。【4】
●血糖値を下げる効果
田七人参にはパナキサトリオールという成分が含まれ、血糖値を下げる効果があります。
血中の糖を最も多く消費する器官は全身の筋肉で、高血糖の人は、健常な人よりも血液から筋肉への糖の取り込み量が減少していることがわかっています。
田七人参に含まれるパナキサトリオールは、筋肉での糖の取り込みを増加させ、筋肉での糖代謝を改善する効果があるということが判明しており、血糖値を下げる効果があります。
●血流を改善する効果
田七人参には、血流を改善する効果があります。
血中の悪玉(LDL)コレステロールが多かったり、老化や運動不足によって体の代謝機能が低下すると、体内に老廃物が蓄積し、血液の流れが滞ることで血液がドロドロになります。
血液がドロドロになると、酸素や栄養が末端の細胞まで届かず、動脈硬化などの深刻な病気を引き起こします。
田七人参は、血液のドロドロの原因となる中性脂肪やコレステロールを分解し、血流を改善する効果があります。また、田七人参に含まれるフラボノイドが血管の弾力性を高めて、血液をサラサラにする効果があります。【3】【5】
[※1:肝障害とは、肝臓の機能に障害をもたらす状態のことです。脂肪肝などの原因にもなります。]
[※2:代謝とは、生体内で、物質が次々と化学的に変化して入れ替わることです。また、それに伴ってエネルギーが出入りすることを指します。]
[※3:脂肪肝とは、食べ過ぎや飲みすぎによって肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった肝臓の肥満症とも言える状態です。肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった脂肪肝は、動脈硬化を始めとする様々な生活習慣病を引き起こす恐れがあります。]
[※4:肝硬変とは、肝臓が固くなり、本来の機能がきわめて減衰した状態のことです。]
田七人参は食事やサプリメントで摂取できます
こんな方におすすめ
○肝臓の健康を保ちたい方
○風邪をひきやすい方
○生活習慣病を予防したい方
○糖尿病を予防したい方
○血流を改善したい方
田七人参の研究情報
【1】軽度の肝機能障害男性患者18名 (22~72歳) を対象に、2 gの田七人参末を毎食後、1日3回、3ヶ月間摂取させたところ、5名の血清GOT、GPT値が低下しました。このことから、田七ニンジンの飲用は、肝機能を回復する可能性があると考えられました。
【2】疲労倦怠・食欲不振などを訴える成人の患者51名 (平均年齢49.9歳) を対象に、1日2,000 mgの田七ニンジン末を、4週間投与したところ、好塩基球と単球の割合は増加し、ストレス度、疲労度が減少し、自覚症状の改善もみられました。このことから、田七ニンジンは疲労者に対する免疫力を上げる働きがあることが考えられました。
【3】田七ニンジンがもつ血液の凝集および凝集時間に対する作用について調べました。Ex vivoの結果、田七ニンジンは血小板の凝集を抑制し、ラットの出血時間を延長しました。このことから、田七ニンジンは、抗血小板凝集作用を有することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19665534
【4】田七ニンジンのブタノール抽出物は、ラット血中のコレステロール、血糖、LDLコレステロールを濃度依存的に抑制することがわかりました。これらのことから、田七ニンジンは肝蔵中の脂肪を抑制することがわかりました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17681443
【5】田七ニンジン(43 mg/kg/日)28日間食べさせたラットのフィブリノーゲンおよび脂質、総コレステロール、トリグリセリドの減少が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12601683
参考文献
・蒲原聖可 サプリメント事典 平凡社
・原山建郎 久郷晴彦 最新・最強のサプリメント大事典 昭文社
・清水俊雄 機能性食品素材便覧 特定保健用食品からサプリメント・健康食品まで 薬事日報社
・診療と新薬.1995; 32(4):913-7
・新薬と臨床. 2002; 51(12):1194-207
・NPO日本サプリメント協会 サプリメント健康バイブル 小学館
・田中平三 健康食品のすべて-ナチュラルメディシンデータベース- 同文書院
・日経ヘルス 編 サプリメント大事典 日経BP社
・Lau AJ, Toh DF, Chua TK, Pang YK, Woo SO, Koh HL (2009) “Antiplatelet and anticoagulant effects of Panax notoginseng: comparison of raw and steamed Panax notoginseng with Panax ginseng and Panax quinquefolium.” J Ethnopharmacol. 2009 Sep 25;125(3):380-6. Epub 2009 Aug 7.
・Ji W, Gong BQ. (2007) “Hypolipidemic effects and mechanisms of Panax notoginseng on lipid profile in hyperlipidemic rats.” J Ethnopharmacol. 2007 Sep 5;113(2):318-24. Epub 2007 Jul 4.
・Cicero AF, Vitale G, Savino G, Arletti R. (2003) “Panax notoginseng (Burk.) effects on fibrinogen and lipid plasma level in rats fed on a high-fat diet.” Phytother Res. 2003 Feb;17(2):174-8.